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第三十五話

 その黒い鳥は、よくよく見れば羽だけでなく、眼の色も嘴の色も足の色も――すべてが黒かった。

 鳥をじっと見つめると、視線が合った。そう思った瞬間、信じられないものを見た。

 笑ったのだ。ニヤッと目を細めて。鳥の構造的にそんなことできるものなのかは甚だ疑問だが。

「―――っ!?」

 ルナーが思わずトマリの服の裾を掴むと、トマリは振り返って言った。

「大丈夫だ。あれは本物の鳥じゃない。たぶん、レングラートが寄越したんだろう」

「あいつが? 何故……」

「ルナー、レングラートは『あの人』に雇われて俺達を狙っている」

「!!!」

 ショックを受けているルナーを立たせ、別の部屋に逃げるように入り、鳥が入ってしまう前に扉を閉じる。

 その部屋にいたファルシコーネはぎょっとして二人を見ている。

 だが、トマリはそんなファルシコーネに説明してやる時間も惜しいと、一瞥しただけでルナーに向きなおる。

「ルナー。ずっと言わなくてごめん。でも今は文句聞いてる時間もないから要点だけ言う――『あの人』は今でもお前を諦めてない。何人もの異能者が雇われてる。エイラはレングラートに作られた人形だった。俺が魔力を取り出したからヒトを装えなくなった。『あの時』レングラートからエイラを介して直接聞いたことだ……他に、聞きたいことは?」

 ルナーは俯いて必死に言われたことを整理している。だが、俯いている理由はそれだけじゃないだろう。暗い表情でぽつりと聞く。

「エイラの魔力を取り出したのは、エイラが人形だと知っていたからか?」

 予想できた問いだったのか、冷静な答えがすぐに返ってきた。

「いや、違う。気配はヒトそのものだった。だから俺は……解らなかった」

「……そうか」

 一言だけ呟くと、さらに俯いてしまった。が、力を溜めるように深く頷き、ぱっと顔を上げた。そこには戦う者の強い意志だけがあった。

「解った、それだけ聞きたかった。……トマリ、すまない。剣を隣の部屋に置いてきてしまった」

「いや、あの鳥は戦うためじゃないだろう」

 言うなり、扉を開けようと立ち上がる。

 二人は、もう悲壮感など微塵もなかったし、さっきの甘い雰囲気が嘘のように苛烈な空気を纏っていた。


 寝室に戻った二人の気配に、黒い鳥は羽を広げて人間のような仕草で礼をした。

「お久し振りです、お嬢様。先日私が伺った際は、お会いできなく至極残念でございました」

 ルナーは顔の筋肉を一瞬ぴくりと引きつらせたが、それだけだった。すぐに無表情に戻ってさりげない口調で言った。

「そうか、ちょうど私が席を外していた時だな。すまないことをした、レングラート」

 黒い鳥――ディランは、器用にもちょっと驚いたような表情を作って見せた。

「――いえいえ、今こうしてお会いできたのですから、お気になさらず。――ああ、そうそう。あの後、私の送った木偶人形がご迷惑をお掛けしませんでしたか?」


 ――ビキィッ


 何かが軋むような音がしたのは気のせいではないとトマリは確信する。

 その音に合わせて、ルナーの纏う雰囲気が一変したからだ。

 努めて平静であろうとしていたルナーの限界をいともあっさり越えて、一見して判りにくくはあったが修羅の如き殺気を纏い、その怒りの凄まじさに反比例するように表情は凍っていく。

 握った拳からギリギリと音が聞こえそうな位に強く握り締めた指は白くなっていた。

「ディラン・レングラート。簡潔に言え、お祖父様に何を言い遣ってここへ来た?」

 言葉少なにルナーは問う。こんな奴と一秒でも長く話したくはないとでも言わんばかりに。

 そして、ディランはそんなルナーに気付いてか気付かないでか、驚いたように鳥の小さな目を最大限まで開いた。だが、すぐにその表情は嫌な笑みに取って変わる。

「……クルーエル、お嬢様に話したのですか? あんなに過保護なまでに聞かせまいとしていたのに」

「…………、」

「そんなこと、今はどうでもいい。さっさと用件を言え」

 吐き捨てるように言うと、ディランはさっきとは微妙に違う笑みを浮かべ、鳥の体で器用に一礼した。

「……本日はあなた方お二人に、最後通告をしに参りました」

「最後通告?」

 ルナーが鸚鵡返しに聞くと、ディランはしかりと頷く。

「このままお嬢様に私と共にお帰りいただくか、あくまでお館様と対峙なさるか。それを聞くようにと、お館様は仰いました。お館様は突然何も言わずに出奔した貴女を許すと仰せです」

 ルナーの表情はさらに冷たく作り物めいたものになる。

 そして、この世で最も嫌悪するものを見てしまったかのような、侮蔑と嘲りを多分に含んだ視線をディランに向ける。

 嘲笑を浮かべ、ルナーはたった今聞いた言葉と目の前で喧しく囀る愚かな鳥と、そして長らく会っていない傲慢で世界が自分を中心に回っていると思っていそうな勘違い野郎に対して、

「『許す』? はっ、馬鹿馬鹿しい。何故私が『許してもらう』必要がある? 私は私の意志であそこを出たんだ。誰かに許しをこう必要など感じないな」

 見ていて潔い程はっきりと言い、一笑に付した。

遅くなりました。最近はパソコンに触れもせず、携帯でばかり書いてました。編集はパソコンなんですけど。いつの間にやら幕間やプロローグを含めると四十話目です。早いような遅いような。これからもご贔屓にお願いします。では。

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