幕間 〜銀扇草〜
疼きだす。暗き闇に属する自分が。
久しく感じていなかった、あの空気。俺を恐れる視線。
それが俺のなかの闇を呼ぶ。混沌としていて底が見えない。
すべてどうでもよくなる。生きることを捨てたくなる。生に意味を感じない。
ああ、もう。どうでもいい。すべてが。
昏く……昏く笑う自分を自覚する。闇の底から招く手を感じる。静かに引きずり込まれるのを、俺はただ見ている。
――嗚呼。すべての人間が俺を恐れて離れてゆく。叫んで、悲鳴をあげて、俺をバケモノと呼びながら。
それでも、俺はただ見ている。
愉しくて、愉しくて仕方がない。狂ったように嗤い出したくなるのを、抑える意味なんてあるのか?
サア。嗤エ。オ前ハ人間ジャナイ。人間デアロウトスル意味ナドアルノカ?
ナゼ足掻ク必要ガアル?
スベテヲ捨テロ。楽ニナレ。タイシテ大事デモナイモノ、手放シテシマエ。
楽に、なれる?
すべてを手放して、もう、終わりに……
『―――ッ!!!』
なんだ? 呼ぶ声が聞こえた。
耳から入る音じゃない。魂に直接届き、触れて、無理矢理にでも揺さ振り、微睡みから叩き起こす、チカラのある聲。
でも、なんて暖かい声。
――ああ、そうだ。
この声は、俺を恐れない。なんでもなく俺を当たり前に受け入れる声だ。
そして、それを俺は知っている。識っているんだ。
この声だけが俺を生かす。闇から引き上げる。
この声があるから俺はこの世界に受け入れられているかもしれないと思える。
だから………………
だから、また俺を起こしてくれないか? 美しく咲く俺の銀扇草……。
五話の続きじゃありません。あれ? おかしいな……。なんでこんなん書いてるんだろ? でも、時系列的にはここに入れるしか……。次は普通に続きです。