四者会談②~ガズラン=ルティム、かく語りき~
2024.3/5 更新分 1/1
私たちは白鳥宮を出た後、そのまま獄舎という場所に向かうことになりました。
同行するのは、フェルメスとジェムド、メルフリードと近衛兵のひとり、ロブロスと武官のひとり、そして『王子の耳』の一番という顔ぶれです。『王子の口』からの指示で、『王子の耳』は東の武官を同行させようとはしませんでした。
獄舎というものは、貴族たちが住まう区域のすぐ西側にありました。そちらもまた高い塀で区切られており、門も厳重に守られていたようです。城下町そのものも高い塀で守られていることを考えれば、部外者の侵入や脱獄というものも極めて困難であるように思われます。
また、獄舎というものはきわめて背の高い石造りの建物でしたが、あちこちに補修の跡が見られました。かつての地震いで、大きく破損したのでしょう。それでサイクレウスも、魂を返すことになったわけですね。
途中でフェルメスとジェムド、メルフリードと近衛兵が離脱して、残る顔ぶれは奇妙な一室に通されました。
部屋の上に造られた部屋、とでも申しますか――壁際に設えられた細長い空間で、腰の高さまである柵の上から、階下の小さな部屋を見下ろすことができるのです。どうやら、取り調べを受ける罪人を安全な場所から観察するための空間であるようですね。
眼下の部屋には、小さな卓とふたつの椅子だけが置かれています。
まずはそこに、東の賊が連れてこられました。
賊は、腕も足も鎖で縛められています。そうして椅子に座らされると、足の鎖を椅子に固定されていました。
くすんだ灰色の装束に着替えさせられていましたが、間違いなく昨晩捕縛された人物です。彼は昨晩よりも、いっそうやつれてしまったようでした。
賊を連れてきた武官たちが退室すると、それと入れ替わりでフェルメスたちがやってきました。
ただし人数が、5名に増えています。新たに増えたのは、占星師のアリシュナでした。
「お待たせいたしました。それでは、尋問を開始いたします」
賊の正面に腰を下ろしたフェルメスが、いつも通りのやわらかな声でそのように語り始めました。
「僕たちが第一におうかがいしたいのは、あなたに命令を下した人間の正体です。それを語ることによって、あなたの罪もいくらかは減じられることでしょう。どうかご自分のためにも、正しき道を選んでいただきたく思います」
「…………」
「ですが……あなたは口の中に、自害用の毒を隠していました。あなたは自らの生命を捨ててでも、守らなければならない秘密があるのでしょう。それを告白させるというのは、実に難しい話なのでしょうが……ですがこれは、三国間の国交に関わる重大な事件です。僕たちは、何としてでも真相をつまびらかにしなければならないのです」
「…………」
「そこで僕は、一考しました。あなたはいったい、何に生命を懸けているのか、と……あなたは第七王子殿下の配下であることを示す忠誠の刻印を手の甲に刻まれていますが、それはまがいものの刻印であると指摘されています。まずは第七王子殿下の証言を真実であると仮定して、話を進めさせていただきます」
「…………」
「まがいものの刻印を刻まれているということは、あなたは如何なる王家の直属部隊でもありえません。東の王や第二王子の直属部隊であるならば、そちらの刻印を刻まれているはずですからね。忠誠の刻印は決して消すことがかなわないという第七王子殿下の証言を前提として、話を進めさせていただきます」
「…………」
「王や王子の直属部隊であれば、君主に対して絶対の忠誠を誓っていることでしょう。ですが、あなたはそのような身分にありません。では、忠誠とは異なる理由から、生命を賭しているということです。人間は、何に対して生命を懸けることができるか……僕は、恐怖と悦楽のどちらかであると判じています。悦楽は、幸福だとか希望だとかいう言葉に置き換えてもかまいません。あるいは、栄誉や誇りと称しても問題はないでしょう。最前線の兵たちなどは、王国の誇りのために生命を懸けているのでしょうからね。平和な地で安穏と暮らす僕などは、頭が下がるばかりです」
