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第二十話

更新遅くなりました(また)……。すみません。

「―――!!!」

 気付かれていた……? 一体、いつから……。

「あまり、私を見くびるなよ。呼吸による音、胸の上下。そして、気配。――寝ている表情を見て、おかしいと思った。よくよく気配を探ってみれば、生きていないことは判る。まあ……操られていた時までは完全にヒトの気配だったのが気になるが」

 迂濶だった。ルナーならそれくらいのことは朝飯前だ。知悉しているはずの事実を、簡単に失念した。

 気付かないまでも、自分は動揺していたのだろうか?

「なぜ黙っていた? ――とは、愚問なのだろうな……だから聞かない。あまりにもバカらしいからな」

 どう考えても、ルナーのため。ルナーを傷付けないため。

 ルナーにしてみれば、だからこそバカらしいのだが。

「そんなに、バカらしいかな……」

 トマリが、誰に尋ねるでもなく、答えを求めずひとり呟く。

「知ったら、ルナーが悲しむと思ったんだ。ルナーは、とても優しいから」

 ぽつりぽつり、自分の思いを確認するように言う。

 ルナーのことを思うからこその選択だったが、ルナーにしてみれば馬鹿にされているのと同じことだった。

 ルナーは薄く冷たい笑みを浮かべる。嘲笑にも見える笑みだ。

「私が、優しい、か……優しいのはお前だろう? トマリ。私はバカらしいとは思うが、お前が私が傷付かないようにとしてくれたのは分かる。分かるが、いつか必ず知る時が来る。エイラがヒトではないと……それとも、ずっと下手な言い訳を続けるつもりだったのか?」

 トマリはぐっと言葉に詰まって何も言えない。

「それは優しいとは言えないよ。隠されずに早く知るより、隠されて隠されて、結果偶然にいきなり知る方がずっと傷付くし、つらい。そのことは考えなかったのか?」

 考えたさ。

 口には出さず、トマリは反論した。そもそも、エイラが人形だという事実は、言ってしまえばオマケだった。トマリにとってはあの瞬間、『あの人』のことをルナーに知らせたくないとしか思い浮かばなかったのだ。今の状況は自業自得ながら仕方ないと言えた。何を言われても甘んじて受け入れなければ。

 心のなかで溜め息をつき、ルナーの顔を見上げた。

「う……な、なんだ?」

 まっすぐなトマリの視線に圧されて、ルナーは少したじろいだ。

 そんなルナーを意にも介さず、トマリは言葉を紡いだ。

「ルナー、『隠されて後で知るのはイヤだ』って言ったね?」

 言葉は違っても、おおよそそんな意味だったので、ルナーは頷いた。

「ま、まあ、たしかにそんな感じのことは言ったが……、! お前、まだ何か隠してるな?」

 トマリは慌てもせず、堂々と頷いた。

「ああ、隠してるさ。それも、とびっきりのネタをね」

 開き直りともとれるトマリのその態度に、ルナーは怪訝に思いながらも先を促した。

「それで? 何を隠しているんだ?」

 半ば呆れながら問うルナーに、トマリは一転、急に真面目な顔付きで言った。

「こうなるんだったら、最初から扉の封印なんてするべきじゃなかったな……」

 そして、急に立ち上がって向かいのソファに座った。ルナーにも手招きして、隣に座らせる。

 体の向きを変えて、向かい合わせになる。

「ちゃんと覚悟して聞いてくれよ……」

 そう前置きして、いざ口を開いた、と、思ったら、そのままの姿勢で固まった。

「………? おい、トマリ?」

 呼び掛けにも反応しない。ただ硬直しているのではない。トマリの思考は体を置き去りに高速でたくさんのことを考えて巡っていた。

「……まずい………」

 一言ポツリと呟くと、またもや急に立ち上がり、足早に部屋をうろつき始めた。

「まずい……まずいぞ………」

 ただそれだけをぶつぶつと呟きながら、部屋をぐるぐると歩き回る。

 ルナーなど完全に蚊帳の外だ。

 やがて、いきなりピタッと立ち止まって、窓の外をしばらく右から左、左から右へと何かを探すように眺め、ホッと安堵の息を漏らす。

 そして、意を決したように、鋭い顔付きになって言った。

「ご飯を食べよう」

 と。

 当然ルナーは激昂し、怒り狂ってトマリに掴みかかろうとするも、トマリはまだ真剣そのもので、急いでいるかのように、次から次へと食べ物を口に入れ、咀嚼し、飲み込む。

 怒るタイミングを逸したルナーは、不思議に思いながらもトマリに倣って食事を始めた。

 せっかく温めた朝食は、すでに生温かった。

 食事を一足早く終えたトマリは、さっさと立ち上がり、自室に向かう。

 途中、振り返ってルナーに言う。

「食べ終わったら、片付けより先に旅に出られる支度して。なるべく急いで!」

 勝手なことを言うだけ言って、ドアを閉めてしまった。

 残されたルナーは、唖然としながらも、言葉に従うため、食事のスピードを上げた。

 トマリの表情から察するに、本当に急がなくてはいけないのだと分かったから。

 聞きたいことは後で聞けばいい。


 トマリが支度を終えて自室を出てきた時には、ルナーはとっくに旅支度を終え、食事の片づけも完璧に終えていた。それには単純にさすがルナーだと感心したが、

「…………」

 部屋どころか建物の片付けさえ終えたのに気付くと、トマリは苦笑せざるを得なかった。

「それで……どこに行くんだ?」

 緊張した面持ちで聞いてきたルナーに、トマリはちょっと笑ってみせる。

「うーん、ファルシコーネのところ……かな?」

「『かな』だと? 行く先が決まってるんじゃないのか!?」

「うん。とりあえず、ここを離れるのが目的だから、行くのはどこでもいいかな」

 ルナーはがっくりと脱力する。

「……ああ、そう。確か、ファルシコーネって、お前の馴染みの医者だったか?」

「そうそう。んじゃ、地下道から行くので、れっつご〜」

「地下道!? そっち使うのか!?」

「うん。なるべく人目に触れない方法で、ってことで」

 そしてさっさとルナーの腕を引いて地下へと向かう。

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