城下町の勉強会④~ヴァルカスの手腕~
2016.8/11 更新分 1/1
「こちらはギギの葉を使った汁物料理となります」
俺たちの前に陶磁の皿が並べられていく。
そこに注がれていたのは、かつてのキミュスの丸焼きと同じように漆黒の色合いをした濃厚なるスープであった。
「うわ、これは見た目からしてただならぬ料理ですね」
「ギギの葉を多く使った料理は、こうして黒い色合いになるのです。熱を失う前にどうぞお味をお確かめください」
ヴァルカスの言葉に従って、俺はさっそく匙を取り上げた。
しかしこのスープは見るからにねっとりとしており、中の様子などまったくうかがうこともできない。ただわかるのは、何種類もの香草が組み合わされた複雑なる芳香ばかりであった。
それで匙をつけてみると、予想以上の手応えが返ってくる。
まるで溶けたチーズみたいに重たい質感だ。あのマイムのカロン乳の煮汁をも超える重量感であるかもしれない。
(いったいどんな料理なんだろう)
否応なく期待感をあおられながら、俺はその真っ黒なスープだけを口に運んでみた。
とたんに、さまざまな味が口内に爆発する。
やっぱり複雑な味わいだ。
あのキミュスの丸焼きと同じように、深い苦みが基調となりつつ、ひっそりと味のバランスを取っている。甘くて、辛くて、酸っぱくて、苦い。どれかひとつが飛び抜けているのではなく、おたがいがおたがいを支えあっているような、そんな配合であった。
甘みに感じるのは、やはり果物のまろやかさだ。
とてもフルーティで、かつ、蜜のようにねっとりと甘い。
辛いのは、香草らしいスパイシーな辛みであった。
トウガラシ系ではなく、ペッパー系であろうか。ひょっとしたら、ピコの葉も使われているのかもしれない。それでいて清涼感も強いのは、あのケルの根の効能なのかもしれなかった。
酸っぱいのも、ママリア酢だけではなく果実や香草の存在が感じられる。そしておそらくは、その果実は甘みも補っており、香草は辛さも補っているのだ。いったい何種類の果実と香草を使っているのか、俺には想像もつかなかった。
そして今回はあのキミュス料理よりも多量のギギの葉が使われているらしく、はっきりと苦かった。
これはやっぱり、カカオ的な苦みである。
もう7ヶ月以上もご無沙汰であったチョコレートやココアを思わせる風味さえ感じられるのだ。
そしてもちろん、それらの味が上っ面だけのものにならないよう、しっかりとした肉と野菜の出汁が取られている。油分もかなり強めであるが、これは乳脂でも投じられているのだろうか。それに、魚介の風味も感じられなくはない。
と、たった一口でこの有り様なのである。
俺は内心の昂揚を抑えつつ、スープ以外ではどのような具材が使われているのかと匙で中身を探ってみた。
まず捕らえたのは、どうやらチャッチの破片であるようだった。
ただし、肉の筋が網のように絡んでいる。
一口分のスープとともに、俺はそれを口に入れてみた。
チャッチは入念に煮込まれており、スープの複雑な味がしっかりとしみこんだ上で、噛む必要もないぐらいやわらかかった。
それに絡んでいたのは、どうやらカロンの肉の筋だ。まるで牛スジみたいにとろとろで、こちらも抜群にやわらかい。
具材のほうも、申し分なく美味であった。
これほど複雑な味付けなのに、素直に美味だと感じることができる。俺の舌も、だいぶんヴァルカスの料理に免疫ができてきたようだ。
それ以外に使われているのはネェノンとナナールぐらいで、あとの具材は判別がつかない。多量の野菜は出汁としてのみ使われているのか、形がなくなるぐらい煮込まれているのか、そのどちらかなのだろう。明確な肉というものも存在せず、ただ牛スジのごときカロンの筋がまんべんなく行き渡っている感じだ。
そしてこの料理は、咽喉ごしがたまらなかった。