「…………」
「ですがあなたは、三国間の国交を揺るがすほどの大罪を働きました。そこには栄誉や誇りなど存在するわけもありません。また、幸福や希望とも無縁でしょう。あなたは第七王子殿下の『王子の分かれ身』であると身分を偽っているのですから、それは王家に牙を剥く叛逆行為です。そんな卑劣な行いに、栄誉や誇りや幸福や希望が生じるいわれはないと判じさせていただきます」
「…………」
「では、あなたはそれらのものがもたらす悦楽ではなく、恐怖に縛られているということになります。では、人に生命を懸けさせるほどの恐怖とは、何でしょう? あなたは自らの生命と引き換えにしてでも、守り抜きたいものがある。それを奪われることこそが、恐怖であるはずです。人が自分の生命よりも重要であるとする存在……もっとも安易に考えれば、やはり家族や恋人といったものに落ち着くのでしょうね」
「…………」
「あなたが付け狙っていたファの家のアスタという人物は、かつてシムやゼラドの間諜なのではないかという疑いをかけられていました。その折にも、家族を人質に取られているのではないかと推測されていましたね。アスタは渡来の民として西方神の洗礼を受けていたため、それが虚偽の申告であったならば死後に魂を砕かれることになるのです。おのれの魂と引き換えにしてでも間諜としての役目を果たそうとしていたならば、やはり家族か何かを人質に取られているのだろう……と、そんな風に考えられていたのです」
「…………」
「ですから僕も、その定説をあてはめてみることしました。あなたは誰か、大事な相手を人質に取られているのではないですか? それでやむなく、このような悪事に手を染めたのではないですか? それゆえに、おのれの生命を引き換えにしてでも秘密を守ろうとしているのではないですか?」
「…………」
「以上が、僕の前口上です。これから今の仮説に基づいて、尋問を開始したく思います」
その言葉は、こちらで話をうかがっている私たちに向けたものであったのかもしれません。
何にせよ、賊はずっと押し黙ったまま、眠っているかのようにまぶたを閉ざしていました。
「ではここで、こちらの女性に助力を願います。こちらはジェノス侯爵の客分たる東の民、アリシュナ=ジ=マフラルーダです」
フェルメスの紹介に、アリシュナも無言のまま一礼しました。
「あなたは、マフラルーダの一族についてご存じでしょうか? かつて彼女の祖父がジの藩主の不吉な未来を読み解いたため、彼らは一族ぐるみでシムを追放されることになってしまったのです。そして、西の地を放浪するさなかでアリシュナが生まれ落ち……やがて、他なる家族は死に絶えることになりました。そうして彼女はジェノスに行き着いて、長らく腰を落ち着けることになったのです」
「…………」
「こちらのアリシュナもまた、占星師として絶大なる力をお持ちです。まあ、西の民は星読みの技を重んじていないため、ジェノスにおいては余興の芸人めいた扱いに甘んじていますが……これがシムであったなら、絶大なる尊敬と絶大なる恐怖を一身に集めていたことでしょう。それほどに、彼女の力は群を抜いているのです」
「…………」
「そんな彼女であれば、あなたの大事な相手の居場所や現在の状況などを探り当てることも可能でしょう。それと引き換えに、あなたの秘密を告白していただけませんか?」
そこで初めて、賊の肩がぴくりと震えました。
彼も東の民ですので表情は変わりませんが、動揺の気配がひしひしと伝わってきます。フェルメスの言葉は、まさしく彼の急所を突いたようです。
「もちろん秘密を告白したならば、あなたの大事な相手が危険にさらされる恐れもあるのでしょう。ですが僕たちも、罪なき人間に危険を負わせるつもりはありません。あなたが何を語ろうとも、秘密裏に話を進めることをお約束いたします。そうして我々があなたの主人を捕縛することがかなえば……あなたの大事な相手も、危険な状況から解放されるのではないでしょうか?」
