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ある日、王城にとある二人が呼び出された。
それは勇者と獣者という珍しい2人組だ。
何が珍しく、何が普通だかは知らないが。
「やぁ、よく来てくれた」
威勢良く声をあげたのはこのベニスパ王国の王様だ。
その王の言葉に、呼び出された二人は軽く頭を下げる。
「さて、今回呼んだのは、ある頼みをしたくてな」
「何かあったんですか?」
王の言葉に和装の獣者が反応する。
王はうむ、と言って頷き話を続けた。
「実はわしの可愛い可愛いとっても可愛い息子のセーヴとナギルが闇の軍勢に攫われてしまったのじゃ…」
なんだこの王、親バカか。そう和装の獣者は確信した。
だが、闇の軍勢というのは厄介だ。
闇の軍勢とは我々人類の敵なのだが、実態は誰にもわかっていない。そんな未知の敵に皇子二人は攫われてしまったと言う。
「つまり助けて来いと」
「あぁ。そういうことだ」
王はゆっくり頷き察しがいいな、と獣者を褒める。
そして呼び出した二人の顔を見て、真剣な表情で頼む。
「頼めるか?クロハ、アザレア」
「もちろん」
「分かりました」
二人は元気に答えた。
その反応に王はまたうむ、と頷き何かを思い出し小さく声を上げる。
側近に何かを頼み、彼女が此方へ近づくと手に持っていたものを勇者らの前へ差し出した。
「これを持って行きたまえ」
「バルチャ…ですか」
「あぁ。どちらか片方が持つと良い」
そう言われ二人は顔をあわせる。
バルチャとは、通話やメールなどの機能がついた、タブレット式のものだ。それには電脳妖精を宿すことが出来る。
「クロハが持つと良いですよ」
「いや、アザレアが持ってて」
「いえ、勇者のクロハが」
「そこは年上のアザレアが」
「……」
「……はぁ…分かりましたよ」
譲り合いの結果獣者、アザレアが諦めて所持することになった。未だ何か腑に落ちないような顔をしている。
「それと…リヒト」
王は再び誰かを呼ぶ。その声に、奥から人が現れる。
金色の長い髪を一本に束ね、羽根のような独特の耳。
「電脳妖精ですか」
「あぁ。彼も連れて行くと良い」
王の言葉に電脳妖精は勇者らへ軽く会釈する。
電脳妖精とは、闇の軍勢同じく何もわかっていない。彼らが何者なのか、それを知る人間は居ないのだろう。
「よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人も合わせて会釈をする。
そしてどうやら話し合いの結果、電脳妖精が宿るバルチャは勇者、クロハが持つことになった。
「さぁ勇者クロハ、獣者アザレアよ。よろしく頼むぞ」
「「はい」」
▼旅 の 始まり __
次回あたりから、あとがきで中の人の会話を載せるであろうと思います