⑥騒乱すぎさりて
2015.8/24 更新分 1/1
サイクレウスとシルエルは、罪人としてその身を捕縛されることになった。
しかし、それですべてが解決したわけではない。
あれよあれよと時間は過ぎていき、3日も経つとあらかた騒ぎも収束したかのように思えたが、それでもやっぱり審問の場できちんと罪人が裁かれるまでは、真の決着が着いたとはいえないのだろうと思う。
しかし、両名の罪を問う審問の儀は、3日が過ぎても執行されることはなかった。
貴族の審問ともなれば、その準備だけでもずいぶんな日数がかかると聞かされていたし、それにもうひとつ、審問を先延ばしにせざるを得ない緊急事態も生じてしまったのだ。
サイクレウスが、病に倒れてしまったのである。
それも、俺たちの目の前で。
会談の日、ジーダが刀を引いた後、近衛兵らがサイクレウスを捕縛しようとしたとき、すでにその意識は失われていた。
ただちにジェノス城からは医師団が招集されて、サイクレウスの病は重篤な状態にまで進行しているという診断が下されることになった。
精神的な痛撃を受けて、病魔に抗う力を失ってしまったのだろう――というのが、俺たちに伝えられた医師たちの言葉であった。
うかつに動かせば、それこそ生命に関わるかもしれない。審問の前にサイクレウスの生命が失われてしまったら、シルエルを正しく裁くことも難しくなってしまう。
よってサイクレウスは、そのまま自分の屋敷で監視されつつ看護されることになってしまったのだった。
「それでもトゥラン伯爵としての権限はすべて凍結され、どこの誰とも連絡をつけられぬように近衛兵団が厳重に監視体制を敷いているので心配はご無用である、とのことだよ」
会談の翌日、ジェノス侯爵からそのような言葉を預かってきたのは、もちろんカミュア=ヨシュである。
サイクレウスは病が落ち着くまで医師団に看護され、それからあらためてジェノス城に移送される段取りとなったらしい。
さらに取り沙汰すべき事項もあった。
バルシャとジーダの処遇である。
バルシャは盗賊団の生き残りとして、ジーダは通行証もないまま城下町に足を踏み入れた罪を問われて、やはりジェノス城へと移送されることになってしまったのだ。
むろんバルシャは重要な証人という立場でもあるので、その身を保護されるという一面もある。
バルシャが裁かれるのは、サイクレウスたちが裁かれた後だ。
最初から覚悟を固めていたバルシャは、終始落ち着いた表情で近衛兵たちの指示に従っていた。
問題は、ジーダである。
ジェノス侯爵マルスタインが登場して、この場の騒ぎを一切預かると宣言したのちも、ジーダはサイクレウスに突きつけた刀を引こうとはしなかった。
「この罪人どもの首をこの場で刎ねれば、審問など必要なくなる!」
最初、ジーダはそのように言っていた。
そうしてともにこの場から逃げ出せば、母親の生命を救うことができる――という思いであったのだろう。
俺にはとうてい、その悲壮な決意をみなぎらせる背中にかける言葉など見つけることはできなかった。
バルシャもまた、「馬鹿なことを言うもんじゃないよ」と言ったきり、あとは悲しげにその背中を見つめるばかりだった。
マルスタインは「困ったな」という面持ちで口髭を撫でており、部下から刀を受け取ったメルフリードは灰色の瞳を冷たく光らせて――そのままでいけば、ジーダとサイクレウスのどちらかはこの場で朽ちるしかない、という状況に陥りかけたとき、ドンダ=ルウが重々しい声音を広間に響かせた。
「ジーダ……とかいったな、マサラの狩人よ。貴様は、母親の覚悟を踏みにじるつもりか?」
「うるさい! 貴様には関係のないことだ、森辺の民め!」
「関係ないことはない。このマサラのバルシャという女狩人は、俺たちと同じ敵を討つために、そこまでの覚悟を固めた同志なのだ」
サイクレウスの咽喉もとに刀をあてがったジーダの小さな姿を見下ろしながら、ドンダ=ルウはそのように言った。
きっとドンダ=ルウであれば、力ずくでその刀を奪うことすらできたのだろうと思えたが――ドンダ=ルウは、ただ言葉をつむぎ続けた。
「自分にとって都合の悪い人間を、法とも掟とも関わりなく、ただ斬り捨てる。そのように誇りを持たぬ人間を弾劾するためにこそ、貴様の母親は己の生命をもかける覚悟を固めたのではないのか?」
「それは――!」
「そして、自分の母親をそのような窮地に立たせたのは貴様なのだ、マサラの狩人ジーダよ」
ドンダ=ルウの横顔にはいかなる表情も浮かんではいなかったが、その青い瞳にはこの上もなく厳しい光が宿っていた。
