幕間 ~ファの家の晩餐~
2025.6/9 更新分 1/1
・今回は全7話です。
《青き翼》の面々をルウの集落に招いた晩餐会から、二日後――青の月の五日である。
その日は森辺のさまざまな氏族で、数多くの客人が招かれることになった。
ルウの血族は《銀の壺》、ザザの家はティカトラスの一行、小さき氏族は建築屋の面々と、それぞれ異なる客人を迎えることになったのだ。
これは何も示し合わせたわけではなく、たまたま偶然が重なっただけのことである。ルウの血族があらためて《銀の壺》を晩餐にお招きしようと声をかけた折に、建築屋のほうも仕事の都合がついて森辺にやってくることになり――そして同じタイミングで、ティカトラスの一行が森辺に滞在し始めたわけであった。
「あと一日ずれていればルウ家にお邪魔できたのに、残念でしたね」
その日のファの家の晩餐の場において、俺がそのように呼びかけると、メイトンは「いやあ」と気まずそうに頭をかいた。
「そんな、アスタまで気をつかわないでくれよ。ファの家にお招きされるだけで、俺は十分に嬉しいんだからさ」
「ふん。これで文句を垂れるようだったら、俺もいい加減に見限っておったわ」
と、バランのおやっさんは仏頂面で豆乳鍋の煮汁をすすり、アルダスは愉快そうに笑い声をあげる。ファの家には、馴染み深いこちらの三名をお招きすることがかなったのだ。あとは、フォウ、ガズ、ラッツ、ベイム、ダイ、リッドといった氏族が、それぞれ二名から三名ずつの客人を迎えて盛大な晩餐会を開いているはずであった。
「他の氏族は眷族も招いて、祝宴さながらの晩餐会を開いているようですからね。ファの家は眷族もないもので、恐縮です」
「いやいや。こうしてアスタたちとじっくり語れるのは、祝宴と同じぐらい楽しいさ。アスタこそ、ひとりでこれだけの食事を仕上げるのは大変だっただろう?」
「いえいえ。この楽しい時間のためだったら、何の苦にもなりません」
俺が本心からそのように答えると、アルダスたちも嬉しそうに笑ってくれた。
本日はユン=スドラたちも多忙であったので、俺はひとりで奮起することになったのだ。しかし、アイ=ファを含めて五名分の食事であれば、音をあげるほどのことでもなかった。
主菜はおやっさんたちからのリクエストで、かつての晩餐会でも供した最新作の角煮である。香草は使わずに、さまざまな調味料で最善の仕上がりを目指したひと品だ。こちらは圧力鍋が必要な関係から屋台で扱うことが難しい品であるため、是非とももういっぺん口にしたいというお言葉をいただけたのだった。
あとはギバ肉とカニに似たゼマの豆乳鍋に、カブに似たドーラのそぼろ煮、凝り豆とゴーヤに似たカザックのチャンプルー、マツタケに似たアラルの茸の炊き込みシャスカと、なるべく新しめの食材を使って献立を組み立てている。おやっさんたちの満足そうな表情で、俺の苦労は余すところなく報われていた。
「それにしても、三組も客がかぶるなんて、豪気な話だよなぁ。あのティカトラスとかいう騒がしい貴族様は、ザザの家に乗り込んでるんだっけ?」
「ええ。以前も北から順番に、すべての氏族の集落を巡っていたんですよ。数日後には、ファの家にお迎えすることになるかもしれませんね」
すると、アイ=ファがおやっさんたちの姿を見回した。
「そういえば、バランたちもティカトラスと縁を深めることになったのであろうか?」
「この前の祝宴を終えてからは、ときどき屋台で出くわすぐらいかな。まあ、さんざん噂は聞いてたんで、べつだん驚きはしなかったが……いまだにあれが貴族様だとは信じ難いところだね」
建築屋の面々も、ティカトラスと遭遇するのはこのたびの来訪が初めてであったのだ。ただし彼らは昨年の復活祭でも来訪していたので、その折にティカトラスの風聞は嫌というぐらい耳にしているはずであった。
「ま、あちらさんも建築屋なんぞに用事はないんだろ。《銀の壺》の連中は、しつこく絡まれてるんだっけ?」
「ええ。昨日なんかはティカトラスが宿屋に押しかけてきて、晩餐をともにすることになったみたいです。《銀の壺》はジェノスを出た後にマヒュドラ経由で西の王都に向かうので、ティカトラスはマヒュドラの品を買いつけたいと願っているようですね」
