第一話
まだまだ話が動いてません。スミマセン。なるべく早く読んでて楽しい話にしていきたいと思います。
ビ――ッ!
ビ――ッ!
耳障りな音が室内に響く。玄関ホールからの呼び出しの音だ。ピーンポーンなんてのに比べて、大分うるさい。
この部屋の主は、斜めに傾けた椅子にかけてはいるが、寝ているのか頭に新聞を被せている。呼び出し音にもピクリともしない。
家主のいる室内はなかなか広く、入り口から見て、真ん中より手前には落ち着いた色のそこそこ高価そうな皮張りのソファがローテーブルを挟んで置かれている。
その奥には、どっしりとした大きめな机。そして、それに相応しい椅子。どちらもそれなりに高価そうだ。
他にも、この部屋の調度はそれぞれ品があるが値段も張りそうな物ばかりだった。
入り口から見て右手にはもう一枚扉があり、そこからひとりの女性が出てきた。すらっと背筋を伸ばし、カツカツと足音をたてる。
十人中十人が美人だと言う容姿をしているのに、真っ黒な鋭い眼のせいで、ほとんどの人が近寄り難いと感じてしまう。
「トマリ、寝ているのか? 起きろ、客だぞトマ・・・」
「ルナー、行ってきてよ」
キツめの容姿と口調によく似合った低めの声を無理矢理さえぎり、傍若無人な指示を飛ばす。
その声はいかにも面倒そうにダレていた。
ルナーと呼ばれた女性は、拳をキリ、と音をたてて握りしめた。
「私が連れて来るから、それまでに身なりを直して迎えられるようにしておくんだな、所長っ」
重く鋭い声で、『所長』の部分に力を込め、暗に(お前が出ろよ)と睨みつける。
艶のある、肩で不揃いに切られた漆黒の髪をふわりとなびかせ、部屋を出ていく。
ドアをなるべく耳障りな音をたてるように閉め、その拍子にドアにかけられたプレートがカタカタと揺れた。そこには、
『請負屋』
とだけ書かれていた。
トマリと呼ばれた男は、それでも微動だにしなかったが、新聞紙の下で、どこまで本気かわからない声音で一言、
「き、斬られる!?」
と呟いた。
そう、彼女――ルナーはなぜか腰に剣を帯びていた。
呟きつつもトマリの顔には薄い笑みが浮かんでいて、ルナーが怒るのさえ楽しんでいるふしがあった。
トマリは新聞紙を折りたたみ机の隅に置き、簡単に髪を整え、新聞紙のかわりに黒い帽子をかぶった。
そうして見るトマリは、実はととのった容姿であることがわかる。
髪は黒かったが、ルナーのようなつやのあるものではなく、何かを呑み込もうと口を開ける果てのない闇のようだ。肩まであるその髪をしっぽのように括っている。
水色のビー玉のような眼は得体が知れない。だが全てを見透かすようでもある。
だが、そのととのった容姿をすべてチャラにして、なお余りあるのがその服装だ。
何をトチ狂ったのか、黒のスーツの上下に、中にはパッションカラーのシャツとネクタイ。そして揃いの黒い帽子。黒のスーツはまだいいとしても、中のパッションカラーは何なのか。
そしてそれがまた似合ってるんだか似合ってないんだかよく分からなかった。
とにかくトマリはそんな恰好で、今度は
「やれやれ・・・・」
と呟いて椅子に座りなおして笑みを深くした。それは新しいオモチャがどんなものか楽しみに待つ子どものような笑みだった。
今日も請負屋トマリの非日常的な日常が始まる。