「貴様が復讐の念にとらわれて母親のもとを離れていなければ、マサラのバルシャもそのような道を選ぶこともなかっただろう。マサラのバルシャは、貴様を罪人としないために――そして、自分の息子に復讐の念を植えつけてしまった己の生に落とし前をつけるためにこそ、そのような道を選ぶことになったのだ」
狩人の衣に包まれたジーダの背中が、激しく揺れた。
「自分が生命をかけて罪人を告発すれば、貴様の刀が血に濡れることもなくなる。マサラのバルシャは、復讐のためではなく、貴様の未来のためにその生命をなげうとうとしているのだろう。……そんな母親の覚悟を踏みにじり、貴様はその刀を復讐の血で濡らすつもりか?」
それでジーダは、刀を落とすことになった。
そうして近衛兵団の兵士たちに捕縛されて部屋を出ていくまで、ジーダはずっとうつむいていたので、あの意外に幼い顔がどのような表情を浮かべていたのかを、俺は最後まで確認することはできなかった。
「まあ、貴族の館に忍びこんで、当主の首に刀を突きつけるだなんて、普通に考えたら死罪は免れられないところだろうけど、状況が状況だったからね。ジェノス侯は息子ほど頑なな気性ではないから、温情を期待していいと思うよ?」
たぶん俺は、相当に情けない顔をしてしまっていたのだろう。ジーダが連行された際には、カミュアがそのようにこっそりと耳打ちしてくれた。
そして、捕縛された人間はもう1名、存在する。
ズーロ=スンである。
サイクレウスとシルエル、それにジーダとバルシャが近衛兵に連行されていき、これでひとまずは収束か――と思われたとき、にわかにズーロ=スンがマルスタインの足もとに身を投げ出したのだ。
「ジェノスの領主よ……我、ズーロ=スンもまた、森辺の掟とジェノスの法をともに破った大罪人である……我もまた、この身をジェノスにゆだねることはできぬものであろうか……?」
それまで冷徹な眼差しでマルスタインの采配を見守っていた森辺の民が、それで一様にざわめいた。
その中から、怒りに双眸を燃やしたグラフ=ザザが一歩進み出る。
「何を抜かしているのだ、貴様は? よもや――我らに処断されるのが恐ろしくなったのではあるまいな?」
「今さら森に魂を返すことを恐れたりはしない……しかし、ジェノスの法が我を罪人と認めるならば、我はその法に裁かれるべきだと思うのだ……」
マルスタインの足もとにうずくまりながら、ズーロ=スンは力ない声で言った。
「宿場町の人間は、森辺の民が……スン家の人間が城の貴族たちに守られていると知っていた……それでも、ザッツ=スンとテイ=スンが裁かれたことによって、その疑念や怒りはあるていど晴らされたと聞く……ならば、最後の大罪人たるこの我が、ジェノスの法によって正しく裁かれれば、ジェノス領主も、森辺の民も、ひとしく誇りを取り戻すことができるのではないだろうか……?」
「しかし――」
「そして……我が正しく裁かれれば、残された者たちは……我のかつての家族であった者たちは、罪人でなかったのだと……ジェノスの法にも正しく許されたのだと……そのように知らしめることができるのではないだろうか……?」
マルスタインは、「ふむ」と長い前髪をかきあげた。
そして、聡明そうな茶色の瞳を、部屋の隅でへたりこんでいた老人のほうに向けなおす。
「法務官ザイラスよ。ジェノスの法に照らし合わせれば、このズーロ=スンなる者の罪はいかほどのものになると考えられるかな? 正式な審問ではなく、貴殿の私見でかまわぬので聞かせてほしい」
「は……もとより、モルガの恵みを荒らすべからずというのは森辺の民のために立てられた法でありますため、正式な量刑が定められているわけではないのですが……十数年にも渡り、数十名にも及ぶ血族に、ギバ狩りの仕事を放棄させ、モルガの恵みを荒らすように命じていたというのは、ジェノスに対する明確な叛逆行為とみなされますため……死罪よりもなお重い、10年の苦役の罰が下されるのでは、と愚考いたします」
「なるほど。10年の苦役か」
マルスタインは大きくうなずき、ズーロ=スンの丸められた背中をじっと見下ろした。
「苦役というのは、通常の労役よりもなお過酷な、ジェノスでもっとも重い罰である。5年を越えて生き永らえる者はほとんど皆無であるため、死罪でも足りぬ重大な罪を犯した人間にのみ、この罰は与えられる。……それならば、森辺の同胞に首を刎ねられたほうが、まだしも安楽な末路なのではないのかな」
「10年……わずか10年で、我の罪が許されるというのか……?」
「うむ。生半可な奴隷よりも過酷で希望のない10年の苦役だ。私の記憶では、ジェノスの樹立以来、10年もの苦役をやりとげた人間はひとりとして存在しない」
「希望……希望はある……10年ののちに、我がまた森辺の民を名乗ることが許されるなら……それ以上の希望が、存在しようか……?」
震える声で言いながら、ズーロ=スンが俺たちを振り返った。
