門出の日①~下準備~
2023.9/18 更新分 1/1
・今回の更新は全7話です。
『麗風の会』の3日後――茶の月の23日である。
ついにその日、ルウの血族の収穫祭が執り行われることになった。
前回の収穫祭は俺の生誕の日の少し前であったので、実に9ヶ月ばかりも過ぎていることになる。この近年においては猟犬の導入と、ギバ寄せの実およびギバ除けの実を使った新たな狩猟方法の確立によって、どんどん収穫祭の時期が間遠になっているのだ。
血族のお祝いである収穫祭が間遠になってしまうというのは、物寂しい一面も生じてしまうものであるが――しかしそれは、より強い力でこれまで以上の収獲をあげているという証であるので、森辺の民は物寂しさを上回る誇りと喜びを抱くことができているはずであった。
ともあれ、ルウの血族の収穫祭である。
このたびは、ただの収穫祭ではない。ルウの分家に新たな氏が与えられて、森辺に新たな氏族が誕生するという、記念すべき日であったのだ。その新たな氏族の家長に任命されたのがシン=ルウであったのだから、俺としても他の人々に負けないぐらい胸を高鳴らせながらこの日を待ち受けていたのだった。
森辺の民は黒き森という最初の故郷を失って以来、ずっと人口が減少していた。そもそもは2千名の規模であったようであるのに、まずはジャガルの黒き森からモルガの森まで辿り着くまでの間に半数の民が魂を返し、次にはギバ狩りの過酷な仕事によってまた半数の民が魂を返し、5、600名の人数にまで減じてしまったのだ。
そうして民の数が減じたならば、氏族の数も減じるのが道理である。家人の数が減少して立ち行かなくなった氏族は氏を捨てて親筋の氏族と合併する他なかったので、氏族の数は減るいっぽうであったのだ。単純計算で、黒き森の時代には今の4倍の数の氏族が存在したのではないかと思われた
かつての族長筋であったガゼとリーマも滅びをまぬがれず、残された家人は新たな族長筋たるスンに迎えられることになった。その後も民と氏族の数はじわじわと減っていき、この80余年の間で新たに生まれたのはザザから分派したジーンのみであるという話であった。
それがこのたび数十年ぶりに、ルウから新たな氏族が誕生することに相成った。
そしてそれは、3年ほど前から――つまりは俺が森辺にやってきた頃から、人口の減少に歯止めがかかった結果であるとのことであった。
なおかつルウ家に限って言えば、外来から新たな家人を招き入れたという背景も存在する。まずはミダ=ルウから始まって、ジーダにバルシャ、マイムにミケルと、5名もの家人が増えたのだ。
さらにはダルム=ルウがシーラ=ルウと婚儀を挙げて本家を出て、現在は7つもの分家が存在する。それで総勢40名以上というのは、かつてのスン家を追い抜く規模となる。それでこのたび、3つの分家がルウから離れて新たな氏族として独立するという事態に至ったのだった。
何にせよ、これはルウの血族のみならず、森辺の民にとっての一大事となる。
その事実を重く受け止めたドンダ=ルウは、このたびの収穫祭にすべての氏族から客人を招くという決断を下した。それで俺とアイ=ファも、この記念すべき日に立ちあうことが許されたわけである。
それと同時にドンダ=ルウは、外部の人間にはご遠慮を願いたいと通達した。折しもジェノスは数多くの客人を迎えている時期であり、それらの面々が森辺の祝宴に招かれる日を心待ちにしている状態にあったので、早々に掣肘する必要があったのだ。
「すべての氏族から客人を招くだけで、ルウの広場は埋め尽くされることになろう。貴き身分にある客人たちが森辺の祝宴を望むのであれば雨季の前に何らかの手立てを講じるので、それまでお待ち願いたい」
ドンダ=ルウは自ら城下町まで出向いてそのように宣言し、メルフリードから無事に了承をいただいたとのことであった。
