リミ=ルウのお誕生会①~その日の朝~
2017.7/17 更新分 1/1 ・8/14 誤字の修正
・今回の更新は全7話です。
黄の月の6日。
チム=スドラとイーア・フォウ=スドラの婚儀の翌日。
その日、屋台の商売は休業日であったが、俺はアイ=ファやルウ家の人々とともに、朝から宿場町に下りていた。
目的は、上りの四の刻に開かれるという肉の市を見学するためである。
昨日は婚儀の祝宴で、本日は夜からリミ=ルウのお誕生会という慌ただしいスケジュールではあったが、この日をのがすと次の休業日は6日後となってしまうために敢行する段と相成ったのだった。
ルウ家のほうのメンバーは、レイナ=ルウとリミ=ルウとルド=ルウだ。
朝からアイ=ファと顔をあわせることになったリミ=ルウは、夜にもお楽しみを控えているという効果も相まって、いつも以上にご機嫌の様子であった。
ギルルの手綱を引きながら、まずは《キミュスの尻尾亭》を目指す。
肉の市の会場には、テリア=マスが案内してくれるという話になっていたのだ。
《キミュスの尻尾亭》に到着し、扉を開けると、受付台に座っていたテリア=マスが「おはようございます」と笑顔で出迎えてくれた。
「父さん、森辺のみなさんが来たので行ってくるね」
テリア=マスが厨のほうに呼びかけたが、「ああ」というぶっきらぼうな声が返ってくるばかりで、ミラノ=マスは顔を覗かせようとしなかった。
「父さんは、厨の作業台が傾いてきてしまったので、修理をしているんです。新しいものを買ったほうが早いと思うのですけれどね」
「いえいえ、物を大切にするのは素晴らしいことです」
善良にして純朴なるテリア=マスと罪のない会話をしながら、裏手の倉庫に向かう。ギルルと荷車を預かってもらうのだ。
そして、その代わりに倉庫から引っ張り出されたのは、人力で引く荷車であった。
荷台に二つの車輪がついているだけの、簡素な造りである。荷台の大きさは長さが100センチ、幅が60センチていどで、持ち手は前側についている。
「肉は数日分をまとめて買うので、けっこうな量になってしまうんです。ですから、だいたいの人間はこういう荷車を使います」
「それじゃあ、うちの荷車をお貸ししましょうか? トトスに引かせたほうが楽でしょう?」
「いえ、市場は混雑しているので、トトスの引く荷車を持ち出すと迷惑がられてしまうのです。なかなか身動きも取れなくなってしまいますしね」
ということで、俺たちは連れ立って市の会場を目指すことになった。
俺たちがふだん商売を開始するのは六の刻であるので、今はそれよりも2時間以上は早い時間帯となる。感覚的には、朝の9時前ぐらいであろうか。特に旅装束の人間は少なく、道を歩いているのはほとんどジェノス在住の人々であるようだった。
「肉の市には、宿屋の関係者ばかりでなく、一般家庭の人たちなども集まるのですよね?」
「はい。キミュスの肉はこの通りにあるキミュス屋でも買うことはできますが、カロンの肉は誰でも市場まで出向くしかありません。……特に、肉というのは転売が禁じられていますからね」
「転売が禁じられている? とは、どういうことでしょう?」
「肉というのは、まとめて買うか小分けで買うかで倍ほども値段が変わってしまうでしょう? ですから、近所の家同士でまとめて買いあげたりすると、非常に安くあがってしまうのです。そういった行いを禁じるために、余所の家の分まで肉を買う、という行いが法で禁じられているのですよ」
「ああ、そういうことですか。法で禁じるとは、なかなか厳格なものなのですね」
「ええ。値段が変わるほどのまとめ買いでなければ、近所の人間同士でおつかいを頼み合うこともあるでしょうが。利ざやを目的として転売すると、けっこう重い罰を課せられるはずですよ。肉売りの商人が得るはずの利益を、別の人間がかすめ取ることになるわけですからね」
