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異世界料理道  作者: EDA
第二章 半人前の料理道
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④決意

 さて。ジバ婆さんを見舞うのはいいのだが、家人の案内なくして家に踏み込むのは強い禁忌である。


 しかしリミ=ルウはまだ姉妹喧嘩に励んでいるのか姿を見せないし、ピコの葉を干しにいった奥様がたの姿も見えない。

 果たしてこの家の中にジバ婆さん以外の家人は控えているのか、そんなこともわからぬまま、とりあえずは「すいませーん、誰かいらっしゃいますかー」と呼びかけるしかなかった。


 誰かは、いた。

 本日まだ顔を合わせていなかった家人は、3名。森へと去っていった次兄ダルム=ルウを除けば、あと2名。その2名が顔をそろえて、俺たちの呼びかけに応じて玄関の戸を開けてくれた。


 といっても、そのうちの1名は、乳幼児のコタ=ルウである。

 そのコタ=ルウを起伏の激しい胸もとに抱きあげたルウ家の長姉ヴィナ=ルウが、戸板の向こうできょとんと立ちつくしていた。


 俺にとっては、気まずい再会だ。

 裸身がどうのとかそんな話以前に、俺は彼女の色仕掛けをおもいっきり突っぱねてしまった立場なのだから。


 しかし、だけどその分、他の女衆みたいに水浴びを覗かれたぐらいで照れまくったりはしないだろう――などと、思っていると。


 その陶磁器みたいにつるりとした頬に、実に鮮烈なる血の気がたちのぼってきてしまった。


 おいおいあなたは自ら裸身をさらそうとしてきた恐るべき魔性の女であるはずじゃないですか!などという心中の叫びもむなしいままに、ヴィナ=ルウは布地にくるまれた赤子で口もとを隠し、とろんとした目を羞恥に潤ませ、何とか俺の目線から逃れるすべはないものかと煩悶するようにその色っぽい身体をくねらせたのだった。


「あ、ああ、アスタ……それに、アイ=ファも……だ、誰か客人が来ているなあと思ったら、あなたたちだったのねぇ……わ、わたしはサティ・レイの代わりにこのコタをあやしていたから、ちっとも気がつかなかったわぁ……」


 声も、いくぶん上ずってしまっている。

 色っぽくて艶っぽくてフェロモンの塊みたいな様子は以前に見た通りなのだが。何だろう。そんなセクシーおねえさんが、羞恥に身をよじりつつ何とか体裁を取りつくろうと健気に頑張っている、とでもいうような――しかもそれがまた全然演技だとは感じられず、俺はもうひたすら困惑するばかりだった。


「あ、あのぉ……ジザ兄からすべて話は聞いているし、わたしも納得はしてるから……ごめんなさい。それでも、あのぉ、あんまり見ないで……」


 と、しまいには赤子で完全にそのお顔を隠してしまうヴィナ姉さんである。


 コタ=ルウは、母親ゆずりの黒っぽい瞳で真っ直ぐに俺を見つめながら、「あう?」と不思議そうに小首を傾げた。

 やめてくれ! 今日の俺にそんな純真な瞳を向けるのは!


「ジ、ジバ婆のお見舞いに来てくれたのねぇ? 寝所はこちらよ。さあ、どうぞ……」と、ふだんのしゃなりしゃなりな歩き方ではなく、そそくさと室の奥に駆けていくヴィナ姉さん。


 ハッとして振り返ると、アイ=ファがそれはもう氷の結晶みたいな目で俺を見ていた。


「さ、さあ行こうぜ、お見舞いお見舞い」


 だから、俺がそこまで取り乱す筋合いはないと思うのだが。とても平静は保てない。


 何はともあれ、お見舞いだった。

 広間は左右に奥へと通ずる通路があり、ヴィナ=ルウが向かったのは右手側である。ようやくふたりが並んで歩けるぐらいの通路が真っ直ぐ10メートルほども続いており、中央側の壁に戸板が三つほど見受けられる。


