城下町へ②~稀代の料理人~
2015.12/29 更新分 1/1
「以前にも話した通り、このジェノスの近辺には食用の魚というものが存在しない。川の水は澄み渡り、魚はすべて毒性を帯びている。それがこのジェノスの大きな特色だからねえ。かろうじて、下流でとれるマルなんかが例外的に食べられるぐらいかな」
後から室内に踏み入ってきたポルアースが意気揚々と解説してくれた。
「川の毒を清めてくれる代わりに、魚がその毒を受け持つことになった、なんて伝承もあるぐらいでね。そのまま食用に使えるぐらい川の水が澄んでいる代わりに、ジェノスでは魚を食することができない。ジェノスだけでなく、セルヴァ領内の東半分ぐらいは似たり寄ったりの状況であるらしいよ。……だからこれは、セルヴァの西部から半月がかりで運ばれてきた魚たちなのだよ」
「半月がかりって……川の水ごと運ばれてきたわけですか?」
「そう。そのために特製の荷車を作らせたらしい。まったく恐れ入るほどの執念だろう?」
本当に、執念というしかないような有り様であった。
煉瓦を積んだ塀になみなみと水のたたえられた、それはいわゆる生け簀であったのだ。
規模は、5メートル四方のものが3つほども準備されている。その中で、何十尾もの魚たちがすいすいと遊泳しているのである。
水はうっすらと緑色がかり、室内には漁場のような生臭い臭いがたちこめてしまっている。アイ=ファたちが眉をひそめるのも当然であった。
「こんなものを調理できるのは、トゥラン伯爵邸で研鑽を積んでいた料理人たちだけだ。だから城下町でもなかなか買い手がつかない。かといって、死なせてしまったらこれを買い付けるために使った銅貨がまるまる無駄になってしまうから、どうするあてもなく餌を与え続けるしかなかったようだよ」
「いやあ……開いた口がふさがりませんね」
どの海からも遠く離れた大陸のど真ん中に位置しており、なおかつ川には毒性の強い魚しか棲んでいないという。このジェノスでこのようなものを見せつけられることになろうなどとは、確かに夢にも思っていなかった。
「まあ、こいつは森辺に持ち帰るのも難しいだろうから、アスタ殿にしても使い道はないかもしれないけれど、とりあえず僕の驚きを共有してもらいたかったのだよ」
そんなことを言いながら、ポルアースはさっさと生け簀の間を出ていった。
アイ=ファたちをうながして、俺もその後に続く。
「では、仕切り直しで食材を吟味していただこうかな。まずは野菜だ」
正面の壁の右端の部屋に招き入れられた。
そこで待ち受けていたのは、ずらりと並んだ背の高い棚と、そこからあふれた野菜の山である。
そこも20畳はあろうかという大きな部屋で、棚に収納できなかった分は袋に詰められて足もとに転がされている。小さなほうの食料庫で免疫のついていたレイナ=ルウたちはともかく、トゥール=ディンはここでも目を丸くすることになった。
大半は、見知った野菜である。
その中に、見知らぬ野菜がぽつぽつと入りまじっている。
「この奥がさらに大きな倉庫になっていて、まずはそちらに運ばれた野菜の中から、特に質のよいものを選んでこちらの食料庫に移していたらしい。今はとりたてて選別もしていないけれど、とにかくここにある分は行き場のない食材なのでどれも自由に使うことができるということだよ」
つまりこれが、まるまる倉庫からあふれた分の食材であるということか。
まったく馬鹿げた規模である。
「確かに見知らぬ野菜もいくつかあるみたいですね。これなんて、いったいどういう野菜なのでしょう?」
俺が取り上げたのは、紫色の表皮を持つヘチマのような野菜であった。
長さは50センチほど、太さは俺の腕ぐらいはある。
「うーん、そいつはたしか、ジャガルの野菜だね。煮込むとなかなか美味だったような気がするよ」
