成就の日②~祝宴の始まり~
2017.7/21 更新分 1/1
太陽が西の果てに半ば没しかけたとき、婚儀の祝宴の開始が告げられることになった。
世界は、夕闇に包まれている。その中で、半ば黒いシルエットとなって立ち尽くしているのは、100名を超えるルウの血族たちだ。
血の縁を持たないのは、わずか4名――俺とアイ=ファとミケルとマイムのみである。いまだ氏は与えられていないものの、リリンの家人たるシュミラルはルウの血族と見なされるのだった。
「この夜に、ルウの本家の次兄たるダルム=ルウと、シン=ルウ家の家長の姉たるシーラ=ルウは、夫婦として結ばれることになる。母なる森に魂を返すその日まで、たがいを慈しみ、ルウ家と森辺に新たな力をもたらしてくれることを願う」
薄暗い広場の中央に陣取ったドンダ=ルウが、よく響く声でそのように述べたてた。
ダルム=ルウとシーラ=ルウは、その背後に建てられたやぐらの上に着席している。赤みをおびた黄昏刻の陽光に照らされるシーラ=ルウの姿は、まるで神像か託宣を告げる巫女のように神々しかった。
「姉シーラがみなに祝福されながら嫁入りできることを、俺も心から嬉しく思っている。これからもルウの血族として、ともに正しき道を歩まんことを願う」
ドンダ=ルウの隣に立ったシン=ルウが、そのように後を次いだ。
人々の歓声が鳴り止むのを待ってから、ドンダ=ルウはその手の土瓶を振り上げた。
「まずは、すべての眷族が集まってこしらえてくれた森の恵みで腹を満たすがいい! ルウ家のダルム=ルウとシーラ=ルウに、祝福を!」
「祝福を!」の声が唱和されるのと同時に、儀式の火が灯された。
広場を囲う格好で設置されたかがり火にも、次々と火が入れられていく。
とたんに世界は、光と熱気に支配された。
100名からの人々が、雄叫びじみた歓声をあげながら、果実酒の土瓶を打ち鳴らす。
つい先日にもフォウ家で婚儀の祝宴を見届けたばかりであるが、やはりルウ家の祝宴の熱気というのは、とてつもなかった。人数が倍以上もいる上に、彼らは森辺でも有数の力を持つ氏族であるのだ。
熱気がほとんど圧力となって、俺の五体に押し寄せてくる。その勢いにひっくり返ってしまわないように足を踏ん張りつつ、俺はかたわらのアイ=ファを振り返った。
「ジバ=ルウの生誕の日にも負けない騒ぎだな。とりあえず、周りが落ち着くまで様子を見ようか」
「うむ」とうなずくアイ=ファは、本日も宴衣装である。着付けを手伝ってくれたのは、ヴィナ=ルウとララ=ルウだ。
あちこちに置かれた簡易型のかまどには、それぞれものすごい数の人々が押し寄せている。その途上でアイ=ファの姿を見かけた者は、のきなみ驚きの声をあげることになった。
「うわあ、アイ=ファの宴衣装はひさびさですね!」
「誰かと思ったら、アイ=ファだったのか。実に見事な宴衣装だな」
「綺麗だねえ。よく似合ってるよ、アイ=ファ」
100名以上もの人間がいて、俺やアイ=ファの名を知らぬ人はいないのだ。アイ=ファは凛々しいお顔を保持したまま、それらの人々の賛辞に目礼を返していた。
「何だか今日は、アイ=ファも落ち着いてるな。ずいぶん堂々としてるじゃないか」
俺がそのように声をかけると、アイ=ファに横目でにらまれた。
「フォウの祝宴でさんざん冷やかされたので、こちらも慣れてしまっただけのことだ。不本意であることに変わりはない」
アイ=ファはガズラン=ルティムたちの婚儀でも、宴衣装をお披露目している。そうであるにも拘らず、ほとんどの人々はわざわざ足を止めてまで、アイ=ファに賞賛の声を送っていた。
まあ、以前の祝宴からは1年近くも経っているし、あの頃は全面的にファの家の行いが認められているわけではなかった。アイ=ファの美しさに驚嘆しても、それを素直に伝えられるような関係性ではなかったのだろう。
しかし今では、すべての人々が屈託なく声をかけてくれている。この1年ていどでそれだけ絆を深めることができたのだと思えば、それは幸福きわまりないことであった。
