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第六十一話

 歩き出したルナーが、ふいに立ち止まった。

「…………」

 左右を見回したり、何もない天井を見つめたりしている。

「ルナーリアさん? どうかしましたか?」

「いや……戦っている間中、ずっと感じていた視線が……今はなくなっているな、と」

「視線?」

 ファルシコーネが聞き返すと、ルナーは言葉を探すように黙った。

「ああ、敷地に入った辺りからだったか……多分、何かの術だったんだと思う。その術で、私たちの動きを見ていた……多分な」

「ということは……まだ異能者が残っているんですか!?」

 ファルシコーネの慌てた言葉に、ルナーは首を振って否定した。

「違うだろう。あの感覚が魔力だとするなら……私はそれを知っている」

 ファルシコーネは嫌な予感がした。そして大概、そんな予感は当たるようにできている。

 つまり……。

「あの感じは、トマリの魔力だ。あいつは……、多分お祖父様に言われて私たちを監視していたんだろう」

「ヒ………!」

 息を呑んだ。

 ファルシコーネの内心も知らず、平然とルナーは言った。

 それによってもたらされる恐慌にも、気付くことはなかった。

 ……やはり、だ。嫌な予感はおそらく当たっている。確認する術はないが、ルナーがトマリに関することを間違いはしないだろう。

 トマリは知っている。自分がルナーを止められなかったことを。みすみす怪我を負わせてしまったことを。

 それを思うと、ファルシコーネは生きた心地がしなかった。というより全身の血の気が引いて、今にもぽっくり逝ってしまいそうである。

「そっ……それにしても、よく分かりましたね、監視されていたなんて」

 心の平安を得ようと、話題を変えて嫌な記憶を忘却の彼方に押しやろうと試みる。

「戦ってる間は感覚が普段よりも鋭くなる……術を使っていたのがトマリじゃなかったら分からなかっただろうがな」

「……そうですか」

 ファルシコーネの思惑はあまり上手くいかなかったようだ。

 だが、ふと気付いたことがある。

「いまは監視は無いってことですか?」

「少なくともトマリの監視は、という意味だがな……」

 ルナーは自信がないのか小さく呟いた。もともとすべての魔力を感知できるわけではない。それに加えて戦闘という特殊な状況下で感覚が鋭敏になっていた。いまも同じ正確さを求めるのは無理があった。

「そうですか」

 しかし、ファルシコーネはまったく落胆の色を見せず、当たり前のように受け入れて頷いた。

 そして次の言葉を放つ。

「……でも、おそらく貴女のお祖父様はクルーエルの能力を高く買っている。あの手紙からも分かるようにね……ですから、異能者達の頭が出てきたということはつまり、御当主の側にはクルーエルしかいない――ということでしょう」

「…………」

 ルナーは歩きながら隣のファルシコーネを見上げた。普段は軟派で怪しげなデス・マス調を操るが、ここぞという時に冷静で、頭も切れる。何故彼がトマリのそばにいるのか、少しだけ分かった気がした。

 ルナーはぽつりと呟くように訊いてみた。

「トマリは……何故離れてしまったのだろうな……」

 答えを求めていないかのような問いだが、ファルシコーネはそれに応えた。

「さあ……クルーエルの考えることなんて、私には分かりませんけどね、」

 ファルシコーネの続く言葉を遮ってルナーは言う。

「ヒトになりたかったのか? それとも……『私から』離れたかったのか?」

「…………」

 ファルシコーネはどう答えるべきか数瞬迷った。

 そしてあっけらかんと言い放った。

「ヒトになりたがると思いますか? あの男が。有り得ませんよ、さんざん『弱い』とか『脆い』とか貶してたんですから」

「だが、以前にこうも言っていた……『ヒトは確かに弱く、脆く、儚いけれど、別の何かを持っている気がする……その強さのかわりに持つものがなんなのかを、知りたいと思ってる自分がいる』と。それは……それは………」

 まるで今にも泣き出しそうに悲壮な顔付き。震える声。認めたくない真実ホントウ

「でも、ヒトになりたいと言ったわけではないんでしょう?」

 きっぱりと言い切るファルシコーネ。戸惑いながらも小さく頷いたルナーを見て、言葉を続ける。

「それに、貴女から離れたいなんて、思うわけありませんよ。

『……光の中では生きていけない。

 自分の生きる場所はここではない……トマリがいなければ、ここで生きることができない……光が眩しすぎて、夢や幻のようで、まるで現実味を帯びない。そのことに絶望しながらなんて、生きていけない。

 トマリが光と闇の中継点となって繋ぎ止めてくれた。でも、そのトマリがいないなら、もう無理だ。きっとそう経たないうちにまた闇に戻る。

 ――生きるためにトマリが必要だ。トマリがいないなら、生きる必要を感じない』

 貴女は以前、そう言いましたよね?」

 すらすらと記憶からルナーの言葉を引っ張り出すファルシコーネに、呆れるような、恥ずかしがるような眼差しを投げかけて、ルナーは無言で頷いた。

 ファルシコーネは諭すような優しい微笑みを浮かべた。

どんなマンガや小説でも、過去のセリフが出てきたらだいたい終わり間近ですよね〜。この作品も、もちろん例に漏れません。

いつ終わるかはまだ目処が立ってませんが。いい加減に計画的に書けって感じですよね。自分でもそう思ってます。でも、できないんです……(泣)

次の作品では計画的にを目標に!(次なんてあるのか……)

めちゃくちゃスローペースで申し訳ありませんが、これでも終わりは近いので、今後ともよろしくお願いします。

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