黄の月の十八日②~草原の民~
2017.8/11 更新分 1/1
半刻の後、行路の説明を終えたメルフリードたちは粛々と姿を消していった。
《黒の風切り羽》の団員たちもそれに追従し、居残ったのはククルエルただひとりである。
「団員たちには商売がありますので、先に帰しました。わたしはあなたと言葉を交わしていただきたく思いますが、いかがでしょうか、シュミラル?」
「はい。族長筋、ルウ家、それを許すならば、私、応じたい、思います」
シュミラルの視線を受けて、ジザ=ルウは「うむ」とうなずく。
「もとより、族長ドンダ=ルウはそれを許している。ただし、俺たちも同席させてもらうことになるが、それで異存はないか?」
「もちろんです。森辺の方々とも縁を結べるならば、望外の喜びです」
森辺の狩人に囲まれながら、ククルエルは落ち着き払っていた。
それを横から眺めていたダリ=サウティが、ジザ=ルウに呼びかける。
「俺は集落に戻らせてもらいたいのだが、かまわんかな? 狩りの仕事を始める前に、眷族の長たちと言葉を交わしておきたいのだ」
「もちろんだ。ただ、この近在に空いている家があったら、しばし借り受けたいのだが。……周囲に家のない空き家であれば、なおありがたい」
「ああ。タムルの集落の隅に古い空き家があったな。よければ、俺が案内しよう」
ということで、俺たちは道を北上することになった。
ダリ=サウティとククルエルは、それぞれ別個の荷車である。合計3台の荷車とシュミラルの乗るトトスで道を走り、俺たちはタムルの集落を目指した。
サウティの眷族たるタムルの集落は、森辺で最南端の位置にある。俺たちはまず本家の家長に挨拶をしてから、そこで空き家を借り受けることになった。
もうずいぶん長いこと放置されていそうな、古びた家屋だ。ダリ=サウティとは別れを告げて、ルウ家の4名、俺とアイ=ファ、シュミラルとククルエルの8名で、その湿った匂いのする家屋に足を踏み入れた。
「さて。最初にまず確認をさせてもらいたい」
自然に上座へと陣取ったジザ=ルウが、そのように発言した。
「ククルエル、貴方はシュミラルにどういった話を求めているのか。そして、シムを捨てたシュミラルに怒りを覚えたりはしていないのか。それを改めて聞かせてもらおう」
「はい。仕える神を選ぶ自由は、すべての人間に与えられています。自分の血族ではないシュミラルが神を乗り換えても、わたしが怒りや悲しみを覚える道理はないかと思われます」
「ふーん。そうなのか。森辺の民はけっこう最近まで、ジャガルの民に裏切りの一族って呼ばれたりしてたんだけどな」
ルド=ルウの言葉に、ククルエルは小さくうなずく。
「それはジャガルの民が直情的な気質であるためなのでしょう。少なくとも、わたしはシュミラルを責める気持ちにはなれません。……もとより、我々は異なる藩の生まれでありますため、いっそう強い結びつきはもたないのです」
「……藩って何だったっけ?」
「シムにおいて藩というのは、それぞれの一族が治める領地のことを指します。シムには7つの血族があり、7つの藩が存在します。わたしは『ギ』の一族であり、シュミラルはかつて『ジ』の一族であったと聞いています。『ギ』と『ジ』は同じ草原に住まう盟友の間柄であるため、ともに手を携えて商売に励むことが多いのです」
「では、血族ならぬシュミラルに対して、貴方はいかなる話があるのだろう? ファの家のアスタに聞いたところ、それは純然たる好奇心であるそうだが」
ジザ=ルウの言葉に、ククルエルはまた「はい」とうなずく。
「わたしはもともと《銀の壺》という商団に興味を抱いていました。その団長であった人物が、神を乗り換えてまで森辺の家人となったと聞き、いっそう強く興味をひかれたのです。四大王国の歴史の中で、シムからセルヴァに神を乗り換えた人間など、そうそう存在しなかったでしょうから」
そこまで言ってから、ククルエルは微笑む代わりに目を細めた。
「しかし、その理由はすでに半分がた解き明かされたように思います。わたしも今ではシュミラルの行いを、あまり不思議には思っていません」
