Ⅳ
いつもの道とは少し風景の変わった道を歩く。
嫌な所だ。
結論を言ってしまえばそれだけ。
俺にとっては、というのが前提の話だが。
見慣れたマンションに辿り着き、階段を登る。
扉を開け室内に入り、目当てのものを探す。
引き出しにしまっていた書類等今回持ち込んだ一式をスーツケースにしまっていく。
部屋の空気が澱んでいる。日が落ちてきて余計にひどくなってないか。
明かりは点けたが、俺にとって用を成してはいないということか。
眼鏡をずらし、室内を見渡す。
我ながら毎度この好かれぶりはどうしようもないな。
何かするわけでもないので、無視しておく。
突然ドアが開かれる。
「誰だ?!」
身構えると同時に相手を見据える。
「なんだ。お前か」
「相変わらず好かれてるようだな」
「嬉しくないセリフだ」
「事実を言っただけだ。で、どうする?」
「好きにしろ。ああ、でも、あまり派手なことはしてくれるなよ。後が大変だからな」
「準備はできたか」
「迎えに来たのか。珍しい配慮だな」
「まさか。心の準備に決まってるだろ。行くぞ」
「って、おい。待てよ。いきなりか!」
「遅れるなよ」
「お疲れさま」
「明るく言わないでくださいよ。大変だったんですよ」
「でもでも、ひとりで出来るってことは、いいことだよ」
明るく笑うこのお姉さんは、この事務所の中でもトップを争う人材だ。
一緒に仕事をしたことがないから知らないが、かなりすごい人だと噂で聞いている。
「それにしても、廃校になったはずの学校に堂々と通ってるのもすごい光景よね」
「仕方ないじゃないですか。潜入するにはそれしかなかったんですから」
「生徒にも気に入られてたんだって」
「誰に聞いたんですか」
「誰にって?ほら、ね。情報通だから」
「誤魔化さないでください」
「で、あそこにいた人達は大丈夫でしたか」
「うん。きれいさっぱり忘れてもらったわ」
「そうですか。ならいいです」
「未練ある?」
「ありませんよ」
「そ。ならいいの。便利よね。その瞳」
「そうでもないです。あれがわかるようになってからはいいことないです」
「生まれつきじゃないんだっけ?」
「後天的ですね」
「ふーん。次の仕事もがんばってね」
お読みいただきありがとうございました。