第四話
「さて。さっさとあいつの目を醒まさせないとな」
「えっ? エテルニタさん、目を……って、どうやって……」
ルナーはエイラに向かって獰猛な笑みを浮かべた。それが、彼女の自然体をよく現わした会心の笑みだったと確信した。
「ふふっ……見てれば分かるさ。それと、『エテルニタさん』じゃなくて、『ルナーリア』だ。トマリもな」
「……へっ?」
急に的外れなことを言われて間抜けな声を返してしまった。
が、すぐに思い直し、笑顔を返す。
「はいっ、ルナーリアさん! でも、私も『エイラ』ですからね!」
ルナーは目を瞬いてパチクリさせた。そして、フッと嬉しそうに微笑んだ。誰もが見とれる美しい笑み。
「……よしっ。
エイラ、危ないから離れててくれよ」
「? 分かりました」
ルナーの言葉の意味はよく分からなかったが、とりあえずうなずいておいた。
お姫様をを背に庇う勇者のように、エイラに背を向け、ルナーは腰の剣に手をかけた。
とりあえずモンスターはトマリなのだろうか?
ルナーは今度は自信に溢れたカッコイイ笑みを浮かべた。
右手は左の腰に帯びた剣の柄を握り締め、左手は鞘を支える。片足を引き、腰を低く構える。視線は真っ直ぐ刃がむかう先、トマリの喉を見据える。
すべての動作はあらかじめ決められた舞を舞うように引っ掛かりもなく滑る。ゆったりとも見える動きは、一つ一つ独立したものではなく、すべて合わせて一つ。
「る、ルナーリアさん!?」
動揺したエイラの言葉も耳に入らない。無視しているわけではなく、集中のしすぎで本当に聞こえていないのだ。それだけルナーが本気だともいえた。
不気味に薄く笑っているトマリは、命の危機にさらされている感じは全くなかった。
ルナーが帯剣している得物は、男の使うような長剣とは違い、細く軽くなっている。そして、西洋の剣によくあるような、突いたり叩き斬ったりするタイプではなく、本当に『斬る』ために特化しているものだった。かなり以前に、そのように特別にあつらえた物だった。
今からルナーがしようとしているのは、遠く東洋の島国に伝わる剣術のなかの『居合い』と呼ばれるものだ。
そして、その居合いに、出来得る限り最も適した得物といえた。
ジリジリと近づいていって、トマリが間合いに入った途端、周囲の空気が攻撃性を持った気がした。そう感じるほど空気がぴりぴりと緊張したと思ったのだ。
それはある意味で正解だった。その緊張した空気はルナーの殺気だ。
その殺気ははっきりとした方向性を持ってトマリに向かっていく。存在を主張するかのように。
その殺気を肌で感じてもまだ、トマリは笑みを崩さずにルナーを静かに見つめている。
「――ふッ!」
短く鋭く呼気を吐き出した後、ルナーの剣は摩擦なく滑らかに磨かれたレールを奔るようにトマリの喉元に吸い込まれてゆく。
「――――っ!!」
エイラの悲鳴は、しかし声にならずに掠れて空気を震わせただけだ。
完璧に研ぎ澄まされた刃先がトマリの喉に埋まる寸前。
ガキィィィィン―――
余韻を残して大きな金属音が響いた。
ルナーの愛剣の軌道をふさぐように十字に交わったのは、トマリの手にいつのまにか握られていた一挺の銃だった。火花さえ散らしそうな攻防。いや、実際散ったのかもしれない。
とにかくそんな攻防の後、聞こえた小さな声。
「……あ、れ?」
お叱りでも何でもいいです。感想お願いします! もう、文句でも何でもいいです! もう、ぜひ!!!
これからもっともっと頑張ります。というか知人に「犬出せ」って言われました。出そうとは思ってます。でも多分次の話では出ません。楽しみにしてる人いるんでしょうか……? では、今回はこの辺で。つぎは早く更新できると思います。