「ふうん。酔狂なこったねぇ。ついこの間までは、竜神の民にご執心だったんだろう?」
「ええ。そちらは商談がまとまったようですね。今は、森辺の民が《青き翼》と商談を進めている真っ最中です」
「ああ。予定通り、ギバの干し肉やら腸詰肉やらを大量に売り渡すんだよな。あいつらが本当にジャガルまで乗り込んでくるんなら、喜ぶ人間は多いはずだよ」
「ふん。しかし、お前さんがたはギバ肉が余っていないので、そちらの商売には関われないのだろう?」
おやっさんの問いかけに、アイ=ファは「うむ」と応じた。
「その代わりというわけではないが、ファとルウの血族はそれ以外の品を準備する役目を担うことになった」
「それ以外の品っていうと、牙やら角やら毛皮やらか。あとは、骨なんかも売り渡すんだっけ?」
質問者がアルダスに切り替わり、アイ=ファもそちらに向きなおる。
「骨に関しては、頭骨の扱いに慣れているドムの家が受け持つ。我々は、それ以外の三品ということだな」
「なるほど。そういった品は、もともと売り物なんだよな? あの連中に売り渡すことで、ちょっとは得になるのかい?」
「いや。けっきょく、普段と同じ値で売り渡すことになった。大量の干し肉と腸詰肉を買いつけた《青き翼》に対する、返礼の意味合いであるそうだ」
「ふうん。まあ、森辺のみんなが損をしないなら、それでいいけどよ」
「うむ。肉に比べれば、牙や角の売り値などは微々たるものであるからな。無論、赤銅貨一枚とて軽んずる気はないが……同じ品を売り渡して多くの銅貨を得るというのは落ち着かぬ心地であるので、私も異存はない」
そういう話は、のきなみガズラン=ルティムとツヴァイ=ルティムが取り決めたのだ。いちおうジェノスの貴族にも話を通しつつ、従来通りの業者価格で売り渡すことに決定されたのだった。
「でも俺としては、ファの家がそちらの担当になれたことを嬉しく思っていますよ。アイ=ファが狩ったギバの角や牙が首飾りに仕上げられて、どこか遠くの人々が身につけることになるのかと思うと、何だか楽しい心地ですからね」
「そうか。確かにジャガルでギバの首飾りなんかを見かけたら、俺たちも愉快な気分になるのかもな」
メイトンやアルダスが笑い声をあげて、いっそう和やかな空気になっていく。
そんな中、おやっさんがしみじみと息をついた。
「それにしても、今回は例年以上にジェノスが賑わっているようだな。まあ、悪い騒ぎでないのは、幸いな話だが」
「ええ。みなさんと《銀の壺》の来訪が重なった上に、《青き翼》とティカトラスたちまでおられますからね。リコたちが傀儡の劇を披露している時間帯なんかは、復活祭を思い出すぐらいです」
「うむ。しかも城下町にはジャガルの姫君が居座っていて、東の王都の料理番などというものまでうろついているのだからな。……そういえば、東の王都の使節団というものも、近々やってくるという話だったか?」
「はい。おそらく青の月の間には来訪すると思います。来月までもつれこむと、あちらから買いつけた食材も底をついてしまうようですからね」
「まったく、大層な騒ぎだな。……その連中がやってきたら、またお前さんも引っ張り出されてしまうのか?」
「うーん、どうでしょう。もしまた目新しい食材が持ち込まれるようでしたら、きっと声をかけられるのでしょうね」
「そうなのか」と、メイトンが心配げな声をあげた。
「もうそっちの連中とはカタがついてるって話だけど……逆恨みで、おかしなちょっかいをかけられることはないだろうな?」
「ええ。以前にお迎えした使節団の方々も、とても友好的でしたよ。責任者は別の御方に変更される見込みであるようですが、危険なことはないはずです。そもそもジェノスのことが気に入らないなら、交易しなければいいだけの話ですからね」
「そうか。ひと通りの話は聞いてるはずなんだけど、あまりに色んなことが起きてるもんだから、どうにも整理がつかないんだよなぁ。いっそ、その騒ぎも傀儡の劇に仕立ててほしいぐらいだよ」