やっぱりとろけたチーズのように、じわりじわりと咽喉を通り過ぎていくのだ。なかなか満足感が去らないので、一口を味わうのに物凄く時間がかかってしまう。難癖にもならないような、それがこの料理の特性であった。
このとろみは、いったい何なのだろう。ティマロと同じようにフワノ粉をそのまま投じているのか、あるいはギーゴの粘り気を活用しているのか。俺の作るシチューよりも格段にねっとりとした質感であった。
「……これがヴァルカスの料理なのですか……」
最初にあがったのは、驚嘆しきったマイムの声であった。
「これは、とてつもなく美味しいです。いったいどれほどの数の食材が使われているのでしょう……」
「何の食材が使われているか、あなたにはどれぐらい判別がつきますか?」
逆に問われて、マイムは「え?」と目を見開いた。
「わたしはあれこれ食材に手を出すことを父に禁じられているのです。宿場町で買えるようになった食材にも、まだ半分ていどしか手をつけていません。そんなわたしに判別できるのは、アリアとチャッチとネェノンと、あとはナナールとギーゴと……それに、以前アスタに味見をさせていただいたシィマやマ・ギーゴも使われているようですね」
ひょっとしてアリアは溶かし込まれているのかなとは思ったが、ダイコンのごときシィマやサトイモのごときマ・ギーゴの存在など、俺はまったく感じることができなかった。
「肉はカロンで、部位はわかりません。わたしは足肉しか扱ったことがありませんので。……調味料は、塩と砂糖とタウ油とピコの葉、あとは乳脂と赤いママリアの酢。香草は、アスタがかれーに使っているものが何種類か含まれているようですが、それもわたしは取り扱ったことがないのでよくわかりません。……あ、それと、ラマンパの実をすり潰したものと、それにさきほど味見をしたホボイの実やケルの根も使われていると思います」
「すべて当たっています。果実に関してはいかがでしょう?」
「ああ、果実はシールとアロウとラマムがすべて使われているようですね。他にも覚えのない甘みや酸味を感じましたが」
「十分です。そこまで的確に言い当てることのできる人間など、城下町にもひとりかふたりしか存在しないことでしょう」
ヴァルカスは、満足そうにうなずいた。
「やはりあなたは類いまれなる味覚の鋭敏さをお持ちのようです。そんなあなただからこそ、わずかな食材であれほどの料理を作ることがかなうのでしょう」
「いえ、わたしなど本当にまだまだです。そして、父があれほどまでにあなたを賞賛していたのがよく理解できました」
そう言って、マイムは少しまぶしそうに目を細めた。
「父が言っていた通り、あなたは父をも超える料理人であったのですね。それを思い知らされてしまって、わたしはとても悔しいです」
「それはミケル殿が身を引いてしまったためでしょう。ミケル殿が料理人として腕を磨き続けていたならば、きっとあの頃以上に美味なる料理を作りあげていたでしょうから」
ヴァルカスもまた、遠い過去に思いを馳せるかのように目を細めている。
「ミケル殿はわたしよりも年長であったのに、非常にすぐれた味覚を有しているようでした。人間というのは盛りを過ぎるとますます鋭敏な味覚を失ってしまうはずなのに、それは驚くべきことです。ですから、あなたがその味覚をミケル殿から受け継いでいるのだとしたら、年を重ねても今と同じ鋭敏さを保てるかもしれません」
「わかりませんが、わたしは今日あなたの料理を口にできたことをセルヴァに何度でも感謝したいと思います。……それに、アスタにも」
「はい。アスタ殿自身がわたしにとってはかけがえのない存在であるのに、あなたのような存在にまで引き合わせていただいて、わたしも心から感謝しています」
思わぬところで感謝のはさみ撃ちをされてしまい、俺は面食らってしまった。