「ほう。それは何故であろうかな?」
「それは、森辺の民が西の民らしからぬ存在であったためです。あなたがたは王国の民でありながら、まるで自由開拓民のように自由な存在であるように思えますし……さらに言うならば、東の民にも通ずる気質を有しているように思えます」
「確かにな。森辺には、あんたやシュミラルと似た感じの男衆もちらほらいると思うよ。さすがにあんたたちほど無表情なことはねーけどよ」
そのように述べながら、ルド=ルウがひょいっと肩をすくめる。
「森辺の民は、シムとジャガルの間にできた一族なんじゃねーかって伝承があるんだよな。本当のところはわかんねーけど、森辺にはシム人みたいにむっつりしたやつもいれば、ジャガル人みたいに騒がしいやつもそろってるよ」
「はい。ですが、その魂のありようは、ジャガルの民よりもシムの民に近しいように感じられます。シムの民は、あなたがたと同じように、草原や山や海などを母としているのです」
あくまでも沈着に、ククルエルはそう述べたてた。
「たとえば我々『ギ』の一族は、東方神シムを父とし、草原を母としています。このように、生まれた地を四大神と同じ重さで尊ぶのは、セルヴァにおいてもジャガルにおいても自由開拓民のみであるかと思われます。ですから、森辺の民は自由開拓民や東の民に近しい存在である、と言えるのではないでしょうか?」
「ふむ。ならば、貴方がシュミラルに抱いていた好奇心も、ずいぶん減じられたということかな?」
「いえ。疑問は解けましたが、興味は尽きません。シムと草原を捨てて、セルヴァと森の子となった。それほどの決断をくだすには、想像を絶する覚悟があったことでしょう。どうしてそれほどの覚悟を抱くに至ったか、それを聞かせていただきたく思っています」
すると、これまで無言でいたシュミラルが気まずそうに身じろぎをした。
「ククルエル、お気持ち、わかりました。しかし、それを語る、いささか恥ずかしいです」
「恥ずかしい?」
「はい。私、ヴィナ=ルウ、婿入りしたい、願っただけなのです。ジザ=ルウ、ダルム=ルウ、ルド=ルウ、リミ=ルウ、みな、ヴィナ=ルウ、家族ですので……私、想い、語る、恥ずかしいです」
ルド=ルウはぷっとふきだし、リミ=ルウは「あはは」と笑い声をあげた。
「そうなんだよな。あんたはさっきからごたいそうな話を語ってるけど、シュミラルはヴィナ姉に惚れちまっただけなんだよ。あらたまって語るとしたら、どれだけヴィナ姉がいい女かってことを語るしかなそうだよな」
「ルド=ルウ、私、恥ずかしいです」
「だったら、ちっとは恥ずかしそうな顔をしろよ。シン=ルウだったら、無表情でも真っ赤になってるところだぜー?」
シュミラルはなるべく感情を表に出せるように励んでいるさなかであると聞くが、それはもっぱら喜びの感情であるのだろう。今のシュミラルはわずかに眉をひそめているぐらいで、恥ずかしがっているようにはまったく見えなかった。
いっぽうククルエルは、そんなシュミラルの姿をじっと注視している。
「なるほど。女人への想いが、あなたにそれだけの覚悟を抱かせたということですね、シュミラル」
「……はい。そうです」
「理解しました。それは、素晴らしいことだと思います」
横から聞いていた俺は、思わずずっこけそうになってしまった。
「あ、あの、納得されたのですか、ククルエル?」
「はい。最愛の人間を伴侶とすることは、人間にとって何よりも重大なことでしょう。それだけの相手を異国に見出してしまったのなら、神と故郷を引き換えにしてしまっても致し方ありません」
ルド=ルウは「ひゃっはっは」という愉快げな笑い声を響かせた。
「あんた、おもしれーなー、ククルエル! そんな言葉を吐きながら、顔だけは大真面目なんだもんよー」
「私は、至って真面目に語っているつもりですが」
「だから、それがおもしれーってんだよ!」
「そうですか。神について語ることも、愛について語ることも、わたしにとっては同じ重さを有します」
俺は何だか笑うよりも気恥ずかしい心地になってきてしまった。
