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異世界料理道  作者: EDA
第十七章 ダバッグ見聞録
298/1704

ダバッグ見聞録②~歓待~

2016.2/29 更新分 2/2 ・2018.4/29 誤字を修正

・本日は2話更新ですので読み飛ばしのないようご注意ください。

「よお、元気そうだな、お袋よ」


 ザッシュマがそのように呼びかけると、カロンの乳を搾っていた初老の女性はきょとんと目を丸くしてから「あれ!」と大きな声をあげた。


「おやおやまあまあ、あんたひょっとしたら、ザッシュマかね? はあ、ずいぶん見違えたねえ!」


「何を言ってんだ。前に顔を合わせてから、せいぜい2年ていどしか経ってないだろうがよ」


「そんなこと言ったって、あんた、そんな汚らしい髭なんて生やしちまって……」


「だからそれも2年前に聞いた台詞だってんだよ」


 ザッシュマが苦笑すると、その女性もにっこり微笑んだ。


「よく帰ってきたね! あんたも元気そうじゃないか!」


 そんなに背は高くないがよく肥えた、力の強そうなおかみさんであった。

 髪や瞳は褐色で、肌は黄褐色である。バナームのように北方寄りの区域では象牙色の肌をした人間が多いらしいが、ひたすら西に進んだだけのこのダバッグでは、やはり日に焼けた黄褐色の肌が主流のようであった。


「で、今回はずいぶん大人数じゃないか? 若い娘さんもまじってるみたいだけど、まさか、嫁でも連れてきたのかね?」


「この人らは、俺の雇い主さ。ジェノスから商売のために訪れたんだが、その前にカロンの牧場を見学したいって仰るから、ここまで案内してきたんだよ」


「ふうん? そいつは奇特なこったね。カロンの肉をご所望だったら、いくらでも準備いたしますよ?」


 そう言って、おかみさんは俺たちのほうにも朗らかな笑顔を向けてくれた。


 ここはカロンの厩舎である。

 家の敷地内にトトスと荷車を預けさせていただき、ここまでザッシュマに案内されてきたのだ。


 天井の高い大きな建物で、入口は大きく開け放たれているが、あたりにはちょっと饐えたような臭いが漂っている。木の柵で区切られた厩舎はがらんとしており、他にカロンの姿は見当たらなかった。


