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異世界料理道  作者: EDA
最終章 ファの家の婚礼

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1709/1710

婚儀の祝宴⑦~優しい時間~

2025.12/7 更新分 1/2

「いやー、本当に挨拶を受けるだけで、すっげー時間をくっちまったなー」


 スン家の四名が下がっていくと、ひたすら食欲を満たしていたルド=ルウが元気な声をあげた。


「これで二百四十人の人間と、ひと言ずつは言葉を交わしたってことなんだろ? 見てるこっちの気が遠くなりそうだったぜ。アスタもアイ=ファも、お疲れさん」


「うん、ありがとう。ルド=ルウも、こんなにじっとしてるのは大変だっただろう?」


「ま、たまにはこーゆーのも悪くねーさ。付添人になりてーって言い出したのは手前なんだから、文句は言えねーしな」


 そう言って、ルド=ルウはにっと白い歯をこぼす。ルド=ルウはこんな際にも感動や感銘と無縁であるようだが、その変わりのなさが俺を温かい心地にしてやまなかった。


「さっき菓子が届けられた時点で、もう一刻は過ぎてるんだろうなー。普段だったらとっくに横笛を吹いてるところだけど、ちっとばかりは様子を見るかー」


「ええ。祝宴の終わりは、まだまだ遠いでしょうからね」


 ガズラン=ルティムもゆったりと微笑みながら、そう言ってくれた。


「お二人も、しばらくは身をお休めください。料理や酒は、如何ですか?」


「いえ。なんだかんだで色々と口にしましたので、しばらくは十分です。もっと緊張して食欲もなくなるんじゃないかと危惧していたのですが、的外れでしたね」


 俺が笑うと、ガズラン=ルティムもいっそう優しく笑ってくれた。


「では何か、他にお望みのものでもありますか?」


「望みですか。よかったら、付添人の方々とも語らいたいところですね」


 ガズラン=ルティムが「我々と?」と目を丸くしたので、俺はますます楽しい心地になった。


「何かおかしいですか? 今日は特別に親しい方々に付添人をお願いしたのですから、俺はまだまだ語り足りないですよ」


「ふふん。そしてもう一名、お前が語りたい相手が出向いてきたようだぞ」


 アイ=ファの言葉に振り返ると、お盆を手にしたシュミラル=リリンが近づいてくるところであった。


「失礼します。こちら、料理、如何ですか?」


 それはレイナ=ルウ渾身の、香味焼きであった。

 俺もすでに小皿で軽くいただいていたが、シュミラル=リリンの厚意は無駄にできない。そして何より、シュミラル=リリンの存在を放ってはおけなかった。


「それじゃあ、シュミラル=リリンもぜひ一緒に食べていってください」


「はい。下心、備えていました」


 そう言って、シュミラル=リリンは嬉しそうに目を細める。その姿が、俺の胸をいっそう弾ませた。


「あれ? そういえば、ギラン=リリンのお子さんは一緒じゃないんですか?」


「はい。先刻、幼子のもと、菓子、届けたとき、妹ともども、眠ってしまいました。今日、朝から、昂揚していたので、疲弊、蓄積されたのでしょう」


「なるほど。シュミラル=リリンは、大事な伴侶とお子さんをほったらかしでいいんですか?」


「はい。なるべく、アスタ=ファ、言葉、交わすよう、ヴィナ・ルウ、厳命されました」


 シュミラル=リリンとて数日後には旅立ってしまうのに、ヴィナ・ルウ=リリンは俺なんかのことを優先してくれたのだ。その気遣いに、俺は胸が熱くなってしまった。


「ちょうどよかった。私はシュミラル=リリンに、感謝の思いを伝えたかったのだ」


 アイ=ファがそのように切り出すと、シュミラル=リリンは「感謝?」と小首を傾げる。

 アイ=ファは「うむ」とうなずきながら、別なる人々の姿も見回した。その相手は、ガズラン=ルティムとルド=ルウである。


「シュミラル=リリンばかりでなく、ガズラン=ルティムとルド=ルウにもな。アスタは森辺において数多くの相手と絆を深め、女衆の筆頭はレイナ=ルウとトゥール=ディンとユン=スドラであろうが……男衆は、この三名であるように思うのだ」