しかし、ジザ=ルウやダルム=ルウやアイ=ファなどは、眉ひとつ動かさずにククルエルの言葉を聞いている。
「わたしは幸い、同じ『ギ』の一族に愛すべき伴侶を娶ることになりました。妻は6人の子供たちと、故郷でわたしの帰りを待っています」
「へー。あんたは6人も子がいるのか。ま、俺たちも7人兄弟だけどよ」
「いえ。長兄と次兄はわたしとともに商団で働いており、長姉は余所の家に嫁いでいます。さらに、妻の腹に宿った子も合わせれば、10人兄弟ということになりましょう」
「すごーい! そんなにたくさん兄弟がいたら楽しいね!」
「はい。とても幸福な生を賜ることがかないました」
何だかどんどん話が横道にそれていっているような気がしなくもない。
ジザ=ルウも同じことを思ったのか、「それで」と話をうながした。
「あとはいったい、シュミラルとどのような言葉を交わしたいとお考えか?」
「疑問は、ひとしきり解けました。そして、シュミラルに抱いていた好奇心は、森辺の民そのものに向けられる気持ちと同一であるように思います」
「ふむ? それはどういう意味であろうか?」
「シュミラルがそこまで心を奪われることになった森辺の民というものに、わたしは強く興味をひかれます。ヴィナ=ルウというお方のみならず、森辺の民そのものに魅了されたからこそ、シュミラルは神と故郷を捨てる決断をくだすことができたのでしょう。……確かにあなたがたは、とても魅力的な一族であると思います」
「ふーん。まだこれっぽっちしか言葉を交わしてねーのに、そんなことがわかるのか?」
「はい。それは、貴族の方々と言葉を交わしているときから感じていました。貴族という立場にある方々が、あれだけあなたがたに敬意を払っているのも、森辺の民がそれだけの力を有しているゆえであるのでしょう」
ククルエルは、また穏やかな感じに目を細めた。
「森辺の民は、ジャガルからセルヴァへと移り住みました。そのときに、セルヴァではなくシムを目指していれば、あなたがたは快く同胞として迎え入れられたことでしょう」
「私、同じこと、思いました。しかし、ジャガル、シム、敵対国であったため、シム、目指すこと、できなかったのだと思います」
と、シュミラルがひさびさに発言する。
「また、森辺の民、気質、似ている、草原の民です。シム、王都の民、似ていません。森辺の民、シムの都、目指していたなら、同胞、迎えられること、なかったでしょう」
「ああ……確かにそれは、そうかもしれませんね。森辺の民がジギの草原ではなくラオリムの都に辿り着いていてしまったら、シムに神を乗り換えることも許されず、その場で戦になっていたことでしょう」
「へー。同じシムの民でも、都と草原でそんなに違うのか?」
ルド=ルウの問いかけに、ククルエルは「はい」と応じた。
「シムを王国として統一したのは、ラオの一族です。ラオリムの都は、ラオとリムの築いた石の都です。そこに住まう人々は……どちらかというと、西の民に似た気質だと思われます。石造りの町に住む人間は、やはり気質が似てくるのかもしれません」
「ふーん。色々とややこしいんだな。そういえば、西の領土にまで出張ってくるのは、みんなその草原の民ってやつなんだっけ」
「はい。ラオとリムの一族は、その地に根をおろしているために動きません。そこに草原の民や海の民を呼び寄せて、大きな商いを為しているのです」
「他には、山の民というものも存在するのですよね?」
過去の記憶をまさぐりながら、俺もそのように発言してみる。
するとククルエルは、あまり穏やかでない感じに目を細めた。
「はい。山の民は、恐ろしい力を持つ一族です。また、北部の山岳地帯に住まっており、ジャガルとも遠いため、その力をもてあましてしまっているのでしょう。同胞たる東の民や、友たるセルヴァおよびマヒュドラの民にさえ刃を向けることのある、きわめて危険な一族です」
《ギャムレイの一座》のニーヤが歌った伝承が真実であるならば、森辺の民の祖であるガゼの一族は、その山の民との戦いが原因でシムを捨てることになったのだ。
