第一話 入学式
本日3つ目。
初登校です。
第一章 高校一年 春
第一話 入学式
彼は駅から高校までの道のりをゆったりと歩いていた。
駅から高校まで生えているこの何本もの桜の木が連なった景色はやはり趣が感じられる。
そんなことを思ったのであろうか、少しほほを緩めながら彼、北神秋水は目的地へと向かっていった。
周りにはおそらく同学年であろう学生たちが同じように高校へと向かっているようだった。
道沿いには文房具屋や、本屋などの他に、実習でけがする人も多いため病院や薬局など多種多様な店舗が建ち並んでいる。
どんな店があるのかなんかを確かめながら歩き続け、校門を抜け入学式への会場へと行こうとしたとき、ふと誰かの盗み見るような視線を感じた。
(母さんか?いや、それならもっと巧妙に隠すはずだ。とすると......)
監視者らしき人がいる方向へこっそりと目を向けると、制服を着た先輩らしき女性が窓からこちらを見ているようであった。
すると、その先輩はこちらが気付いたことに気付いたのか、ふっとこちらに微笑んできた。
整った顔立ちに長い黒髪という容姿で、微笑んだ顔はまさに、大和撫子を彷彿させるような微笑みであった。
それに対して軽く頭を下げて会釈をし、入学式の会場へと向かった。
入学式が行われる会場へと到着した秋水は前から三列目の左端へと座り、入学式の開始を待っていた。
始まるまでは後十五分程度あったため、何をしようかと悩んでいると、入り口の方に見知った顔を見つけた。
向こうもこちらを見つけたようでこちらに近づいてきた。
「おや、秋水ではありませんか。久しぶりですね。元気にしていましたか?」
このスマートな体型のさわやか系イケメンは西野秀樹。
俺の幼稚園の頃からの友人である。
「あぁ、まぁな。秀樹こそどうなんだい?」
「こちらも特には問題ありませんでしたね。」
「まぁ、そんなもんか。最近面白いこととかあったか?」
「う〜ん。特にはないですね。
強いて言うならば、校門のところでなにやらのぞいている人がいたぐらいでしょうか。」
「あぁ〜、あれか。あの人は誰なのか分かるか?」
「彼女は生徒会の役員だよ。えっと......ほら。」
そういうとバッグからファイルを取り出し、その中から冊子を取り出してきた。
そこには、現生徒会メンバーという題名とともに四人の写真が載っていた。
「よくこんなものを持っていたな。」
「毎年、生徒会には入試の成績の一位と二位の人が入るのが慣例みたいだったから一応調べておいたのですよ。」
「ふ〜ん......。ところで生徒会の一位と二位が入るのが恒例というのは本当か?」
「ええ。本当ですよ。つまり、今年は僕と秋水ということですね。」
「おや、知ってたのか?」
「まぁ、一応ですけどね。」
「拒否したりすることはできるのか?」
「一応できるみたいですけど、ここで生徒会に入ることは一種のアドバンテージになりますからいままで辞退した人はいないみたいですね。」
今の会話からも分かる通り、こいつは昔から情報通であり、いろいろと情報もくれる本当に良き友人なのである。
おそらくは、この学校に関わっている全生徒のプロファイリングなんかも持っているはずである。
「そろそろ入学式が始まりそうですね。」
秀樹の言葉に俺が前を向くと、進行役と思われる先生がマイクを持ち前方にたつところであった。
「(トントン)
えぇ〜、ではただいまから第……」
「続きまして、国歌斉唱。一同起立」
“
君が代は
千代に八千代に
さざれ石の
いわおとなりて
こけのむすまで
”
「続きまして、学校長式辞」
「えぇ〜、皆様本日はお忙しい中この……」
ふむ、先生方の話が長いのはどこも同じなのかな。
校長だけでも長いのに他のお偉い方まであるとは。
全く肩が凝るではないか。
「では、最後になりますが、この高校生活、学べることはたくさんあるはずです。
そのあふれんばかりの熱意と努力でもって自らの力をのばしていけることを心より願っています。
以上です。」
「続きまして、在校生による歓迎の言葉。代表。高校三年、生徒会長、南原朱里。」
「(トントン)
新入生の皆さん入学、誠におめでとうございます。
この学校は一般の学校に比べ実習の時間も長く、入学してしばらくはやりくりに四苦八苦されることも多々あるでしょう。
そのようなときはぜひ私たち上級生のことを頼り、相談にきてください。
私たちもみずからの全力を持って貴方方をサポートいたします。
この学校で学ぶことは貴方方の将来に必ずや役に立つことでしょう。
皆様がこの学校生活を楽しんでくれることを心より願います。」
さて、入学生代表者の挨拶か。
これは、まぁ代々その年の主席が行うわけなんだがまぁ今年は俺なわけだ。
がしかし、これはわりと緊張するなぁ〜。
確かみんなジャガイモと思えばいいんだっけか。
よし、やってみるとしよう。
「続きまして、新入生代表挨拶。本年度主席入学者、北神秋水」
ジャガイモ、ジャガイモ、ジャガイモ、ジャガ......あれはどちらかと言えばさつまいもか?
まぁ、どっちでもいいか。
おっ、そんなこと考えていると緊張がほぐれたぞ。
なるほど、確かに効果はあるわけだな。
まぁしっかりと書いてきたわけだし問題ないな。
よし、いくぞ。
「優しい春風に舞う桜の花とともに私たちは今日ここに入学することができました。
駅からの桜並木を見て、この高校に入学することができたという実感が漸く持てました。
そして、これからの高校生活。
今までとは違った新たな生活に対し、不安な気持ちとともに新たな挑戦に大してのうれしさで心を弾ませています。
高校生活の中では時に悩み、時にたち止まってしまうことがあるかもしれません。
そのようなときは自分たちで協力し合って乗り越えていきたい、そう思っています。
もし、私たちだけでは及ばないような事態になってしまったときは先輩方、先生方、保護者の皆様方、どうか力をお貸しください。
最後になりますが、皆様には暖かいご指導をよろしくお願いいたします。」
ふぅ、つかれた〜。
席に戻ろう。
席にもどると秀樹が声をかけてきた。
「おつかれさま。」
「あぁ。挨拶って割と緊張するんだな。」
「まぁ、慣れが必要そうだよね。」
「以上で入学式を終わります。新入生が退場します皆様、拍手でお送りください。」
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「さて、これからどうするんだっけ?」
「クラス分けを見に行くんだと思いますよ。」
「よし、じゃあ行くとするか。」
こうして、入学式は何事もなく終わったのであった。
第一話end