皮のたるんだその顔には、もはやまともに表情を動かす力も残ってはいないようであったが――その小さな瞳には、わずかばかりに涙が浮かんでいるような気がした。
ヤミル=レイ、オウラ、ツヴァイ、ディガ、ドッド、ミダ――かつてのズーロ=スンの子であり妻であった6名は、そんな彼の姿を言葉もなく見つめ返している。
「10年に渡って血族に間違った道を示し続けた我の罪が、10年の苦しみで贖われるかは不明である……もしも10年ののち、我が生きて集落に戻れるようであれば……あらためて、この身の処遇を森辺の同胞らにゆだねたいと思う……」
「そのときは、俺がこの目で貴様の罪を量ってくれよう」
グラフ=ザザが、断固たる口調でそのように答えた。
それに異を唱えようとする者はなく、そうしてズーロ=スンもまたジェノスの近衛兵に捕縛されることになったのだった。
そうしてその場の騒乱は、ようやく収束されることになった。
サイクレウスとシルエルには必ず公正な裁きを下してみせると、ジェノス侯爵マルスタインは固く約束してくれた。
どちらが主犯格であったとしても、罪の重さに大差はない。死罪か、永久の禁固刑か――とにかく、彼らが今後行動の自由を得ることはありえないだろう、とのことであった。
「私はトゥラン伯の力量を信用し、調停役の役目を一任してきた。その采配が間違っていたのだと証し立てられることになったのだから、私は身命をかけて己の恥をすすぐ責任があるのだろう。……新たな調停役が選出されるまでは、私自身が森辺の民との縁を繋ぐ役を担うつもりだ」
最後まで快活に笑いながら、マルスタインはそのように言っていた。
「森辺の民は、いまやジェノスの繁栄の一翼を担うかけがえのない同胞である。その同胞との間に生まれてしまった誤解や不和を解くために、私は力を惜しまないと約束してみせるよ」
初めて顔を合わせることになったマルスタインという人物を、どこまで信用していいのかはわからない。
しかし、この人物を信用できないならば、ジェノスの領土に森辺の民の居場所はなくなってしまうだろう。
とりあえず、サイクレウスの病状が回復して審問を始められるようになるまでは、これまで通りに過ごしてほしいと、森辺の族長らはそのように言い渡されることになった。
で――俺たちである。
これまで通りに過ごしてほしいと言われても、なかなかそうするわけにはいかない事情も存在した。
ジェノス侯からも、「くれぐれも用心だけは怠らないでほしい」という言葉を頂戴しているのである。
何に用心するべきか?
それは、サイクレウスとシルエルの有する「私兵」に対してであった。
両名はその身柄を捕縛され、すべての権限を凍結された。
なおかつ、トゥラン伯爵家の護衛部隊はいったんその任を解かれて、これまでの事件に関与していなかったかを取り調べられることになり、護民兵団は新たな指導者のもとで再編成されることになった。もはや、サイクレウスたちがそういった兵士たちを手駒として使うことは不可能な状況となっている。
だが、サイクレウスたちには、裏の仕事を担わせていた私兵が存在する。
たとえば、森辺の民に扮装して農園を襲っていた野盗どもだ。
いかに主君の命令とはいえ、護民兵団やジェノス家の家臣たちがそのような悪行に手を染めるとは考えにくい。
そういった、ジェノスの法に背く裏の仕事には、ひそかに飼い慣らしていた荒くれ者などを使っていたのであろうという見込みが立っている。
というか、そのような見込みを立てていたのは、他ならぬカミュアなのである。
10年前にザッツ=スンが病魔に倒れたのち、サイクレウスたちはそれに代わる新たな手駒を手に入れたはずなのだ――と、カミュアはそんな不穏きわまりない報告を森辺の族長とジェノス領主の双方にもたらしてくれたのであった。
「しかしそれらのものどもは、ザッツ=スン以上に身を隠すのが上手いらしくて、とうとう尻尾を捕まえることはできなかったのです。雇い主を失ったその荒くれ者どもが、サイクレウスたちとどのような盟約を交わしていたかもわからないので、とにかく用心だけはしておくべきでしょう」
よって、ファの家もルウの家も屋台の仕事を再開させることはできなかった。
ルウの眷族の休息期間も終わってしまったため、護衛役の狩人を捻出することができなかったからだ。
近衛兵団から護衛役を派遣する、という提案もマルスタインからは為されたようであったが、あちらとてサイクレウスの監視やらバルシャの警護やらで人手は不足しているらしく、ドンダ=ルウが納得できるほどの人数を提示することはかなわなかったようである。
「護民兵団なら人数はそろっているけれども、どこまでシルエルの悪い影響が及んでいるかも知れたものではないからねえ」
