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第五十二話

 ルナーは悩んでいた。というよりは落ち込んでいた。

 原因はもちろん一つしかない。トマリのことである。

 こちらは馬であちらは徒歩。なのに首都に着くまでに追いつけなかった。

 こちらは情報収集をし、食事を摂り、宿屋に泊まる。その間トマリはただひたすらに歩く。普通の人の速さでは、もちろんない……考えれば追いつけるはずもない気がしてくるのだが、そんなことはルナーには関係なかった。 トマリが屋敷に着いてしまえば、連れ帰ることは困難のレベルが違ってくる。その前にどうしてもトマリと話をしたかった。

 だが、それも時既に遅し。

 シンヴァール侯爵家の本邸もある王都についたのは、もう三日前のことである。

 誰もが希望と夢を抱き、喜びをもって王都に入る。だが、二人は絶望と落胆を抱き、憂いをもって王都に入った。

 これからどうやってトマリを奪い返すか。その策もないまま、時間だけ過ぎていくという、どうしようもない状態だ。


 することが何もなくても、体は勝手に動くものらしく、今日も早朝から日課である鍛錬を欠かすことなくこなしていた。物心ついた時から滅多に欠かしたことのないこの日課だが、倒れたときの時間の分だけ体はなまり、旅に出てからは取り戻すように激しいものになっていた。

 何も考えず、澄んでいく思考を自覚しながらも、何か考えつくわけでもない。それも解っているのだから、苛立ちは増すばかりだった。

「――はぁッ!」

 裂帛の声は刀に乗り、鏡のように美しい刃は空気を裂いた。

「……はぁッ……はぁッ……すぅー……はぁー………」

 刀を静かに鞘に収めていく。

 乱れた呼吸はすぐにも深い呼吸によって静かに整えられた。激しく打つ脈も、常人とは比べるべくもない速さでゆっくりと安定していく。

 澄んでいたのは思考だけではない。その感覚も、刀を持つあいだは常より鋭敏になる。

「…………誰だ」

 その鋭い誰何すいかの声に、物陰に隠れていた者は竦み上がった。

「――まったく、鋭いですね。一応、気配は消していたんですけどね」

「戦いが本職じゃないおまえが、いくら気配を消しても消しきれるはずがないだろう。……それで、なにか用か?」

 ファルシコーネは肩を竦めた。その顔に浮かぶのはかすかな苦笑い。

「用、といいますか……これからどうするつもりです?」

 いま最も訊かれたくないこと。だが、同じく最も考えなければならないこと。

 ルナーは大きく息をついた。なにか捨てられない想いを断ち切るように。

「行かねばなるまい……いや、」

 言ってから首を振る。

 それではまるで、他人から課せられた義務のようではないか。

 トマリを取り戻す。

 これは誰が望んだことだ?

 ――私だ。

 これは誰がなすべき事だ?

 ――私だ。

 もう心は決まっているはず。迷いはない、いまさらだ。あとは実行に移す、ほんの僅かなきっかけ。その為のほんの僅かな勇気。

「――行く」

 その答えに満足したようにファルシコーネは笑った。

「よかった。この期に及んで後ろを向いちゃったらどうしようかと思いましたよ」

 柔らかい物腰でにっこりと言っているが、その内容はかなり手厳しい。首都について三日、なにを手をこまねいていたのかと叱責された気分になる。おそらくその通り言いたいのだろうが。

「……悪かった」

 やや不服そうにルナーが詫びても、ファルシコーネはにこにこと笑っている。無表情とは種類が異なるが、これもポーカーフェイスと言えるだろう。

「いえいえ♪ ……それで、いつ屋敷に忍び込みましょう?」

 かなり人聞きが悪いがすることはまさしく事実なのでしょうがない。

「早いほうがいいな……今夜だ。今夜十時」

「本当に早いですねぇ。ところで、十時でいいんですか? 深夜の方が忍び込みやすいでしょう?」

「まあたしかにな……だがッ!」

 最後の一音を置き去りにして振り向きざま掌に収まるサイズのナイフを空に投げつける。体の回転の力――遠心力も加わって、ナイフは目で追うのがやっとの速さで駈けていく。


 ――ドスッ!!


 鈍い音がしたのと同時に、

「ギャァァァァアアアッッッ!!!!」

 奇妙な――生き物の断末魔の叫びのような声が聞こえた。

「なっ………」

 呆然とするファルシコーネを尻目に、ルナーは地面に落下した鳥を拾い上げた。

「それは……?」

「私たちを監視していたんだろう。だから、いつ忍び込もうが同じ事だ……相手に筒抜けなら、周囲に迷惑がかからないことだけを考えればいい」

 ぐったりとしている鳥の首を掴み、胸のあたりからナイフを引き抜く。不思議なことに血はまったく流れない。

「式神だな……おい、帰してやるからおまえの主人に伝えろ。今夜十時きっかりにそちらに向かってやるから、歓迎の準備をしておけ、とな」

 獰猛な笑顔で凄み、そのまま空に向けて鳥を放す。

「これで予約を入れることができた。あちらは盛大に歓迎してくれることだろう」

 なんでもないことのように言うルナーに、深く詮索はしないでおこうとファルシコーネは別のことを尋ねた。

「そのナイフ……暗器ですよね? 一体どこに持っていたのか、訊いてもいいですか?」

 するとルナーは、けろっとして答えた。

「どこって……全身のあらゆるところに。寝るときも身につけている」

「…………」

 今度こそファルシコーネは言葉をなくした。

前回の話はわけ分かんなかったと思います。作者もわけ分かんないです。なんであんなの書いちゃったんだろう……。でも、一応ちゃんと意味のある話です。記憶のスミに留めておくとあとで意味が解るかも。……解るような話が書ければいいなぁ……(遠い目)

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