「…………」
「なおかつ、あなたが西の地において審問にかけられれば、苦役の刑を科される可能性が高いです。西の地においては、死罪よりも重い罪には苦役の刑が科されるのですよ。これだけの罪を犯したのですから、10年の苦役は覚悟しなければならないところでありましょうが……その10年に耐えたならば、自由の身です。さすれば、大事な相手と再会することもかなうでしょう」
「…………」
「何も語らずに死を選べば、それでおしまいです。大事な相手がどのような行く末を辿るかも見届けることはかなわず、あなたの魂は神の代理人たる王家に背いた罪で死後に打ち砕かれることになるでしょう。ですが、秘密を明かせば王家に背いた罪も軽減されて、大事な相手と再会する目も生まれます。どちらがより正しき道であるか、慎重に見定めてもらいたく思います」
そう言って、フェルメスはゆっくりと腰を上げました。
「では、アリシュナ。お願いします」
「はい。……私、アリシュナ=ジ=マフラルーダ、正しく星読みの技、使い、決して、虚偽、申し述べないこと、東方神、誓います」
アリシュナは、東方神に対する宣誓を行いました。この誓いを破れば死後に魂を打ち砕かれるという、もっとも神聖な儀式ですね。私もシュミラル=リリンから、その作法を学んだことがあります。
宣誓の儀式を終えたアリシュナはフェルメスの座っていた椅子に腰を下ろし、その手に携えていた小さな箱を卓の上に置きました。そこから取り出されたのは、何かの獣の頭蓋の骨であったようです。
「では、気持ち、固まったなら、氏名、および、生誕の日、お願いいたします」
「…………」
「私、仕事、星読みのみです。星読み、求めるか否か、あなた、自由です」
それきり、アリシュナも口をつぐみました。
賊もまた無言のままでしたが、さまざまな気配がたちのぼっています。困惑、焦燥、怯懦、煩悶、苦悩――それに、期待の念も確かに入り混じっていたように思います。
私たちもまた、無言で賊の様子を見守りました。
そして、かまどにかけた鍋いっぱいの水が湯になりそうなぐらいの時間が経った頃――ついに、その口が開かれました。
「私……ロルガムト=リム=モリシェです。……生誕の日、銀、11日です」
それは、枯れた木の間を吹きすさぶ風のようにかすれた声音でした。
アリシュナは獣の骨に手をあてたまま、あらぬ方向に視線を飛ばしているようです。
「ロルガムト=リム=モリシェ……あなた、銀の犬です。運命、錯綜しています」
やがてアリシュナは、そのように語り始めました。
「ですが、錯綜、近年です。あなた、つつましく、幸福な人生、辿っていたようです。……あなた、南東の果て、生まれ落ち、海の恵み、授かり……3つの星、寄り添っています。ですが、ふたつの星、消え去り……ひとつの星、留まりました。あなた、海の恵み、打ち捨て……戦乱の地、おもむきました」
すると、ロルガムトという名を持つ賊が、雷に打たれたように身を震わせました。
ずっと閉ざされていたまぶたが裂けんばかりに見開かれて、アリシュナを見つめます。その瞳は、深い青色をしていました。
「そうです。私、両親、失い……妹、面倒、見るため、船、捨てました。兵士、志願したのです」
「はい。あなた、強き星、持っています。かたわら、小さな星、あなた、守られていました」
「妹、どこですか? 妹、無事ですか? 私、妹、さらわれました」
ロルガムトがそのように語ると、今度はアリシュナがわずかに身じろぎました。
「……妹、名前、生誕の日、お願いします」
「妹、ミラフィアです。ミラフィア=リム=モリシェです。生誕の日、朱、26日です。間もなく、17歳です」
アリシュナは、またあらぬ方向に視線を飛ばしましたが――その時間は、ごく短かったです。
「朱の猫、近年まで、銀の犬、かたわら、留まっていましたが……現在、消えています」
「はい。妹、さらわれたのです」
「いえ。意味、違います。朱の猫、あなたの妹……すでに、星図、ありません。おそらく、1年ほど前、魂、返しています」