 左の通路も同じ造りをしているとしたら、個室の数は全部で六つか。

 思ったよりも、広いのだな。これなら12名プラス乳幼児でも、広間で雑魚寝などはしなくて済むかもしれない。


 ヴィナ=ルウは、一番奥の戸板を開けて、その前で立っていた。

 もじもじしながら立っていた。


「ジバ婆、お邪魔する」と、アイ=ファはさっさと戸板の内に消えてしまう。


 ではでは私も――と後に続こうとすると、案の定というか何というか、ヴィナ=ルウが俺の腰あてのすそをちょいとつまんできた。


 やっぱりさっきまでの姿は俺を油断させるための演技であり、何か色仕掛けでもしかけてくる気か、と十分に身構えながら振り返ると、ほとんど顔も見えないぐらいにうつむいたヴィナ=ルウが、長い栗色の前髪の隙間から、潤んだ瞳で俺を見つめていた。


「ち……契の約束に、森辺の掟まで追加されちゃったわねぇ……?」


 言葉だけ聞けば、やはり色事の宣戦布告だとしか思えない。

 しかし、そんな頼りなげな仕草で弱々しく、おぼこ娘が魔性の女を気取っているようなおぼつかない感じで宣言されても、挨拶に困るばかりではないか。


「あの……どうしてさっきからそんな態度なんですか?」


 室内には聞こえないように声を潜めて反問したら、ヴィナ=ルウはびくりと肩を震わせて、またコタ=ルウで顔を隠してしまった。

 だから、乳幼児をそのように扱うのはやめなさいというのに。


「だ、だからそんなに見ないでってばぁ……きょ、今日のところはこれで勘弁してあげるわぁ……」と、ようようそれだけの言葉を振り絞り、ヴィナ=ルウはあたふたと通路を戻っていってしまった。


 すっかり消耗し果ててしまった俺は力なく足を踏みだし、後ろ手で戸板を閉める。


 アイ=ファはすでに、ジバ婆さんと語らっている真っ最中だった。


「おお、アスタかい? よく来てくれたねえ。婆は嬉しいよ……」


 うーむ。最長老の透徹した微笑みは、赤子の純真な眼差しと同じぐらい、今日の俺には心苦しい。

 しかしそのようなことも言っていられないので、俺はさらに足を進めてアイ=ファのかたわらにひざまずいた。


 部屋は、6畳ていどの広さであった。

 調度と言えば、何だかよくわからない木の実だとか枝葉の束だとか動物の骨だとか木彫りの仮面だとかが飾られた大きな棚ぐらいのもので、あとはガランとしてしまっている。


 ジバ婆さんが座っているのは、布の敷布を何重にも重ねた寝床の上で、肩にも足もとにも綺麗な色合いをしたショールのようなものが掛けられている。


 熱帯雨林に近い気候であるから、日中は常に日本の初夏ぐらいの気候であるのだが。こんな殺風景な部屋で小さなご老人がひとりで寝かされているのかと思うと、妙に寒々しく感じられてしまった。


「……夜にはね、ティト・ミンが一緒に眠ってくれるんだよ。あの子ももう15年ぐらい前に夫を亡くしてしまっているからねえ……」


 まるで内心を見透かされたような気がして、俺はドキリとしてしまった。

 アイ=ファに支えられながら半身を起こしているジバ婆さんは、枯れ枝のような指で俺の手を取る。


 しわくちゃの、小さな小猿みたいなお婆さんである。

 きっとこのように枯れ果てる前から、相当に小柄であったのだろう。

 しかし、その垂れさがったまぶたにほとんど隠されてしまっている細い目には理知的な光が宿っており、干した果実みたいな顔には、温かい慈愛の表情が漂っている。


 ジバ婆さんは、この前対面したときよりも、格段に元気そうだった。

 それが俺には、何より嬉しかった。


「この前はありがとうねえ、アスタにアイ=ファ。あれ以来、きちんと食事もとっているよ。……あんたたちが作ってくれたほどには上手くいかないけど、レイナやリミが頑張ってくれてねえ……」


