藍の月の六日①~それぞれの道~
2016.1/18 更新分 1/1
・今回は7日分の更新となります。
シムの占星師アリシュナとの邂逅を果たしてから6日後の、藍の月の6日。
中天を過ぎて屋台から離脱した後、俺とレイナ=ルウは小さめの平鍋を携えて宿場町を闊歩していた。
鍋の中身は『ギバ・カレー』だ。
歓迎会に向けた仕事と同時進行で試作を重ね、ようようこの料理も納得のいく味に仕上がってきたので、再度、宿屋のご主人らに感想をいただこうと持参してきたのである。
ただし、最初に向かったのは馴染みの宿屋ではなく、《タントの恵み亭》という店であった。
この宿場町では最大の規模を持つ宿屋であり、ダレイム伯爵家の料理長ヤンは先月からこの店の厨を数日にいっぺんの割合で預かっていたのだ。
ちなみにタントというのは、このジェノスを潤す一番大きな川の名前であるらしい。森辺を流れるラントの川とも、きっとどこかで繋がっているのだろう。
「ようこそ、アスタ殿。お待ちしておりました」
ちょっとひさびさに顔を合わせたヤンが、今日も慇懃に頭を下げてくる。
その目が、ふといぶかしげな光を浮かべた。
「失礼ながら、そちらもアスタ殿のお連れですか? 森辺の女衆ではないようにお見受けいたしますが――」
「はい。たまたま屋台を訪れてくれたので、ちょうどいい機会かなと思って……こちらはミケルの娘さんで、名前をマイムといいます」
俺の言葉に合わせて、マイムが元気よく頭を下げる。
「突然お邪魔してしまって申し訳ありません。わたしも料理人を志しているため、是非にと同行を願ってしまったのです。ご迷惑でしたら、すぐに姿を消しますので」
「そうですか。あなたがあのミケルの……かまいませんよ。ミケルの娘にわたしの料理を食べていただけるなら光栄です」
ヤンのほうも新作の献立を開発したとのことであったので、本日はおたがいの料理の試食会を執り行うことになっていたのである。
で、ヤンもまたミケルに敬意を抱く料理人のひとりであったため、俺はかねてからマイムを引き合わせたいなと考えていたのだった。
「どうぞそちらの席でお待ちください。まずはわたしの料理を試食していただきましょう」
「はい、ありがとうございます」
俺はふたりの連れとともに着席する。
これまでにも何度か訪れたことはあるが、やはり食堂の大きさも並大抵ではない。宿屋としては中規模の《キミュスの尻尾亭》と比べても、倍ぐらいの大きさはあるだろう。
しかし、日中にお客さんの姿が少ないのは、他の宿屋と同様だ。昼の軽食は露店区域の屋台で、夜の食事は宿屋の食堂で、というのが宿場町を訪れる人々の常なのである。
「……失礼いたします」
と、あんまり覇気のない娘さんの声とともに、人数分の食器が並べられていく。
お礼を言おうとしてそちらを振り返った俺は、「あれ?」と驚きの声をあげてしまった。
「君はたしか、以前に挨拶をしに来てくれたニコラだよね。屋台だけでなく、こっちも手伝っていたんだね」
「……はい」とやはり愛想のない声で応じつつ、さっさと引っ込んでいってしまう。
あんまりこの仕事を楽しんでいる様子ではなかった。
「なんだかずいぶんたおやかな女性ですね。ひょっとしたら、あの方も城下町の方なのですか?」
マイムがひそひそと耳打ちしてきたので、俺は「うん」と応じてみせる。
「たしか、城下町にあるダレイム伯爵のお屋敷で働いていた娘さんであるはずだよ。……でも、そんなにたおやかだったかな?」
失礼ながら、俺には向こうっ気の強そうな娘さんにしか見えなかった。どちらかといえば、ふてぶてしいぐらいの印象であったかもしれない。
「うーん、気性とかのお話ではなく、立ち居振舞いや肌の感じなんかが、貴族のお姫様みたいに見えてしまったのですが……でも、気にしないでください。わたしの目なんて当てにはなりませんので」
それを言ったら、俺の目などは節穴である。
そういえば、かつてのリミ=ルウは「悲しそうな人」などと言っていた。ずいぶん見る人間によって印象の変化してしまう娘さんであるのかもしれない。