ジェノスにおいて、肉の価格というのは厳しく統制されているのである。キミュスもあまり育てすぎると値が崩れてしまうということで、制限をかけられているほどであるのだ。
そういうデリケートな市場に進出する以上、俺たちも貴族からは何やかんやと条件や制限を持ち出されてしまうのも致し方のないところであった。
(でも、ザッシュマの牧場なんかでは、ギバ肉を売り出すことに嫌そうな顔をされることもなかったんだよな)
だからやっぱり、そういう取り決めも商人たちではなく貴族たちの間でのみ、取り沙汰されているのだろう。
こちらとしては、貴族の提示するルールに則って商売に励む他なかった。
「ああ、ここの通りを左です。けっこうな人間がそちらに向かっているでしょう?」
テリア=マスの言う通り、街道を歩く大部分の人々はそちらに足を向けているようだった。
南北に走る主街道とT字路になる形で、西側にのびた道だ。道幅は広く、街路もきちんと石造りであったが、用事はないので俺は足を踏み入れたことのない道であった。
「この先に、ちょっとした広場があるのです。城下町の人間が何か布告をするときにも、この広場が使われていますね。肉の市場の他に屋台を出すことは禁じられています」
すると、最後尾を歩いていたルド=ルウが「あー」と声をあげた。
「なるほどな。そういえば、そんな場所があったような気がするよ。あそこで肉が売られてんのかー」
「へえ、ルド=ルウは足を踏み入れたことがあるのかい? それは意外だね」
「ずいぶん昔の話だけどな。アスタが貴族の娘っ子にさらわれたとき、この辺りを捜すのが俺の役割だったんだ」
「ああ、そうか……呑気な発言をしちゃって悪かったね」
「何がだよ? アスタがさらわれたのは俺とかの責任なんだから、アスタが気を使う必要はねーだろ」
そうは言われても、自分の不明さを恥じ入らないわけにはいかなかった。
「あのときはすごい騒ぎでしたね」と、テリア=マスは取りなすように微笑んでいる。
そうする間に、いよいよ目的の地が見えてきた。
「ほら、あそこです。まだ時間が早いので、それほど人も集まっていないようですね」
テリア=マスはそのように述べていたが、俺にはけっこうな混雑っぷりであるように感じられた。
少なくとも、百できく人数ではないだろう。人間が壁となって、肉の売られている現場などは見えもしない。そして、その人混みから脱出を果たした人々は、みんな荷車を引いたり革の荷袋を抱えたりしていた。
「まずはカロンの肉ですね。はぐれないように気をつけてください」
テリア=マスは、物怖じする様子もなく人混みの中へと踏み込んでいく。
俺たちは、その背後を守るような格好でぞろぞろと追従していった。
「おい、ちびリミ、踏み潰されんなよ?」
「大丈夫だよー。でも、これじゃあなんにも見えないなあ」
ルド=ルウはしばし思案してから、リミ=ルウの身体をひょいっと抱きあげた。
そのまま肩車の体勢を取ったので、リミ=ルウは「わーい」とはしゃいだ声をあげる。
微笑ましいなあと思いながらその光景を眺めていると、頬のあたりに視線を感じた。
振り向くと、アイ=ファが俺を注視している。
「あ、俺は大丈夫だよ。視界は良好だ」
「そうか」とアイ=ファは前方に向きなおる。
森辺の狩人たるアイ=ファであれば、何の苦もなく俺の身体を持ち上げられそうだ。だが、さすがにそれを喜ぶほど、俺は無邪気にはなれなかった。
そんなこんなで、俺たちはようやく肉売りの現場まで辿り着くことができた。
広場の一番奥、壁に沿って、箱形の荷車がずらりと並べられている。そこから下ろした木箱を地面に積み上げて、肉売りの商人たちは仕事に励んでいるようだった。
荷車と荷車の間では、トトスたちもぼけっと立ち並んでいる。商人たちは道が混雑する前にこの場を訪れて、商売の準備をするのだろう。そこにはとうてい人力の荷車ではおっつかないほど大量の木箱が積み上げられていた。
