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異世界料理道  作者: EDA
第九十一章 慶祝の黄の月(上)
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婚儀の前日②~下準備~

2024.12/7 更新分 1/1

「えっ! ま、また屋台で売る品の量を増やすのですか?」


 トゥール=ディンが驚きの声をあげたのは、森辺に戻る荷車の車中においてであった。

 本日は昨日よりも四半刻ほど帰りが遅くなったので、宿場町の商売中に会議を行う時間がなかったのだ。それで帰り道に、同乗を願ったのだった。


「もちろん、最後に決めるのは族長と家長だけどね。ダリ=サウティは現場の方針にまかせるっていう姿勢だから、グラフ=ザザとドンダ=ルウとアイ=ファ次第ってことさ」


 これはルウとファとディンの家による商売であるため、決定権はそれぞれの親筋の家長にあるのだ。そしてそれに許しを与える族長も、ドンダ=ルウとグラフ=ザザが兼任しているわけであった。


「もしも料理が210食分になったら、菓子は1・25倍で260食分ぐらいが妥当だと思う。もし許しをもらえたら、それだけの量を準備することは可能かな?」


「は、はい。分家の石窯もお借りできれば、問題はないかと思いますが……で、でも、族長たちに叱られたりはしないでしょうか……?」


「許しをもらえないことはあっても、叱られたりはしないんじゃないかな。そもそも言いだしっぺは俺とララ=ルウで、トゥール=ディンは提案されてる側なんだからさ」


「い、いえ。わたしも商売の責任者として、同じだけの責任を背負いたく思います」


 そうして奮起しながらも、やっぱり不安そうに目を瞬かせるトゥール=ディンである。若年の身たるトゥール=ディンが俺やルウ家の面々とともに責任者の座を担うというのは、やはり大変な苦労なのだろうと察せられた。


「まあとりあえずは、家長たちの返答しだいだね。そういえば、今日の増量に関しては、グラフ=ザザまで話は通ってるのかな?」


「い、いえ。今日は損が出る見込みもごく薄かったので、ディンの家長の裁量で決められました。それ以上の話となると、やっぱりグラフ=ザザのお許しが必要になりますので……ちょっと時間がかかるかもしれません」


「うん。次の営業日は明後日だから、それには間に合わないかもね。無理に急ぐ必要はないから、じっくり進めよう」


 なおかつ本日は、ユーミとジョウ=ランの婚儀の前日なのである。この後はそのための下準備に励まなくてはならないのだから、慌ただしい限りであった。


「正直に言って、一番しんどいのは今日じゃない? 何せ、屋台と祝宴の下ごしらえが重なってるんだからねー」


 行き道と同様に、ララ=ルウも同じ荷車に同乗している。そちらに向かって、俺は「うん」と応じた。


「でも、人手そのものは不足してないから、大変なのはその配分だよね。ルウでは、ララ=ルウが一番大変なんじゃないかな?」


「あたしは人手を割り振るだけだから、苦労は他のみんなと変わらないさ。祝宴って言っても、宿場町の広場のほうだけだしねー」


 明日は日中の宿場町と夜間の森辺で、2度にわたって祝宴が開かれる。ルウは宿場町の祝宴のみ受け持っていたが、俺はその両方で手腕を振るう手はずになっていた。

 ただし、森辺の祝宴で主体を担うのはフォウの血族であるため、俺は宿場町の祝宴をやり遂げたのちに移動して、そこから可能な範囲で仕事に励むのみである。作業量そのものは、朝から森辺で支度に励むフォウの血族の人々と大差はないはずであった。


 そこにのしかかってくるのが、屋台の商売である。

 明日も営業日のさなかであり、そちらも休業することなく敢行するのだ。それは、婚儀の影響で屋台を閉めると無関係のお客たちに不満が生じかねないと懸念しての行いであった。


 ただし、営業の規模は縮小される。普段は総数8台の屋台であるところを4台に減らして、残る4台を広場の祝宴のほうに回すのだ。そもそも広場で祝宴を行うからには本来の屋台も客足は減少するはずであるので、無理に屋台を拡張する必要も認められなかったのだった。