「それは何よりだ。ジバ婆が元気になってくれて、私も嬉しい」


 アイ=ファの顔には表情らしい表情も浮かんではいなかったが、その瞳はいつになく柔らかい光をたたえているように見えた。

 さきほどの、ルウ家の出陣に立ち合った際の火のような眼光が、まるで嘘のようだ。あと、俺をねめつける冷たい眼光とも。


「……さっき、ドンダが珍しくここに来たよ。あんたたち、3日後の夜にもまた来てくれるんだって……?」


「ああ。またかまどを預かることになった。きっとこのアスタが美味い食事をジバ婆に作ってくれるだろう」


 と、アイ=ファがちろりと俺を見る。


「……食事を作る腕は、確かな男だからな」


「だけ」と評しなかったのは、武士の情けか何かであろうか。

「喜んでいただけるように頑張ります」と、俺も控えめに応じておくことにした。


「嬉しいねえ……だけど、その夜はルティムの婚儀の前祝いなんだろう? ドンダが笑いながら話していったよ」


 と――そのほとんどまぶたにふさがれてしまっている目が、より透徹した光をたたえて、俺とアイ=ファを見比べる。


「ねえ、アイ=ファ……いったいドンダは、何を企んでいるんだい……?」


「企む、とは?」


「ルティムの家長であるダン=ルティムは、ドンダと同じぐらい気性の荒っぽい、南の森の大猿みたいな男さね……あんな血の気の多い男にこの前みたいな食事を出したら、ドンダ以上に猛り狂って、せっかくの前祝いが無茶苦茶になってしまうかもしれないじゃあないか」


「……そうやって、私やアスタに恥をかかせたいのだろう。ドンダ=ルウは、私たちのことが心底気に食わないようだからな」


「気に食わない……それはあんたが嫁入りの話を突っぱねたからだねえ、アイ=ファ……?」


 ジバ婆さんの目が、アイ=ファに固定される。

 アイ=ファはちょっとだけ苦しそうに眉根を寄せた。


「それはしかたのないことさね。女衆にだって、夫を選ぶ権利はあるからねえ……でも、ドンダはあんたのことを気に入ってたはずなんだ。そうでなきゃ、息子の嫁になんてことは言い出さない。きっとスン家の跡取り息子に真っ向から歯向かったアイ=ファの勇敢な行いに、ドンダは惚れこんだんだろう……だけどあんたは、嫁入りの話を突っぱねたあげく、よりにもよって『ギバ狩り』として生きていく、なんて言い張っちまった……」


「…………」


「何もそれを責めてるわけじゃないんだよ……あんたはあんたが正しいと思う道を生きればいいのさ……だけど、ドンダは『ギバ狩り』の仕事に誇りを持ってる。男衆として生まれたことを誇りに思ってる。だから女衆の身で『ギバ狩り』の道を選んじまったあんたのことを、許せなくなっちまったんだ……」


「…………」


「アイ=ファ。そんなドンダが、ルウ家にとっても大事な夜のかまどをあんたたちにまかせた。ドンダはいったい、何を企んでいるんだい?」


 こんなに透き通った眼差しをした人間に問われて、答えを拒むことのできる人間など存在しないだろう。

 だから、アイ=ファは子どものように唇を噛んでから、やがて答えた。


「その夜、ドンダ=ルウやルティムの家長を満足させることができなければ、ファの家に絶縁を申し渡す、と言われた」


 しばしの沈黙。


 やがてジバ=ルウは「そうかい」と静かに言い、そっと目を伏せてから、もう一度「そうかい」とつぶやいた。


「アイ=ファ。それに、アスタ。その話を断ることは、できないのかい?」


「できない。むしろこれは私たちのほうから持ちかけた話なのだ。ドンダ=ルウはそれに条件をつけ加えたにすぎない」


 と、アイ=ファは力のこもった声で言った。


 ジバ=ルウの目が、ゆっくりと俺に向けられる。


「そうですね。……こんなに話が大きくなってしまったのは不本意ですが、今さら引き返すことはできませんし、それに、これはルウ家にとっても必要なことなんだろうと思っています」