「お待たせいたしました。こちらがわたしの準備した料理となります」
今度はヤンもともに木皿を掲げて戻ってくる。
卓の上に、汁物料理と煮付けの料理が人数分準備された。
試食なので、量のほうはささやかなものだ。
「こちらの汁物には、シィマとチャンを使っております」
嗅ぎ覚えのある甘い香りが鼻腔をくすぐる。
以前に屋台の料理でも使っていた、シナモンのごとき香草の香りである。
そこにダイコンのごときシィマを輪切りにしたものと、ズッキーニのごときチャンをふたつに断ち割ったものが沈んでいる。
褐色に煮込まれた肉片は、きっとカロンの足肉だろう。ごろんとした形状をしているが、入念に煮込まれていてとてもやわらかそうだ。
スープの色は乳白色で、カロン乳を使っているのだろうと思われる。
「煮付けには、ジャガルの茸とマ・ギーゴを使っております」
そちらの料理は、キミュスの胸肉がタウ油や香草とともに煮込まれているようだった。
その添え物として、ブナシメジのような茸とサトイモのごときマ・ギーゴが使われている。
「それでは、味見をさせていただきます」
俺は木匙を取り、まずは汁物料理のスープをすすってみた。
香りに反して、甘くはない。ぴりっとした辛みと酸味のある、トムヤムクンのような味わいだ。きっと数種類の香草を組み合わせているのだろう。カロン乳のまろやかさと相まって、飲みにくいことは全然ない。
カロンの足肉からは十分な出汁が出ているし、なかなか食欲中枢を刺激する料理だ。
ただ、シィマとチャンがこの料理に相応しいかと考えると、ちょっと首を傾げたくなってしまう。
いっぽう、煮付けのほうは少しだけ和食を思わせる馴染み深さがあった。
タウ油と、それにやっぱり複数の香草を使っているのだろう。若干の苦さや土臭さを感じなくもないが、そんなに悪い感じではない。茸や野菜のチョイスも、こちらは妥当であるように思える。
(だけど――)
俺の胸には、今までヤンに対して抱くことのなかった疑念のようなものが生じてしまっていた。
この感覚は、何だろう。べつだんこれまでヤンが作ってきた料理と比べて出来が悪いわけではないのに、何かしっくりこないように感じてしまう。
「いかがでしょう? 率直な意見をお願いいたします」
ヤンは静かに俺を見ていた。
ヤンもまた、宿場町に新たな食材を流通させるという大義をおびて、この場に立っているのだ。
いや、俺などはギバ料理を売る片手間というか、こちらにも損はないという考えでジェノス侯の要請に応じたばかりであるが、ヤンのほうは完全にそれだけが目的のすべてなのである。
俺は「うーん」と考えこむことになった。
「そうですね……率直に言わせていただくなら……この汁物料理には、シィマやチャンでない野菜のほうが合っているのではないか、と思えてしまいます」
「そうですか。どのような野菜が相応しいとアスタ殿はお思いでしょうか?」
「俺ですか? 俺だったら、アリアとティノと……それに、チャムチャムや茸などを入れたくなるかもしれません」
チャムチャムというのは、俺が『ギバまん』などで使っているタケノコのような食材だ。
「それに、この香草の組み合わせなら、干した海草や魚の出汁がとても合うように思えます。実際に試してみないと確かなことは言えませんが」
「干した海草や魚ですか。あれらの食材は、わたしにはまったく使い勝手がわからないのです」
「何も難しいことはありませんよ。法外な値段でさえなければ、あれらの食材も宿場町の人々には喜ばれると思います」
ヤンはゆっくりと首を横に振り、それからあらためて俺を見つめてきた。
「アスタ殿にそこまで具体的な指摘をされたのは初めてのことですので、とても嬉しく思っています。では、こちらの煮付けはいかがでしょう?」
「こちらは茸と野菜の組み合わせも妥当だと思えます。ただ……ちょっと説明が難しいのですが、香草の組み合わせにまだ改良の余地があるのではないかと」