「んー? いきなり、なんの話だよ?」


「いきなりではない。私は前々から、そのことを得難く思っていた。無論、シン・ルウ=シンやラウ=レイや、その他にも同じ思いを抱く相手は数知れないが……やっぱりこの三名は、特別であるのだ」


 そう言って、アイ=ファはまずルド=ルウの顔を見つめた。


「森辺において最初にアスタの存在を許容した男衆は、ルド=ルウだった。べつだん順番などは関係ないのだが、それ以降もルド=ルウはアスタのよき友であり続けてくれたからな。如何なる際にも心を乱さず、時には稚気をこぼしながら、ルド=ルウは幼馴染のような気安さでアスタに安息をもたらしてくれた。二人の姿は、まるで仲のよい兄弟のように見えたものだぞ」


「ふーん。アスタが兄貴じゃ、頼りねーけどなー」


 と、ルド=ルウはやっぱり平常心である。きっとそれこそがルド=ルウの特性であり、美点であるのだ。

 そんなルド=ルウが心を乱すのは、いつも俺が窮地に陥ったときだった。俺がサンジュラたちにさらわれたときや、サイクレウスの使いの武官からおかしな要求をつきつけられたとき、ルド=ルウはいつも瞋恚を剥き出しにしていたのだ。


 しかしそれらは出会った当時の出来事であり、時を経るにつれてルド=ルウはどんどん動じなくなっていった。年齢よりも幼げで、無邪気の塊であるルド=ルウであるが、その揺るぎのなさは沈着な狩人たちにもまったく負けていないのだ。それでいて、いつまでたっても子供っぽいルド=ルウは、俺にとって安心できる悪友のごとき存在であった。


「いっぽうシュミラル=リリンは異国の生まれでありながら、最初からアスタと心が通じ合っていたように思う。屋台の客のひとりに過ぎない人間にどうしてそうまで執着するのかと、私もいぶかしく思っていたものだ」


 と、アイ=ファはシュミラル=リリンに目を向けた。


「そしてシュミラル=リリンはヴィナ・ルウ=リリンに婿入りを願い、ついには森辺の家人となった。今度はアスタと同じ立場から、かけがえのない朋友となってくれたのだ。それで二人はますます親密になっていき……私やヴィナ・ルウ=リリンが胸を騒がせるほどであったな」


「あはは。そういえば、以前はアイ=ファやヴィナ・ルウ=リリンにすねられることもあったっけ」


「うむ。ヴィナ・ルウ=リリンも婚儀を挙げたことにより、寛容になれたようだな。私もヴィナ・ルウ=リリンを見習いたく思う」


「え? アイ=ファは今でも、すねてたのか?」


「すねてなどおらん。ただ、お前とシュミラル=リリンの親密な関係にはつけいる隙がなく、時として寂寥の思いを味わわされることもあるのだ」


 とても穏やかな表情で、アイ=ファはそんなことを言ってのけた。

 そしてその目が、ガズラン=ルティムに向けられる。


「対して、ガズラン=ルティムにそういった浅ましき思いをかきたてられたことは少なかったように思う。それはひとえに、ガズラン=ルティムが人並み外れた大人物であったがゆえであろう。しかしガズラン=ルティムは若きアスタを軽んずることなく、いつでも対等の友として尊重してくれた。アスタは情の部分だけではなく、理の部分でもガズラン=ルティムを大きな支えにしていたはずだ」


「それは私も、同じことです。森辺に大きな変革をもたらしたアスタ=ファは、私にとって敬服すべき相手であったのですからね」


 アイ=ファに負けないぐらい穏やかな眼差しで、ガズラン=ルティムはそのように応じた。


「そして私は森辺における変人の類いですので、町で生まれ育ったアスタ=ファにも自然に共感することができたのです。敬服する相手に打算ではなく心からの親愛を抱けたことを、私は何より喜ばしく思っています」