森辺の民も外来の客人に対してずいぶん寛容になっていた時分であるが、このたびばかりは同胞を優先するべきだと考えたのだろう。俺としても、ドンダ=ルウの決断には心から賛同することができた。そして自分も森辺の同胞であるのだという喜びを、あらためて噛みしめることがかなったのだった。
◇
そうして迎えた、当日である。
記念すべき日であったが、俺たちはその日も屋台の商売に勤しんでいた。ルウの屋台は休まざるを得ないため、むしろその分まで大量の料理を仕上げて、普段以上の激務に臨むことになったのだ。
とはいえ、現状ではルウの屋台の分までまるまる補うことはかなわない。少し前までであれば可能であったかもしれないが、今は同時進行でトゥランでの商売にも取り組んでいるため、さすがに手が回らなかったのだ。
それでも俺は、普段の5割増しの料理を準備してみせた。ミラノ=マスから了承をいただいて、ルウの名でレンタルされている屋台を2台だけ持ち出し、合計6台の屋台で異なる料理を売りに出したのだ。
なおかつ俺は、この日に森辺の屋台が2台ぶん減ることを、あらかじめ他なる宿屋の関係者に通達していた。宿屋の屋台村ではこちらの休業日に普段以上の数量を準備していると聞き及んでいたので、この日もその例にならっていただこうと考えた次第であった。
「だけどやっぱり、すごい人出ですね! 屋台の数が減ると、そのぶんお客の勢いがつのってしまうようです!」
隣の屋台で働くレイ=マトゥアは、満面の笑みでそのように言っていた。屋台の数が減じようともこちらのスペースにやってくる人出に変わりはないため、普段以上の行列になってしまうという寸法である。宿屋の屋台村にまでお客が流れるのは、こちらの商売が終わりを迎えてからになるようであった。
しかしまた、現在はザザやサウティの血族からも助力を願えるので、人手には困らない。中天を過ぎるとトゥランまで出向いていたユン=スドラたちも戻ってきて、盤石の布陣と相成った。あとは料理を売り切るまで、ひたすら力を尽くすばかりである。
それに本日はレイ=マトゥアばかりでなく、誰もが普段以上の気合で仕事に取り組んでくれている。仕事は忙しければ忙しいほど気合が入るというのが森辺の民の性分であるし、それに、屋台に参じているメンバーの数多くは収穫祭の参席者でもあるのだ。また、たとえ参席がかなわなくとも、森辺に新たな氏族が生まれるという喜びに変わりはなかったのだった。
そうして俺たちは、大いなる熱情とともに仕事を果たし――閉店の刻限である下りの二の刻の少し前に、商売を終えることになった。
青空食堂からお客がはけるのを待ち、屋台と荷車の大行列で帰路を辿る。その道行きで屋台村の前を通りかかると、ふたつの人影が近づいてきた。ユーミと、ジョウ=ランである。
「アスタたちも、おつかれー! 今日はどうぞよろしくね!」
ユーミは外の人間ではなく、いずれランの家人になる身として参席を許されたのだ。それで《西風亭》の屋台の交代要員としてジョウ=ランがランの末妹を連れてきたが、そちらの荷車は末妹と護衛役の男衆が帰るのに使うため、ユーミたちはこちらに同乗する手はずになっていた。
「でも、あたしとジョウ=ランがお招きされちゃうなんて、嬉しい反面、ちょっと心苦しいかなー! 今日はひとつの氏族につき、ふたりしかお招きされてないんでしょー? こういうのって、普通は本家の家長だとか長兄だとかが出向くべきじゃない?」
「でも、ユーミとジョウ=ランに参席させるって決めたのは、そのランの家長なわけだからね。何も心苦しく思う必要はないんじゃないのかな」
「ええ。家長は森辺の中でも特別な生を送ることになる俺やユーミこそ、こういう重要な儀式をしっかり見届けるべきだと言っていましたよ」
こちらはにこにこと笑って素直な喜びをあらわにしながら、ジョウ=ランはそう言った。
