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逃げる。

作者: 深谷 佳月

 ざくり。


 一歩足を踏み出した時から、彼女が後を追いかけてきているのは分かっていた。

 けれど私は歩調を緩めることなく、雪景色の校庭を歩き続けた。「教授―――…!」とか叫んでいるが、さらりと無視する。


 この地域には雪が少ない。これだけ積もったのは何年ぶりだったか。

 そんなことを考えながら、まだ学生たちが登校してくる前の、人気のない校庭に真新しい足跡をつけていく。

 我ながら子供じみた考えだが、久々の雪に、真っ先に自分の足跡をつけたかった。舞い上がっているわけじゃない。ただの、しょうもない、執着心からだ。


「無視しないでくださいよ――…っ」


 だんだんと、彼女の声が近づいてくる。

 それでも私は聞こえない振りをして、少し、歩調を早めた。




 おそらく彼女は研究途中の実験の結果をひっさげてやってくる。独自に編み出した論文には、何か新しい発見が記されているかもしれない。

 ―――…それが恐い。

 笑ってもいい。何をいい年をした男が、と。



 ざくり。


 ざくり、ざくり、ざくり……。




「教ー授ってば!」



 がしっ、と肩を掴まれて、私は足を止める。

 あぁ…、振り返った先で、私の足跡の上に、彼女の足跡が重なっている。

 とうとう足元では、二人分の足跡が並んでしまった。



 息を切らして、グラフや資料を突きつけてくる彼女には、彼女に呼ばれるたびにびくびくと心を震わせている私のことなど、知る由もないのだろう。




「なんで逃げるんですか!」


「……追いかけてくるからだ」





 いつか、追い越される気がするからだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  「足跡」と「追い越し」の象徴がとても上手にまとまっていますね。世代交代の有り様、あるべき様を見た感じです。  昨今、就職難とかなんとかありますけど、このお話のように、綺麗にまとまってくれ…
[良い点] 最後のオチが全てですね。 言葉のかけかたが良かったです。 [気になる点] あえてですけど、彼女が何の研究をしているのか書いたほうが良かったかなぁと。それが雪についての研究なら、場面描写とシ…
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