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第五十四話

 薄暗く不気味な、外界から遮断されたような屋敷のエントランスに二人はいた。

 侵入するすべに長けている人間は、それを防ぐのにも長けている。そんなわけで二人はいまだにエントランス。

 ……いや、言いなおそう。二人はまだエントランスにすら辿り着けていない。

 門をくぐった途端に、どうやって異常を察知したのか、すぐさま数人の警備の人間が出てきて、あっという間に追いつめられてしまった。

 玄関の扉の前にいるのだが、一歩及ばず建物のなかに侵入するには至っていない。

「くっ……、こうもゾロゾロと……ヒマな奴らだ」

 言ってルナーは刀を抜き放って正眼に構える。その後ろに、やや情けないポジションだが、ファルシコーネ。彼のほうは手慣れた物だからなのか、いつのまにか手にはメスが握られている。

 ルナーは周囲を見まわして、今の状況を把握しようと努める。

 銃を持った男が二人。長剣を持った男が三人。そして徒手空拳が四人――いわば丸腰だが、その分素手での格闘に優れているのだろう。もしくは暗器を仕込んでいるのか。

「仕方ない……ファルシコーネ、面倒だろうが殺さないようにしてくれ」

「そりゃ、まぁ……初めから殺す気なんてさらさらありませんけどね? でも、こっちが殺されそうですよ……」

 弱気の極みのようなセリフをはいて、それでも戦う意思はなくなってはいない。それどころか、表情はいきいきとして、ケンカを楽しむような心情まで見て取れる。

 じり、じり……と迫ってくる集団に向かって、ルナーは間合いを計る。

 そして、視界に銃を持った二人の男が入った途端。

「―――っはぁッ!」

 他の人間を完全に無視して真っ直ぐ駆け出す。

 銃を持った二人は、遠距離の武器を持つため、自然と集団から離れた位置にいた。つまり、広く戦いやすい場所に。

 相手はぎょっとしたが、すぐさま照準をルナーの腹か、または心臓あたりに定める。分かりやすい急所は脳だ。そこをやられたら誰だって即死だが、的が小さすぎる。はずしたときの隙を考えて、手練れは的の大きな胴体を狙うものだ。

 解りきったこと。ルナーとて、銃に関してまったく知識がないわけではない。刀の技量が優れ、また気に入っているからそれを使っているだけで、すべての武器において一通りの知識と経験はある。 腹を狙うだろうと踏んで、刀を銃口と自らの腹とのあいだに置く。そしてそのまま一気に距離を詰め、相手の腹を薙ぎ払う。

「ぐぅ……ッ」

 相手は裂かれた箇所に手を当て、そのまま膝をついた。それでもまだ開いた片手で銃を構え、ルナーを狙う。

「…………」

 それを見たルナーは溜め息をついて、刀の柄で首筋をたたく。

 その一撃で、あっという間に意識を失って相手は倒れた。

 ここまでほんの数秒のことである。

 すぐさま次の獲物に取りかかろうと、振り返りかけたその時。


 ――ダァンッ、ダァンッ、ダァンッ…………!!!


 もう一挺の銃が立て続けに火を噴いた。耳をつんざくような破裂音があたりに重苦しい余韻を残す。

「しま―――ッ! っぐ………」

 幸い、銃弾はすべて急所を捉えてはいなかった。タイミングの問題か、ルナーが無意識に避けたのかは定かではないが。それでも、すべてがどこかしらに当たったのは、使い手のレベルの高さだろう。

 瞬間的に感じたのは熱だった。痛みという感覚はどこか遠くへ追いやられたように、ただ熱さだけがルナーの体を灼いた。

 一瞬後に、利き手の肩と脇腹と太腿がじくじくと嫌な痛みを訴えだした。

 急所をはずしたとはいえ、当たった箇所の肉は削られ、真っ赤な血が次から次へと溢れては体のあちこちを流れ落ちて、皮膚を、服を、赤く染める。これでは刀を振るうたびに耐え難い激痛が襲うだろう。

 しかし……、

「……ぁぁああぁあああっっ!!!」

 彼女は咆吼を上げて自らを傷付けた人間に向かって疾る。

 刀を持った手は遅れがちだが、もう片方の手がそれをしっかりと支え、渾身の一撃を放つ。

「……かはッ」

 まともに食らった一撃で、男は肺の空気をすべて強制的に吐かされた。ただ、その空気を吐く、声にならぬ声だけを上げて、そのまま地面に墜ちた。

 あまりの気迫にファルシコーネはつい思ってしまう。つい先ほどの彼女の言葉を、彼女自身が翻してしまったのではないかと。

「る、ルナーリアさん? まさか……」

「――殺してはいない。峰打ちだ」

 たしかに、たった今倒れた男からは一滴も血が流れていない。

「そう、ですか……。やー、キレて、そのまま勢いで殺っちゃうのかと思いましたよ」

 それだけの気迫は感じられた。

「誰がそんな馬鹿な真似をするか。こいつらは、雇われただけだ……異能者ですらない」

 ファルシコーネはたった今気付いたように、そういえば……と呟いた。現にたった今気付いたのだろうが。

「さて。残りもさっさと片付けるか……さあ、自殺志願者は出てこい。そいつらはもれなく半殺しだ……いや、十分の九殺しかな……?」

 誰もが戦慄する凄まじい笑みを浮かべて、心底楽しそうに笑う。

 戦いを避けても、嫌っても、やはり彼女の本質は戦いという純粋なぶつかり合いにおいて真価を発揮する。

 命のやり取りにすべてを懸ける、彼女は獰猛な獣。優秀なハンター。

 だが――、

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