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異世界料理道  作者: EDA
第二十六章 モルガの御山洗(下)
448/1702

ファの家長の生誕の日③~祝いの晩餐~

2017.4/1 更新分 1/1 ・2020.2/1 誤字を修正

・今回の更新はここまでです。更新再開まで少々お待ちください。

・カクヨムで連載されている「ストライキングガール」の刊行を記念して、小説家になろうのほうでも番外編を掲載させていただきました。ご興味のあるかたはよろしくお願いいたします。

 それから四半刻ほどの後、俺たちはファの家の広間に集まっていた。

 車座になった一同の前には、お祝いの料理がずらりと並べられている。たった今かまどで焼きあげた肉料理は、芳しい香りとともに白い湯気をあげていた。


「えーと、ファの家長アイ=ファの18度目の生誕の日を祝福します。これからもファの氏に恥じない家長として生き、家人を導いてくれることを願います」


 森辺の習わしに則って、俺がそのように挨拶を述べてみせる。

「うむ」と鷹揚にうなずきつつ、アイ=ファはけげんそうに小首を傾げた。


「ところで、どうしてそのようにかしこまった喋り方なのだ?」


「ごめんな。こういう挨拶の類いが苦手なもんで」


 なおかつ、お客人を迎えていると、ついついそちらに合わせた口調になってしまう俺であった。

 ともあれ、料理が冷めてしまう前に、次の段取りに進まなくてはならない。


「家長に祝福の花を捧げます。おめでとう、アイ=ファ」


「うむ」


「アイ=ファ、おめでとー!」「おめでとさん」「おめでとうねえ、アイ=ファ……」と、お客人たちもアイ=ファに花を捧げていく。

 青い花、赤い花、黄色い花、白い花、と見事に配色は分かれることになった。髪や胸もとを飾られたアイ=ファは、なんとか厳粛な表情を保ちつつ、それでも嬉しげに目を細めている。


 アイ=ファにとっては、花を贈られるのも2年ぶりのことであるのだ。

 いや、15歳になってすぐに父親を失ってしまったのだから、時間にすれば3年ぶりということになってしまうのか。

 そんなアイ=ファに、俺はもうひとつのプレゼントも渡すことにした。


「アイ=ファ、喜んでもらえるかはわからないけど、これももらってくれるか?」


「うむ? 花の他には、贈りものなど不要だぞ?」


「うん。銅貨をむやみに使うのはアイ=ファの性にあわないってのもわかってる。でも、どうしてもアイ=ファに贈りたくなっちゃってさ」


 それは宿場町で買い求めた髪飾りであった。

 バラによく似た花をモチーフにしており、花弁は不思議な透き通る石でできている。薄く削られたその花弁は、光を当てると七色にきらめき、アイ=ファの大好きな硝子細工と同じぐらい綺麗であったのだ。


 アイ=ファはどのような感情を発露するべきか迷うように視線を泳がせる。

 すると、ジバ婆さんが笑いながら声をあげた。


「生誕の日に限らず、男衆が女衆に飾り物を贈るのは、別に珍しい話でもないからねえ……みんな、そうやって宴衣装を華やかにこしらえていくんだよ……」


「うむ……しかし私は、狩人であるし……」


「狩人でも女衆さ……アイ=ファにとっても似合いそうな、素敵な髪飾りじゃないか……」


 アイ=ファは小さく息をついてから、顔を横にしてまぶたを閉ざした。

 そのこめかみの上あたりに、俺は透明の花を留めてみせる。


「わー、綺麗だねー! すっごく似合ってるよ、アイ=ファ!」


 アイ=ファはくすぐったそうに身をよじってから、「さて」と背筋を正した。


「今日は私のために集まってもらい、客人たちには感謝している。友たるジバ=ルウ、リミ=ルウ、その家人たるルド=ルウよ、あとは気兼ねなく祝いの料理を楽しんでもらいたい」