「……それにしても、感慨深いよな」
やぐらのほうに目を向けながら、俺はそのように言ってみせた。
儀式の火が灯されたことによって、シーラ=ルウたちの姿も明るく照らし出されている。
ダルム=ルウはあぐらで、シーラ=ルウは横座りだ。
ルウ家の習わしによって、その場に料理が届けられることはないが、ひっきりなしに階段をのぼってはお祝いの言葉をかけている人たちがいる。血族がひとしきり腹を満たすまで、新郎と新婦はずっとその場で祝宴の様子を見守らなければならないのだった。
(ルティムとミンの婚儀のときは、配膳に夢中で感慨にふけってる余裕もなかったもんな)
あのときは、俺がひとりで献立を決めて、その作り方を全員に手ほどきしながら準備を進めることになったのだ。
しかもメンバーはルウの集落に住まう20名ていどの女衆のみだった。食器もまったく足りていなかったので、ゴヌモキの葉を皿の代わりに使うことになった。故郷でも、100人もの人間が集まる祝宴の管理などまかされたことはなかったのに、俺は暗中模索でおっかなびっくりその大仕事に取り組むことになったのだった。
(……で、そのときに初めてシーラ=ルウと出会ったんだよな)
陽気な人間の多いルウ家の中で、彼女はちょっと珍しいぐらい控えめではかなげな娘さんであった。しかし、調理作業の飲み込みはとても早かったので、タリ=ルウともども重要な仕事をおまかせすることになったのだ。
それをきっかけとして、シーラ=ルウには屋台の仕事でも手伝いを願うことになった。シーラ=ルウを選んだのはミーア・レイ母さんであったが、それも婚儀の祝宴での活躍を鑑みた上での人選であった。
(それで、顔や頭を怪我して森に出られなくなったダルム=ルウが、レイナ=ルウと一緒に宿場町まで下りてきて……そのときに、俺は初めてシーラ=ルウの気持ちに気づくことになったんだよな)
あの頃のダルム=ルウは、まだアイ=ファに執着している様子だった。だから、俺とシーラ=ルウはそれぞれ同じような苦悩を抱え込むことになってしまったのだ。
そういった事柄をきちんと言葉で確認しあったのが、最初の収穫祭――みんなが力比べの観戦に出向き、シーラ=ルウとふたりきりでかまど小屋に居残っていたときのことだ。
正確には、きちんと心情を打ち明け合ったわけではなかった。話の途中でシーラ=ルウは取り乱してしまい、真っ赤になった顔を必死に隠そうとしていたのだった。
(それで……水瓶もまともに運べない自分には、婿を選ぶ資格なんてない、とか言ってたんだよな、シーラ=ルウは)
そんな弱気な言葉を聞いた俺は、シーラ=ルウが作った料理をダルム=ルウに届けてみてはどうか、と遠まわしに示唆してみせたのだった。
それで実際にシーラ=ルウが料理を届けたのかどうか、俺は聞いていない。ただ暗がりの中で、シーラ=ルウらしき人影がダルム=ルウを追っていく姿を目にしたばかりである。
俺としては、それ以降からシーラ=ルウの立ち居振る舞いが変化していったような印象があった。
今後、森辺においてはかまど番としての腕前が重宝されることになる。そうすれば、腕力や体力に自信のないシーラ=ルウでも、胸を張って生きていくことができるのではないか――俺はそのように期待したし、シーラ=ルウもそれを着実に体現していくことになったのだった。
また、最初の収穫祭を機に、ダルム=ルウはアイ=ファへの執着を捨てることになった。力比べで敗北したダルム=ルウは、アイ=ファの生き方に口出しをする資格はない、と自分を戒めて、すっぱり身を引くことになったのである。
シーラ=ルウとダルム=ルウの時間は、そこから進み始めることになったのだ、きっと。
彼らは同じルウ家の集落に住む幼馴染であったわけであるが、ダルム=ルウは俺が現れる2年も前からアイ=ファに執着しており、そしてシーラ=ルウは自分の存在に大した価値はないのだと卑下していた。そんなふたりが、時を同じくして、それぞれの呪縛から解き放たれることになったわけである。