 考え考え、俺はそう答えた。


「もちろん俺は、自分の意地や自尊心を守るために、こんな厄介なことを企んでしまったんですが。今はそれだけじゃなく、ルウの家の人たちのためにも、ドンダ=ルウを納得させたいと思っているんです。……言葉にするのはなかなか難しいんですが、そんな気持ちです」


「そうかい」と、またジバ=ルウは同じ言葉をつぶやいた。


「あんたたちには、それが正しい道なんだねえ……それじゃあ、婆は……もしもドンダが本当にそんな非道な真似をするようだったら……ルウの家を、出ることにするよ」


「え?」


「ルウの名を捨てる。婆をファの家の人間として迎えておくれ、ファの家長アイ=ファ」


「な、何を言っているのだ、ジバ婆! そんなことは、できない!」


 たぶんアイ=ファは、俺が今まで見てきた中で、一番取り乱していた。

 それはそうだろう。俺だってびっくりした。

 だけど――俺には、ジバ婆の言葉の意味が、何となくだが理解できるような気がした。


「おやおや。寄る辺ない老人を見捨てるおつもりかい? ルウの家を出て、ファの家にも見捨てられたら、こんな老いぼれは野垂れ死ぬしかないだろうねえ……」


「だから! そんな真似をする必要がないと言っている! どうしてジバ婆がルウの家を出なくてはならないのだ? そんなのは、おかしい!」


「おかしかないよ。もしもルウの家が絶縁を申し渡したら、あたしはもうあんたとこうして顔を合わすこともできなくなっちまうんだろう? そして、スンの家人はもう何の遠慮もなく、あんたをひどい目に合わそうとするようになるかもしれない……そんなことが、この婆に許せるわけがないじゃないかい……?」


「それでどうして、ジバ婆が家を出ることになるのだ!? ジバ婆がいたって、スンの連中は――」


「あたしが許せないのはスンの家じゃない。あんたにそんな運命を負わせようとする、ドンダ=ルウだよ」


 決して大きくはならない声で、ジバ婆さんははっきりとそう言った。


「ドンダ=ルウの父親は、あたしの生んだ息子さね。あたしは、あたしの血を引く孫があんたに非道な運命を申し渡すなんて、そんなことは許せない。だから、ルウとの縁を切る。ただそれだけの話だよ」


「そんな、馬鹿な……それでは、リミ=ルウはどうするのだ? レイナ=ルウは? ジザ=ルウは? あれらはみんなジバ婆の血を引く大事な家族だろう!?」


 アイ=ファの顔は、ほとんど泣き顔になってしまっていた。

 そんなアイ=ファを静かに見返しながら、ジバ=ルウはゆったりと微笑む。


「もちろんみんな、大事な家族さね。ジザも、ヴィナも、ダルムも、レイナも、ルドも、ララも、リミも、コタも……先代の嫁のティト・ミンも、ドンダの嫁のミーア・レイも、ジザの嫁のサティ・レイも、みんなみんな大事な家族さ……でも、家長はドンダなんだ。家長の言葉に従えない人間は、家を捨てるしかないんだよ……」


「だから……」と、そこでアイ=ファが言葉を詰まらせた。

 こらえかねたように、その瞳から一滴だけ涙がこぼれ落ちる。


「ドンダがファの家に絶縁を申し渡す。そんなのは、絶対あたしには許せない話なのさ。そんなのは、絶対に間違っている。……だからあたしは、ルウの家の最長老として、この身をもってドンダに知らしめてやらなくっちゃあいけないんだ。あんたは間違っている、とね……」