その瞬間――ロルガムトは、東の言葉で何かわめき始めました。
無理に暴れたため、手足の枷が彼の身を傷つけたようです。ジェムドと近衛兵が、それを取り押さえました。
ジェムドたちに取り押さえられながら、彼は泣いていました。ただ涙を流すばかりでなく、子供のように顔を引き歪めていたのです。私はシュミラル=リリンのおかげで、東の生まれである人物が笑う姿を目にすることができましたが――東の民が泣き叫ぶ姿を目にしたのは、これが初めてのことでした。
◇
「……つまり彼は妹を人質に取られて、大罪を働くことになったようです。ですがその妹は、かどわかされてすぐに魂を返してしまったようです」
そうしてガズラン=ルティムが小さく嘆息をこぼすと、グラフ=ザザは大きく鼻息を噴いた。
「お前の喋りが達者なことはわきまえているが、俺たちが聞きたいのはその後のことだ。それでけっきょくロルガムトとかいう賊は、命令を下した人間のことを吐いたのか?」
ここは白鳥宮の控えの間であり、たっぷり一刻ばかりも出かけていたガズラン=ルティムから取り調べの内容を拝聴していたさなかであった。
控えの間には、森辺の陣営だけが居揃っている。マルスタインたちはダカルマス殿下たちの様子をうかがうべく、そちらの控えの間を訪れていたのだ。今頃は、あちらでも同じ話が語られているのだろうと思われた。
「はい。ロルガムトもしばらくは取り乱していましたが、やがて堰を切ったように語り始めました。妹を奪った悪漢どもに然るべき罰を下したいという一心であったようです」
「……それで? その様子だと、けっきょく肝心なことはわからぬままであるようだな」
「はい。ただ、一点だけ……ロルガムトに命令を下し、そしてジェノスまで同行したのは、ふたりの老人であったそうです」
「老人? 東の、老人か?」
「はい。その者たちも顔を隠していたようですが、声や物腰や手の先の感じから、老人であることに間違いはないそうです。その老人たちが、ロルガムトを刺客に育てあげたようです」
ガズラン=ルティムいわく、ロルガムトの妹がさらわれたのは1年ほど前のことであったらしい。それでロルガムトは老人たちの命令で兵士の役職から退き、気配の殺し方や吹き矢の修練などをさせられたのだそうだ。
「そして、半年ほど前のこと……荷車であやしげな建物に連れていかれて、手の甲に刻印を刻まれたそうです。いずれ何らかの使命が下されるので、それを果たしたら妹ともども解放しよう……と、そのように申しつけられていたそうです」
「1年がかりの悪だくみか。……いや、『王子の剣』の七番というものが魂を返したのは、2年前という話だったな」
ダリ=サウティの言葉に、ガズラン=ルティムは「ええ」とうなずく。
「そもそもロルガムトはジェノスに連れてこられるまで、王宮の間取りを頭に叩き込まれていたのだそうです。これはフェルメスの推測ですが……当初は王宮に住まう立場ある人間の暗殺を計画していたのではないでしょうか?」
「なるほど。そちらのほうが、よほど自然であるように感じられるな」
「はい。ですが、ポワディーノが突如としてシムを離れたため、計画を変更した。東の王宮で立場あるものを暗殺するよりも、西の地で南の民を害するほうが容易い話ですし……得られる効果はより大きいのではないかと、フェルメスはそのように語っていました。何にせよ、ポワディーノに大きな罪をかぶせることがかなえば、目的は達せられるのでしょうからね」
「ふん。おかげでこちらは、この騒ぎということだな」
ドンダ=ルウは野獣のような顔で、にやりと笑った。
「敵の正体はわからぬままだが、とりあえずあの第七王子とやらが無実であることは確かであるようだ。あとはその老いぼれどもを捕まえれば、ひとまずは落着ということか」
「はい。少なくとも、ロルガムトが虚言を吐いていないことは確かです。彼もフェルメスの申し出で、宣誓の儀式を行っていましたし……そうでなくとも、あの悲嘆に暮れる姿は芝居でなかったかと思います」