「それはきっと、俺とユーミはひときわ立派な人間を目指さなくてはならないという思いがあってのことなのでしょう。だから、喜んだり心苦しく思ったりする前に、しっかりと気持ちを引き締めるべきだと思います」
「へー! あんたがそんな真面目くさったことを言うのは、珍しいね!」
「はい。ともすれば、ユーミと祝宴をともにできる喜びに舞い上がってしまいそうなので、俺も懸命に気持ちを引き締めているのです」
「そういう話は、口にしなくていいんだよ! せっかく感心してあげたのに、しまらないやつだね!」
と、けっきょく最後には顔を赤くするユーミであった。
俺たちは《キミュスの尻尾亭》に屋台を返却し、いざ森辺を目指す。その荷車に乗り込む段階で、ルウの集落を目指す組とまっすぐ帰宅する組に分ける必要があった。
屋台の正規メンバーの半数ていどは、祝宴の参席者に選ばれている。ユン=スドラ、レイ=マトゥア、マルフィラ=ナハム、クルア=スン、トゥール=ディン、ラッツの女衆、リッドの女衆などは、その中に含まれていた。
普段であれば家長と男女1名ずつという顔ぶれになるところであるが、本日は収容人数の関係で各氏族から2名ずつという話になっている。何せルウの血族は老人から幼子まで全員集合するので、各氏族から3名ずつ招くゆとりもなかったのだった。
それでもなおユン=スドラたちのような若年の女衆に参席が許されたのは、やはりルウとの関係性を重んじたという面もあるのだろう。小さき氏族の家人でルウと親交が深いのは、やっぱり屋台の商売や勉強会に参じている面々であるのだ。
なおかつ俺は、可能な範囲で宴料理を準備してほしいと依頼されていた。
今日はシン=ルウにとって大事な門出の日であるため、親交の深い俺にも祝宴の一翼を担ってほしいという話であったのだ。そんなドンダ=ルウのはからいにも、俺はひたすら感謝するばかりであった。
(あのシン=ルウが、新しい氏族の家長になるんだもんな。こんなに感慨深い話はないよ)
そんな気持ちを噛みしめながら、俺は荷車の運転に勤しむことになった。
そうしてルウの集落に到着してみると――広場は、大層な賑わいである。当然のこと、狩人の力比べはとっくに開始されているのだ。集落の入り口に荷車を並べた俺たちは、その邪魔にならないようにそろそろと広場に足を踏み入れることにした。
「うむ。ようやく参じたか」
と、頭上から愛しき声が響きわたり、俺は思わず立ちすくんでしまう。
すると、頭上の梢から愛しき相手が飛び降りてきた。小さな友人リミ=ルウをその手に抱いた、アイ=ファである。
「ア、アイ=ファ。なんで木の上になんか登ってたんだ?」
「お前たちの到着を待っていたのだ。しかしここからでは勝負の場も見渡せないため、木の上に登る他なかった」
アイ=ファはすました面持ちで、そんな風に言い放った。
リミ=ルウはにこにこと笑いながら、アイ=ファの首を抱きすくめている。その微笑ましい図に、俺もついつい笑ってしまった。
「俺たちのことなんて、気にしないでよかったのに。……力比べは、どこまで進んだんだろう?」
「間もなく荷運びの勝負を終えるところだ。やはり今回も、荷運びの勇者となるのはダン=ルティムのようだな」
俺としても、ダン=ルティムたちの活躍を見守りたいという思いはなくもない。しかしそれ以上に、宴料理でシン=ルウたちを祝福できるというのは嬉しい話であった。
「それに……的当ての勇者は、シン=ルウであったぞ」
「えっ! 本当か!?」
俺が思わず身を乗り出すと、苦笑したアイ=ファに頭を小突かれてしまった。
「ルド=ルウやジーダも最後の勝負まで勝ち進み、10回以上も勝負を仕切りなおすことになったのだ。あの3名は、まったくまさり劣りのない力量だが……今日ばかりは、シン=ルウの気迫が勝利を呼んだのやもしれんな」
「うん! 何せ今日は、特別な日だからな!」
「……だから、子供のようにはしゃぐな」