 よって、働く人員に大きな変動はない。

 変動するのは、取り仕切り役に関してだ。仕事場が分散するならば、そのぶん取り仕切り役も増員する必要が生じるわけであった。


 ファの家においては、俺が広場の祝宴、マルフィラ=ナハムが宿場町の屋台、ラッツの女衆がトゥランの取り仕切りという配置になる。そして最後にはみんなで合流して、フォウの集落の祝宴に参ずる手はずであった。


 いっぽうユン=スドラはフォウの血族の代表として、朝から集落の祝宴の準備の取り仕切りである。ユン=スドラは宿場町の祝宴に参ずることなく、ひたすら森辺で仕事に励もうという姿勢であった。


「ユン=スドラだってユーミとはそれなりの仲なのに、宿場町の祝宴に出られないのは残念だったねー」


 心優しきララ=ルウがそのように告げると、ユン=スドラは満ち足りた面持ちで「いえ」と答えた。


「夜には祝宴をともにできるのですから、どうということもありません。それよりも、ユーミにとってもっとも大切な日の祝宴を任せられたことを、誇らしく思っています」


「うん。あたしも何とかそっちの祝宴に出向けるようになったから、楽しみにしておくよ」


 ララ=ルウが明るく笑うと、ユン=スドラも口もとをほころばせる。なんというか、とても森辺の民らしい真っ直ぐで温かな心の交流であった。


 そうしてルウの集落に到着したならばララ=ルウたちに別れを告げて、いざファの家に帰還だ。今日はもう、おたがいの家でひたすら明日のための下準備であった。

 なおかつ、ユン=スドラは夜の祝宴の下準備であるため、当番であったサウティの血族を引き連れてフォウの集落へと向かう。トゥール=ディンとザザの血族もディンの家に向かい、俺のもとに残されたのは他なる氏族の面々であった。


 常勤のメンバーとしてはレイ=マトゥアとマルフィラ=ナハム、それにラッツやダゴラなどの女衆も顔をそろえている。さらにファの家に到着すると、そこにはすでにガズとラッツとベイムとラヴィッツを親筋とする面々が居揃っていた。


「アスタ、お疲れ様でした。城下町の商売は如何でしたか?」


 そのように問うてきたのは、本日の当番から外れていたフェイ・ベイム=ナハムである。婚儀を挙げたことで生来の生真面目さに一抹の穏やかさが加えられた、頼もしき女衆だ。ショートヘアーと一枚布の装束も、すっかり板についていた。


「ええ。今日は前回以上の賑わいでした。また家長たちに料理の増量を提案する予定ですので、それが通ったらよろしくお願いします」


「承知しました。でも、まずは明日の祝宴と商売ですね」


「はい。念のために、明日の割り振りを確認させていただきますね」


 俺は意欲に満ち満ちた他なる面々の姿を見回しながら、言葉を重ねた。


「前々からお伝えしている通り、明日は婚儀の祝宴と屋台の商売で複数の仕事を受け持つことになりました。ちょっとややこしい部分もあるかと思いますので、混乱しないように気をつけてください」


 まず、祝宴に関しては昼夜ともに俺が責任者で、宿場町の屋台はマルフィラ=ナハム、トゥランの商売はラッツの女衆に取り仕切り役をお願いする。その下準備もそれぞれの血族に中核を担ってもらい、俺の部隊に組み込まれたのはガズと眷族たるマトゥアの面々であった。


「それで明日はフォウのかまど小屋をお借りできない関係から、トゥランの商売の下ごしらえもラッツのかまど小屋でお願いすることになりました。無理な願い出を聞いていただき、心から感謝しています」


「いえ。家長も心から誇らしそうにしていたので、どうぞお気になさらないでください」


 と、ラッツの女衆が落ち着いた笑顔を返してくる。取り仕切り役に関してはレイ=マトゥアをも上回る、頼もしいかまど番だ。そういえば、今この場には俺よりも年長者である彼女とフェイ・ベイム=ナハムとリリ=ラヴィッツが勢ぞろいしていた。