「いえ、もともとヴァルカスとミケルは深いところで繋がっていたのですから、こうしておふたりが出会うことになったのも神の導きだったのでしょう。俺が案内役を担うことになったのは、まあ運命の妙というものですよ」
そういえば、ミケルはサイクレウスに料理人としての道を絶たれた人間であり、ヴァルカスはサイクレウスに目をかけられたおかげでさらなる修練を積むことがかなった人間であったのだ。
何気なく口にしてしまったが、そんなミケルの子たるマイムとヴァルカスが邂逅することになったのは、本当に運命の妙であり、西方神の導きであったのかもしれなかった。
「ヴァルカス、ひとつおうかがいしたいのですが……」
と、そこでひかえめに声をあげたのはシーラ=ルウであった。
「この料理で使われているギギの葉というのは、いったいどの香草であったのでしょう? アスタがかれーを作る際に、シムの香草はひと通り味見をしたはずなのですが、このような色合いと味をしたものにはまったく覚えがないのです」
「ああ、ギギの葉はそのまま使っても大した役には立たないでしょうね」
そのように言ってから、ヴァルカスはタートゥマイのほうを見た。
「タートゥマイ、ギギの葉をこちらに」
「……よろしいのですか?」
「かまいません。この場にいる方々にはどのような食材でも自由に使う資格があります」
ティマロあたりが居残っていたら、どうしてヴァルカスに資格を問われなければならないのだと憤慨していたところであろう。
ともあれ、タートゥマイは食料庫から1枚の小さな香草を持ってきてくれた。
濃い褐色で、直径5センチぐらいの円形をした葉である。形は小さいが肉厚で、干されているはずなのにそれほどしなびてはいない。
この香草には、見覚えがあった。確かにけっこう苦みがあって、カレーのスパイスには使えなそうだな、と除外した香草である。
「これがギギの葉ですか。色も香りもまったく異なるようですね」
「はい。これはいわゆる茶葉なのです。セルヴァではゾゾやチャッチの茶が好まれますが、シムではこのギギを煎じて茶にしているそうです」
「ああ、チャッチの皮というのは茶の原料にされているそうですね。ちょうどつい最近、ダレイムでその茶をいただく機会がありました。……それで、ギギの葉はその煎じ方に特別な方法が存在するのでしょうか?」
「そうですね。ギギの葉を詰めた鍋に蓋をして、焦げつかないていどの弱火で熱を加えるのです。そうすると色は黒く変じ、ギギの葉ならではの苦さと香りが生まれます。東の民は、それを湯で溶かして茶にするそうです」
「なるほど。熱を加える際に水などは入れないのですね?」
「ええ、むしろ水分を飛ばすために熱を加えるのです。日に干すだけでは完全に水分を飛ばすことができませんので」
ならばそれは、いわゆる焙煎に相当する下ごしらえなのだろうか。
あんなカカオみたいな味と風味が豆ではなく葉からもたらされるというのは、なかなか面白い。
「アスタ殿たちも、ギギの葉を使いますか? 苦みというのは、かなり扱いの難しいものでありますが」
「そうですね。トゥール=ディンなんかは上手く使えるかもしれません」
うっかり頭に浮かんだ言葉をそのまま発してしまい、俺は大事な同胞をひどく慌てさせることになってしまった。
「わ、わたしが何ですか? わたしにはそんな難しい香草の扱いなんて……」
「あ、ごめん。これはむしろお菓子作りで役に立つかもな、と考えてしまったんだ。よけいなことを口にしてしまったね」
誓って言うが、わざとではないのだ。しかしトゥール=ディンはみんなの視線から逃げるように俺の背中に隠れてしまった。
「ギギの葉を菓子で使うというのですか? 苦みというのは、菓子にとって一番相応しくない味とされているはずですが」
ヴァルカスの言葉に、俺は「ええ」とうなずいてみせる。
「俺の故郷では、わりと頻繁に使われていましたね。酸味と同じように、苦みで甘さを引きたてる、という感覚だと思います」