と、アイ=ファは再び頭を小突いてくる。するとリミ=ルウも楽しそうに、ぽふぽふと俺の頭を叩いてきた。俺に手綱を持たれたギルルは、そんな下界のありさまをきょとんと見下ろしている。
「それじゃあ俺たちは、宴料理の準備に取りかかるよ。アイ=ファたちは引き続き、力比べを楽しんでくれ」
「うむ。木登りの勝負を終えたならば、小休止となるからな。お前もぬかりなく仕事に励むがいい」
顔は凛々しいが眼差しは優しいアイ=ファに「うん」と応じてから、俺はシン=ルウ家のかまど小屋を目指すことにした。
ユン=スドラたち屋台のメンバーは、そのまま調理を手伝ってくれる人員だ。そちらの面々を引き連れて歩を進めていくと、母屋の前にリャダ=ルウが立ち尽くしていた。
「ああ、リャダ=ルウ。どうもお疲れ様です。シン=ルウが的当ての勇者になられたそうで、おめでとうございます」
「うむ。最後まで、あの気迫が続けばいいのだがな」
リャダ=ルウは、いつも通りの静謐な面持ちであった。
もちろんリャダ=ルウも、今日の夜から新たな氏族の家人となるのだ。そして、息子が新たな氏族の家長となるのは、いったいどれほどの誇らしさであるのか――その外面から、リャダ=ルウの内心を推し量ることは難しかった。
「アスタたちは、こちらのかまどで仕事を果たすのだな? 食材の準備は済んでいるはずなので、よろしく願いたい。……あと、シーラは本家で赤子の面倒を見ている。夜になってからでかまわんので、アスタが顔を見せてくれたらありがたく思う」
「ええ、もちろんです。それじゃあリャダ=ルウも、またのちほど」
俺たちはあらためてかまど小屋に向かい、その途中でギルルたちの手綱を樹木の枝に結わってから入室した。
ルウの血族の女衆は朝一番から調理に取り組み、今は力比べを見物しているのであろうが、俺たちには時間がない。なるべくたくさんの料理を出せるように、自由な時間はすべて調理に費やす所存であった。
「他の氏族の男衆も、すでにずいぶん参じているようですね! やっぱり狩人の仕事を休んででも、ルウの血族の力比べを見届けたいと願っているのでしょう!」
「は、は、はい。う、うちの家長も、すでに参じているはずです。ル、ルウの狩人の勇名は、森辺中に響きわたっていますからね」
レイ=マトゥアとマルフィラ=ナハムが、笑顔でそのように語らっている。ふたりが仲良しであるのはいつものことであるが、やっぱり普段以上に昂揚しているようだ。普段はのほほんとしているマルフィラ=ナハムでも、今日の昂揚とは無縁でいられなかったのだった。
「わたしは何だか胸が詰まってしまって、儀式の時間には涙でもこぼしてしまいそうです。ルウとは血の縁を持っているわけでもないのに……おかしな話ですよね」
ユン=スドラはしみじみとした面持ちでそんな風に言っていたので、俺は「そんなことないよ」と答えてみせた。
「血の縁とかは関係なく、森辺の苦しい時代を体感している人は誰だって胸を揺さぶられるんじゃないかな。森辺に新たな氏族が生まれるっていうのは、それだけの大ごとなんだろうからね」
「はい。……たいていの人間は、氏族の滅びばかりを目にしてきたのですからね」
そのように語るユン=スドラ自身、かつてはミーマという氏族の家人であったという。ユン=スドラがもっと幼かった頃、多くの家人を失ったミーマは氏を捨てて親筋たるスドラの家人となったのだ。俺が森辺にやってくる直前には、ラッツの眷族もふたつ滅んだという話であったし――たとえ若い人間であっても、氏族の存亡というのはまったく他人事ではなかったのだった。
「……スンの家も、みなさんの温情がなければあの夜に滅んでいたことでしょう」
そんなつぶやきをもらしたのは、クルア=スンである。
すると、食材を取り分けていたトゥール=ディンが優しい笑顔で振り返った。
「だけど、スン家は生き残りました。きっといずれは他の氏族と血の縁を結ぶことも許されて、さらなる繁栄を迎えることでしょう。わたしはすでにディンの人間ですが……それを心から嬉しく思っています」