「今日の下準備は口頭説明のみですので、三組合同で執り行います。明日の午前中の下ごしらえはトゥランの商売がラッツの家、それ以外がファの家になるわけですね。なおかつ、意思の疎通に不便が出ないように、宿場町の組はラヴィッツとベイムの血族、広場の祝宴はガズの血族を主体にさせていただきました」


 さらに、下ごしらえを終えた俺たちが出立したのちには、さらなる人員が集結して後明日の商売の下ごしらえを開始する。最終的に、そちらの責任者となるのはフェイ・ベイム=ナハムとガズの女衆であった。彼女たちは屋台や祝宴の当番を担ったのち、集落に戻って下ごしらえの監督を務めるわけである。


「おふたりには負担をかけてしまって、申し訳なく思っています。なるべく不便のないように取り計らったつもりですが、何かあったら遠慮なく声をかけてください」


「いえ! 大事な取り仕切り役を任せていただけるのは、栄誉なことですので!」


 ガズの女衆は頬を火照らせながら、そんな風に言ってくれた。

 明日は他なる中核のメンバーがのきなみ夜の祝宴に招待されているため、彼女やフェイ・ベイム=ナハムに留守を預けることになったのだ。ユン=スドラを筆頭とするフォウの血族を頼れない関係から、それ以外の氏族の精鋭を総動員している感が否めなかった。


「それでは、下準備を開始しましょう。それぞれの取り仕切り役の指示に従って、各自お願いします」


 宿場町とトゥランの商売を担う面々が寄り集まる姿を横目に、俺はガズの血族の面々を迎え入れた。まあ、ガズにはマトゥアしか眷族がないため、いずれも見慣れた顔ぶれだ。

 なおかつ、明日の下ごしらえに関しては、すでに居残り組の手によって完了している。これから為すべきは、明日の作業をスムーズに進めるための段取りの確認であった。


「明日の広場の祝宴では、俺がギバ肉の豆乳煮込み、レイ=マトゥアがギバ・カレーを受け持つからね。宿場町の組は下ごしらえでかまどを使わないから、屋内のかまどはレイ=マトゥアの組、屋外のかまどは俺の組が使うことにしよう。それで、カレーの内容も普段と違っているから、レイ=マトゥアの指示を聞いてくれぐれも間違いのないようにね」


 年長者がすべて他なる組に編成されたため、俺はくだけた調子で説明を進める。そこで声をあげたのは、マトゥア分家の若い女衆であった。


「魚介の具材を使って、普段よりも豪華なかれーに仕上げるのですよね? やっぱりルウやディンでも、普段より立派な品を準備するのですか?」


「うん。今回はラン家に代金をいただいて、宴料理を広場でふるまうっていう形式だからね。儲けは度外視で、豪華な品を準備することになったんだよ」


 そして広場に集まった人々は、相応のご祝儀を支払った上で宴料理を口にする。俺たちが儲けを度外視するのも、ラン家に対するご祝儀である。俺は人件費だけを確保して、あとはのきなみ食材費につぎ込むことを、アイ=ファに許してもらっていた。


「あれ? でも、ディンは普段からひとつの屋台しか出していませんよね? そちらが広場に場所を移すとすると……屋台の商売のほうでは、菓子を売りに出さないのですか?」


「いや。明日は特別に、ルウの屋台で作り置きの菓子を売ることになったんだよ。あっちにもリミ=ルウっていう、菓子作りの名手が控えてるからね」


「ああ、普段の屋台の他に、菓子まで準備するのですか。ルウの方々も、大変な苦労を担っているのですね」


「うん。でも、ルウは夜の祝宴で料理を出さないからね。今日と明日の朝方までに、苦労が集約してる感じになるのかな」


 いっぽうこちらは広場の祝宴をやり遂げたのち、夜の祝宴の準備や明後日の下ごしらえに取り組む立場である。ファの家がトゥランの商売を受け持つ日取りであった関係から、なかなかの慌ただしさであった。