「香草の組み合わせに?」
「はい。苦みと土臭さがちょっと気になるというか……いえ、それが味を壊しているわけではないのですが、なくてもよい味が混ざってしまっているような、そんな違和感が感じられてしまうのです」
そのように説明したことによって、俺は違和感の正体を知ることができた。
知らず内、俺はヤンとヴァルカスの料理を比較してしまっていたのである。
ヤンとヴァルカス、それにロイやティマロだって、料理の作法に大きな違いはない。彼らはみんな、大筋では同じ味、同じ美味しさを追究しているように俺には感じられるのだ。
それで――ヴァルカスによってその完成形を味わわされてしまった心地でいる俺には、ヤンの料理の「穴」が見えてしまったのかもしれなかった。
もちろんそれは、俺の大いなる勘違いであるのかもしれない。
ただ俺には、「ヴァルカスだったらその穴を埋めてくるだろう」と思えてならなかったのだった。
「……あなたがたは、どのようにお思いですか?」
と、ヤンが静かにレイナ=ルウたちを見回す。
レイナ=ルウは木匙を置き、真っ直ぐにそちらを見つめ返す。
「森辺の民であるわたしには、あなたがたの作る料理を美味であるか否かを正しく判ずることはできません。……ただ、アスタの言う通り、この香草の組み合わせには何か足りないか、あるいは何かが余分であるような気がしてしまいます」
「やはり香草の組み合わせですか」
「はい。わたしとて、香草についてはごくわずかな知識しかないので、確かなことは言えないのですが……それでも、あのヴァルカスという料理人の作る料理には、足りないものも余分なものも存在しないように思えました」
「シムの香草についてヴァルカス殿以上に手練れである料理人はジェノスに存在しませんからな。そのようにお思いになるのも無理からぬことと思います」
ヤンはうなずき、マイムを振り返る。
マイムは困ったように眉を下げながら、言った。
「トゥランや宿場町では、2種類以上の香草を組み合わせることはほとんどありません。宿場町で料理を売るには、あまり複雑な味付けにするべきではない、とわたしは父に教わっています」
「なるほど。シムの香草を使うべしという思いにとらわれすぎて、わたしは道を誤ってしまったのかもしれません。これらの料理には、今少し改良が必要なのでしょう」
「い、いえ! わたしは見習いの身なのですから、そんな真に受けたりしないでほしいです!」
「そのようなことはありません。あなたがたの言葉は、いずれも胸に響きました。わたしはわたしの意志であなたがたの言葉を重んじるのです」
そのように言って、ヤンはふっと息をつく。
「城下町の料理人が厨を預かっているということで、当初はこの店も評判を呼んでおりましたが、最近は少しずつ客足が遠のいていっているように感じられます。それこそが、わたしの力の足りていない証左でありましょう。今後はさらなる精進に励みたいと思います」
「いや、ですが――」と俺が声をあげかけると、ヤンに手で制された。
「よいのです。この年齢で自分の未熟さを思い知らされるのは苦しいことですが、同時にまた、喜ばしいことだとも思えます。わたしとて、いまだ道の半ばにある身なのですから」
そう言って、ヤンはうっすら微笑んだ。
それはもしかして、俺が初めて見るこの実直な料理人の笑顔であったかもしれない。
もはや初老の域に達しているほどのヤンであったが、その細められた目には瑞々しい向上心のきらめきが宿っているように感じられた。
「しかし、アスタ殿もそちらの料理ではふんだんに香草を使っているようですね。味見をするのが、非常に楽しみです」
「はい。それでは厨をお借りしますね」
完成品を温めるだけなので、何も手間はかからない。俺はレイナ=ルウとともに『ギバ・カレー』を温めて、それを3つの皿に取り分けた。
「3名分ですか?」
俺の代わりに席についたヤンがいぶかしそうに問うてくる。
