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第七話

更新遅れてすみません。しかもまだバトらないし、犬出ないし……。これからもスローペースで進んでいくと思います。どうか、どうかお付き合い下さい。

 静けさに満たされた室内。

 陽はもうとっくに傾いて、だんだんとその色を濃くする。

 オレンジがかった陽光は事務所のなかにも差し込んでくる。室内のすべてをオレンジ色に染め上げ、まだ少し肌寒い春先に、暖かさを与える。

 そんななか、座り心地の良さそうな二人がけのソファに家主は寝そべっていた。どうやらそのソファは寝心地もいいらしく、ぐっすりと寝込んでいる。

 寝言も無く、寝返りも打たず、呼吸のために上下する胸の動きも小さい。いや、注意してそれを見、呼吸音を聞かないと、息をしているのかどうかすら怪しい。

 それほどに静かに寝ている。

 帽子はローテーブルの上に無造作に置かれ、危うく、片付けられていないままのティーセットにぶつかりそうだった。

 すべてが作り物のように、何もかもが動かない静寂の部屋。トマリもまるでその一部分のようであった。

 夕焼け色の光は、見方を変えるとそんな部屋の中で、ひどく物悲しい雰囲気を作り出しているようにも思えた。


 エイラの寝る部屋の支度を終え、その部屋の静寂を破ったのはルナーだった。

 意識しているのかいないのか、静けさを保とうとするかのように、足音は全くない。意識しても消すことの難しい足音が、全くの無音ということは、おそらくは意識してのことだろう。そして、自分の足音を消す――つまり、気配を意図的に消せるということは、それ相応の訓練を積んできた証でもあった。もちろん、あんな神速の剣を繰り出せる人間が、訓練の一つも積んでいないならば、全くのサギだが。

 呼吸の音も感じさせずに、そっとソファに近づいていく。

 トマリは普段、「おやすみ〜」と言って、本当に寝ても、他人の気配が近づくとすぐに目を覚ます。それが、どんな熟練が最高の技術を持って気配を消して近づいたとしてもだ。 だが、たった今。ルナーがどれだけ近づいても、起きる気配をまったく見せない。もちろん狸寝入りでもないだろう。

 そんな些細な、でもとても大きな気がする、信頼のようなものを、トマリはときたまルナーに見せてくれる。

 そんなとき、ルナーは、嬉しさや満足感のような感情がないまぜになった、どこかくすぐったいような、不思議な気持ちに身を浸す。それはもちろん不快なものであるはずがなかった。

 自然に顔に浮かんだ微笑みに気付かないまま、ルナーはじっとトマリの寝顔を見つめる。

 どこよりもゆったりと時間の流れる室内は、それでもやはり、だんだんと暗さを増し、色も、オレンジ色から薄藍色に変化する。

 もうすぐやってくる『時間』を思い出し、ルナーは静かにその場を離れ、ティーセットを片付け始めた。

 てきぱきと片付けたそのすぐ後、今度はエイラに出す夕食を作り始める。 作っている場所は、一番初めにルナーが出てきた右奥の扉の向こうにある部屋だった。

 その部屋には器具も一通り揃ったキッチンがあり、仕切りで隔てたさらに奥にはルナーの執務机があった。

 この部屋は、ルナーが助手になった時に、使いやすいようにと何もなかった部屋を、トマリがいろいろ造り替えさせたのだった。調度もトマリ自身が使うものに、勝るとも劣らない品々が揃えられた。

 部屋は意外と広く、過ごそうと思えば食料さえあれば何日でも過ごせるような大改造が施されていた。

 いかにも慣れた手つきで、スープにサラダ、メインと、次々と夕食のメニューは仕上がっていく。だが、それはどれも、どう見ても一人分しかなかった。

 それをお盆の上にバランスよく載せ、よく冷えたアイスティーも一緒に載せてから部屋を出る。

 まだ、部屋は静寂のなかにあった。

 極力その静寂を壊さないよう心がけ、部屋を通り抜けてエイラの待つ部屋へ向かう。

 渡された食事を、エイラは不思議そうに見つめたあと、行儀よく「いただきます」と言い、食べ始めた。それを見計らって、ルナーはまた事務所の方に戻る。することはたくさんあった。

 そしてまたキッチンに向かい、今度はさっきよりずっと簡単な、短時間で食べられるものを作り始めた。それがトマリとルナーの食事だ。

 普段からこうなのではない。

 食べられる時は手間を惜しまずにきちんとした料理を作る。

 だが、今夜は事情が違った。時間はあるにはあるが、しっかり食べてしまっては、あとあと困るだろう。そう思っての軽めの食事だ。


 手ぶらで自室を出る。そして、トマリの寝ているソファに、またそっと近づいていく。

 やはり目を覚ます気配はない。

 トマリの安らかな寝顔は、無垢な子供そのものだ。つらさも哀しみも苦しみも、何も知らない無垢な……。

 静かに降り積もってゆく雪のような孤独を感じて、胸が締め付けられる想いがした。

 なぜそんな風に感じるのだろう……? この無垢な寝顔を見て。

 ずっと見つめていたいという想いに駆られ、そんな感情にルナーは戸惑った。

 部屋は既に陽光の気配をまったく残していない。真っ暗な部屋の中、辛うじて行動できる程度だった。しかし、星灯りと満月の優しい光のおかげで、部屋の中を動き回るのに支障はないし、今もこうしてトマリの寝顔はちゃんと見えている。

 ソファの上、窓側に頭を向けて寝ているトマリに降り注ぐ光を、遮るかたちでルナーは立っていた。

 そして腕を伸ばし、寝ているトマリの肩に手をかけて、優しく揺さぶる。

「……トマリ。日が暮れたぞ、もうそろそろ起きたらどうだ? 起きて、軽く食事に……」

 ……しよう。言いかけたルナーの腕は、いきなり強い力に引かれた。

 それはもちろんトマリの仕業だった。

「トマ……」

 文句を言いかけた口唇くちびるは、突然前触れもなくふさがれた。

 ルナーの口唇をふさいだのはトマリの口唇だった。


言っておきます。多分、次もバトりません。期待しないでお待ち下さい……。ほんと、すみません。

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