「そいつはいいな。ひどい目にあったアスタたちには申し訳ないけど、それだけの騒ぎだったら大層な劇に仕立てられるんじゃないか?」
アルダスもそのように言いたてたが、あくまで冗談口といった雰囲気だ。よって俺も、笑顔で答えることにした。
「リコたちだったら立派な劇に仕立てられるでしょうけれど、内容が内容ですからね。シムの王家の恥を世間にふれて回るような劇は、危ないように思います」
「そいつは、もっともだ。あの可愛らしい娘さんたちがシムの暗殺者につけ狙われたら気の毒だから、我慢しておくか」
すると、おやっさんがやや真剣な眼差しを俺に向けてきた。
「それでも城下町では、ジャガルの姫君が東の王都の連中と出くわすことになるわけだが……そちらでも、危険はないのだろうな?」
「はい。ポワディーノ殿下も、デルシェア姫とは何度か同席しておられましたからね。ジャガルの方々もシムの方々も、西の地で諍いを起こさないという盟約を固く守ってくれていますよ」
「そうか。まあ、シムもジャガルもセルヴァを敵に回すことはできんからな。それを理解していないような人間を、西の地に出すことはありえんか」
「そりゃそうさ。おやっさんは、心配性だな」
アルダスは陽気に笑いながら、炊き込みシャスカを豪快にかきこんだ。
「まあ、こんなに色々な連中が入り乱れる土地なんて、他にはないんだろうけどな。三国の王都のお偉方に、竜神の民なんてもんまでまぎれこむとは驚きだよ。しかも、そのすべてが森辺の民と深く関わってるんだもんなぁ」
「ああ。それに比べたら、俺たちや《銀の壺》なんてちっぽけなもんだよな」
「いえいえ。より深いおつきあいであるのは、みなさんのほうですからね。森辺にまで押しかけてくるティカトラスは例外としても、他の方々は貴族のみなさんの領分です」
「しかし、深く関わっているのは事実であろう?」
おやっさんに追及されて、俺は居住まいを正すことになった。
「そうですね。俺も失礼のないように心がけて、健全な関係を保ちたいと思っています」
「べつだん、気負う必要はない。お前さんはこれまでも上手くやっていたのだろうから、それを続ければいいだけのことだ」
と、おやっさんも真剣な眼差しをゆるめてくれた。
俺がほっと息をついていると、アイ=ファが穏やかに声をあげる。
「アスタの身を案じてくれて、ありがたく思う。すべての森辺の民がアスタと同じ覚悟を携えているはずなので、どうか心安らかに見守ってもらいたい」
「うむ。俺たちこそ、余計な口を出せる立場ではないからな。東の連中とも上手くやれるように、祈っている」
そうしておやっさんが身を引くと、今度はメイトンが身を乗り出した。
「そういえば、西の王都の外交官ってやつも、そろそろ別の人間に交代される時期なんだって? 東の王都の連中より、そっちのほうを警戒するべきじゃないか?」
「はい。警戒ですか?」
「そりゃあそうだろう。二年前には、あんな騒ぎがあったんだからよ」
二年前――監査官のドレッグとタルオンとやってきた折には、建築屋の面々も間近から騒動を見守ることになったのだ。ダグやイフィウスといった武官たちが建築屋と同じ場で屋台の料理を食していたのも、懐かしい思い出であった。
「そうですね。でも、次にやってきた外交官のフェルメスというお人は、とても友好的でしたよ」
「フェルメスってのは、あの女みたいに綺麗な顔をした貴族様だよな? ジャガルの王子様が開いた試食会ってやつでも、さんざん姿を見かけたけど……ちょっとばっかり、正体の知れないお人だよな」
そのように言ったのは、アルダスだ。アルダスとおやっさんは、ダカルマス殿下が開催した試食会の場で、フェルメスとニアミスしていたのだった。
そして今回の来訪では、晩餐会や祝宴をともにしている。個人的な交流を深める機会はなかったのだろうが、遠目に見てもフェルメスの存在は印象的であるはずであった。
「確かにフェルメスもちょっと難しい部分がありますけれど、なんとか交流を深めることができました。でもまだ物足りない部分があるので、今度晩餐をご一緒することになったんですよ」