俺はその背後に立ちつくしている娘さんを目で指し示した。
「ええ。量は余分に準備していますので、よかったらニコラも一緒にどうぞ」
ニコラは不審げに目を細めている。
が、ヤンにうながされると、無言のまま着席した。
「うわあ、これは鮮烈な香りですね!」
マイムは笑顔で木匙を取った。
マイムが『ギバ・カレー』を試食するのは、これが初めてのことである。
果たして――マイムは「美味しいです!」と熱狂してくれた。
「とても不思議な味ですけど、とても美味しいです! いったいこの料理には何種類の香草を使っているのですか?」
「最終的には、8種類だね。それでようやく、求める味を再現することができたんだ」
もともと使用していた5種類に、トゥラン伯爵邸から持ち帰った3種の香草をブレンドさせ、俺はついに理想の『ギバ・カレー』を完成させることがかなったのだった。
イメージ的には、日本のカレーに限りなく近いインドカレー、といったところであろうか。基本は焼きポイタンに合わせて練り上げた味付けであるが、これならライスとだって調和すると思う。
辛さは、ユーミの意見を取り入れて、辛すぎない中辛ぐらいを目指した。
かなり濃い目の褐色で、匂いなどは本当に辛そうだ。
野菜は、定番のアリアとチャッチとネェノンに、今回はチャンとマッシュルームのような茸も加えている。
肉はギバのバラ肉と、挽き肉も少しだけ使用している。
そして香草で作ったルーの他に、砂糖、塩、タウ油、カロン乳、乳脂、ミャームーといった調味料も加えており、それにタラパとラパムの実もどっさりと溶かしこんでいる。
それでようやく、俺の求めるコクとまろやかさをこの『ギバ・カレー』に与えることができたのだった。
「うわ、辛いよこれ!」と、ふいに非難がましい声が響きわたった。
その場にいる全員の視線を集めてしまい、ニコラは「……失礼いたしました」と仏頂面で頭を下げる。
「確かに辛いです。しかし、8種類もの香草を使っているとは思えぬぐらい、味が調和しているように感じられてしまいます。どうしてアスタ殿はここまで香草を巧みに使いこなすことができるのですか?」
ほとんど困惑気味の顔になりながら、ヤンはそのように問うてきた。
「えーとですね、それはたぶん、もともと俺の故郷に存在していた料理の再現を目指したからだと思います。そういう指標が存在しなければ、俺だって香草の組み合わせ方なんて考えつくことはなかなかできないと思いますし」
「見事です。この強烈な辛さで判別はしにくくなっていますが、きっと野菜や肉の出汁がこの旨みを生み出しているのでしょう。……アスタ殿はこの料理を宿場町で売り出すおつもりなのですか?」
「はい。香草以外にそれほど目新しい食材は使っていませんが、ギバ肉を普及させる一助にはなるかと思いまして」
「感服いたしました。ここまで強烈な香りを持ちながら、この料理は非常に美味です。これでは評判にならぬわけがありません」
「どうでしょうね。複雑な味になれていない宿場町の人々にどこまで受け入れられるのか、俺としては多少の不安も残っているのですが」
「この料理に複雑な味は感じません。8種類もの香草を使っているとは思えぬほどなのですから。……ただひたすらに強烈で、美味です」
そう言って、ヤンはまた微笑してくれた。
「わたしもまたとない刺激を受けることになりました。さきほどは、あのように不出来な料理を食べさせてしまってお恥ずかしい限りです。わたしもあなたに負けぬよう、己の道を極めたいと思います、アスタ殿」
◇
そうして俺たちは《タントの恵み亭》を退去することになった。
街道に出て、マイムが元気いっぱいに振り返ってくる。
「わたしもあらためてアスタの力を思い知らされました! 今後はいっそう励みたいと思います!」
「ありがとう。そちらもギバ肉の扱いにはもうだいぶ慣れてきたころかな?」