「うむ。ガズラン=ルティムは年長の導き手でありながら、対等の友でもあってくれた。それを両立できる人間など、この世にそうそういなかろう」


 そのように語りながら、アイ=ファは他なる面々にも視線を巡らせていく。

 その対象となったのは、ドンダ=ルウとライエルファム=スドラとバードゥ=フォウであった。


「こちらの三名は、まさしく導き手として私とアスタを正しき道に導いてくれた。あらためて、感謝の思いを捧げたい」


「ふん。貴様たちを導いた覚えはねえな」


 ドンダ=ルウが素っ気なく応じると、アイ=ファは楽しそうに口もとをほころばせた。


「ドンダ=ルウのその厳格な態度こそが、私とアスタの指標になったのだ。ドンダ=ルウほど厳しく力のある人間に認められたとき、我々がどれほどの喜びと誇らしさを胸にできるものか……きっと当人には、想像もつかないのであろうな」


「はい。朝方にもお話ししました通り、ドンダ=ルウの厳しさと揺るぎなさが俺を導いてくれたんです」


 胸もとのギバの首飾りに手を添えながら、俺も言葉を重ねた。

 三年前のあの夜、ジバ婆さんのために作りあげたハンバーグを毒よばわりされた俺は、ほとんど喧嘩腰でドンダ=ルウを納得させるための料理を考案し――その過程で、自分の浅はかさを思い知らされたのだ。


 ドンダ=ルウは目先の欲得にとらわれず、森辺の民の行く末を見据えていた。その上で、やわらかいハンバーグは狩人にとっての毒になりかねないと判じたのだ。

 また、森辺におけるかまど番というのは家人の生命を預かる大切な役割であり、決して余所者に任せていいものではない。そういった森辺の習わしも決して二の次にしてはいけないという思いもあって、ドンダ=ルウは俺の存在を突っぱねていたのだ。


 そんなドンダ=ルウの思いを汲み取って、俺は噛みごたえのあるステーキを考案し、それをドンダ=ルウの家族たちに作りあげてもらった。その上で、自分の至らなさをドンダ=ルウに謝罪して――そうして、祝福の牙を授かったのである。


 あれはまぎれもなく、俺の原体験であった。

 自分の価値観を押しつけるだけでは、理解や共感を得ることはできない。相手の立場に立って行動するという、人間として当たり前の考えを学ぶことになったのだ。それから俺はアイ=ファのために、森辺の民のために、自分の力をお役に立てたいと決意したのだった。


(今にして思えば、カイロス三世に俺以外のかまど番の料理を食べてもらおうって考えついたのも、あの体験があったからなのかもな)


 それぐらい、あの時代の体験というのは俺の基盤になっているのである。

 だからこそ、俺は古き時代に知り合った人々にひときわの思い入れを抱いているのだろうと思われた。


「バードゥ=フォウとライエルファム=スドラは同じ小さき氏族の家長として、私たちに進むべき道を示してくれた。料理に関してはアスタが手ほどきする立場であったが、森辺の民としては我々が学ぶ側であったのだ」


 と、アイ=ファはさらに言葉を重ねていく。


「また、ともに正しき道を進みたいという熱情が、我々の大きな力になった。とりわけ近在に住まうフォウの血族は、その影響が顕著であったし……皆々が快く受け入れてくれたことで、私たちも自らの正しさを信ずることがかなったのだ」


「うむ。ひとたびは、こちらの都合で縁を切った間柄であるがな。恥をしのんでファの家にすがったのは、フォウの家長としてもっとも正しき決断だと思っている」


 バードゥ=フォウは静かな面持ちでそのように答え、その伴侶はちょっと目もとを潤ませていた。


「スドラなどは、なんとか貧しき生活から脱しようと全力でファの家に取りすがっただけのことだ」


 そんな風に言ってから、ライエルファム=スドラはくしゃっと笑った。


「しかし、いざ絆を結んでみると、アイ=ファもアスタも実に愉快な人柄だった。ただ恩を感じるばかりでなく、なんとしてでも友になりたいと願ったのだ。こうして絆を深めることができて、心から喜ばしく思っているぞ」


「うむ。それはこちらも同じことだ」


 アイ=ファもこの夜は気負うことなく、心からの笑顔を返した。

 そんなやりとりを見ているだけで、俺は胸が詰まってしまう。三年前の家長会議で、バードゥ=フォウやライエルファム=スドラはスン家の怒りを買うことも恐れずに賛同を表明してくれたのだ。ファとルウの中だけで完結していた商売の話が一気に広がったのは、彼らの勇気のおかげであるはずであった。