「はじめまして。自分がいちおうこの一団の責任者であるファの家のアスタです。ジェノスの宿場町で、料理の屋台を開かせていただいています」


「ご丁寧にどうも。あたしはこのザッシュマの母親でミザってもんです。主人のマロッタは表でカロンの面倒を見ておりますですよ」


 言いながら、ザッシュマの母ミザは好奇心に満ちた眼差しで俺たちの姿を見回し始めた。


「それにしても、あんまり商人には見えないような風体をした方々だね。毛皮の外套を纏ってるってことは、どこぞの狩人なのかね?」


「ああ、こっちの皆さんはギバの狩人で、そっちのおふたりはガージェの狩人だよ」


「ギバとガージェかい! そいつは似ても焼いても食えなそうだね!」


 そのように言ってから、ミザは「はて?」と肉づきのいい首を傾げた。


「しかし、ギバの狩人なんてのは、ジェノスに住みついた森辺の民ぐらいしか存在しないって聞いてるんだけど、あんたたちはひょっとして――」


「森辺の民だよ。珍しい客人だろ?」


 ザッシュマの言葉に、ミザはまた「あれ!」と大声をあげる。


「それはそれは……へえ、森辺の民……言われてみれば、シム人みたいに黒い肌をしているねえ……」


「シム人なんて、森辺の民と同じぐらい馴染みがないんじゃないのか? あいつらはもっと真っ黒な肌をしているぜ?」


「ふうん……こいつはたまげたもんだ……それじゃあ、あんたたちも森辺の民なのかい?」


「はい、わたしはルウ家のレイナ=ルウと申します。こちらは末妹のリミ=ルウで、こちらは分家のシーラ=ルウ、そしてディン家のトゥール=ディンです」


 レイナ=ルウは、ふだん通りの穏やかな表情で丁寧におじぎをする。

 その姿に、またミザは破顔した。


「森辺の女衆ってのは器量よしがそろってるんだね! こんな別嬪さんがザッシュマなんかの嫁に来てくれるはずもないか。さっきは失礼なことを言っちまってすまなかったよ」


「いちいち俺を落とさないと気が済まないのかよ。ったく……」


 ぼやきながら、ザッシュマの目も笑っている。

 事前に聞いていた通り、母親とは実に良好な関係を結んでいる様子である。


 そしてまた、ジェノスでは考えられないほどの歓待であった。

 やはりジェノスを出てしまえば、森辺の民を恐れる理由もなくなるらしい。四大神への信仰心が欠落しているという一点を除けば、ギバの狩人もガージェの狩人も変わらない存在であるはずなのだから、まあそれも当然の話なのだろう。


 ただし、狩人には狩人の迫力というものが備わっている。女衆のレイナ=ルウたちには完全に無警戒なミザも、アイ=ファやダン=ルティムやジーダに対してはいくぶんおっかなびっくりの様子を見せていた。


「あの、こちらは手土産です。牧場を見学させていただくお礼として受け取ってやってください」


 そう言って、俺は持参した大きな包みを差し出してみせた。

 中身はギバの燻製肉と腸詰め肉である。

「おやまあ」とミザは目を細めて微笑む。


「お気遣いありがとうね。それじゃあそのお返しに昼の食事でもご馳走しようか。もう中天は過ぎた頃合いだろう?」


「ああ、牧場を見回るのは腹ごしらえを済ませてからにするか。ジェノスでも評判の料理人を満足させられるかどうかは知れたもんじゃないけどな」


 そうして俺たちは、さきほど通りすぎた家のほうに引き返すことになった。

 しかし大きな本邸ではなく、その横に建てられた丸太小屋のほうへと導かれる。


「んん? 何だよ、その連中は?」


 その中に足を踏み入れるなり、驚愕の視線と声を四方からあびせられることになった。

 そこには15名ばかりの老若男女がひしめき合っていたのである。

 それらの人々を、ミザは笑顔で見回していく。


「こちらは牧場のお客人さ。わざわざジェノスからうちの牧場を見学に来なすったそうだよ?」


「へえ、ジェノスからねえ。……あれ? お前さんはザッシュマじゃないか!」


 と、ひとりの男性がさらなる大声を響かせた。

 そちらに向かって、ザッシュマは「よお」と笑いかける。


「何だ、ずいぶんひさしぶりだな! ついに出戻る決心がついたのか?」


「よしてくれよ。今さらどの面を下げてカロンなんて追えるんだ?」


「カロンを追ってくれるなら大歓迎さ! 当主の息子様でございなんて顔をされたら、俺が叩き出してやるけどな!」


 どうやらその男性は父親ではなく、親戚筋か何かであったらしい。

 周りの人々は、湯気のたつ木皿を手に、ざわざわと俺たちの挙動を見守っている。俺たちを忌避する気配はないが、やっぱり見慣れぬ風体をした森辺の民とマサラの狩人が物珍しいのだろう。