「はい! 近い内に、新しい料理を完成させることができると思います。そのときは、また味見をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん、もちろん。……ところで、マイムは宿場町で屋台を開いたりする予定はないのかな?」
「うーん、わたしとしてはそうやって力試しをしたい気持ちもあるのですが……あまり商売のほうに時間を割いてしまうと修練の時間が削られてしまうので、なかなか思い切れないのですよね」
そのように言ってから、マイムはにっこり微笑みかけてきた。
「でも、屋台の貸し出しは10日ごとの契約なのですよね? 気持ちを抑えきれなくなったら、10日間だけでも店を開いてみたいと思います」
「すごいね。そのときは、どうぞお手柔らかに」
俺にとって、それはヴァルカスと同じ日に厨を預かるのと同じぐらいの一大事であることに間違いはなかった。
マイムはにこにこと笑いながら、「それじゃあ今日はありがとうございました! 家に戻って勉強を続けます!」と街道を駆け去っていく。
すると、レイナ=ルウが「ああ……」と切なげな吐息をもらした。
「何だかわたしも、じっとしていられない心境です。わたしやシーラ=ルウももっとあの娘のように一日中修練を重ねるべきなのではないでしょうか?」
「どうだろうね。ずっとかまどの間に閉じこもっているより、こうやって外に出たほうが刺激になる面も多いと思うけど」
「そうですか。わたしとしては、一日アスタのそばにありたい気持ちです。……あ、いえ、決しておかしな意味ではないですが!」
と、慌ただしく手を振りながら顔を真っ赤にするレイナ=ルウである。
俺は「あはは」と笑ってごまかす。
「でも、それは本当の気持ちです。あまり口にはできませんでしたが、ほぼ一日行動をともにしているトゥール=ディンを、わたしは羨ましく思ってもいたのです」
「そっか。でも、何も慌てることはないよ。レイナ=ルウたちはたった半年でここまで腕を上げることができたんだから、その調子でこれからも頑張っていけばいいのさ」
次なる宿屋を目指しつつ、俺はそのように言ってみせた。
「思ったんだけどね、これからはレイナ=ルウたちも独自性を打ち出してみてもいいんじゃないのかな」
「独自性?」
「そう。たとえば《玄翁亭》に卸している『ギバのソテー・アラビアータ風』なんて、レイナ=ルウたちにとっては1食分をたいらげるのもしんどいぐらい辛い味付けの料理じゃないか? 本来、自分たちで美味と思えない料理を作るっていうのは本末転倒の話なんだよね」
「ええ。ですがそれは――」
「うん。それは商売だからしかたのない面もある。でも、家族を喜ばせるのと同じ感覚でお客さんを喜ばせることができたら、いっそう商売も楽しく感じられるようになるだろう? 俺なんかは、毎日が楽しくてしかたがないぐらいなんだ ……で、そういう楽しさはよりいっそうの向上心に結びつくと思うんだよね」
レイナ=ルウは、真剣な面持ちで口をつぐんだ。
その真剣さに報いるために、俺も精一杯の気持ちを言葉に込めてみせる。
「屋台の料理でも、『ミャームー焼き』なんかは自分たちの好みよりも強い味付けにしているだろう? でも、あの屋台はもう俺じゃなくルウ家の屋台なんだ。だったら、俺の料理の模倣じゃなく、レイナ=ルウたち独自の料理を売り出してもいいんじゃないかなって、最近はそんな風に思えてきたんだよ」
「わたしたち独自の料理……」
「そう。レイナ=ルウやシーラ=ルウだったら、もうそれが可能なぐらいの腕前になっていると思うんだよね」
レイナ=ルウは、くいいるように俺を見ている。
街道を歩きながら、俺はそちらに力強くうなずきかけてあげた。
「シーラ=ルウとも相談してみるといいよ。自分たちにとって正しい道はどれなのか、それを決めることができるのは自分たちだけなんだから」
「……わかりました。ありがとうございます。アスタにそこまでの言葉をかけていただき、わたしはとても栄誉に思っています」
そう言って、レイナ=ルウは俺に負けないぐらい力強くうなずき返してきたのだった。