「……そして、アスタが心置きなくかまど番としての役割を果たせたのは、ルウとフォウの女衆を取り仕切る二人のおかげであっただろう」


 アイ=ファに目を向けられたミーア・レイ母さんは、楽しそうに口もとをほころばせた。


「なんだ、あたしたちもかい? そんな無理くり感謝する必要はないよ。あたしらは、付添人の役目を果たせただけで大満足なんだからさ」


「決して無理に感謝の思いをしぼり出しているわけではない。また、二人は本家の家長の伴侶として血族のすべての女衆を取り仕切る役目を負いながら、アスタにも過不足なく力を添えてくれた。その手腕にも、私は心から感服していたのだ」


 普段はあまり言葉を交わす機会のないミーア・レイ母さんとバードゥ=フォウの伴侶にも、アイ=ファは純真なる微笑みを向けた。


「私はこれまで数多くの家長や狩人を見習ってきたつもりだが、今後は女衆としての務めを一番に考えなければならない。私は二人を手本にして、立派な女衆を目指したく思う」


「アイ=ファの手本だなんて、恐れ多い話だよ」


 と、まだ目もとを潤ませていたバードゥ=フォウの家長も、屈託のない笑みを浮かべる。彼女もアイ=ファが幼い頃からの顔馴染みであるはずであるし、今となってはサリス・ラン=フォウの義理の母でもあるのだ。俺が想像していたよりも、アイ=ファは彼女の存在を意識していたのかもしれなかった。


「……そしてお前とは、文字通り顔見知りていどの間柄であろうな」


 と、アイ=ファは最後にランの少年にまで目を向けた。


「幼きお前とは、これまで縁を深める機会もなかった。私はいずれ刀を置いてしまうため、お前の手本となることもできまいが……なんらかの形で絆を深められればと願っている」


「い、いえ! アイ=ファがどれだけすごい狩人であるかは、これまでの収穫祭で見届けています! 僕もアイ=ファを見習って、立派な狩人を目指します!」


 ランの少年が頬を火照らせながら答えると、バードゥ=フォウが優しい笑顔でその小さな肩に手を置く。同じ血族であるバードゥ=フォウの伴侶やライエルファム=スドラも、温かい眼差しで少年の意気込む顔を見守っていた。


 しかしまた、血族ならぬガズラン=ルティムたちも眼差しの温かさに変わりはない。今この場には、血の縁を超越した信頼と友愛の思いがあふれかえっているように思えてならなかった。


(やっぱり俺たちは、みんなで手を携えたことで新しい道を切り開くことができたっていうことだ)