(森の主を退治するためにサウティの集落に留まっていたときは、ふたりの会話を盗み聞きすることになっちゃったんだよな。たしか、ダルム=ルウを心配するあまり、シーラ=ルウが泣きだしちゃって……いや、違うか。なんとかシーラ=ルウの心情を汲み取ろうとするダルム=ルウの態度に、嬉しくて泣いちゃったんだっけ。あのときは、相当やきもきさせられたなあ)
最初の収穫祭以来、俺はシーラ=ルウに対してまったく余計な口出しをしていなかったと思う。だからシーラ=ルウは、誰の力も借りぬまま、懸命にダルム=ルウの存在を求め続け――そしてこの夜に、ついに結ばれることになったのだった。
(こんなに嬉しい話はないよな。許されるなら、シーラ=ルウと一晩でも語り明かしたい気分だよ)
そんな風に考えながら、俺はやぐらのほうから視線をもぎ離した。
「さて、そろそろかまどのほうも落ち着いたかな。俺たちも宴料理を……わ、何だよ、アイ=ファ?」
気づくと、アイ=ファは間近から俺の顔を覗き込んでいた。
その青い瞳には、真剣きわまりない光が浮かべられている。
「俺の顔に何かついてるか? 今日は別に泣いたりしてないぞ」
「……今日ではなく、今はの間違いではないか? 目尻がわずかに赤く腫れているようだ」
「そ、そんなこまかいところまで観察しないでくれ」
「お前がひとりで呆けているからであろうが。かたわらの私を頭から無視しおって」
俺の顔をにらみつけながら、アイ=ファは唇をとがらせる。
「ごめんごめん。色々と昔のことを思い出しちゃってな。さ、宴料理をいただこうじゃないか」
俺たちは、一番手近なかまどに近づいていった。
最初の勢いは収まったものの、まだ大勢の人々がかまどの周囲に群がっている。そこに並ぼうとしていると、そばに敷かれた敷物のほうから「おお、アスタにアイ=ファではないか!」と呼びかけられた。
見ると、ルティム家の面々がそろっている。収穫祭のときと、まったく同じパターンである。
ただ異なるのは、モルン=ルティムやツヴァイ=ルティム、オウラ=ルティムまでもが勢ぞろいしており、さらにはミダ=ルウまでもがその輪に加わっていたことであった。
「みなさん、おそろいですね。アマ・ミン=ルティム、お加減はいかがですか?」
「はい。わたしも腹の子も問題なく過ごせています」
まだ収穫祭から半月ていどしか経ってはいないので、アマ・ミン=ルティムの外見に変化は見られなかった。
だけどやっぱり、ガズラン=ルティムと睦まじく寄り添い合ったその姿に、俺は心を揺さぶられてしまう。
「あ、ダン=ルティムも足のお加減はいかがですか?」
「うむ! 数日前から、問題なく森を駆けることができるようになったぞ! これでいつ休息の期間が終わっても、仕事を果たすことはできよう!」
収穫祭から半月近くも経っているのだから、休息の期間はもう終わりが目前であるのだ。
祝宴に始まり、祝宴に終わる。ルウの血族にとっては、実に心の満たされる休息の期間であったことだろう。
「アイ=ファは、素晴らしい宴衣装ですね。ララ=ルウたちから話を聞いて、目にできる日を楽しみにしていました」
アマ・ミン=ルティムにそう呼びかけられると、アイ=ファはすました顔で「そうか」と受け流した。
「よかったら、アスタたちもくつろいでいくがいい! モルン、料理を運んできてやったらどうだ?」
「そうですね。ちょっと待っていてください」
「あ、いえ、モルン=ルティムとだって積もる話はあるでしょう? 半月ぶりに帰ってきたわけですし」
「いえ、たった半月ですので、こちらも変わりはありません。どうせこの後も、たっぷり語ることができますし」
モルン=ルティムはにこりと笑って、かまどのほうに向かってしまった。
ダン=ルティムは「座れ座れ!」と敷物をばんばん叩いている。
そうして俺たちが腰をおろすと、ダン=ルティムはガハハと笑った。
「アイ=ファよ、せっかくの宴衣装であるのに、それでは普段と変わらぬではないか!」
アイ=ファは片方の膝を立てて、あぐらをかいていたのだ。