「ふうん? ひさびさに、城下町まで出向くのかい?」
「はい。あちらが森辺までいらっしゃるのは難しいということだったので、こちらから出向くことになりました」
その返事をもらったのは、昨日のことである。ティカトラスに受け身の姿勢を指摘された俺はすぐさまアイ=ファに相談をして、そんな約束を取り付けることになったのだった。
「そういえば、ここ最近のアスタは屋台の商売でしか、城下町に出向いてなかったもんな。去年や一昨年に比べたら、ずいぶん大人しいもんじゃないか」
「ええ。みなさんがいらっしゃる直前に、婚儀の祝宴に招かれていますけれどね。一ヶ月以上も日が空くのは、ちょっとひさびさかもしれません」
俺が視線で同意を求めると、アイ=ファも「うむ」とうなずいた。
「言われてみれば、その通りだな。ジェノスの貴族たちも、今はアスタが多忙であろうと気づかっているのではないか?」
「うん。ポルアースやエウリフィアは、きちんとそういう部分も考えてくれるもんな」
「そんな中、お前は自ら城下町に乗り込みたいと志願したわけだな」
俺が思わず口ごもると、アイ=ファは「冗談だ」と楽しそうに目を細めた。
「私もフェルメスと別れる前に、もっと絆を深めておきたいと考えていた。だから、お前の申し出に賛同したのだ」
「あはは。やっぱりアスタも、アイ=ファにはかなわないな。きっとこの先も、尻に敷かれるぞ」
メイトンが軽口を叩くと、アイ=ファはけげんそうに小首を傾げた。
「尻に敷かれる……とは、あまり聞かぬ言葉だ。いったい、どういう意味であろうか?」
「そいつは、アスタが説明してくれるよ」
「あ、いや……そんな、アイ=ファが気にするような話じゃないよ」
俺の記憶に間違いがなければ、尻に敷かれるというのは夫婦関係を示す言葉であるのだ。アイ=ファは不満げに眉をひそめたが、和やかな空気を継続させるために俺は口をつぐんでおくことにした。
そのタイミングで料理があらかた片付いたので、俺は食後の菓子の準備をする。
普段は菓子を出さないほうが多いファの家であるが、建築屋の面々はのきなみ甘味を好んでいるので腕をふるったのである。本日準備したのは、ノマとブレの実を使った寒天ぜんざいのごときひと品であった。
「おお、こいつは例のノマってやつか。こいつはチャッチもちともちょいと違ってて、愉快な食べ心地だよな」
建築屋の面々は、みんな満足そうに素朴な味わいの菓子を楽しんでくれている。
いっぽうアイ=ファも不満はない様子であったが、ただ問いかけるような眼差しを俺に向けてきた。
「ああ、うん。新しい煎餅に関しては、もうちょっと待ってくれ。たぶん、フェルメスとの晩餐会までには仕上がると思うからさ」
「なんだ、アスタは新しい菓子を考案中なのかい?」
「はい。いずれ完成したら、みなさんもご感想をお願いしますね」
「もちろんさ! また森辺に遊びに来る楽しみが増えたな!」
そんな風に言ってから、メイトンはふっと息をついた。
「でも、ジェノスに居座れるのも、あとひと月足らずか……楽しい時間ってのは、あっという間に過ぎちまうなぁ」
「なんだよ、いきなり? そんなもん、今に始まったことじゃないだろう?」
「ああ。だけど年々、森辺の人らとは交流が深まってるからさ。こういう仕事のときは復活祭のときほど自由に動けないから、物足りなく思っちまうのかもな」
「ふん。それこそが、当然の話であろうよ」
ノマのぜんざいを完食したおやっさんは、残っていたチャッチ茶を飲み干した。
「羽をのばすのは、復活祭まで待っておけ。日々の仕事を真面目に果たしているからこそ、ああいう遊楽を楽しめるのだぞ」
「わかってるさ。でも今回の滞在で、あと何回森辺にお邪魔できるのかなぁ?」
「それもすべては、仕事次第だ」
ぶっきらぼうに言い捨ててから、おやっさんは目もとを和ませた。
「あと半刻もしたら、宿屋に戻らなくてはならんのだからな。そんなしみったれた顔で、残りの時間を過ごすつもりか?」
「……そうだな。文句を言うのは、明日でいいか」
と、メイトンはどこか気恥ずかしそうに笑った。
