第五話
……すみません。はじめに謝っておきます。内容を読んで後書きに行ってもらえれば理由がはっきりするかと。
意外に気持ちよく人の耳に馴染む声は、トマリのものだった。
ハッとしたかのように何度も瞬きを繰り返し、状況が分からないとばかりに辺りを見回す。
「――やっと、目ぇ醒ましたか、この大馬鹿野郎」
「……え? えっ?」
トマリは狼狽えた。
そんな二人を見て、エイラは何が起こったのか分からずにポカンとしている。
そんなエイラなど気付かないように二人は会話を続ける。
「まったく。誰もいない所なら、まあいい。他人に迷惑がかからないからな。だがな、よりにもよってッ! 客のいる前で『なる』なッ!!」
「……あ。僕、『なってた』?」
「ああ。なかなかにダークだったぞ? いつヤケを起こしてその銃を頭に突き付けるかと」
そう言ってトマリの手にある銃を指す。
「あは、あははは……」
トマリにできるのは乾いて引きつった笑いのみ。
と、そこに。トマリにとっての救いの手が差し伸べられた。かもしれない。
「あ、あの……。今、どこからその銃、出てきました……?」
人差し指の指す直線上には、ついさっきルナーの剣を止めた銃が一挺、トマリの手に握られていた。
二人は顔を見合わせ、(何が分からないんだろう?)という顔をした。
「? だから、えっと、どこからって……僕のスーツの内側、っていうか、ほら」
スーツの上着を開いてみせる。そこには、シャツに絡むようにして銃のホルスターが着けられていた。
「??? だって、ずっと持ってませんでしたよね?」
「うん。だから……」
目の前で普通に銃をホルスターに収める。そこから。
「ほい」
声とどっちが早いか瞬きの間にトマリの手に銃が現れる。
「ほいっ」
声がして、またいつのまにか手から銃が消えている。
「………」
残像くらいは見えたかもしれない。そんなことを思いながらエイラは黙っていた。
にこにことさっきまでとはまったく違う色のある笑顔を見せながら、
「ね? ちょっと速く出し入れしてるだけ〜」
当たり前のように言うトマリに、(やっぱり私とは違う世界のヒトなんだ……)と呆れたような目でエイラは見つめていた。
ぼんやりと別世界の二人を見つめながら、一つ思い出してトマリのそばまで走り寄った。
「あのっ、と、トマリさん!」
「ん?」
いざとなると、かなり勇気が要る。
少しのあいだ「あの」とか「えっと」とか、もぐもぐと呟いた後、いきなり頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ!」
「………………………………ひぇえ?」
かなり間抜けな声と顔でポカンとするトマリ。
「あの……助けてもらうのに、助けてもらえる人にやっと会えたのに、あんな態度をとってしまって、本当にごめんなさいッ!」
一気にまくし立てられてトマリは困って何も言えないでいる。
「本当に、本当に……ッ」
頭を下げたまま涙まじりに謝るエイラにトマリは微苦笑した。
「え〜、えっと、あの、もういいから。ね? ずっと怖くて、切羽詰まってたと思うからさ、やっぱ、冷静になれない時もあると、思うよ? というか、僕、すごいキミを怖がらせたんだよね? そっちのが、ごめん。ただでさえ怖がってる人に、何やってるんだか僕」
言いながらだんだん哀しげな微笑での自嘲に変わる。
「本当に、すみませんでした。依頼人であるあなたを怖がらせてしまった。あなたに責任なんて無い。ただ、怖かっただけだ」
言葉には後悔の苦しさが滲み出していた。
エイラの頭を上げさせて、自分が頭を下げる。
「え!? や、やめて下さい、トマリさん! どうしてあなたが謝ってるんですか!?」
そんなやりとりをする二人を見咎めて、ルナーは間に割って入る。
「あの、さ。二人ともお互いに謝った、ってことで、もうやめないか? このまま続けても埒が明かないだろう?」
「ルナー……。うーん、そうだね。一刻も早くバーンズさんの問題を解決しないとね〜。それでいいかな? バーンズさん」
――ははは。ふにゃっと笑うトマリ。
「はいっ」
「よしよし、っと。……あ、そうだ。トマリ、エイラのことはちゃんと名前で呼んでやれよ」
「……ふぬ?」
変な顔で首をかしげるトマリの顔を見て、ルナーはつい吹き出してしまった。
「ふ、ははっ。……さっきそういうことになったんだ。名前で呼ぶ、ってな」
「? ふーん……バーンズさんはそれでいいの?」
「はいっ、ぜひ!」
嬉しそうに笑うエイラにトマリは逆らえなかった。
「そう……。じゃ、よろしくね、エイラさん」
そう言うトマリは何ともいえない不思議そうな表情だった。
とりあえずこれで何となくまとまった。
『請負屋』トマリは、やっと進み始める。
ハイ。分かったと思います。『やっと進み始める』とか言ってます。今までのは何だったんでしょうね?(自問自答)
いや、でも。でもですね。次は『犬』出ますんで。多分。(……言い訳。しかも多分だし)