「そうですか。この大陸の野菜はわりと俺の故郷の野菜と味の似通ったものが多いのですけれども、形状はまったく似ていなかったりするので、実際に食べてみないと味の想像がつかないのですよね」
「そういう野菜を持ち帰って、アスタ殿の料理に使えるかどうかを吟味してほしいのだよ。なるべく量の余っているやつを吟味してほしいのだけれど、どうだろうかね?」
どうだろうと問われても、現段階では判別のしようがなかった。
とりあえず、量が余っていてそれほど高額でもないという野菜を数種類選んで、袋に詰めさせていただく。
「お次は調味料だね。ここでもなかなか物珍しいものを見ることができると思うよ?」
ここでもやはり同じぐらいの大きさの部屋に棚が並べられている。そこに収納されているのは、大小さまざまの瓶や壺だ。
「詳しくは自分で確認していただきたいところだけど、こっちの棚が調味料で、こっちの棚が酒だったかな? ママリアの果実酒はもちろんのこと、シムの乳酒に薬草酒、ジャガルの発泡酒、それに驚くべきことには、マヒュドラの蒸留酒などというものまでたっぷり取りそろえられているのだよ!」
「蒸留酒ですか。それは興味深いですね」
同じママリアが原材料でも、城下町ではウイスキーにも似た蒸留酒が存在する。それよりももっと日本酒に近い穀物由来の酒類が存在すれば、俺には非常にありがたかった。
「ひゃー! 見て見てアスタ! 蛇だよ蛇!」
「へ、蛇?」
リミ=ルウに袖を引かれてそちらを振り返ると、硝子の瓶の中で黒い蛇がとぐろを巻いていた。ハブ酒に類する薬味酒なのだろう。
「そういえば、ギバも蛇とか食べるんだよね。蛇って美味しいのかなあ?」
「どうだろうね。俺も食べたことはないよ」
とりあえず、酒類はあまり奇抜でないやつだけをひと瓶ずつ持ち帰らせていただくことに決めた。
料理での使い道がなければ、森辺の狩人たちが美味しくいただいてくれることだろう。
で、調味料である。
俺としては味噌に類するものが存在しないか期待をかけていたのだが、それらしいものを発見することはできなかった。
ココナッツミルクのように甘い香りのする汁や、レテンとは異なる植物油、強烈な酸味のあるギャマ乳の発酵食品、香草の酒漬けなど、いささか俺には馴染みのない食材ばかりだ。
「あ、こちらに別室があるのでお忘れなくね」
棚の陰に隠れていた扉をポルアースが指し示す。
開けると、とたんに芳しくも強烈な香りが炸裂した。
「これは……いわゆる乾物ですね」
巨大な燻製肉や干した果実などがあちこちに下げられている。
その中に、ひときわ目を引く存在があった。
白い塩をふいた、海草と思しき乾物の束だ。
「これは海草の干物のようですね」
「うん。こいつは王都アルグラッドから買いつけているものらしい。今はこれだけの量しかないけど、年にいっぺん他の食材とともにどかんと届いてしまうようなのだよ。それと引き換えに大量のフワノとママリアを持ち帰られてしまうから、トルスト殿にとっては大いなる悩みの種のひとつだろうね」
「そうですか。俺にとっては、生きた魚よりもこっちのほうがとてもありがたいかもしれません」
「そうなのかい? だったらこっちもアスタ殿を喜ばせることができるかな?」
ポルアースの指す方向には、何やら木箱が山積みにされていた。
そいつの蓋を開けてみて、俺は大いに喜ぶことができた。
そこに詰められていたのは、木材のように固く干し固められた鰹節のごとき魚の燻製であったのだ。
さらに別の木箱には、貝類や、エビのような甲殻類や、タコにも似た奇っ怪な生き物の干物がぎっしりと詰め込まれている。
「最高です。これだけでも格段に料理の幅が広がりそうですよ」
「ほうほう、それは何よりだ。実はそれらの干物の類いも、生きた魚と同じぐらい使い道に困っていたのだよ」
言いながら、ポルアースはにんまり笑った。