ダン=ルティムに笑い声をあびせられながら、アイ=ファはけげんそうに小首を傾げる。
「どのような衣装を纏っても、私は私だ。立ち居振る舞いまで変えるつもりはない」
「しかし、宴衣装であぐらというのは、いささか滑稽に思えるぞ? 女衆が足を開いて座るのは、いちおう習わしに反することであるしな!」
「狩人である私に女衆の習わしを持ち出されても返答に困るのだが……やはり、滑稽か?」
「滑稽だ! 普段であれば、気にもならぬがな!」
アイ=ファはしばし思案してから、立てていた片膝を内側にぺたんと倒した。それだけで、女性らしい横座りが完成する。
「うむ! やはり宴衣装には、そういう姿が似合うと思うぞ!」
「そうか。ならば、この際は習わしに従おう」
意外に素直なアイ=ファである。
というか、アイ=ファが横座りをする姿などはほとんど初見であるし、今日はきらびやかな宴衣装であるものだから、俺はひとりでドキマギすることになってしまった。
刀は本家に預けていたので、どこからどう見ても美しい女衆の姿である。よく見れば、普通の女衆にはありえない筋肉の線が腕やおなかには浮かんでいたが、それでアイ=ファの魅力が損なわれることなどは決してありえない。それは木陰で一休みしている豹か山猫のように優美で魅力的な姿であった。
「それにしても、アイ=ファの宴衣装を見ていると、嫌でもガズランたちの婚儀を思い出してしまうな!」
そのように述べながら、ダン=ルティムはぐりんとミダ=ルウのほうに向きなおった。
「あの夜は、お前さんたちが老いたギバの骸などを持ち込んできたのだったな! 怒りのあまり、俺は息をすることもできなくなってしまったのだぞ!」
「うん……ごめんなさいだよ……?」
「アンタ、アタシたちの知らないところで、そんな馬鹿な真似をしてたんだネ。どうせディガたちに引っ張り出されたんでショ?」
ツヴァイ=ルティムも、とげのある視線をミダ=ルウに差し向ける。
ミダ=ルウは、いよいよ悲しげに頬肉を震わせ始めた。
「うん……ディガたちに頼まれて、ギバをここまで運んできたんだよ……? とっても重かったけど、ミダは頑張ったんだよ……?」
「悪さをしたってのに、頑張ったことが自慢になるもんか。よくもギバごと斬り捨てられなかったもんだネ!」
「うん……二度と悪いことはしないんだよ……?」
ダン=ルティムが、豪快な笑い声でふたりのやりとりを断ち切った。
「終わった話で、眉を吊り上げる必要はないぞ! ミダ=ルウはすべての罪を贖ったのだから、謝罪の言葉も不要だ!」
「話を持ち出したのはアンタじゃないか。まったく、面倒な親父だネ!」
相変わらず、見ていて飽きないダン=ルティムとツヴァイ=ルティムであった。
「そういえば、ツヴァイ=ルティム。例の件については、考えてもらえたかな?」
俺がそのように口をはさんでみると、ぎょろりとした三白眼でにらみつけられた。
「フン! 考えるも何も、割り当てられた仕事を拒否することなんて、ここでは許されてないでショ?」
「そんなことはありません。嫌だと思う仕事を無理に押しつけるようなことはしませんよ」
ガズラン=ルティムが声をあげると、ツヴァイ=ルティムはますます険悪な顔になってしまう。
「でも、他の人間にまかせたら、町のこすずるい連中に銅貨をちょろまかされちまうかもしれないじゃないか? どうしてアンタたちは、銅貨の勘定もまともにできないんだろうネ!」
「これまでは、必要がなかったからでしょう。しかし、ツヴァイ=ルティムが手ほどきをすれば、いずれは誰もがその力を身につけることができるはずです」
ぶすっとした顔で黙り込むツヴァイ=ルティムに、俺はさらに声をかける。
「ツヴァイ=ルティムに協力してもらえたら、本当に助かるよ。ただ、手ほどきをする相手は他の氏族の人たちだからね。もしもそのあたりに不安が生じるようだったら――」
「不安って何さ? アタシが他の氏族の連中と揉め事でも起こすっての?」
「いや、揉め事とまではいかないけれど、面識のない相手だとやりづらい部分もあるだろう?」