というのが、マルスタインとカミュアの共通した意見であったらしい。
どうやら護民兵団の司令部にはトゥラン家ゆかりの人間も少なくなかったため、そちらの再編成もなかなか難儀であるようだった。
ということで、俺たちも自粛するしかなかった。
ただし、宿屋の仕事だけは辛うじて再開させることが許された。
朝方の内に料理を仕上げて、アイ=ファやルド=ルウといった早起きの狩人らに警護されつつ、それを宿屋に届けて中天までに帰還する、という形で何とか再開にこぎつけることがかなったのだ。
会談の2日後にはその仕事が再開され、3日目には料理と生鮮肉の量を増やす事態にまで至った。
「日中で屋台の軽食が食べられなくなったぶん、晩餐でギバ料理を求めるお客様が増えてしまったようなのです」
ネイルは、そのように言っていた。
結果として、《玄翁亭》には60食分の料理と20食分の生鮮肉、《南の大樹亭》には70食分の料理と30食分の生鮮肉が卸されることになった。
かなり大きな規模を持つ《南の大樹亭》はまだしも、住宅用の家屋を改装して細々と宿屋を営んでいる《玄翁亭》にそこまでの数が必要なのだろうかと思えたが、それでも売れ残ることは一切なかったという。
「宿泊のお客様は毎日満員ですし、晩餐の時間には余所の宿屋のお客様までもが今まで以上に押し寄せてしまっているのです。おかげさまを持ちまして、カロンやキミュスの料理などはほとんど売れなくなってしまいました」
「はあ……それは何ともはや……」
「アスタがもっとたくさんの宿屋でギバの料理を売り出さない限りは、もうこの騒ぎは収まらないように思えます。嬉しい悲鳴というよりは、いささか空恐ろしくなるような繁盛っぷりですね。……こうなってくると、早く他の宿屋でもギバの料理を扱えるようになればいいのに、とすら思えてきてしまいます」
俺としても、商売の手を広げたいという意欲はある。
しかし、この段階で《キミュスの尻尾亭》や《西風亭》と話を進めるわけにもいかないだろう。
正体も行方も知れないサイクレウスらの私兵を捕縛し、そうして一切の危険が取り払われるまでは、現状を維持する他ない。
そんなわけで、俺やルウ家の女衆は、朝から料理の作製に励み、それを荷車で宿場町に届け、新たな野菜を購入したのちに森辺の集落へととんぼ返りして、順番をずらした他の仕事を片付けつつ、空いた時間は料理の勉強に費やす、という、慌ただしくも平穏な日々を過ごすことになった。
当然というか何というか、俺もアイ=ファもルウの集落に逗留したままである。
ヤミル=レイたちは、それぞれレイ家、ルティム家、ドム家へと帰されることになったが、やはり立地上の不安を抱えるファの家に戻ることは危険である、と言い渡されてしまったのだった。
ルウの集落とて、狩人としての仕事を再開してしまえば、日中は非常に手薄である。が、それでも集落にはリャダ=ルウやミダ、それに13歳未満の少年たちや数少ない老人たちといった男手が存在する。少なくとも、ファの家でふたりきりで過ごすよりはよほど安全であろう、ということで、アイ=ファはまた唇を噛むことになってしまったのである。
そういった人々の苦心や尽力のもとに、俺やルウ家の女衆らは平穏な日々を過ごすことが許されたのだった。
そうして、もやもやとした落ち着かない気分を抱えこんだまま、3日もの日が過ぎていき――4日目に、ついに大きな変転の時が訪れた。
その変転をルウの集落に持ち込んだのは、マルスタインからの使者として毎日のようにルウの集落を訪れていたカミュア=ヨシュであった。
だが、俺はまずそのかたわらにある赤毛の少年の姿に驚かされることになった。
◇
「ジーダ! ジェノス城から解放されたのか!」
ルウの本家のかまどの間で、俺は彼らと対面することになった。
白の月の19日、その夕暮れ時のことである。
太陽はすでに西の方角に沈みかけ、かまどの間にはできたての晩餐の香りが充満している。
「無事でよかったよ。鞭叩きの刑などはくらわなかったかい?」
ジーダは双眸を黄色く燃やしながら、無言でうなずいた。
その、すべての感情をねじふせようとしているかのような顔に、俺は浮かべかけていた安堵の笑みをひっこめる。
たとえ自身が無事であっても、とうていそれを喜べるような心境ではないだろう。
そうして俺までもが言葉を失ってしまうと、カミュアがとりなすように明るい声をあげた。
「彼には城下町に忍び込んだ罪と、貴族に刀を向けた罪、それに宿場町で刀を抜いた罪までもが加算されたのだけれどもね、いずれもサイクレウスらの悪行がなければ起こり得なかった罪であるとして、ジェノス侯が不問にしてくれたんだよ。宿場町の手配書も取り下げられたから、これで晴れて自由の身さ」