 俺たちは、食前の文言を唱和した。

 それでようやく、晩餐の開始である。


「いやー、もう腹が減って死にそうだよ! ちっとぐらい味見をさせてくれたっていいだろうによー」


「ふーんだ。これはアイ=ファのために作った料理なんだから、アイ=ファに最初に食べてもらいたかったの!」


 そうしてリミ=ルウはアイ=ファを振り返り、にっこり微笑んだ。


「ほらほら食べてみてー! リミとアスタが一生懸命作ったんだから!」


「うむ」とアイ=ファも微笑みながら食器を手に取った。

 文字通り、俺とリミ=ルウが丹精を込めて作ったお祝いの料理である。


 もちろん主菜は、ハンバーグであった。

 それもお祝いということで、俺たちは数種類ものハンバーグを準備してみせた。


 というか、小ぶりに仕上げたハンバーグに対して、数種類のソースを準備したのだ。

 まずは王道のデミグラス風のソースに、タウ油をベースにした和風ソースをしみこませたシィマのすりおろし、あとはシチューと同時進行でこしらえたホワイトソースと、アリアとミャームーのすりおろしと果実酒をベースにした洋風ソース――さらに、カレーをキミュスの骨ガラスープで溶いたカレーソースまで加えて、堂々の6種類である。


 ハンバーグのパテは小ぶりであるが、薄っぺらい形状だと噛み応えが物足りないので、ころんとした俵形に仕上げている。

 さらには、それとは別に特別仕立てのハンバーグも準備していた。

 特別仕立てというか、アイ=ファの一番の大好物である、タラパソースの乾酪・イン・ハンバーグである。

 アイ=ファは当然のように、まずはそのひと品を自分の木皿に取り分けた。


「……タラパはしばらく使えなくなったという話であったはずだな?」


「うん。だけど城下町には、別の町から取り寄せたタラパがいくらでもあるからさ。ドーラの親父さんから買うタラパに比べれば新鮮さは落ちるけど、そこは調理の腕で補ってみせたよ」


 せっかくのお祝いなのだから、これぐらいの大口は許していただこう。

 なおかつ、城下町で流通しているのは小粒で甘みの強いタラパであるので、それにあわせて味付けも調整済みである。アイ=ファが普段口にしているものに負けない美味しさを完成させたという気持ちに偽りはなかった。


 アイ=ファは「うむ」とうなずきながら、木匙で切り分けたハンバーグを大事そうに口へと運んだ。

 アイ=ファのなめらかな頬が、口の動きにあわせてほのかに動く。

 アイ=ファは幸福そうに目を細めながら、俺とリミ=ルウの顔を見比べた。


「とても美味だ。……みなも早く口にするといい」


 リミ=ルウは、アイ=ファに負けないぐらい幸福そうな顔をしていた。

 たぶん俺だって、おんなじような表情になってしまっていたことだろう。


「なー、アイ=ファもああ言ってるじゃん。早く俺にも食べさせてくれよー」


 と、ルド=ルウが不満げな声をあげる。

 見ると、彼の木匙や木串はすべてリミ=ルウの手に確保されてしまっていた。


「うん、もういいよー。ルドもいっぱい食べてね!」


「言われなくったって、山ほど食ってやる!」


 俺たちも、食事を開始することにした。

 ハンバーグの他にも、料理はよりどりみどりである。


 汁物は、リミ=ルウが中心になって仕上げたトライプのシチューだ。

 それにシンプルな、タウ油仕立てのスープも準備している。レギィとオンダもふんだんに使ったひと品だ。


 新鮮なティノがないと生野菜のサラダは難しかったので、その代わりに温野菜のサラダをたっぷりと準備している。ニンジンのごときネェノンや、ジャガイモに似たチャッチ、パプリカに似たマ・プラ、ズッキーニに似たチャンをしっかりと茹であげて、金ゴマに似たホボイのドレッシングで食べていただく。


 さらに、清涼感のある箸休めの副菜も欲しかったので、シャキシャキとした千切りシィマとギーゴのサラダも添えることにした。梅干に似た干しキキのディップで食べる、さっぱりとした味わいだ。