「こんなにいくつもの仕事を受け持てるのも、みんなが頼もしいおかげだよ。色々と苦労をかけちゃうけど、どうぞよろしくね」


「いえ! わたしはずっと集落に留まる身ですが、下ごしらえを手伝えるだけで誇らしく思っています!」


 と、ガズ分家の女衆は本家の女衆に負けない意気込みを見せてくれた。

 それもひとえに、下ごしらえの重要度を理解したためであるのだろう。彼女たちは普段から、自分たちの家の晩餐や祝宴で腕をふるっているのだった。


(レイ=マトゥアやマルフィラ=ナハムの頼もしさは群を抜いてるけど、こういう屋台の当番に参加してないメンバーまで立派に育ったからこそ、これだけの仕事を受け持てるんだよな)


 俺はそんな感慨を噛みしめながら、作業工程の説明を進めていった。

 明日の広場の祝宴ばかりでなく、夜の祝宴や明後日の下ごしらえに関しても、ここで説明を果たさなければならないのだ。城下町の商売に関してはまだ始めたばかりで手馴れていない部分も多いので、入念に説明を施す必要があった。


「城下町の屋台の料理の量を増やすとしても、それは早くて4回目からの話になるからね。次回の3回目は今日と同じく、180食分でお願いするよ」


「承知しました! 城下町の屋台は1種類だけですし、それほど入り組んだ内容でもないので、難しいことはないですね! でももちろん、気を抜いたりはしませんので!」


「うん、よろしくね。あと、下ごしらえした品が他の品とまぎれないように、木箱に印をつけるのを忘れないようにね。さすがにこれだけの仕事を受け持つと、混乱を招きかねないからさ」


 俺がそのように告げたとき、入り口の付近に陣取っていた組からマルフィラ=ナハムの慌てた声が聞こえてきた。


「ア、ア、アイ=ファ、どうもお疲れ様です。きょ、今日はお早いお帰りでしたね」


「うむ。2頭のギバを仕留めたので、その片方を運んできたのだ。もうひとたび行き来するだけで、夕刻になってしまおうからな」


 その凛々しい声音に俺が振り返ると、開け放しであった戸板の向こうからアイ=ファが目もとだけで微笑みかけてきた。


「今日の商売も、無事に終わったようだな。私にかまわず、仕事を続けるがいい」


「うん、アイ=ファもお疲れ様。……って、もういっぺん森に戻るのか。くれぐれも気をつけてな」


 アイ=ファは「うむ」とだけ言い残して、すぐに姿を隠してしまった。

 きっと城下町に出向いた俺の無事を確認しに、かまど小屋を覗き込んだのだろう。俺がそれで胸を温かくしていると、レイ=マトゥアが満面の笑みで語りかけてきた。


「怒らないで聞いてほしいのですが、今のアスタは名前を呼ばれたときのジルベにそっくりでした。アスタは少し、犬に似ているように思います」


「あはは。前にもそんなことを言われた気がするよ。森辺では全般的に、犬っぽい人が多いような気がするけどね」


「確かに、猫やトトスに似た人間は少ないかもしれませんね。……あ、でも、アイ=ファは猫や黒豹に似ているかもしれません」


「俺は初めてアイ=ファに出会った頃から、そう思ってたよ。怒ったときなんかは、毛を逆立てた山猫にそっくりだってさ。……まあ、俺も山猫なんて見たことはないんだけどね」


「アイ=ファに初めて出会った頃ですか……アイ=ファはわたしたちより何ヶ月も早く、アスタに出会っていたのですものね」


 いつも朗らかなレイ=マトゥアが、しみじみと息をついた。


「フォウやディンの方々なんかは、わたしたちよりずっと早かったのでしょうけれど……マトゥアはそれほど家が近いわけでもありませんし、水場も別々ですものね。アスタがファファと新しい荷車を買ってくださるまでは、なかなかファの家に出向くこともできませんでした」


