【感謝の番外編】幼なじみの絆(上)
「クウ、私が言った通りになったでしょう?」
婚姻の儀の伝統衣装を着たレイラ姫が、上目遣いで僕を見る。
「レイラ姫……」
「伝説はね、信じる者に幸運をもたらすのよ」
そう言うとレイラ姫は、あの日と同じ笑顔で僕を見た。
◇
「エイ、ヤーッ」
「エイ、ヤー!」
常夏と言われるカウイ島で、戦士としての訓練を受ける。それがいかに過酷であったかを知るのは……島を出て冬を体感し、セントリア王国で春を迎え、夏以外の季節を実感してからだった。
冬の寒さは確かに身に染みた。
だが体を動かせば、芯の部分が熱くなり、気づけば汗をかいている。容赦なく降り注ぐ陽射しの下、風が凪いだ午後、珠のような汗をかきながら行われる訓練は……生命の危機にも直結する厳しいものだったのだ。そんな訓練を受けてきた。セントリア王国で騎士たちの修練に参加させてもらったが……。
「クウ、まだ動けるのか!?」
「さすがカウイ島一の戦士だけある」
新たな仲間となったセントリア王国の騎士たち。彼らも存分に強いのだが、そう言って僕の体力を褒めてくれた。そんな僕ではあるが、幼い頃は――。
そう、十歳の僕はこの日、いつものようにただ必死に戦士のための訓練を受けていた。
「大変だ!」
まだ幼い僕たちの訓練にあたっているのは、当時のカウイ島一の戦士だったイオ。強靭な肉体を持ち、長身で大男だったイオは、ただそこにいるだけで存在感がある。そのイオのところへ、島の警備兵がやって来た。
「イオ、大変だ! レイラ姫が北の谷の絶壁を登っている!」
「何!? あの絶壁は登るためのものではないぞ!? なんでそんなことを……」
「一緒にいた侍女が止めようとした。でも……絶壁に、珍しいと言われる紫のルメリオアの花が咲いていたんだ」
ルメリオアの花。それはカウイ島の固有種で、その多くが中心部が黄色で、全体は白い色の花弁を持つ花だった。花びらは肉厚であり、女性は髪飾りや首飾りにしていた。甘い香りがするので、初夜やハネムーンの寝室を飾る花としても知られている。
そのルメリオアの紫の花。それは大変希少であり、ある言い伝えを持っている。それを知っているので、イオは大きくため息をつく。
「なるほど……。カウイ島の姫は一生に一度だけ、紫のルメリオアの花を見つけることができる。その花を自分の戦士となる男性に与えれば、二人は永遠の絆で結ばれる……という王家の伝説のせいか」
「ああ。でも……それでイオ、君だってアオラニ姫と結婚できたじゃないか」
「まあ、そうなのだが……。紫のルメリオアは、とにかく危険な場所に自生する。アオラニ姫の時は吊り橋の蔦に絡むように生えていたから……彼女が橋から落ちないか、気が気ではなかった」
イオと警備兵はそんな会話をした後、僕たちに声をかける。
「レイラ姫が北の谷の絶壁を登っている。彼女を助けたいと思う者はついて来い。ただしあの崖は危険だ。命が惜しい奴は無理をせず、ここで訓練を続けろ!」
イオの言葉に、訓練をしていた戦士の卵たちは三つの反応を示す。
「北の谷の絶壁!? 無理だよ。僕はパス!」
「レイラ姫に選ばれるチャンスじゃないか。行こう!」
「……」
無理だと諦める者。挑むことを決めた者。無言を貫く者。
「クウ、どうする? 行くのか?」
「僕は行く。レイラ姫は僕の幼なじみでもある。彼女がピンチなら助けないと」
「けっ、クウ、お前、何を王子様みたいなことを言っているんだよ。平民のくせに! レイラ姫を助けるのは、このカハウ様だ!」
カハウは現国王のいとこの息子で、同じ十歳と思えない程、立派な体躯をしていた。手でトンと押されただけで、吹き飛ぶ少年が後を絶たない。
「では北の谷の絶壁へ向かう者は、わたしに続きなさい!」
イオの声に、挑むことを決めた少年たちが走り出す。
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クウとレイラ姫の話(下)は明日公開します!
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