「すみません。カロンの足の肉をお願いします」
周りの声に負けないようにテリア=マスが声を張り上げると、ずんぐりとした体格の商人が「よお」と気安く微笑んだ。
「尻尾の娘さんか。今日はいくつだい?」
「はい、3箱でお願いします」
「あいよ。白銅貨21枚だね」
なかなかのお値段であるが、それは木箱がそれなりの大きさであるためだった。ひと箱で15キロぐらいの肉を詰め込めそうであるし、それに、保存のための岩塩も込みの値段であるのだろう。
銅貨を支払ったテリア=マスは、意外に力強い感じで荷車に木箱を積みあげると、人混みの中で器用にUターンをして売り場から離脱した。
「肉を買うといっても、これだけのことですよ。何か参考になりましたか?」
「ええ、もちろん。それじゃあ、お次はキミュスですか」
「はい。キミュスは左の側です。わたしはいつも、端のあたりで買っていますね」
ゴロゴロと荷車を引きながら、テリア=マスは宣言した通りの場所へと足を向ける。
そちらでは、恰幅のいい女性が大きな声でお客を相手にしていた。
カロン売りはダバッグの民、キミュス売りはダレイム領の民である。たいていの場合は、畑の面倒を見ながら兼業でキミュスを育てているらしい。
なおかつその場では、箱詰めの肉ばかりでなく卵も売られていた。商売ではあまり使われないものの、宿場町の民が自分たちの食事のために購入する食材だ。
「いらっしやい。いくつだね?」
「4箱、お願いします。あと、卵を50個ほど」
「卵を50も? ……ああ、マスの家の娘っ子さんかい。毎度ありがとうね」
《キミュスの尻尾亭》においては、俺の助言によって卵もそれなりに活用されているのだ。おかみさんはテリア=マスの差し出した草籠に卵を詰め込むと、それを蔓草でがんじがらめにした。
「ほいよ。割らないように気をつけな」
「はい、ありがとうございます」
木箱と木箱の隙間に草籠をはさみこみ、テリア=マスはそろそろと人混みを脱出する。
そうして少し開けた場所に出ると、テリア=マスは荒縄で木箱を固定して、卵を守るための設置を完成させた。
「これでおしまいです。簡単なものでしょう?」
「ええ。ですが、中には木箱まるごとではなく、小分けで買っている人もいましたね」
「はい。まとめて3箱以上にしないと安値で買うことはできませんが、3箱半とか4箱半という買い方をする宿屋は多いでしょうね。あとは普通の家の人間が、カロンの足を2本だとか、キミュスを3羽だとか、そういう具合に小分けで買っているはずです」
「うーん、やっぱりそうですよね。……レイナ=ルウは、どう思った?」
「はい。箱ごとだとか、箱の中身を半分だけ、という売り方であれば、誰でも問題なく取り組めると思いますが……それ以上の小分けとなると、いささか難しいかもしれませんね」
と、レイナ=ルウは立てた指先を口もとにあてて、可愛らしく思案のポーズを取った。
その姿に、テリア=マスのほうも小首を傾げている。
「いったい何が難しいのですか? 値段が決まっているのでしたら、それに応じて取り分けるだけでしょう?」
「森辺の民は、そういうこまかい計算に慣れていないのですよね。それに、ギバ肉は部位ごとに値段が変わるので、最低でも胸、背中、肩、足、と4種類ずつの値段を覚えなくてはならないわけです」
森辺の民も、決して頭の回転が鈍いわけではない。屋台の商売などでは、べつだん問題が生じたこともないのだ。
しかし、4種類の肉の値段を、そこまで小分けにして覚えるというのは、なかなか難儀な話である。それでこれほど大量のお客さんに詰めかけられたら、さすがに目を回すことになってしまうだろう。
「それでしたら、小分けで売ることを取りやめればいいのではないですか? 宿屋の人間であれば、木箱の半分より小さく分けて買う人間もいないと思います」