「汁のほうは残ってるかね? ああ、それだけあれば十分だね。それじゃあ悪いけど、お客人の分まで肉を準備してもらえるかい?」


「あいよ」と女性の何名かが裏手に引っ込んでいく。

 どうやらそこは、牧場で働く人間たちの食堂であり休憩所であるようだった。

 足もとは土の地面が剥き出しで、部屋の隅には大きなかまどがふたつも据えられている。そこには鉄鍋が設置されており、何とも芳しい香りを放っていた。


 やがて女性らは木の板に薄く切った肉を載せて舞い戻ってくる。

 赤身の鮮やかな、切り落としの肉の山だ。

 当然のこと、カロンの肉なのだろう。

 申し訳ていどのアリアとともに、それらがどぼどぼと鍋の中にぶちこまれた。


「肉が煮えるまでちょっとばっかり待ってておくんなさいね。……そういえば、うちの主人はどこに行っちまったんだね?」


「親父さんなら、とっとと食ってとっとと出てっちまったよ。例の、足を痛めたカロンが心配でならないらしいや」


「ふうん。じゃ、挨拶をさせるのは牧場に出てからだね。……あんたなんかは顔を合わせたくもないんだろうけどさ」


「何を言うやら。顔を合わせたくないのは向こうのほうだろ」


 苦笑まじりに、ザッシュマが言い返す。

 やっぱり里心というのは人に大きく影響をおよぼすものらしい。旅用のマントを纏って刀を下げたザッシュマも、今は頼もしい《守護人》ではなく牧場の一員として周囲に溶け込んでいるように見えてしまった。


「あんた、ずいぶんな別嬪だね。よかったら、うちの家に嫁に来ないかね?」


 と、最初にザッシュマに声をかけていた男性が笑顔でレイナ=ルウに呼びかける。

 レイナ=ルウは「いえ」と儀礼的な笑顔を返した。


「わたしは外の人間に嫁ぐことが許されぬ身なのです。そのお気持ちだけありがたく頂戴いたします」


「そいつは残念だ! あんたはシムのお姫さんか何かなのかね?」


「いえ、わたしは森辺の民で――」


「森辺の民? へえ! 森辺の民ってのは、ギバみたいに角やら牙やらが生えているんじゃなかったのかね? ま、そのギバ自体を俺は見たこともないんだけどさ」


 レイナ=ルウばかりでなく、他の女衆やダン=ルティムまでもが、あれこれ質問責めにされている様子であった。

 ずいぶんフレンドリーな人たちなんだなあと思っていると、ザッシュマが苦笑まじりに説明してくれた。


「礼儀のなっていない人間が多くて済まないな。牧場の連中は町に下りることも少ないから、世間知らずが多いんだよ。俺だって家を出るまでは、森辺の民なんて名前ぐらいしか聞いたことはなかったぐらいだしな」


「そうなのですか。いえ、俺たちにとってはむしろ喜ばしいことだと思いますよ」


 そこで「おい」と背後から呼びかけられる。


「トゥール=ディンをこの場に呼びつけたのはお前なのだろうが? 行きの荷車では心細い思いをさせていたのだから、少しは気を配ってやれ」


 アイ=ファである。

 そしてそのかたわらでは、当のトゥール=ディンがおどおどと首をすくめている。


「ああ、ごめんごめん。……でも、トゥール=ディンもルウ家の人たちとはだいぶん打ち解けてきただろう? それに、リミ=ルウなんかも一緒だったわけだし」


「リミ=ルウたちが心を砕いても、トゥール=ディンの側には遠慮が生じてしまうものであろう。ルウ家は族長筋なのだからな」


「わかったよ。ごめんね、トゥール=ディン?」


「い、いえ! わたしなどにそのような気を使う必要はありません」


 そのように言いながらも、トゥール=ディンはほっとした面持ちで俺のかたわらに進み出てきた。

 アイ=ファは「ふん」とそっぽを向いてしまう。

 しかし、トゥール=ディンがこの場で輪から外れてしまったことをいち早く察知して、わざわざ俺のもとまで連れてくるなんて、アイ=ファのほうこそずいぶん心配りが行き届いているものである。


(いや……アイ=ファってのは、もともとそういう人間なんだよな)


 またちょっと胸の奥に熱いざわめきを感じてしまいながら、俺は残りのメンバーの様子をうかがってみた。

 バルシャとジーダはちょっと離れた位置で人々の動向を見守っており、ディム=ルティムは大笑いしているダン=ルティムの背後を守る格好で目を光らせている。

 ずっと静かであったミケルは牧場の男性のひとりとぼそぼそと言葉を交わしており、そしてマイムは――かまどの前で、女性たちと談笑していた。


(なんだかみんな楽しそうだな。……それにやっぱり、森辺の民が余所の人たちと普通に話し込んでる姿ってのはいいもんだ)