 俺がそんな感慨を噛みしめていると、小さな人影がぴょんと飛び出してきた。

 宴衣装の、リミ=ルウである。リミ=ルウはアイ=ファではなく俺の正面に立ち、じっと顔を見つめてきた。


「それじゃあリミは、アスタにお礼を言うね! アスタ、アイ=ファに出会ってくれて、どうもありがとう!」


「うん? いきなり、どうしたんだい?」


「アイ=ファと一緒で、いきなりじゃないよ! リミはずっと、アスタに感謝してたから! ひとりぼっちのアイ=ファを助けてくれたのは、アスタだからね!」


 リミ=ルウの水色をした瞳は、びっくりするぐらい澄みわたっている。そしてその小さな顔には、喜びの思いがあふれかえっていた。


「アイ=ファはみんなに迷惑をかけないようにって、自分でひとりぼっちになっちゃったから! でも、アスタのおかげで昔のアイ=ファに戻れたんだよ!」


「……ありがとう。そんな風に言ってもらえるのは、嬉しいよ」


 俺も精一杯の思いを込めて、リミ=ルウに笑顔を返した。


「でも、それなら俺からもお礼を言わせてもらうね。アイ=ファはもともとすごく優しい人間だったけど、それを育んでくれたのはご両親とリミ=ルウたちなんだよ」


「えー? そんなことないよぅ。リミは、なんにもしてないもん!」


「でも、そうなんだ。昔のアイ=ファにとって友達と呼べるのは、リミ=ルウとジバ=ルウとサリス・ラン=フォウの三人だけだったはずだからね」


 普段のアイ=ファであれば、こんな話を人前ですることも許さないだろう。しかしアイ=ファは俺を咎めることなく、ただ優しい眼差しでリミ=ルウの姿を見守っていた。


「アイ=ファは幼い頃から狩人になりたいって言い張ってたから、周囲の人たちに煙たがられてたんだ。そんなアイ=ファと仲良くしてくれたのが、リミ=ルウたち三人なんだよ」


「はい。ですがわたしは浅ましき思いからアイ=ファを遠ざけ、ついには縁を切ってしまいました」


 サリス・ラン=フォウが穏やかな声で告げると、ジバ婆さんも「そうだねぇ……」とつぶやきながら身を起こした。


「あたしもちょうどその頃に身体を壊して、気持ちもずいぶん弱っちまったから……アイ=ファが一番苦しい時期に、なんにもできなかったんだよ……」


 それは、日中にも語っていた言葉である。それぐらい、ジバ婆さんにとっては忘れられない記憶であるのだ。


「でも、それまでアイ=ファを育んでくれたのは、ジバ=ルウとサリス・ラン=フォウです。リミ=ルウが幼い時代はお二人がアイ=ファを支えて、その後はリミ=ルウが縁を繋いでくれたんです。俺にとっては、三人ともかけがえのない存在ですよ」


 俺はリミ=ルウとジバ婆さんとサリス・ラン=フォウの姿を見回しながら、そのように告げた。


「そうしてアイ=ファが優しい人間に育っていなかったら、俺なんて出会った日に見殺しにされていたか、よくても宿場町に叩き出されていたところでしょう。やっぱりみんなの力があって、今があるんです。俺は昔から、そんな風に思っていました」


「ええ。私もかねてより、アスタ=ファの存在を最初に受け入れてくれたアイ=ファに感謝していました。でもそのアイ=ファも、他なる方々に支えられていたということですね」


 ガズラン=ルティムも穏やかに微笑みながら、声をあげた。


「誰が欠けても今はないというアスタ=ファの言葉に、私も同意いたします。そしてそれは善良な人間ばかりでなく、大罪人たるザッツ=スンやテイ=スン、サイクレウスやシルエルすらも例外ではないのでしょう。よきものも悪しきものもおたがいに影響を与えながら、世界を形づくっているということです」


「なんだか話がでっかくなってきたなー。ま、アスタたちの婚儀なんだから、好きにすりゃいいけどよ」


 こちらに回り込んできたルド=ルウが、気安く妹の赤茶けた頭を小突いた。


「でも、おめーまで真面目くさることはねーだろ。おめーがけらけら笑ってるだけで、アイ=ファは楽しい心地だろうからよ」


「ふーんだ! ルドにはわからないんだよー!」


 リミ=ルウは笑いながら、ルド=ルウの腕をぺちぺちと叩く。ただその水色の瞳にも、わずかに白いものが光っていた。


 そして、敷物から身を起こしたジバ婆さんは足もとの猟犬たちをよけながら、アイ=ファの座した台座に取りすがる。アイ=ファはどこか幼い顔で微笑みながら、ジバ婆さんの痩せ細った指先を手に取った。


「アスタの言う通り、私を育んでくれたのはジバ婆たちだ。母メイが魂を返す前から、ジバ婆は母のような存在だったぞ」


「ふふ……こんな皺くちゃの母がいてたまるもんかい……」


 このたびはジバ婆さんも涙をこぼすことなく、ただ透き通った眼差しでアイ=ファを見つめている。そしてサリス・ラン=フォウもこらえかねたように、アイ=ファの肩にそっと手を置いた。


 広場は大層な賑わいであるが、その中心であるこの場にだけは静かで温かい時間が流れている。

 でもきっと、これも必要なひとときであるのだ。家族の代理をお願いした人々に囲まれて、俺は胸が詰まるほど幸せな心地であった。

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>目もとを潤ませていたバードゥ=フォウの家長も、 伴侶も、では?
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