「とても興味深い話です。少なくとも、わたしはギギの葉を菓子で使おうなどとは夢さら思ったこともありません」
「そうですか。とりあえずこのギギの葉を持ち帰らせていただいて、色々と試してみようかと思います。……って、それはポルアースから承諾を得ないといけないのでしたね」
「うん、もちろん好きなだけ持ち帰っておくれよ。以前に取り決めた通り、研究用として持ち帰る分の銅貨はこちらで負担するからさ」
愉快そうに笑いながら、ポルアースはトゥール=ディンを視線で追いかける。
「それで美味しい菓子を作ることがかなったら、ぜひオディフィア姫に食べさせてあげておくれ。どうも月にいっぺんぐらいは君を茶会に招待しないと、幼き姫は癇癪を起こしてしまいそうなんだ」
「……はい」
消え入りそうな声で言いながら、トゥール=ディンは俺の背中の服をぎゅっとつかんでしまっていた。
「よし、それじゃあ試食会も無事に終了かな? 実に楽しい時間を過ごさせていただいたよ。あとはあちらで生きたギャマを見物してから解散ということにしよう。報酬の銅貨は別室に準備してあるからね!」
器はそのままでかまわないということであったので、俺たちはぞろぞろと奥の扉に移動することになった。この後は、貴賓のための晩餐が他の料理人たちによって作製されるのだ。小さなほうの厨でも作業は進められているのだろうが、時刻はすでに五の刻を回っているはずなので、きっと料理人たちもこの厨が空くのをやきもきしながら待っていることだろう。
そうして移動をしているさなか、「おい」と呼びかけてくる者があった。
しかし、呼びかけられたのは俺ではなくレイナ=ルウで、なおかつ呼びかけてきたのはロイであった。
「何だか今日はずっと大人しくしてやがるな。ヴァルカスに腕前をほめられて、心ここにあらずってところか?」
たちまちレイナ=ルウは眉を寄せて、下からロイの仏頂面をにらみあげる。
「何でしょうか? あなたに難癖をつけられる筋合いはないと思うのですが」
「皮肉のひとつぐらい言わせろよ。俺なんて、まだ自分の料理をヴァルカスに食べてもらうことさえできていないんだからな」
歩きながら、ロイはぶっきらぼうに言った。
ルド=ルウがさりげなく姉のかたわらに寄り添ったが、そんなことは気にせずに同じ調子で言葉を重ねる。
「ま、俺の料理なんて珍しいところのひとつもないんだから、ヴァルカスの興味をひけないのもしかたない。お前はアスタの縁者ってことでヴァルカスに関心をもたれているだけなんだから、それは忘れるなよ?」
「……今日はずいぶん饒舌なのですね。人を貶めるときだけ、あなたの口はよく回るのですか?」
「貶めてるんじゃなく、忠告してるんだよ。これからもあれぐらい上等な料理を作り続けることができれば、ヴァルカスに名前を覚えてもらうこともできるだろうからよ」
そうしてロイは、いくぶん光を強めた目でレイナ=ルウを見つめ返した。
「……俺は以前、ミケルの下で働いていた。あの人がどういう作法で料理を作りあげているか、それぐらいのことはもう俺にもわかってるんだ。自分にできるできないは別にしてな。で、今さらあの人の下についたところで、あの人の娘さんの上を行くことはできねえんだよ」
「それが、何だというのですか?」
「何だって、お前が尋ねてきたことだろうがよ。どうしてミケルじゃなくヴァルカスの下についたのか、ってな」
レイナ=ルウの顔を見つめたまま、ロイは言い捨てる。
「少なくとも、今の俺に必要なのはミケルじゃなくヴァルカスの力だ。じゃないと、この屋敷で積み上げてきたもんが全部無駄になっちまうんだよ。こんな状態でミケルに弟子入りしたって、俺には何も為せやしないんだ」
レイナ=ルウは困惑気味に眉をひそめている。
その顔をしばらくにらみつけてから、ロイはふいっと顔をそむけた。