「はい。ありがとうございます」
クルア=スンもまた、銀灰色の目を細めてやわらかく微笑んだ。
やっぱり今日という日には、誰もがそれぞれの感慨を噛みしめているのだ。森辺にやってきて3年足らずの俺でさえそうなのだから、それが当然の話であった。
そうして俺たちは外から響く歓声をBGMに、作業を進めていく。
やがて半刻ばかりが過ぎると、アイ=ファがライエルファム=スドラをともなってやってきた。力比べは小休止となり、リミ=ルウたち女衆は調理を再開したのだろう。ライエルファム=スドラはかまどの間に足を踏み入れるなり、小猿のような顔にくしゃっと皺を寄せて微笑んだ。
「アスタたちも、ご苦労であったな。……木登りの力比べは、分家の家長たるダルム=ルウが勇者の座を授かったぞ」
「へえ、ダルム=ルウですか。たしか前回も、ダルム=ルウは勇士だったのですよね」
俺がそのように答えると、アイ=ファがしかつめらしく「うむ」と首肯した。
「前回はガズラン=ルティムが勇者であり、ダルム=ルウとシン=ルウが勇士であったな。このたびも、勇士はシン=ルウとガズラン=ルティムであったぞ」
「そっか。それじゃあ、ガズラン=ルティムとダルム=ルウが入れ替わった格好なんだな」
「うむ。的当ての勝負も、それは同じことだ。なおかつ、荷運びなどは前回とまったく同じ結果であったので……それらの3種の勝負に関しては、3名の狩人の力が際立っているということであろう」
「確かに、そのように見受けられる。しかし、狩人としてあらゆる力量が求められる棒引きと闘技に関しては………おそらく、そういうわけにもいくまいな。ルウの血族には力ある狩人が居揃っているので、誰が勝ち抜くのかまったく予測は立てられん」
ライエルファム=スドラがそのように言いたてると、ラッツの女衆が感じ入ったように息をついた。
「6氏族の中でも屈指の狩人と名高いアイ=ファとスドラの家長の語らいには、重みがありますね。狩人ならぬ女衆の身でも、なんだか背筋がのびてしまいます」
「ふふん。そちらの家長などは血がたぎってしまい、この小休止の間にも力比べを挑んできそうな気配であったぞ」
「ああ、お恥ずかしい限りです。よければ祝宴の余興で、家長の熱をおさめてあげてください」
ラッツの家長は、ラウ=レイに負けないぐらい熱情的な気性であるのだ。アイ=ファも今宵はまたあちこちから勝負を挑まれてしまいそうなところであった。
「熱くなるといえば、レム=ドムだな。あやつも存分に血気を持て余しているようであったぞ」
「え? ああ、そうか。今日はレム=ドムも来てるんだっけ」
「うむ。モルン・ルティム=ドムはルウの血族という扱いで、ドムからはディック=ドムとレム=ドムが参じているのだ。ディック=ドムは、力比べを挑まれる側であろうな」
アイ=ファのそんな返答に、俺も息をつくことになった。
「今となっては、ルウの祝宴に色んな氏族の人たちが参席するのも珍しくなくなったけど……でも、今日は何だか特別に感じちゃうな」
「うむ。これまでは外来の客人たちと絆を深めるための行いであったが、今日は同胞の祝いであるからな」
俺もアイ=ファもライエルファム=スドラも、この場に顔をそろえているかまど番たちも、力比べの見物に熱中している狩人たちも――誰もが、新たな氏族の誕生を見届けるために参じているのだ。最近は収穫祭に外来の客人を招くのも通例になっていたため、森辺の民が自分たちのためだけにこれほどの賑わいや結束を見せるというのは、ずいぶんひさびさのことなのではないかと思われた。
(外の人たちと交流が深まった、今だからこそ……こういう行いも、大切なんだろうな)
やはり、外来の客人をお断りしたドンダ=ルウの判断は正しかったのだ。あらためて、俺はそんな思いを噛みしめることができた。