サイクレウスの館ですでに顔を合わせている両者ではあったが、それがこのように並んで立っている姿を見るのは、何だか奇妙な気分であった。
無精髭の目立つ細長い下顎をかきながら、カミュアはふっと俺のかたわらに視線を動かす。
「やあ、アイ=ファ。君も戻っていたのだね。今日も収穫をあげることはできたのかな?」
「うむ」と用心深く目を光らせながらアイ=ファはうなずく。
アイ=ファも狩人としての仕事を再開させたのだ。
俺がリフレイアにさらわれてから、会談の日まで10日間。それだけの日数、狩人としての仕事を休むことになり、さすがのアイ=ファも居たたまれなくなってしまったのだろう。
それに、ドンダ=ルウらが仕事を再開させたという背景もある。
いかに俺の身が心配であっても、ドンダ=ルウたちがリャダ=ルウらを信頼して家族の安全を預けているのだから、自分ばかりが不覚悟でいるわけにはいかない――そのような煩悶と葛藤をくぐりぬけての、再開である。
で、おそるべきことに、アイ=ファはこの4日間、毎日1頭ずつのギバを狩りつつ、誰よりも早くルウの集落に舞い戻ってきていた。
ファの家の近辺ではそろそろギバの数が減ってきているはずなのだから、これは凄まじい成果と言えるだろう。
ただ――アイ=ファの髪は、これまで以上に甘い香りを発している。
アイ=ファは『贄狩り』をも再開させたのだ。
「ギバの数が減ってきたのだから、当然のことだ。この時期には、私は常に『贄狩り』を行っている」
そうは言われても、俺の懸念が消えるはずもない。
ただ俺は、かつてダルム=ルウと交わした言葉を噛みしめながら、アイ=ファの狩人としての覚悟と力量を信用する他なかった。
「で、ドンダ=ルウも戻っているのかな? 今日はまた、ジェノス侯の代理人としてこの場に馳せ参じたわけなのだけれども」
「これだけ日が傾いているんですから、戻っているはずです。母屋のほうには寄らなかったんですか?」
「うん。アスタとドンダ=ルウ、両方に伝言を賜ってきたからね。むろん族長の了承さえ取りつけられればアスタもそれに従う他ないのだろうけれども、どうせだったら自分の耳で聞き届けたいだろう?」
「……俺への処分が決定されたんですか?」
海の外からやってきた俺の処遇についても、今は話を保留にされたままであったのだ。
アイ=ファは鋭くカミュアをにらみつけ、カミュアはそれを受け流すように微笑んだ。
「その件に関してはまだ審議中だよ。それに、サイクレウスへの処断も済まぬ内にアスタの身柄について取り沙汰するのは不義理であろう、というのがジェノス侯のお考えさ」
「それじゃあいったい、俺なんかに何の話が?」
「それは族長とともに聞いてほしい。晩餐の前に、ちょっと時間をいただくことは可能かな?」
「ええ。俺の仕事はもう完了してますので」
そんなわけで、俺はアイ=ファとカミュアとジーダの4人連れで本家の母屋に向かうことになった。
ミーア・レイ母さんに刀を預けて屋内に踏み入ると、晩餐の時間が近いこともあって、広間には4名の男衆が勢ぞろいしていた。
「カミュア=ヨシュか。ようやく城のほうで動きがあったのか?」
ドンダ=ルウは、静かに青い目を光らせた。
ジザ=ルウは相変わらずのにこやかな無表情で、ダルム=ルウは険悪に両目を燃やし――そしてルド=ルウは、ジーダのほうを見ながら少しだけ心配そうに眉をひそめた。
「あったと言えばあったのですが、なかなか難しいところです。サイクレウスはいまだ病床に伏したままですし、シルエルも固く口をつぐんだままなので、彼らの私兵がどこで何をやっているのやら、捜索のしようもないというのが現状であります」
「ふん。それならいったい、どういう用件なんだ?」
「ジェノス侯爵マルスタインからの伝言です。森辺の民の気風にはそぐわぬ話もあるでしょうが、まずは最後まで聞いていただきたい」
言いながら、カミュアはふわりと下座に座した。
ジーダもその隣に膝を折り、俺とアイ=ファは横からその姿を見られる位置に陣取る。
「実はですね、お話したいのは、サイクレウスの娘御であるリフレイア嬢の処遇についてなのです」
「リフレイア? ……今さらサイクレウスの娘がどうしたってんだ? その娘も罪人として捕らわれているんだろうが?」
「はい。予定では、半年間の禁固の刑でありました。……その罰を減刑させていただけないかという、まあそういうご提案をジェノス侯から承ってきたのですよ」
ドンダ=ルウの双眸が光を強める。
「さっぱり意味がわからねえな。納得のいく説明をしてもらおうか」