 そんなことを考えていると、「肉が煮えたよ!」と女性のひとりが声をあげてきた。


「カロンの肉は煮込みすぎると固くなっちまうからね。さ、ちょうどいい頃合いのうちに食べちまっておくれ」


 肉と一緒に準備された木皿に次々とカロンのスープが注がれていく。

 そうして手もとに回されてきた木皿の中身を、俺は大いなる好奇心をもって覗き込むことになった。


 うっすらと白みをおびた、半透明のスープである。

 褐色に煮込まれた肉がどっさりと沈んでおり、そこにアリアの切れ端が重なっている。

 香りが、とにかく素晴らしかった。

 肉の香りと、ミャームーの香りだ。

 十二分の期待を胸に、俺は木匙を取り上げる。


「どうだね? 粗末な料理で申し訳ないけど、その分たっぷり肉を入れておいたからさ」


「いえ、とても美味しいです」


 俺は心からそのように答えることができた。

 ジェノスの宿場町で口にする汁物料理と比べたら、格段に美味なのである。とにかくカロンの出汁がきいていて、ミャームーの香りがそれをいっそう際立たせている。俺の知る料理では、牛の尻尾を煮込んだテールスープに似た味わいであった。


 ほどよく煮込まれた肉もまた、やわらかくて絶妙の噛み応えである。赤身が主体でさっぱりとしており、それでいて肉の味は鮮やかだ。やっぱりカロンの肉は牛肉に近い味をしている。


「いやあ、本当に美味しいですね。この肉はどの部位なのですか?」


「どこの肉って一口では言えないね。そいつは肉を骨から外すときに出るクズ肉の山なんだよ」


「そうなんですか。でも、ジェノスで食べるカロンより断然美味しいと思います」


「そうでなくっちゃ、カロンの町だなんて大きな顔をできないよ。ま、塩漬けの肉より新鮮な肉のほうが美味しいのは当然の話さね」


 ミザはにっこりと笑いながら、自分の木皿のスープをすすった。

 トゥール=ディンも、「これは美味ですね」とこっそり耳打ちしてくる。

 そこに、マイムがてけてけと駆けてきた。


「アスタ、この料理は塩とミャームーしか使っていないそうですよ! それなのに、驚くほどの美味しさですね!」


「うん、これは美味しいねえ。ここまでしっかりとした出汁をとるには、相当の時間がかかるのではないですか?」


「ああ、あたしらはカロンの脂を煮詰めるために朝から晩まで火を焚いてるからさ。そのついでで、次の日に食べる食事の下ごしらえをしてるんだよ。この汁は、カロンの骨がらを煮込んだだけのもんさ」


「臭みとりにはリーロの葉を使っているのですよね? 野菜はアリアのみですか?」


 マイムの問いに、ミザは「そうだね」と気安くうなずく。


「ここでは野菜のほうが贅沢なぐらいだから、昼の食事にはアリアぐらいしか使わないよ。本当にお粗末な食事で申し訳ない限りさね」


「いえ! カロンの肉と骨、リーロの葉とアリア、それに塩とミャームーしか食材は使っていないのに、これだけ美味しい料理を作れるなんて、本当に素晴らしいことだと思います!」


 輝かんばかりのマイムの笑顔に、ミザも嬉しそうに口もとをほころばせる。


「そこまで褒められると恐縮しちまうね。夜は宿屋に泊まっていくんだろう? そっちではもっと上等なカロン料理が食べられるはずだよ?」


「そうなのですか。でも、わたしはこの料理が大好きです!」


 俺もマイムと同様の気持ちであった。

 食材の種類は乏しくとも、たっぷりと時間をかけたその成果がこの料理には現れている。食材があふれていながらそれをもてあましてしまっている現在のジェノスとは、見事に対照的な食文化であるように感じられた。


(なんていうか、ジェノスの食文化は地に足がついていないような印象なんだよな。まあ、宿場町と城下町の料理しか知らない段階じゃあ、そこまではっきり断ずることはできないけど)