「渡来の民たるアスタ殿ならば、そういった海の幸とかいうやつも使いこなすことはできるんじゃないかと期待していたんだ。こいつは城下町の料理屋にも回されていなくてヴァルカス殿の他には買い手もつかなかったみたいだから、使ってもらえればトルスト殿も喜ぶよ」
「ええ。実際に使ってみないと確かなことはいえませんが、これでしっかり出汁がとれるようなら宿場町でも喜ばれると思います」
「心強いねえ。……あ、こっちの木箱はジャガルから届いた分なんだけれど、どうだろう?」
期待をこめて蓋を外すと、十分以上に期待は報われた。
そっちの木箱には、なんと茸の類いが詰め込まれていたのだ。
朱色の椎茸みたいなやつや、黄色いキクラゲみたいなやつや、なかなか毒々しい色合いをしたものも少なくはないが、まさか毒性のあるものがまぎれこんだりはしていないだろう。いずれもカラカラに干されており、凝縮された香りが心地よく鼻腔をくすぐってくれる。
さらに別の木箱には、オガクズのようなものに植えられた生の茸までもが準備されていた。
白くてころんとしたやつはマッシュルームにそっくりだし、傘が茶色いやつはブナシメジにそっくりだ。
「すごいですね! 本当にここは宝物倉みたいです!」
申し訳ないことに、狂喜しているのは俺ばかりであった。
それでもレイナ=ルウやトゥール=ディンなどは、これでどのような料理が作れるのだろうと真剣に目を凝らしている。
「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。そして、歓迎の宴がますます楽しみになってきたね」
ポルアースがそのように言ったとき、アイ=ファがふいに後方を振り返った。
いつの間にやら、扉のところに見知らぬ人物が立ちはだかっていたのだ。
同じようにそちらを見たポルアースが「ああ」と破顔する。
「これはこれは、ヴァルカス殿。いったいどちらに行かれていたのかな?」
「わたしはずっと隣の部屋で香草を吟味しておりましたよ、ポルアース殿」
これが稀代の料理人と名高いヴァルカスか、と俺も好奇心をかきたてられる。
何とはなしに、不思議な雰囲気を有する人物であった。
背は高く、ほっそりとした身体つきをしており、淡い褐色の髪をやや長めにのばしている。なかなか端正な顔立ちで、緑色の瞳と色の白い肌は、ちょっとジャガルの民めいている。
その痩身に纏っているのは、調理着と思しき白装束だ。
温暖なジェノスでは珍しい長袖の仕立てで、顔と手の先しか肌は出ていない。
そんなに若くはないだろう。
しかし、そんなに年老いているようにも見えない。
若く見える壮年の男性か、あるいは貫禄のある若者か、年齢の見当のつけにくい風貌と雰囲気を有しているのだ。25歳から40歳の間であることは間違いないと思うのだが、それ以上に絞ることはできそうになかった。
「……あなたが渡来の民の料理人アスタですか。わたしは《銀星堂》の主人でヴァルカスという者です」
どこか朴訥とした、少し眠たげにも聞こえる声で、ヴァルカスはそのように述べてきた。
「よろしければ、表で少しお話をさせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「はい、喜んで」
あんまり職人気質の頑固者という感じではないみたいだな、などと考えながら俺は食料庫を後にした。
だだっ広い厨にて、あらためてヴァルカスと向かい合う。
「自己紹介が遅れました。俺は森辺の民、ファの家のアスタという者です。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
「今後とも、ですか。それはもちろん、わたしが個人として交流を結ぶのはやぶさかでないのですが――」
ヴァルカスの瞳が、いくぶん困惑気味の光をおびる。
「実はですね、わたしはあなたにお願いしたいことがあって出向いてきたのですよ、アスタ殿」