また、現在は支配者として君臨しているラオの一族も、かつては山の民に迫害されて、住む場所を追われたのだという。その窮地を救ったのが、《白き賢人》たるミーシャであったのだった。
(それは数百年も昔の伝承なのに、山の民は相変わらず凶悪な一族として恐れられているのか)
それがこの近在に住まう一族でないことを、俺は心から安堵することになった。
毒を扱う上に性質も好戦的とあっては、どんな無法者よりも恐ろしく感じられてしまう。
「そんな山の民や都の民よりも、わたしは森辺の民にこそ近しいものを感じます。だからこそ、シュミラルも森辺に移り住む決断をくだすことができたのでしょう」
と、ククルエルが話を引き戻した。
「わたしにとっても、ジェノスは重要な地です。そこにあなたがたのような人間を見出して、非常な喜びに打たれています。よろしければ、友としての絆を結んでいただきたいと願っています」
「友ってのは、なろうと思ってなれるもんでもねーだろ。名前だけの友なんて、意味がねーしよ」
そっけなく応じてから、ルド=ルウはにやりと笑った。
「でも、俺はあんたのこと、気に入ってるよ。もっと言葉を交わせる機会があれば、いつかは友にもなれるかもな」
「はい。是非とも、言葉を交わさせていただきたく思います」
「って言っても、あんたは城下町で寝泊りしてんだろ? 俺たちルウの一族も昨日あたりから狩人としての仕事を再開させたから、もう町まで下りてる時間はねーんだよな」
「そうなのですか」とククルエルは残念そうな目つきをした。
ジザ=ルウは「ふむ」と腕を組む。
「しかし、何も焦ることはあるまい。貴方とて、この先も幾度となくジェノスを訪れるのであろう?」
「はい。少なくとも、年に一度は。……いえ、ジェノスからアルグラッドを目指し、またジェノスに戻ってきますので、正しくは年に二度ということになりましょうか」
「ならば、いずれは絆が深まることもあろう。今はこうしておたがいの名と存在を知ることができたのだから、最初の一歩は踏み出せたのだと考えられるはずだ」
ルド=ルウは、目をぱちくりとさせながらジザ=ルウを振り返った。
「すげーな。ちょっと前のジザ兄だったら、東の民なんかにこれっぽっちの興味も持たなかっただろうにな!」
「……我々はすでに町の人間と縁を結んでしまっている。もはやその手をはねのけることがかなわないのならば、もっとも正しい道を探すのが道理ではないか」
「そりゃーそうだけどよ。やっぱジザ兄が自分からそんなことを言い出すのは、驚きだよ」
ルド=ルウは白い歯をこぼし、リミ=ルウもにこにこと笑っていた。
アイ=ファとダルム=ルウは見事なまでに無言を通して、みんなの様子を見守っている。とてもお行儀のいい山猫と狼といった風情である。
(やっぱりアイ=ファとダルム=ルウって、ちょっと似た部分があるのかな。余所の人間には無愛想だけど身内には優しいってところもそっくりだし。……あと、普段は静かなのに沸点が低いところも似てるよな)
俺がそんな益体もないことを考えていると、ククルエルがまた発言した。
「狩人の方々は、みな多忙であられるのですね。では、アスタや女衆の方々は、もう少しは自由もきくのでしょうか?」
「うむ? それは、どういう意味であろうか?」
「はい。機会があれば、晩餐でもご一緒できたらと。近々、アスタと縁ある料理人の店に招かれる予定になっておりますので」
俺と縁のある料理人など、数えるほどしか存在はしない。
その中で、ククルエルはとびっきりの名前を発表してくれた。
「《銀星堂》のヴァルカスというお方です。何でも、我々が運んでくる食材をもっとも心待ちにしてくださっているお方であるとのことで。特別に、招いていただけることになったのです」
「ヴァルカスですか。確かにそのお人とはご縁がありましたが、ククルエルはその話をどこから聞いたのですか?」
「あの、ポルアースというお方から聞きました。あのお方も、アスタとはずいぶん懇意にされているそうですね」