 次にダレイムを訪れるときは、是非その土地の料理を食べさせてもらいたいものだな、と俺はこっそり考えた。

 そのとき、建物の入口のほうから「ザッシュマじゃないか!」という大きな声があがった。

 振り返ると、ザッシュマよりも少しだけ年少で体格のいい男性が建物に入ってくるところであった。


「よお、アルマ、元気そうで何よりだな」


「そっちこそ! 会うたびに貫禄が増していくな、お前さんは」


 アルマと呼ばれたその男性は、笑顔でザッシュマの肩を叩く。

 今のところ、ザッシュマは誰からも歓迎されている様子である。


「アスタ、いちおう紹介しておこう。こいつは妹婿の、アルマだ」


 ザッシュマに呼びつけられたので、俺はトゥール=ディンを引き連れてそちらに近づいていった。


「はじめまして。ザッシュマの紹介でこちらの牧場を見学させていただくことになった、ファの家のアスタと申します」


「このアスタは、ジェノスの宿場町で料理を売る料理人だ。扱っているのはギバ肉なので、お前さんたちにしてみれば商売敵かもしらんが、まあ仲良くやってくれ」


 ザッシュマの言葉に、アルマは大きく目を見開いた。


「ギバ肉ってことは、ひょっとしたらあんたも森辺の民なのか? そっちのあんたは、確かに立派な狩人であるようだけど」


 誰のことだろうと思って背後を振り返ると、すぐそばにアイ=ファが立っていたので思わず「うわ」と声をあげてしまった。


「い、いつからそこにいたんだ? びっくりしたなあ」


「……たわけたことを言うな。私の仕事は、護衛なのだぞ?」


 と、耳もとに口を寄せて囁きかけてくる。

 アイ=ファの息が耳にかかり、俺は内心でどぎまぎしてしまった。

 平常心を保ちたいところなのだが、こんな風に内緒話をするのもちょっとひさびさのことであったのである。


「そうか。あんたたちが森辺の民なのか。町のほうで噂は聞いているよ。ジェノスの宿場町ではとんでもなく美味いギバの料理が評判になってるってさ」


 言いながら、アルマは屈託なく笑ってくれた。

 そこそこ厳つい容貌であるが、その表情は実に柔和で優しげである。


「確かにあんたたちのせいで足肉の売り上げは落ちちまったらしいが、そんなに大きな問題じゃない。ジェノスの貴族に胴体の肉を買い叩かれるほうが、よっぽど大問題さ」


「ジェノスの貴族に? 何か問題でもあったのか?」


 不思議そうにザッシュマが問うと、アルマは「まあね」と肩をすくめる。


「最近ジェノスでは、何やら大きな揉め事が生じたんだろう? そのとばっちりで、俺たちが割を食うことになったのさ。うちの牧場のカロンはそのほとんどが商会を通じてジェノスに売られているからな」


「でかい揉め事があったってのは事実だが、割を食うってのは何の話だ? トゥラン伯爵が失脚したことに関係あるのか?」


「そこまで詳しい話はわからんよ。ま、いつだって割を食うのは平民で、美味い思いをするのは貴族だけってこった」


 何やら不穏な風向きであった。

 サイクレウスの失脚がダバッグの人々に悪い影響を与えてしまったのなら、その一因は俺たちにもあるのだろうと思えてしまう。

 ザッシュマは、考え深げに髭面をさすった。


「それじゃあ商会の連中なら、詳しい事情をわきまえているのか? このお人たちはダバッグのお偉方と商いをしようと考えているので、明日にでも商会の連中と引き合わせようと考えているんだが」


「ああ、貴族らのお相手をしているのは商会を仕切ってる連中なんだから、もちろん色々とわきまえているだろう。だけどまあ、俺たちが何を騒いだって貴族の連中が考えを改めることはないさ」


「そうとも限らんよ。ま、どんな話が飛び出すのか楽しみにしておこう」


 そう言って、ザッシュマはにやりと不敵に笑った。

 その目には、少しばかり《守護人》としての勇ましい光が灯っているように感じられた。

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