「アスタたちも、悪かったな。もっと森辺の話を聞かせてくれよ」
「そうそう。半年ぶりなんだから、もっと積もる話は残ってるだろう?」
アルダスにもうながされて、俺は「そうですね」と笑顔を返した。
もう大がかりな話題はのきなみ打ち明けているはずだが、この顔ぶれであればどのような話題でも楽しむことができるだろう。おやっさんの言う通り、時間は限られているのだから、一分一秒も無駄にはできなかった。
◇
それから、およそ半刻後――フォウやリッドに出向いていたメンバーが、自前の荷車でおやっさんたちを迎えに来た。
それを先導するのは、ファファの手綱を握ったチム=スドラだ。スドラやランの面々もフォウの集落まで出向いて、ともに晩餐を楽しんだのである。この後は最南に位置するダイの集落からやってくるもう一台の荷車とガズの集落で合流して、そのまま宿場町まで護衛してくれる手はずになっていた。
「それじゃあ、今日はありがとうな。明日の屋台も、よろしく頼むよ」
「はい。どうかお気をつけて」
二台の荷車が闇の向こうに溶けるのを見送ってから、俺とアイ=ファは母屋に引き返す。
開け放しであった扉から小屋のほうを確認すると、すでに犬やトトスたちもぐっすり寝入っていた。
それらの光景を優しい眼差しで確認してから、アイ=ファは扉をぴったり閉ざす。小屋が増築されて以来、これがファの家の新たな夜の習慣であった。
母屋の広間に居残っているのは、黒猫のサチと白猫のラピのみだ。サチたちも時おり小屋で身を休めているが、おおよそはこれまで通りに寝所で眠っていた。
「やっぱり家にお招きすると、じっくり腰を据えて語らえるから楽しいよな」
俺がそのように呼びかけると、アイ=ファは穏やかな面持ちで「そうだな」と首肯した。
「大がかりな祝宴や晩餐会にもそれぞれ趣があろうが、やはり私は自分の家がもっとも心安らかでいられるようだ」
「うんうん。どっちが上ってわけじゃなく、それぞれの楽しさがあるからな。今回は一日置きに三種類の会を楽しめて、すごく贅沢な気分だよ」
二日前には《青き翼》を招いた晩餐会、四日前には《銀の壺》を招いた祝宴であったのだ。イベントの種類ばかりでなく、招いている客人までもがバラエティにとんでいた。
「それで次は、城下町の晩餐会か。家長会議を前にして、慌ただしいことだな」
「ああ、家長会議はもう五日後だっけ。東の王都の使節団をお迎えするのは、その後になりそうだな」
「それに、西の王都の者たちもな。その前に、フェルメスともしっかり絆を深めておくべきであろう」
そんな言葉を交わしながら、俺たちは晩餐の片付けと寝支度を終えた。
二名の猫を引き連れて寝所に出向くと、アイ=ファは髪留めをほどいて金褐色の髪をなびかせる。燭台の明かりに照らされるそのきらめきに、俺は思わずうっとりしてしまった。
「フェルメスと、そしてガーデルもだな。……あやつは、まだ臥しているのか?」
「うん。何か変化があったらすぐに伝えてくれるって話だよ。……ガーデルはずいぶん長引いてるから、心配だよな」
「うむ。孤独に過ごす時間が、ますますあやつの心を弱めてしまうやもしれんからな」
寝具の上に座したアイ=ファは、真正面から俺の顔を見つめてきた。
「私はどのような苦難でも乗り越えるつもりだし、お前の身も守ってみせる。そして、ガーデルにも同じ道を歩んでもらいたいのだ」
「うん。俺だって、そう思ってるよ。ガーデルは、すごく難しいお人だけど……見捨てることはできないからな」
アイ=ファは「うむ」とうなずいてから、俺の手をそっと握りしめてきた。
「では、眠るか」
「うん、そうだな」
俺たちは手を繋いだまま、寝具に横たわった。
このように手を繋ぎながら眠るようになってから、すでに三ヶ月以上の日が過ぎている。しかし、ポワディーノ王子たちを迎える前夜以来、俺が悪夢に見舞われることはなかった。
俺が次に悪夢に見舞われるのは、いったいいつのことなのか――そしてそのときこそ、俺は悪夢を乗り越えることができるのか――アイ=ファの指先の温もりは、毎夜のようにそんな思いを俺にもたらすようになっていた。