 ジバ=ルウの指先が、アイ=ファの涙をそっとぬぐいとる。


「だからね、家を捨てるのが、あたしにとっては唯一の正しい道なんだよ……あんたにはわかるかい、アスタ?」


「たぶん、わかります」


 答えるなり、アイ=ファがすごい目で俺をにらみつけてきた。

 だけど俺には、前言を撤回することはできなかった。


「いえ。ジバ=ルウみたいにすごい人の気持ちが俺なんかに簡単に理解しきれるとは思っていませんけど。でも、自分を同じ立場に置き換えたら――自分の家族が、自分の大事な人間をひどい目に合わそうとするなんて、そんなことは許せそうにありません。それで本当に家を捨てられる強さが自分にあるかはわかりませんけど、そう思う気持ちは、理解できると思います」


「アスタ、お前は――」と、アイ=ファが胸ぐらをひっつかんできた。

 その、あまり力の入っていない手に、俺は自分の手を重ねる。


「アイ=ファ。もしかしたら、リミ=ルウなんかもジバ=ルウと同じ考えを持つかもしれない。自分の実の父親が、自分の大好きなアイ=ファを破滅させようと企むだなんて、そんなことがリミ=ルウに許せると思うか? あいつは、ジバ=ルウと一緒に家を出るか――それが無理なら、一生自分の父親を恨んで生きていくことになるだろうな」


 アイ=ファが、愕然としたように青ざめる。

 俺はその悲痛な面に胸の中をひっかき回されながら、それでも言った。


「俺たちが受けたのは、そういう勝負だったんだ。それが嫌なら、どんな恥をかいてでも、勝負から逃げるべきだった。俺たちは……自分の生命と誇りのことにしか頭が回っていなかったってことだ」


 特に、アイ=ファだ。

 アイ=ファはもっと、自分がどれほど周囲の人間に愛されているか、自覚しておくべきだったのだ。


 自分がどうなろうが、悲しむ人間などいない。自分がどうなろうが、怒る人間などいない。そんな風に思い込むことで――アイ=ファはこの2年間を生きてきたのだろう。


 その強さは素晴らしいと思う。孤独に蝕まれないその強靭な魂を、俺は心から尊敬する。


 しかし、だけど――そんなアイ=ファでも、たったひとつの間違いを犯していた。


 そうやって他人を遠ざけながらも、アイ=ファは内心でリミ=ルウやジバ=ルウのことを想っていた。

 だったら、その相手もアイ=ファのことを同じぐらいの強い気持ちで想っているかもしれない、ということをアイ=ファは想像しておくべきだったのだ。


 たぶん、本当の孤独を得られる人間なんて、誰を想うこともできない人間だけなのだろう。


 他者を愛する心を持つ人間が、孤独などを望んではいけないのだ。


「……アイ=ファ。俺たちのやることは変わらないよ」


 俺は、アイ=ファの手をぎゅっと力まかせに握りしめてやった。


「勝負に勝って、ドンダ=ルウを納得させるだけだ。そうすれば、誰も傷つくことはない。ジバ=ルウが家を出ることもないし、リミ=ルウが父親を恨むこともない。美味い料理を作ってドンダ=ルウを満足させてやればいいのさ」


 今からでもドンダ=ルウに頭を下げれば、誇りだとか名誉だとか信頼だとか立場だとかを失うだけで、ジバ=ルウやリミ=ルウを失うことはない。


 しかし。

 それでは足りない、と俺は思っていた。

 俺はもっといい形で、ルウの家と関わりたい。

 その気持ちは、今日この家にやってきて色んな家人と顔を合わせたことによって、いっそう強くなっていた。


「あんたには、正しい道が見えているんだね、アスタ……?」


 ひそやかにつぶやくジバ婆さんに向かって、俺は可能な限り穏やかに笑いかけてみせた。


「本当に正しいかどうかはわかりません。それでも俺にできるのは、美味い料理を準備することだけです。3日後を楽しみにしていてください、ジバ=ルウ」

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