「はいはい。これは森辺の民にとっても喜ばしい話だと思うのですが……ジェノス侯は、サイクレウスの爵位を廃したいと考えておられるのですね。正式な審問が執り行われる前に、トゥラン伯爵としての身分を剥ぎ取っておきたい、と。これだけの大罪の疑いをかけられているのですから、それはまあごく当然の話なのだろうと思われます」
「伯爵としての身分を剥ぎ取る……ということは、審問の結果がどうなろうとも、もう二度と伯爵を名乗ることは許されなくなるということか?」
「その通りです。伯爵の身でありながら審問にかけられるというのはきわめて外聞が悪いですし、また、審問官や法務官が手心を加える危険性も否めない。そういったさまざまな理由からも、伯爵としての身分は事前に剥奪しておくべきだと思い至ったのでありましょう」
「そいつはけっこうな話だがな。……しかし、笑っていられる状況でもねえってことか」
そんな言葉とは裏腹に、ドンダ=ルウはにやりと笑った。
と、いうことは――その内の闘争本能に火がつけられた、ということである。
「それで娘の話なんぞを持ち出すってことは……その娘に爵位とやらを継がせようっていう魂胆なわけだな」
「ええ、それも至極当然の話です。リフレイア嬢も罪人とはいえ、半年の後には解放されるていどの軽微な罪であったのですから。当主の嫡子である以上、この継承権を動かすことはできません」
「……アスタをさらったのが、軽微な罪か」
とたんにアイ=ファが鋭い声をあげたので、カミュアはそれをなだめるように微笑する。
「あくまでサイクレウスの犯してきた罪に比べれば、だよ。……ただし、平民をさらうぐらいの罪であったら、銅貨を積んで有耶無耶にしてしまうのが貴族の常套手段だろうね。森辺の民にそのような手段は通じないということはわかりきっていたので、今回はこのような結果に終わったのだろうけども」
「…………」
「あ、貴族とひとくくりにしてしまうと語弊があるか。サイクレウスのように悪辣な貴族の場合は、だね。ジェノス侯やポルアース殿などは、そもそもそのような罪に手を染めることはないはずなので、ご安心を」
アイ=ファは苦々しい表情で黙りこみ、ドンダ=ルウは「で……?」とカミュアをうながす。
「何にせよ、そいつはまだ小便くせえ餓鬼なんだろうが? 森辺では、15に満たぬ人間に家長としての資格はなしってことになっているぜ?」
「西の都では、幼子でも女性でも爵位を継ぐことは可能となります。ただし後見人の存在が不可欠となり、相当な制限を設けられることになりますけれどもね。……そうであるからこそ、サイクレウスとは縁の薄い後見人を準備して、これ以上トゥラン家の家名を汚させないように、しっかり土台を固めてしまいたいのでしょう」
「ふん……」
「むろん、リフレイア嬢にはかつてアスタをさらったという前科があるのですから、通常以上に厳しい制限をもうけて、一挙手一投足が監視されることとなります。というか、今後トゥラン家を実際的に取り仕切るのはその後見人の役割となり、リフレイア嬢などは、言ってみれば新たな世継ぎが生まれるまでの名目上の当主に過ぎないということになるのでしょうね」
言いながら、カミュアはマントの下で肩をすくめた。
「ジェノス侯には、トゥラン伯爵家そのものを廃する権限は与えられていないのです。ジェノス、トゥラン、サトゥラス、ダレイムの四家で領土を分け合い、ジェノスを管理するべし、というのは王都からの勅命であるのですからね。……となると、大罪の疑いがかけられたサイクレウスはすみやかに廃し、その娘に爵位を継がせるしか、ジェノス侯にとっても道はないのですよ」
「それが都の法だというのなら、好きにするがいい。しかし、その娘の罪を許せというのはどういう話なんだ? 貴族だろうと伯爵だろうと、罪は罪だろうが?」
「ええ。しかし、牢獄の内にある人間に爵位を継がせるわけにはいきませんからねえ。かといって、あと半年もサイクレウスの審問を先延ばしにするわけにもいかないし、ジェノス侯にしても苦渋の決断であったのでしょう」
「だから、どうして苦しんだり渋ったりする必要があるってんだ? 貴様の話は、法よりも身分のほうが大事だと言っているようにしか聞こえねえな」
「それは、まさしくその通りです。都の人間にとっては、法よりも身分のほうが重要なのですよ。メルフリードのように頑なな人間のほうこそが珍重であるのです」
そんな風に言ってから、カミュアはいくぶん眉尻を下げて微笑した。
「サイクレウスに爵位を冠したまま審問を開始すれば、その醜聞は王都にも届きます。下手をしたら、それを契機に王都がジェノスの統治に介入してくるかもしれません。……王都から最も遠い辺境区域にありながら、セルヴァでも有数の豊かさを持つジェノスのことを、王都は少なからず危険視しているのです。ジェノスの領主ともなれば、そういったことにも心を砕かなくてはならないのですよ」