 あとは、最近の定番であるレギィとトライプのそぼろ煮も用意した。

 具材には、タケノコに似たチャムチャムも使っている。当然のように、チャムチャムも甘辛い和風の味付けとは相性がよかった。


 そして俺は、主菜のハンバーグとは別に、分厚いステーキをも準備していた。

 もちろん分量は半切れずつていどであるが、固いギバ肉を噛みちぎるというのは森辺の狩人にとってひとつの象徴めいて感じられたので、この日には必要なのではないかと考えたのだ。


 ソースはシンプルに、焼いた肉からあふれた肉汁と果実酒とミャームーとタウ油でこしらえたものだった。

 つけあわせには、マッシュポテトならぬマッシュチャッチを添えてある。ルド=ルウが参席するならば、どこかでチャッチをたっぷり使ってあげたいなというせめてもの心尽くしである。


 これが俺とリミ=ルウの、およそ3時間半の成果であった。

 誰もが笑顔で、お祝いの料理を食べてくれている。その喜びにひたりながら、俺も食事を進めることができた。


「……ジバ婆は、とても食べる量が増えたようだな」


 と、アイ=ファが穏やかな声でつぶやいた。

 リミ=ルウに取り分けられたハンバーグを和風仕立てのソースで食していたジバ婆さんは、「ああ……」と笑顔でうなずいた。


「今じゃあもう、ティト・ミンとそんなに変わらないぐらい食べているんじゃないかねえ……こんなに小さな身体なのにと、みんな呆れているよ……」


「私は、とても嬉しく思う」


 もちろん俺も、同感であった。

 確かにジバ婆さんは、とてもゆっくりとであるが、変わらぬペースで何かしらを食べ続けていた。口にしていないのは、ステーキとシィマの千切りサラダぐらいであろう。まもなく86歳になろうかというジバ婆さんがこれほどの食欲を見せてくれるというのは、とても嬉しいことだった。


 もっともルド=ルウなどは、その5倍ぐらいのスピードで食べ続けている。ファの家に分配されたポイタンだけでは足りなそうだったので、焼きフワノも相当な量を準備していたのだが、それも余すことなく食べ尽くしてくれそうな勢いであった。


「あー、ほんとに美味いなー! レイナ姉とかはもうアスタと同じぐらい腕が上がったと思うんだけど、実際にこうやって食べてみると、やっぱり違うんだよなー」


「そうなのかなあ。得意な料理の腕前だったら、レイナ=ルウはもう俺に負けてないと思うけどね」


「そう! だから、こうやってずらーっと料理を並べられると、アスタのすごさがわかるんだよ! アスタの場合はどの料理でも死ぬほど美味いけど、レイナ姉がこれだけの料理を並べたら、たぶんひとつかふたつの料理だけが飛び抜けて美味く感じられるんだよなー」


 それは、なかなかの達見であるように感じられた。レイナ=ルウやシーラ=ルウは、商売のためにこしらえている料理や、そこから応用のきく料理に関して、めきめき腕を上げているのである。裏を返せば、それ以外の料理との出来栄えに差が生じてきた、という段階であるのだろう。


 さらに言うならば、レイナ=ルウは汁物料理や煮物料理が得手であるように感じられる。得意な料理というものが明確になってきたゆえに、そうでない料理との差が出てきたのだ。それは、レイナ=ルウの成長具合いがいちじるしいための現象であるように思われた。


「ルド、そんなに食べて大丈夫なのー? この後には、甘いお菓子だってあるんだからね!」


「普通の食事と甘い菓子は別物だろー。なんか、入る場所が違うんじゃねーかなー」


「あはは。俺の故郷では、そういうのを別腹って呼んでいたよ。何かしら原因があるんだろうね」


 別腹の原因はホルモンの分泌にあり、という俗説を聞いたことがあったが、うろ覚えなのでよくわからない。それに、ルド=ルウだってそんな解説は求めていないだろう。リミ=ルウ自慢のお菓子までしっかりと食べてもらえれば問題はなかった。