「はい? いったい何でしょうか?」
「……あなたには、歓迎会の厨番を辞退してほしいのです、アスタ殿」
この言葉に、ポルアースがきょとんと目を丸くした。
「それはどういう話なのかな? このアスタ殿はヴァルカス殿と同様に、ジェノス侯爵マルスタインじきじきにこの仕事を仰せつかったのだよ?」
「それを断ったからといって、アスタ殿のお立場が悪くなることにはならないのでしょう? できうれば、この厨にある食材を無駄にはしてほしくないと考えているのですよ、わたしは」
ヴァルカスは、感情の読めない声でそのように続ける。
「この厨の食材は、前当主が世界の各地から収集した宝のごとき存在です。この食材を無駄に扱うのは一種の冒涜に値する行為だとわたしには思えるのですが、いかがでしょう?」
「ふむ。しかしこれらの食材はさっさと使ってしまわないと塵芥の山になってしまうのだからねえ。腐らせてしまうよりは惜しみなく使うほうが正しい行為なのじゃないかな?」
「わたしはそのように考えることができません。不出来な料理の材料として使われるぐらいなら、ありのままの姿で土に戻したほうがまだしもセルヴァの御心にかなうのではないでしょうか?」
俺の料理は不出来であると、食べる前から断じられてしまった。
しかしヴァルカスの面は茫洋としており、まったくもってつかみどころがない。あえていうなら、聞きわけのない子供をどのように説得するべきかを思い悩んでいるような、そんな雰囲気だけがうっすらと感じ取れた。
「あなたのお考えはわかりました、ヴァルカス。ですがこれは、ジェノス侯爵からのご依頼を森辺の族長が受ける格好で成立した仕事なのです。俺の一存ではどうすることもできませんので、思うところがあるのならばジェノス侯爵に陳情する他ないと思われます」
「むろん、そのように取りはからうつもりです。しかし、一介の料理人に過ぎないわたしが何を訴えたところでその願いがかなえられるとも思えないので、あなたからも侯爵や族長とやらに取りなしていただきたいのですよ、アスタ殿」
あくまでも態度は穏やかで、悪意も敵意もまったく感じられない。
もしかしたら、この御仁には俺や森辺の民を蔑む意識などなく、ただ本心から「食材のために」このようなことを申し述べているのかもしれなかった。
(悪人じゃなくて、変人の類いなのかな)
俺はしばし黙考し、自分の気持ちを整理してから反論した。
「ヴァルカス。俺が義務感や個人的な探究心を満たすためだけにこのような仕事を引き受けたのだったら、あなたの気持ちをないがしろにしてまで我を通す筋合いもなかったかもしれません。ですが、俺の中にはジェノスの貴族と森辺の民が正しい縁を結べるように、という思いが強くあるのです。それらの気持ちを打ち捨ててまで仕事から手を引くことはできないのだということをご理解いただけないでしょうか?」
「使いなれない食材を使うことで、いったいどのような結果が得られるというのですか? この食料庫の食材を持ち出さず、そしてわたしとは別の日に料理を供するという話であれば、わたしの側には何の不満もないのです」
「あなたと同じ日に厨を預かるというのも不本意なのですね」
「当然です。それではわたしの作った料理を十全に味わっていただくこともかなわなくなってしまうでしょうから」
さて、どうしたものだろうか。
なまじ悪意が感じられないので、冷たく突っぱねるだけでは解決しないように感じられてしまう。
ちなみに俺のかたわらにある女衆らは、実にさまざまな表情を浮かべていた。
アイ=ファは無表情に、ただ鋭い眼光を半分まぶたで隠しながらヴァルカスをにらみつけており、レイナ=ルウは取りすましたお顔で成り行きを身守っている。
リミ=ルウはきょとんと首を傾げており、そしてトゥール=ディンは――意外なことに、彼女が一番不満そうな目つきで、きゅっと唇を噛みしめてしまっていた。