と、ガズラン=ルティムが目を伏せたとき、控えの間の扉がノックされた。
「失礼いたします。会談の場に移動をお願いできますでしょうか?」
ついに、会談の再開である。
その前に、俺はガズラン=ルティムに声をかけておくことにした。
「ガズラン=ルティム、どうもお疲れ様でした。その……ガズラン=ルティムは、大丈夫ですか?」
「ええ。一刻も早くこの騒乱を収めて、首謀者を捕らえなければならないという思いを新たにしました」
ガズラン=ルティムは憂いの色を消して、力強く微笑んだ。俺などが心配するまでもなく、ガズラン=ルティムは強靭な狩人であるのだ。
そうして広間まで移動すると、他の陣営の人々も続々と集結した。最後に入室したポワディーノ王子はすべての小姓が退室したのちに、また帳から姿を現す。
この休憩の間に、ポワディーノ王子のもとにも卓が準備されていた。コの字形に並べられていた卓が、四角形を描くことになったのだ。そこに座したのは、やはり王子とアルヴァッハとナナクエムの3名のみであった。
ただ、森辺を除く陣営は1名ずつ人間が追加されている。それぞれ取り調べの場に同行させた人間を招集したのだ。その面々も、もはや同じ秘密を共有する立場であったのだった。
「まずは、フェルメス殿の尽力と明哲さに感謝と敬意を表したい。まさか賊の口を割らせるのに占星師を持ち出すとは、想像の外であった」
マルスタインがそのように告げると、フェルメスは「ええ」と口もとをほころばせた。
「それもひとえに、アリシュナの卓越した力あってのことです。つまりは、彼女を客分として厚遇していたマルスタイン殿の功績ということですね」
「わたしなどは、余興の芸人のように扱っていたに過ぎないよ。……シムを追放されたアリシュナをジェノスでかくまっていることに、ポワディーノ殿下はご不満をお持ちではありませんでしょうかな?」
「うむ。ラオの王家はジの藩主の要請を受諾して、マフラルーダの一族を追放したのみである。時代が異なれば、王宮付きの占星師として招く事態に至っていたやもしれんな」
そのように答えてから、ポワディーノ王子はこらえかねたように身を乗り出した。
「ともあれ、賊の証言は誰もが耳にしたのであろう? 我に対する疑いは、これで払拭されたのであろうか?」
「はい。ロルガムトなる賊は宣誓を行った上で証言しましたし、ポワディーノ殿下が第三者を介してこのような悪行を命じても利益を得ることはないでしょう。これはポワディーノ殿下を陥れるための策謀であると断じてはばかりはないように思います」
フェルメスがそのように答えると、ポワディーノ王子は面布を揺らして息をついた。
「其方の物言いには腹を立てることも多かったが、このたびの手腕は見事であった。そして、我に対する疑いを解いてくれたことにも、感謝を捧げよう」
「もったいなきお言葉です。これにて憂いなく、このたびの騒乱を乗り越えるために手を携えさせていただけたらと存じます」
「うむ。我も自らと母の行く末を守るために、力は惜しまないと約束しよう」
その言葉に、マルスタインが小首を傾げた。
「失礼ながら、母君の行く末を守るとは? 王子殿下の母君とは、すなわち王妃でありましょう?」
「うむ。現在の王家には、3名の王妃が存在する。我は第三王妃たる母の、唯一の子である」
そう言って、ポワディーノ王子は毅然と頭をもたげた。
「万が一の事態に備えて、『王子の剣』と『王子の盾』の半数は母のもとに残してきたが……母もさぞかし不安な日々を過ごしていることであろう。我は一刻も早くこの騒乱を乗り越えて、故郷に戻りたいと願っている」
そのために、ポワディーノ王子は俺とアイ=ファの助言を受け入れて、この場に姿をさらす決断を下したのだ。
ポワディーノ王子は第二王子を恐れているが、それ以上に母親を守るのだという固い決意を胸に秘めている。彼のほっそりとした身体からは、そんな覚悟がふつふつとみなぎっており――それが、王子の名に相応しい風格をもたらしているように思えてならなかった。