「フン! そんな心配は相手のほうにしてやるこったネ! 誰が相手でも、アタシは関係ないヨ!」
「うむ! ツヴァイほど正直な人間はなかなかおらぬからな! 誰が相手でも、すぐに打ち解けることができよう!」
ダン=ルティムが大きな声で笑いながら、タマネギのようにひっつめられたツヴァイ=ルティムの頭を撫でる。
「気安く触るんじゃないヨ!」とツヴァイ=ルティムはわめいたが、グローブのように分厚いダン=ルティムの手はしばらく彼女の頭から離れなかった。
氏を与えられたその翌日から、ツヴァイ=ルティムとオウラ=ルティムは正式にルティム本家の家人と定められていた。
主たる理由は、みっつ。モルン=ルティムが家を離れたために部屋が余っていたことと、出産を控えたアマ・ミン=ルティムのそばには女手が必要であったことと、そしてダン=ルティムを筆頭とする本家の人々が彼女たちを気に入っていたためである。
「今、どの氏族にこの仕事をまかせるか、協議をしている最中だからさ。そっちの話がまとまったら、どうかよろしくお願いするよ、ツヴァイ=ルティム」
俺がそのような言葉で会話をしめくくったとき、モルン=ルティムがようやく戻ってきた。
その手に掲げられていたのは、レイナ=ルウ自慢の香味焼きだ。スパイシーな芳香が、俺の胃袋をぞんぶんに刺激してきた。
「さ、どうぞ。たくさんお食べください」
「ありがとう。いただきます」
俺とアイ=ファは、それぞれの器からその料理を食させていただいた。
3種の香草を使った香味焼きである。屋台でも根強い人気を誇り、特にシムの民には好まれる逸品だ。アリアやティノやオンダといった野菜もふんだんに使われており、酒飲みにもすこぶる評判のいい刺激的な味つけであった。
が、ずいぶんお馴染みとなったその料理を口にして、俺は「あれ?」と首を傾げることになった。
何だか、記憶にある香味焼きよりもさらに美味しく感じたのだ。具体的には、ロースやモモの肉がいっそうジューシーであり、香草の風味もいっそう際立っているように感じられた。
「これはひょっとして、石窯で作った香味焼きなのかな?」
「さすがですね。アスタはひと口でそれがわかってしまうのですか?」
「いや、半分カンみたいなものだけど、肉の火の通り具合から、そうなのかなと思ったんだ」
「はい。わたしも話に聞いただけですが、確かに石窯というものを使っているそうです。以前にいただいたぴざやぐらたんという料理も美味でしたし、北の集落にも石窯というものを作っていただきたくなってしまいますね」
モルン=ルティムは、朗らかに笑っていた。
その穏やかな眼差しが、アイ=ファのほうにも向けられる。
「いかがですか? アイ=ファの口にもあうでしょうか?」
「うむ。以前からこの料理は好いていたぞ。香りほど辛くはないしな」
「はい。わたしも大好きです」
やはりモルン=ルティムが加わると、その場にはいっそう温かくて落ち着いた空気がたちこめるようだった。
ミダ=ルウもオウラ=ルティムも、その空気の中で楽しげに料理を口に運んでいる。仏頂面のツヴァイ=ルティムやラー=ルティムだって、きっと心からくつろいでいることだろう。ルティム本家の人々が織り成すこの空気感が、俺は大好きだった。
「アスタたちは、また自分の足でかまどを巡るのか?」
ダン=ルティムに問われて、俺は「はい」とうなずいてみせた。
「まずは自分たちで一周するのが定番になってしまいましたね。そうすると、自然に色んな人たちと交流を結べますし。……本当は、ルティムのみなさんとずっと語らっていたいような気分にもなってしまうのですが」
「そのように言ってもらえるのは、嬉しいぞ! 後でまた戻ってきてくれるのであろうな?」
「はい、必ず」
「では、アスタたちを独り占めにするわけにもいかんからな! ぞんぶんに交流を結んでくるがいい!」
そんなダン=ルティムの言葉に背中を押される格好で、俺とアイ=ファは立ち上がった。
記念すべき今日という日も、まだまだこれからが本番なのだった。