「ふん……ずいぶんご大層な話になってきたな」
ドンダ=ルウは笑みを消し、硬そうな髭の生えた下顎をぼりぼりとかく。
その不機嫌そうな姿を見返しながら、カミュアはさらに言った。
「で――これもまた森辺の民の気風にはそぐわぬ話でありましょうが、ジェノス侯からはさらなる言葉をいただいております」
「いちいち前置きがうるせえな。伝言役を仰せつかったんなら、とっととその仕事を果たしやがれ」
「はいはい、今すぐに。……ええとですね、リフレイア嬢を減刑するにあたって、ジェノス侯はマサラのバルシャにも減刑をほどこしたいと、そのように申し述べているのです」
ドンダ=ルウはすっと目を細め、俺はカミュアのかたわらにあるジーダの姿を見つめることになった。
ジーダはぎらぎらと光る目を下に向けながら、無言である。
「貴族の富に手をつけた盗賊団《赤髭党》の残党であったのなら、極刑は免れません。しかし、ジェノスの秩序を守るためにその身命を捧げようというバルシャのこのたびの行いには、叙情酌量の余地がある、と――まあそういった言い分であるわけなのですが……」
「つまり、マサラのバルシャの罪を許す代わりに、リフレイアという娘の罪を許すことを認めよ、ということか」
ドンダ=ルウは、静かに目を燃やしながらそう述べた。
「なるほどな……それが貴族のやり口ってわけか」
「はい。ですがジェノス侯は、貴族としてはなかなか公正かつ人間味あふれる人柄であると、俺などは考えておりますよ」
また眉尻を下げながら、カミュアはそう言った。
「もっと一般的な貴族であれば、恩着せがましくこの条件を突きつけてきたことでしょう。しかしジェノス侯は、自分たちが強権を揮っているのだという自覚を胸に、あくまで提案という形でこの話を願い出ているのです。ジェノスの侯爵として、八方丸く治めるために、リフレイア嬢に爵位を継がせるしか道はない。その代償として、バルシャにも恩赦を与えるので、何とか矛先を収めてはもらえぬものかと――ジェノス侯は、そのように申し出ているのです」
「ふん……」
「貴族に害をなした盗賊を許すというのは、ジェノス侯としても難しい決断であったと思います。十数年前に《赤髭党》から被害を受けた貴族たちにも、了承してもらえるように手を回さなくてはならなくなるでしょうからね」
「法を曲げるためにさらに法をねじ曲げて、その尻拭いに苦労を背負いこむ。べつだん同情する気にはなれねえな」
「ええ。掟を重んずる森辺の民にしてみれば、そのように思うのが当然でしょう。ジェノス侯の温情も、あなたがたにとってはバルシャの覚悟を踏みにじる行為だとしか思えないでしょうしね」
カミュアがそのように言ったとき、ふいにジーダが面を上げた。
その黄色い獣のような瞳が、真正面からドンダ=ルウを見据える。
「森辺の族長ドンダ=ルウ……俺からも一言だけ言わせてほしい」
ドンダ=ルウは、無言でジーダを見る。
ジーダはいっそう激しく双眸を燃やし――
そして、真っ赤な蓬髪に包まれた頭を、床まで下げた。
「どうか、貴族の提案を受け入れて、俺の母を救ってくれ。……そのためなら、俺はこの生命を捧げよう」
「…………」
「ドンダ=ルウの言う通り、俺は道を誤った。そのせいで、母は罪人として捕らわれることになった。……このまま母を死なせてしまったら、俺は父ゴラムに合わせる顔がない」
「…………」
「自分がどれほどぶざまな言葉を口にしているかはわかっている。母だって、こんな形で救われても喜びはしないかもしれない。……だけど俺は、それでも母を死なせたくはないのだ」
横手に陣取っていた俺には、床に額をこすりつけるジーダの横顔をかろうじて目にすることができた。
ジーダはその目を火のように燃やし、幼い顔に苦悶の表情を浮かべながら、声を殺して泣いていた。
「……重ねて言いますが、たとえ爵位を継いだとしても、リフレイア嬢にはもう何を自由にする力も残されません。アスタをさらった罪を許されるというのは業腹でしょうが、逆に言えば、そのような罪を犯したばっかりに、彼女は残りの一生を台無しにしたようなものなのです。半年どころか生涯を囚人として過ごすようなものなのですから、何とかそれで気持ちをおさめてもらうことはかないませんでしょうかね?」
神妙な表情で進言するカミュアのほうに、ドンダ=ルウはゆっくりと視線を移す。
「今日の貴様は、いつになくしおらしくしていやがるな。何だか薄気味が悪くなってきたぜ」
「そうですか。まあ俺にしてみても、バルシャを引っ張り出した責任というものがありますからね」
垂れ気味の目を細めて微笑みながら、カミュアはジーダの小さな背中に視線を落とす。
「それなのに、彼は俺に恨み言のひとつもぶつけようとはしないものですから、さすがに胸が痛くなってきてしまいます」