「ああ、懐かしいね。でも、ガズやマトゥアも家長会議で町の商売が正しいと認められる前から手伝ってくれて、俺はすごく感謝していたよ」


 そうしてレイ=マトゥアが屋台の商売に参加したのは、初めての雨季のさなかである。今となっては古参の部類であるが、復活祭の頃から手伝いを始めた面々よりは一歩遅れているわけであった。


「もう雨季も終わったから、レイ=マトゥアと出会って2年以上が経ってるわけだね。こんなに立派に育ってくれて、俺も感無量だよ」


「あはは。今度はなんだか、父や兄みたいです。……でも、本当に色々とありましたよね」


 すると、今度はマトゥア分家の女衆が顔を寄せてきた。


「色々と言えば、ユン=スドラとジョウ=ランの一件もありましたよね。あのジョウ=ランが、まさか宿場町の民と婚儀を挙げることになるなんて、わたしは想像もしていませんでした」


 屋台の当番でない分家の女衆は、ユーミと顔をあわせる機会もそうそうないのだ。ただ彼女も、復活祭や休息の期間などには宿場町に下りて若衆と交流を結んでいたようであったが、その頃にはもうユーミも屋台の商売を日常的に行っており、顔をあわせる機会はあまりなかったようであった。


「あの頃から、ジョウ=ランは集落を騒がせていましたが……今回は、悪い騒ぎではありませんものね。わたしも祝福の思いを込めて、下ごしらえに励みたく思います」


「うん。ジョウ=ランも、立派に成長したからね。俺も今回の婚儀は、心から嬉しく思っているよ」


 ジョウ=ランはかつてアイ=ファに対する思慕の思いをつのらせて、お見合いをしたユン=スドラと悶着を起こすことになったのだ。その騒ぎに関しては森辺にくまなく周知されたので、こちらの女衆もしっかり事情をわきまえているわけであった。


(そもそもは、それでジョウ=ランが落ち込んで……それを励ましたユーミと、深い仲になったわけだもんな)


 そう考えると、くだんの騒ぎも今の幸福に繋がっているわけである。

 当時は俺やアイ=ファもぞんぶんに心をかき乱されてしまったし、ユン=スドラはそれ以上の気苦労を背負わされていたものであるが――すべては母なる森や父なる西方神のお導きであるのかもしれなかった。


「……祝福の思い、ですか。わたしも宿場町に下りるわけではないので、屋台の商売と同じように考えてしまっていたようです」


 と、そのように言い出したのは、ガズ分家の女衆である。この中で屋台の当番であるのは、レイ=マトゥアとガズ本家の女衆のみであった。


「でもこれは、あくまで宴料理なのですよね。わたしもジョウ=ランとユーミに祝福の思いを捧げたく思います」


「うん。自分が口にしない宴料理を手掛けるなんて、普段ではありえないことだもんね。奇妙な仕事を頼んでしまって、ちょっと申し訳ない気分だよ」


「とんでもありません。これは森辺を含むジェノスにとって重要な行いであるのですから、わたしは誇らしい限りです。きっと誰もが、そのように感じていることでしょう」


「ええ。わたしも取り仕切り役を任せられた誇らしさばかりに気が向いてしまっていたようです。ジョウ=ランたちに対する思いを二の次にしてしまっては、立ちゆきませんね」


 ガズ本家の女衆までもが、そのように言い出した。

 きっとユーミと仲良くしているレイ=マトゥアは、最初からそういう心持ちで仕事に励んでいたのだろう。そうして他なる血族が同じ思いに至ったことを、とても嬉しそうに見守っていた。


 ともあれ――これだけ大勢の人々が、ユーミとジョウ=ランの婚儀を祝福してくれているのである。

 明日の祝宴の場にはさぞかし大勢の人間が駆けつけるのであろうが、こうしてユーミたちと顔をあわせないままに祝福してくれる人たちもいるのだ。俺はユーミたちにその旨を伝えたくてならなかったし、そうすることでいっそうの喜びが生まれるはずだと願ってやまなかったのだった。

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