「でも、そうしたら一般の人たちが購入の機会を失ってしまうわけですよね。実際に売れるかどうかはともかく、自分たちでその可能性を潰してしまうのは気が進まないのです」
やはり、自分の目で確認しなくては浮き彫りにされない問題というのはあるものだ。俺とレイナ=ルウは、しばしその場で頭を悩ませることになった。
「あるていどの経験を積めば、そういう計算にも慣れることはできると思う。だから、せめて最初の内だけでも、俺が同行できるといいんだけど……でも、そうすると朝の下ごしらえにまるまる参加できなくなっちゃうんだよなあ」
「それはちょっと不安ですし、アスタの苦労もかさんでしまいますよね。肉を売る仕事を果たしてから森辺に帰り、また屋台の商売のために宿場町へ下りるというのも、なかなか大変そうです」
「となると、やっぱり頼りになるのは……ツヴァイ=ルティムかなあ」
「そうですね。彼女でしたら、問題なくつとめあげることができると思います。肉を売る日だけ、屋台の商売や下ごしらえの仕事を休んでもらえばいいだけのことですし」
ただし、別の問題がある。基本的に、肉の市の仕事は小さき氏族に依頼する予定でいるのだ。
どの氏族に依頼するかは、まだ決まっていない。候補としては、フォウ、ガズ、ラッツ、ダイを親筋とする氏族のどれかだ。
そういった人々と、ツヴァイ=ルティムが単独でうまくやっていくことはできるかどうか。そこに一抹の不安を感じてしまうのだった。
「いっそルティム家にすべてをおまかせできたら何の問題もないんだけど、そういうわけにもいかないしね」
「はい。労力や負担の問題だけではなく、ドンダ父さんやミーア・レイ母さんはさまざまな氏族に役割を回すべき、と考えていますので」
それは以前から一貫されているルウ家のスタンスであった。富の独占を避け、さまざまな氏族に視野を広げてもらいたい、という主旨のもとに決められたスタンスであるのだから、それは守るべきであろうと俺も強く思う。
「まあ、俺たちだけで考えてもしかたがないか。ドンダ=ルウやガズラン=ルティム、それに小さき氏族の人々やツヴァイ=ルティム本人もまじえて話し合うべきだろうね」
「そうですね」とレイナ=ルウはうなずいた。
そのとき、ルド=ルウの肩に乗ったままであったリミ=ルウが、遥かな上空で「あっ!」と声をあげた。
「わーい、こっちだよー!」
とても楽しそうな声をあげながら、ぶんぶんと手を振っている。
さてはドーラ家の人々でも現れたかな、と思い、視線をそちらに差し向けた俺は、思わず言葉を失うことになった。そこに見えたのは、人並外れて図太い体格をした壮年の女性であったのだ。
「レ、レマ=ゲイトですか。こんなところで出くわすとは、偶然ですね」
連れの男性に荷車を引かせていたレマ=ゲイトは、これ以上ないぐらい顔をしかめて、こちらをねめつけていた。
明るい日の下で見ると、また別種の迫力が生まれるようだ。身長は160センチもないぐらいであったが、体重なんかは俺よりも重そうな肉厚の体格なのである。
「あんたたちか。もうギバの肉を売りに出そうってのかい?」
「いえ、今日は単なる下見です。まだ城下町のほうからも承諾は得られておりませんので」
「ふん。どうせ貴族どもは何も考えずにほいほい承諾しちまうんだろうよ」
そのように言い捨てて、レマ=ゲイトはさっさと立ち去ろうとした。
そこにリミ=ルウが、高い位置から呼びかける。
「ねえねえ、美味しいお菓子は完成した? あなたの宿屋でも、お菓子を売ることにしたんでしょ?」
レマ=ゲイトは立ち止まり、眉間のしわをさらに深くする。
「大きなお世話だよ! うちが何を売りに出そうと、あんたたちには関係ないだろ?」