「貴様に何を吹き込まれようと、最後に道を決するのは自分自身だ。マサラのバルシャという女には、強い覚悟と誇りが備わっていたというだけの話だろう。……他者の富を奪う盗賊として生きる、と決めたのもバルシャ本人の意志であったのだろうしな」
ドンダ=ルウは、強い目でカミュアとジーダの姿を見比べた。
「で……けっきょくは、俺たちが何と答えたところで、ジェノス領主の気持ちは固まってるんじゃねえのか?」
「ええ、まあ、ジェノス侯にとってもこれが最善にして唯一の道なのでしょうしね」
「だったら、好きにするがいい。ジェノス侯爵マルスタインという男に刀を捧げる価値があるかどうかは、これからゆっくり見定めさせてもらう」
ジーダが、涙に濡れた顔をあげる。
その顔を見て、ドンダ=ルウは鼻にしわを寄せた。
「狩人が、たやすく余人に泣き顔などを見せるな。貴様は、何歳なのだ?」
「……14だ」
「14か。森辺において、一人前と認められるのは15を過ぎてからだ」
そのように言って、ドンダ=ルウは荒っぽく鼻を鳴らした。
「狩人といえども、貴様はまだ子供だ。そのような幼さで親のもとを離れたのが、そもそもの間違いなのだ。悔いているならば、二度と同じ過ちは繰り返すな」
ジーダはもう一度うつむいて、無言のままぽろぽろと涙をこぼした。
困ったような笑顔でそちらをしばらく見つめてから、カミュアは「さて」と明るい声を発した。
「ようようご了承をいただけたようなので、それでは次の話に移りたいと思います」
「まだその口を閉ざさないつもりか。いいかげんに腹が減ってきたぜ」
「これが最後の伝言です。ジェノス侯マルスタインは、森辺の族長らとあらためて絆を結ぶために、晩餐会を催したいと仰られております」
「晩餐会……?」
ドンダ=ルウは険しく眉をひそめ、俺は目を丸くすることになった。
ようやくとぼけた笑顔を復活させることのできたカミュアが、こちらを振り返る。
「つきましては、アスタにギバの料理をふるまってほしいそうなのです。森辺の民と同じギバの肉を食することで、ジェノス領主たる自分の真意をはかっていただきたいとのことであるのですが、はてさて如何でありましょうかね?」
「……ジェノスの領主が、ギバの肉を口にするというのか」
そのように言ったのは、ドンダ=ルウではなくジザ=ルウであった。
糸のように細い目が、ますます細められながらカミュアを凝視している。
「はい。そうして領主の自分と森辺の民が正しく縁を結びなおそうとしている姿を示すことこそが、今のジェノスには必要であると――ジェノス侯は、そのように仰っておりました」
「ジェノスの領主が、ギバの肉を……」
まったく表情は動かさないまま、ジザ=ルウはそのように繰り返した。
どうやら、よほどの衝撃であったらしい。
「ジェノス侯がもっとも恐れているのは、森辺の民にジェノスを去られてしまうことです。20年にも渡って森辺との縁を繋いできたサイクレウスには、そうはさせぬよう手綱を操る自信があったのかもしれませんが、ジェノス侯にとってはすべてが手探りです。ああしてにこにこと笑いながら、頭の中ではどのように事態を丸くおさめるべきか必死に考えを巡らせているのだろうと思いますよ」
「それならば、どうしてここまで事態が悪くなるまで動こうとしなかったんだ? サイクレウスに大罪の疑いがかけられていたということは、貴様やメルフリードという男の口からさんざん聞かされていたんだろうが?」
ドンダ=ルウの問いに、カミュアは首を横に振る。
「どれほどの疑いがかけられようとも、すべては証しのない話でありましたからね。サイクレウスと森辺の民の両方が、自分こそが正しいのだと主張しているならば、どちらがより強い力で勝利をつかみとるか――それを見極めんと、ぎりぎりの際まで動くつもりはなかったのでしょう。放っておいたらサイクレウスの野心の牙はあなたの咽喉笛にまで迫ってきますよと進言しても、そのときは自分も全身全霊で戦うのみだと笑っておいででした」
「ふん……」
「あの御仁の器量は、なかなかに底が知れないです。じっくり見定めようというドンダ=ルウのお考えは、とても正しいと思いますよ」
そのように言ってから、カミュア=ヨシュはにんまり笑った。
「あの御仁を引っ張り出すことに成功できた時点で、俺の仕事は八割がた終了しました。あとは手の足りないジェノス侯やメルフリードに代わってあちこちを駆けずり回りつつ、ことの行く末を見守らせていただこうと思います。森辺の民がジェノスと正しい縁を結べるように、祈っておりますよ。……ではでは、後日正式なお返事をいただきにまた参上しますので、他の族長らにもよろしゅうに」