俺自身は、べつだん腹が立ったりもしていない。
やっぱり俺のような立場の人間に大事な歓迎会の料理をまかせる、というほうが常識外れの話なのだろうな、とさえ思うぐらいだ。
しかし、そうだからといって、ヴァルカスの要求をそのまま受け入れるわけにもいかなかった。
「要するに、俺のような未熟者に貴重な食材を使ってほしくはないし、同じ卓にそのお粗末な料理を並べてほしくもない、というお話なのですよね?」
「有り体に言ってしまうと、そういうことになってしまいますね」
「そうですか」と俺は考えこむ。
「実際のところ、俺は自分が半人前であるということを自覚しています。俺はまだ17年しか生きていないし、なおかつこのジェノスにやってきて半年ていどしか経ってはいません。そんな俺が貴族のための料理など作ることができるのか、というのは当然の疑問だと思います」
「そうですか。ならば――」
「それでもジェノス侯爵やこちらのポルアースは、俺の腕前をあるていど知った上でこのような大役を任せてくださいました。その期待に応えることができれば、また少し森辺の民の存在が見直されるんじゃないかなと期待している部分があるのですよ」
「…………」
「よかったら、あなたも俺の腕前がどれほどのものか、調理の手際を見て判断していただけませんか? それでも納得がいかなければ、ファの家のアスタは大事な歓迎会の厨番に相応しからず、というあなたの言葉もいっそうの重みをともなってジェノス侯爵に伝わることでしょう。何せあなたは、ジェノスでも屈指の料理人と評されているほどの御方なのですから」
「……わたしにあなたの料理の味見をせよ、と?」
「はい。ジェノス侯爵らは俺の料理を食べた上で俺を厨番に任命してくださったのですから、俺の腕前を知らないあなたが何を言ったところで退けられるのが当然なのではないでしょうか?」
ヴァルカスは、何やら切なげな面持ちで押し黙ってしまった。
しばらく静観の体でいたポルアースが、にっこりと微笑みながら声をあげる。
「これはアスタ殿の言葉のほうが理にかなっているようだね。ここだけの話、アスタ殿の腕前はティマロ殿と比べても劣るものではないと評されているのだよ、ヴァルカス殿?」
「……それでは余計に心配がいや増すばかりです。あのティマロにだって、本来はこの厨の食材を無駄にする資格など存在しなかったのですから」
女性のように優美な指先で髪をかきあげ、ヴァルカスはふっと息をつく。
「ティマロなどが副料理長に任じられたのは、前当主の見込み違いです。あのティマロが得意げに刀をふるうたびに、わたしは食材の泣き声が聞こえるようで居たたまれませんでした」
「そうか。そこまで言ってのける君の腕前には期待させられるけどね、ヴァルカス殿。だけどこのアスタ殿は渡来の民で、僕たちの知らない作法で料理を作ることができるのだよ。それだけでも、シムやジャガルから招いた料理人と同等以上の価値があるとは思えないかな?」
「ですから、わたしの知らない場所で分相応な料理をふるまうという話なら、わたしのほうにも文句はないと言っています」
ヴァルカスは、ゆっくりと俺を振り返る。
「しかし、あなたがたの言い分はわかりました。そこまで仰るのでしたら、あなたの腕前を見せていただきましょう。……ただしその前に、わたしの腕前も見ておいていただけますか、アスタ殿?」
「あなたの腕前を? それは願ってもない話です」
「そうですか。ならばおたがいの料理を食べ比べることで結論を出しましょう。それならば、きっとあなたにもわたしの心情が正しく伝わるでしょうから」
あくまでもけだるげに、あくまでも静かな口調で、ヴァルカスはそう言った。
こうして俺は、ミケルと同等以上の腕を持つと評されていた料理人と、時ならぬ味比べに打ち興じる顛末となってしまったのだった。