 ともあれ、これ以上ないぐらい、なごやかな会食である。

 本日の主役であるアイ=ファも、旺盛な食欲を満たしながら、そのなごやかな光景を静かに見守っていた。


 ルウ家の人々とは、これまでに何度も食事をともにしている。

 が、このような少人数でそれを行うのは初めての試みであるはずだった。

 なおかつ顔ぶれは、ルウ家でも気の置けないリミ=ルウとルド=ルウとジバ婆さんだ。なごやかで、かつ賑やかな、それは温かい家族の団欒であった。


 あらためて、ルウ家の持つ温もりをおすそわけしてもらったような心地である。

 アイ=ファとふたりきりの生活に不満を抱いたことなど、一度としてない。しかし、これが普段のファの家には存在し得ない温もりと賑やかさであることは否定のしようもなかった。


 アイ=ファだって、両親がいた頃はこのような温もりに包まれていたことだろう。

 俺だって、それは同様だ。

 そうして俺たちが失ってしまったものを、この夜に贈り物として届けられた気分であった。


「そういえば、祝いの晩餐なのに、アイ=ファは果実酒を飲まねーんだな」


「うむ。最近はあまり口にする機会がない。お前は飲みたくば飲めばいい」


「俺もいーや。飲めねーことはないけど、そこまで好きじゃねーし」


 そのように述べてから、ルド=ルウはがりがりと頭をかいた。


「なんか俺、さっきからうるさくしちまってるな。隅っこで小さくしてるとか言ってたのに、邪魔くさくねーか?」


「そのようなことを気にするのは、お前らしくないな」


「そりゃまー、アイ=ファの生誕の日なんだからさ。客人として招かれてるのはリミとジバ婆なんだし、俺が邪魔するわけにはいかねーだろ」


「何の邪魔にもなってはいない。お前が静かにしていたら、逆に落ち着かない気分になりそうだ」


 アイ=ファの返答に、ルド=ルウは「ふーん?」と小首を傾げる。


「確かにお前、すっげー楽しそうだな。そういう顔してっと、いつも以上に美人に見えるよ」


「……余計な口を叩くなら、隅っこで小さくなっていてもらおうか」


「何だよー、どっちだよー。アスタだって、きっとおんなじ風に考えてるぜー?」


「そ、そこで俺に振らないでもらえるかな」


 俺はいささか動揺してしまったが、アイ=ファは普段ほど気分を害した様子もなく、穏やかな面持ちで肩をすくめていた。

 色とりどりの花と髪飾りに彩られて、確かにアイ=ファはいつもよりも魅力的に見えた。また、その内からあふれかえる幸福感が、いっそうアイ=ファを輝かしく見せているのだろう。


 タウ油仕立てのスープをすすって一息ついたジバ婆さんが、やはり幸福そうに細めた目で広間の様相を見回していく。


「アイ=ファはこの家で、18年間を過ごしてきたんだねえ……なんとも立派な家じゃないか……」


 ルウの本家に比べれば、一回りは小さな家である。

 なおかつ、森辺の集落の家屋はのきなみ同じ様式で造られているので、とりたてて変わったところもない。


 ただひとつ、ファの家ならでのものといえば、戸のない小さな棚に森の主の巨大な角と、シュミラルからいただいた硝子の酒盃、ラダジッドたちからいただいた硝子の大皿が飾られていることぐらいであろうか。


 反対側の壁には、雨に濡れた衣服や俺の雨具、そしてさきほどアイ=ファが受け取った新品のマントと雨具も掛けられている。その下に重ねられているのは、雨季に備えて購入したふたり分の寝具だ。


「ファの家って、もともとはどこの血筋だったんだろうな」


 と、マッシュチャッチをもりもりとたいらげながら、ルド=ルウがそのように発言した。

 アイ=ファは、不思議そうにそちらを振り返る。


「ファの家だって、昔は分家とか眷族とかがあったわけだろ? でも、ここには家がひとつっきりしかねーじゃん? そんで周りの連中と血の縁がないってことは、どこか別の場所から家を移してきたってことなんじゃねーの?」