ヴァルカスの店に招いていただけるのなら、それは俺にとっても望外の喜びである。
するとリミ=ルウが、笑顔でジザ=ルウを振り返った。
「ヴァルカスの料理が食べられるなら、レイナ姉もシーラ=ルウもすっごく喜ぶよ!」
「いや、しかし、我らは貴族の許しなくして、城下町には足を踏み入れられない身だ」
「えー? なんとかならないのかなあ? リミだって行きたいよー!」
手足をじたばたとさせるリミ=ルウを眺めながら、ククルエルは首を傾げている。
「わたしをその《銀星堂》に招いてくださったのは、ポルアースなのです。ポルアースと懇意にされているのでしたら、そちらから通行証を出していただくことも可能なのではないでしょうか?」
「うむ……しかし、それを願い出るかどうかは族長次第だ。俺の一存で決めることはできん」
そのように述べてから、ジザ=ルウは俺を振り返ってきた。
「そもそも、アスタはその晩餐の会に興味はあるのか?」
「はい、もちろん! レイナ=ルウやシーラ=ルウも、同じ気持ちだと思います」
「しかし」という言葉が、それぞれ別の場所からあがった。
これまで無言を通していた、アイ=ファとダルム=ルウである。
アイ=ファはうろんげに眉をひそめながら、ダルム=ルウのほうを見た。
「言葉が重なってしまったな。ダルム=ルウから先に話すがいい」
「いや、べつだん急ぐ話でもない。お前から先に話せ」
「そうか。では……城下町にかまど番を向かわせるなら、けっきょく狩人を同行させる必要があるだろうな。いまさら貴族たちが森辺の民を害するとは思わんが、帰りは日が暮れてからになるのだろうから、やはり護衛をつけぬわけにはいくまい」
「それは当然だ」とうなずき、ジザ=ルウがダルム=ルウを振り返る。
「それで? ダルム=ルウは何を言おうとしたのだ?」
「……俺も同じことを言おうとしていた。まあ、森の恵みはまだ回復しきっていないのだから、ルウの狩人でも時間を作ることは難しくないだろう」
こらえかねたように、ルド=ルウが笑った。
「護衛役なんてつけるに決まってるんだから、そんな慌てて声をあげるようなことじゃねーだろー? アスタとシーラ=ルウがからんでるからって、ふたりして必死になるなよなー」
「やかましいぞ」という言葉が、またふたりの口から同時にあがった。
で、苦々しそうにおたがいをにらみつける両者である。
「……何にせよ、決めるのは族長とポルアースだ。まずは俺が族長に話を通すので、そちらの許しが出たらポルアースに話を通す、という形でよろしいか?」
ジザ=ルウが言うと、ククルエルは「了解しました」と頭を下げた。
「よろしければ、シュミラルもその場にお招きすることを許していただけますか? ヴァルカスというお方は、シムの生まれである人間の評価を聞きたいと仰っているようですので、シュミラルも加わればお喜びいただけるかと思います」
「わかった。それも伝えておこう」
「あーあ。だったら、ヴィナ姉も行きたがるんじゃねーの? なんか、俺まで出番が回ってこなそうだなー」
なんだか思わぬ方向に話が転がってしまった。
しかし、俺にとっては嬉しい驚きだ。可能であれば、トゥール=ディンやマイムだって連れていってあげたいところであった。
「……ところで、その晩餐の会はいつぐらいの日取りであるのだ?」
と、アイ=ファが妙に差し迫った声でそのように問うた。
ククルエルは、静かに「さて」と応じる。
「それほど先の話ではないかと思われます。おそらく、この3、4日の間ではないでしょうか」
「そうか」とアイ=ファは安堵の息をついた。
何を安堵しているのか、察することができたのはたぶん俺ひとりであっただろう。
本日は黄の月の18日であったため、もう6日後には俺の生誕の日が迫っていたのだった。
(その日だけは、ふたりで過ごすって決めたんだもんな)
そんな思いをこめながら、俺はアイ=ファにこっそり笑いかけてみせた。
するとアイ=ファは、ほのかに頬を赤くしながら、俺の腕をこっそり小突いてきた。
それでその日のククルエルとの会見は、ひとまず終了することに相成ったのだった。