「俺はお前のせいで最後に残っていた自尊心を木っ端微塵に打ち砕かれたんだ。絶対にお前より上等な料理人になってやる」
「…………」
「さっきの料理も、死ぬほど美味かったよ。くそっ」
そうしてロイは歩調を速めて、ボズルたちに追いすがった。
レイナ=ルウは、同じ表情のまま、俺のことを見つめてきた。
「ア、アスタ、わたしはどうするべきなのでしょう?」
「え? 別にどうする必要もないんじゃないのかな。ロイは口が悪いだけで、レイナ=ルウを本気で敵視しているわけではないと思うよ?」
「別にわたしも、そのようなことを心配しているわけではありません。でもまるで、彼はアスタやマイムではなく、わたしのせいで人生が曲がったのだと言わんばかりの口ぶりだったではないですか?」
何だかレイナ=ルウは、いつになくオロオロしているように見えてしまった。
そうすると、年齢よりも幼げな面立ちをしたレイナ=ルウである。一気に子供っぽくなってしまう。
「だからそれは人生が曲がったんじゃなく、レイナ=ルウのおかげで奮起させられたってことだろう? この前の試食会でもそんなようなことを言っていたじゃないか」
「いえ、ですが……」
「ずっと前、レイナ=ルウはシーラ=ルウに先を行かれたような気持ちになって、それを悔しく思ってしまうんだと言ってたよね。それと同じような気持ちをロイも抱くようになって、それでヴァルカスに弟子入りを願うことになったんじゃないのかな」
あくまで俺の想像であるが、そんなに的外れではないと思う。ロイというのは短気で不器用な人柄であるが、何よりも負けず嫌いであり、そして、俺たちに劣らず料理への情熱というものを強く胸に宿しているのである。
「要するに、ロイもロイなりに頑張るつもりだし、その気持ちをレイナ=ルウに伝えておきたかったってことなんじゃないのかな。負けず嫌いの彼があんな風に自分の本音をさらすのは、きっとそれだけレイナ=ルウの存在が彼の中で大きいからなんだと思うよ」
「はあ……」
それでもやっぱり、レイナ=ルウの表情が晴れることはなかった。
しかし、腹を立てたり気分を害したりしている様子はまったくない。ただひたすら当惑しているような感じだ。
「……やっぱりあのロイという者と口をきくと、わたしはむやみに心を乱されてしまうようです」
そのように述べて、レイナ=ルウは小さく息をついた。
そのなめらかな曲線を描く肩ごしに、ルド=ルウがにやにやと笑いながらウインクをしてくる。何となくその意図はつかめなくもなかったが、まあ、そんな気安く彼女たちの行く末を茶化す気持ちにはなれなかったので、俺は肩をすくめるだけに留めておいた。
その後は、ギャマという獣をぞんぶんに見学することができた。
ヤギのような面相に、老人のごとき長い顎ひげ。バッファローのごとき立派な角はすべて折り取られてしまっていたが、乳のとれるメスのギャマはシム本国でも重宝されているので、ここに連れてこられたのはすべてオスである、という話であった。
《玄翁亭》で見た頭部の剥製は黒色の毛皮を有していたが、白色や茶色の毛皮をしたやつもいて、胴体の長さは1メートル強。ヤギと同じように黒目が横長であることにリミ=ルウたちは驚嘆の声をあげていたが、なかなか愛嬌のある顔をした獣である。それより何より俺が驚かされたのは、それらのギャマがいずれも6本もの足を有していることであった。
ともあれ、俺たちの城下町における本日の仕事は、それでようやく終わりを迎えることになったのだった。
ただしその裏で、なかなかとんでもない話が進行していたことを、俺たちは集落への帰宅後に知ることになる。
メルフリードと会談をした森辺の族長たちは、ジェノス城から正式にふたつの仕事を依頼されてしまっていたのだ。
その内のひとつは《ギャムレイの一座》に関わる話であり、そしてもうひとつは《黒の風切り羽》なるシムの大商団からもたらされた話であった。