「なるほど。言われてみれば、その通りだな。……しかし、私が幼い頃からこの場にはこの家しかなかったし、父ギルからも眷族などの話は聞いたことがない」


「ふーん。親父も知らねーって言ってたんだよな。ジバ婆は何か知らねーのか?」


「さてねえ……もともと森辺にはたくさんの氏族があったから、近在にでも住んでいなければ、なかなかすべての氏を覚えられるものではなかったんだよ……」


「あー、ジバ婆がちっちゃい頃は民の数も倍ぐらいだったんだもんな。そんなの、いちいち覚えてられねーか」


 笑顔でトライプのそぼろ煮をつついていたリミ=ルウも、きょとんとした顔で兄を見上げる。


「どうしてルドはそんなことを気にしてるの? ルドはあんまり血筋とか気にしてなかったのに」


「んー? いや、ほんのちょっとでも余所の氏族と血の縁があれば、ファの家もそこの眷族に迎えられるかもしれねーじゃん? アイ=ファみたいにすげー狩人とアスタみたいにすげーかまど番だったら、誰だって眷族にしたいと思うだろうしさ」


「うん……?」


「そうしたら、余所の連中と婚儀とかあげなくても、賑やかに暮らしていけるじゃん。金色の髪とか珍しいから、レイあたりと血の縁があったら面白かったのになー。でも、ルティムの長老もレイとファは関係ないって言ってたしなー」


 確かに俺も今のところ、アイ=ファの他に金褐色の髪を有するのはラウ=レイとウル・レイ=リリンぐらいしか見たことはなかった。

 というか、ルド=ルウがわざわざそのようなことをルティムの長老ラー=ルティムに尋ねていたということが驚きであった。


 リミ=ルウは木皿を敷物の上に置くと、ルド=ルウの左腕をぎゅっと抱きすくめて、その肩に頬をすりつけた。


「なんだよ、食べづれーだろ」


「うん。ルドってそこまでアイ=ファたちのことを気にかけてくれてたんだね」


「会話になってねーぞ。あんまりひっつくなよ」


 しかしリミ=ルウはしばらくルド=ルウにひっついたまま、幸せそうに微笑んでいた。

 その睦まじい姿を見守りながら、アイ=ファも薄く笑っている。


「血の縁はなくとも、私たちには友がある。ジバ婆やリミ=ルウはもちろん、お前のことだって大事な友だと思っているぞ、ルド=ルウよ」


「そーなのか? アイ=ファとはギャンギャン言い争いしてた覚えしかねーけどな」


「それでもお前は、昔からファの家に友愛の念を示し続けていてくれたではないか。……アスタが初めてルウ家でかまどを預かった夜も、お前は男衆の中でただひとり、祝福の牙を授けてくれたしな」


「そんなの、いつの話だよ! もう一年ぐらい経ってんじゃん!」


「何年経とうとも、忘れられるはずがなかろう。その牙は、今でもアスタの首にかけられているしな」


 その通り、俺の首にかかっているのは、すべてルウの本家のみんなから授かった祝福の牙であったのだった。

 その数は、10本。ジザ=ルウとダルム=ルウとコタ=ルウを除く10人から、俺はこれを授かることができたのだ。


「……ま、アスタだけじゃなくアイ=ファも俺のことを友って呼んでくれるんなら、そいつは嬉しいけどさ」


 と、ルド=ルウは黄褐色の頭をかき回す。


「それにしても、ほんとに普段とは別人みてーだな! ラウ=レイなんかがいい女だいい女だとか騒ぐ理由がわかった気がするよ。そんなんじゃ、あちこちの男衆から嫁取りを願われて大変だろ?」


「……余計な口を叩くならば、友といえども隅っこに引っ込んでいただきたいが」


「なんでそーゆー話にはいちいちつっかかるんだよ。心配しなくても、お前がアスタ以外の人間を伴侶にするとは思っちゃいねーよ」


 アイ=ファは無言で取り分け用の木皿を手に取った。

 リミ=ルウに片腕を捕捉されたままのルド=ルウは、「投げるなよ!?」ともう片方の腕だけで頭部をガードする。


 そんなささやかないざこざさえも、幸福に感じられる夜だった。

 アイ=ファはきっと、この夜の思い出を生涯、忘れることはないだろう。

 アイ=ファほど記憶力に自信のない俺だって、それは同じことだ。アイ=ファと出会って、初めて迎えた生誕の日。それは限りない幸福感と喜びとともに、俺の胸の奥深くに刻みつけられることになった。

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