「でも、お菓子ってけっこう作るのが大変でしょ? リミはアスタに色々と教えてもらったから大丈夫だったけど、ひとりじゃ絶対に無理だったもん!」
レマ=ゲイトは、くせのある褐色の髪をがりがりと掻きむしった。
そこで、俺も発言してみる。
「ひょっとして、何か手こずっておられるのですか? 確かにお菓子というのは今まで見本がなかったので、正解を見つけるのが難しそうですよね」
ホットケーキとチャッチ餅に関しては、基本的なレシピを寄り合いの場で公開している。しかしその後、ミラノ=マスやナウディスなどにも「なかなか難しい」というご意見をいただいていたのだった。
「何か、分量の加減が難しいように思うのですよね。ほっとけーきというお菓子なら何とかなるかと思って取り組んでみたのですが、甘くなりすぎたり味気なくなってしまったり……わたしもちょっと、悩んでいたところなのです」
そのように発言したのは、テリア=マスである。
いくつかの祝宴で甘い菓子を堪能した彼女でさえ手こずっているならば、他の人々はいっそう困難であるはずだった。
「それに、ただ甘いだけでは物足りないような気がしてしまって……やはりアスタやルウ家のみなさんみたいに、ギギの葉とかそういう物珍しい材料を使うべきなのでしょうか?」
「いえ、ギギの葉はなかなか取り扱いが難しいでしょうから、それよりもジャムやクリームなどのほうがまだ早道だと思います。果物やカロンの乳などを使った味つけですね」
「果物というと、ラマムやアロウやシールなどですか?」
「はい。アロウやシールは酸っぱいですけど、砂糖漬けにしたり砂糖と一緒に煮込んだりすれば、お菓子の材料にすることができます。……レマ=ゲイトも、まずはそういう手段で手を広げてみるのはいかがでしょう?」
レマ=ゲイトは「ふん!」とそっぽを向いてしまった。
しかし立ち去ろうとはしないので、この話題に興味があるのだろうなと察せられる。荷車を引かされている男性のほうは、さきほどからアイ=ファやルド=ルウの存在を気にしてたいそう落ち着かなげな様子であった。
「やっぱりあの夜だけでは用事が足らなかったですよね。近い内に、《タントの恵み亭》の厨をお借りして、お菓子についての勉強会などを開いてみましょうか。新しい食材の取り扱いなんかは、そうしてヤンに手ほどきされていたのでしょう?」
「ふん! 何が悲しくて、あんたたちに教えを乞わなくちゃならないのさ!」
「手ほどきをするのは、ヤンの役目になるのではないでしょうかね。もちろん俺たちも、お邪魔にならなそうであればお手伝いをしたいと思いますが」
レマ=ゲイトは、値踏みをするような目つきで俺たちの姿を見比べてきた。
兄の頭に両手をそえたリミ=ルウは、無邪気そのものの顔で微笑んでいる。
「美味しいお菓子ができたら、リミにも食べさせてね? 楽しみにしてるから!」
「……ふん!」と最後にまた鼻を鳴らしてから、レマ=ゲイトはようやくどすどすと歩き始めた。
その図太い姿が人垣の向こうに消えていくと、ルド=ルウが頭上の妹に「おい」と呼びかける。
「なんでリミはあの女にかまおうとするんだ? わざわざこっちを嫌ってる相手にちょっかい出す意味はねーだろ?」
「そんなことないよ! リミはみんなと仲良くしたいから! ……それにあの人、きっと悪い人じゃないよ!」
「別に、森辺の民を嫌う人間がみんな悪人だとは思わねーけどさ。あんま面倒なことに首を突っ込むなよな」
「えー? 楽な道ばかり選んでたら立派な人間になれないって、いつもミーア・レイ母さんが言ってるじゃん!」
「生意気いうんじゃねー」と、ルド=ルウはおもむろにぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。リミ=ルウはきゃあきゃあ言いながら、兄の頭にしがみつく。
そんな感じに、リミ=ルウの生誕の日は至極平穏にスタートを切ったのだった。




