エピローグ
レイラ姫とアトラス王太子の円満婚約解消と共に、二つの婚約が発表される。
一つはレイラ姫とクウの婚約。
カウイ島の王朝の婚姻の伝統も新聞では紹介され、最強の戦士が王女と結ばれるという話は、国民たちを沸かせる。二人の純愛を描く劇も上演され、大いに盛り上がることになった。二人はカウイ島で挙式するため、一旦帰国したが……。それが終わったら、またセントリア王国に戻ると言う。
「私もクウもセントリア王国が大好きなんです。カウイ島とセントリア王国の橋渡しをするため、結婚後も首都ベラローザに住み続けます」
カウイ島王朝はレイラ姫の弟が継ぐことになっていた。
そんな二人の婚約と一緒に発表されたのが……アトラス王太子と私の婚約だった。
元は敵国だった帝国の令嬢と王太子が婚約するというのは、国民を大変驚かせた。だが今回、帝国が長い歴史に幕を下ろし、デセダリア州としてセントリア王国に併合された経緯は、新聞で詳しく紹介されている。その中で私が帝国でどんな目に遭い、どうやってセントリア王国にやって来て、ブレイクデーのためにどんな献身をしたのか。それが事細かく記事で書かれていたのだ。新聞を読んだ国民から『救国の乙女』『献身の歌姫』『平和の女神』と言われるようになり、アトラス王太子との婚約も祝福してもらえた。
それだけで十分だったが、それでは終わらない。ブレイクデーは『乙女の祈りの日』として、記念日に制定されたのだ。以後毎年、この日はお祝いのフェスティバルが行われると言う。さらに国王陛下からは褒章を授けられ、王立劇団によるブレイクデーを描く劇の公演も決定。初回はニューイヤー公演になるが、『乙女の祈りの日』のメインの催しにするという。
さらに帝国の宝物庫から買い取った“盲目の乙女”の手によるヴィレミナ絨毯。私が包まっていた物と合わせて展示する、博物館を作ることも決まったのだ。この博物館の売り上げで、ヴィレミナ絨毯の職人のための村を作り、職人の育成も行うという。
アトラス王太子と私の婚約に合わせ、これだけいろいろ発表されたので、国民も大盛り上がり。レイラ姫とクウの件もあるので、この日はお祝いのコーヒー、ワインやジュースが振る舞われ、国中が笑顔に溢れた。
「まさかアトラスが十年以上もマリナに片想いをしていたとは……驚きじゃ。でもこれで納得だ。なかなか婚約者を作らず、舞踏会でも晩餐会でも近寄る令嬢の相手を全くしない。最初のダンスは渋々するが、その後、令嬢と談笑することもなかった。その態度がすべて、マリナを一途に思うゆえの行動だったのかと思うと……良かったな、アトラス、初恋が実り。マリナ、どうかアトラスを頼む」
国王陛下は私の手をとり、アトラス王太子を頼むと言ってくださり、王妃殿下は……。
「アトラスったら……こんなに一途な子だと思わなかったわ。でもそこまで愛した女性と結ばれるなんて……。母として嬉しく思うわよ。絶対に幸せになりなさい。応援しているわ。そしてマリナさん。困ったことがあったら何でも相談してね」
全面的に応援してくれると言ってくれた王妃殿下には感謝しかない! 王女も「マリナさんのようなお義姉様なら大歓迎です。ぜひこれから仲良くしてください! 早速ですがお義姉様、観たいオペラがあるのですが、一緒に行きませんか?」とすぐに打ち解けてくれる。
アトラス王太子の家族から、婚約者として温かく迎えられるのは嬉しい。だがしかし、婚約が決まるとすぐに王太子妃教育がスタートし、これには「ひぃ~」だった。私と一刻も早く結婚したいアトラス王太子のためにも、大変だがこの王太子妃教育は乗り越えるしかない!
そんな私を見て父親は「既に皇族教育も受けているから、王太子妃教育もマリナなら大丈夫だ。何も心配せず、アトラス王太子殿下を信じ、支え、共に生きて行けばいいのだよ。そしてマリナ、今回こそ、しっかり幸せになりなさい」と励ましてくれる。
母親も「アトラス王太子殿下とマリナは気質が似ていると思うわ。ブレイクデーに向けて動いた二人は、意気投合していたと思うの。絶対に気も合い、幸せになれるわね」と言ってくれるので、私は嬉しくなってしまう。
「マリナはアトラス王太子殿下との婚約が決まり、さらに美しさに磨きがかかった気がするぞ。本当に美男美女でお似合いの二人だ。共に行動力もあり、気遣いもでき、お互いのことを尊敬しあっている。間違いなく幸せになれるよ」
兄もそんなふうに言ってくれるが、実際、私も自分が綺麗になったように感じる。
なんというかベネディクトの婚約者をしていた時は、彼の欲望の込められた目でじろじろ見られるのが嫌で、地味なドレスや露出が少ない古風なドレスを着ていることも多かった。でもアトラス王太子はそんな目つきで私を見ることがない。
顔を合わせれば、いつも私の目を見て優しく微笑みかけてくれる。決して胸元や腰やお尻に目が釘付けになんてならないのだ。ゆえに私もデコルテ見せするようなドレスを着ることへの抵抗感もなくなっていた。むしろアトラス王太子は……。
「本当に。ヴィレミナ絨毯から飛び出して来たマリナはとても刺激的で……。肌見せの多いドレスはわたしと二人きりの時にして欲しいぐらいだ」
ブルートパーズのような瞳をうるうるさせ、そんな可愛らしいことを言ってくれる。
そんな可愛い言葉を時折口にするアトラス王太子に、私は慣れることが出来たのかと言うと……。
「大丈夫。わたしが支えているから」
「殿下……」
アトラス王太子は、この世界で未婚の男女に許されている範疇の言動しかしていない。ただ耳元で話し掛けたり、甘い言葉をささやいたり、とろけそうな眼差しで私を見たりするだけなのだけど……。
それだけで私は腰が抜けそうになったり、意識が飛びそうになったり。
「人間、慣れる」とアトラス王太子は言っていた。しかしこの件については「異議あり!」だ。
(とても慣れるとは思えないわ! 私は一生、彼にときめいていると思います!)
「マリナ……」
「!」
私をエスコートするため、手を差し出したアトラス王太子。その手に私が手を載せると、彼は甲へとキスを落とす。
「殿下……!」
手にキスをされただけで、全身から力が抜け、へたりそうになっていた。だがアトラス王太子の引き締まった腕が瞬時に腰へ回され、見事に支えてくれる。その瞬間、彼のつける香水のいい匂いが鼻先をくすぐった。
「マリナは本当に可愛い」
微笑むアトラス王太子のホワイトブロンドの前髪が、サラサラと揺れる。
「手の甲へのキスで、こんなになるなら……。ここだったら、どうなるのだろう?」
アトラス王太子の細く長い指が、スッと私の唇に触れた。甘く煌めく彼の瞳と目が合い、心臓がドクンと大きく跳ねる。
(そ、そんな、く、唇へのキ、キッスなんて想像したら……)
頭がショートし、クラッとする私の体を抱き寄せ、アトラス王太子が耳元でささやく。
「マリナ、大好きだよ」
~おしまい~
お読みいただきありがとうございます!
本作を毎日3話更新(実は他作品も複数話更新しており、仕事との両立が本当に大変でした!)できたのは、ひとえに読者様の応援のおかげです。
本当に本当にありがとうございました!
そして、予告通りのハッピーエンドを迎えた本作
お楽しみいただけましたら
☆☆☆☆☆評価をぜひよろしくお願いいたします!
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また、本作の読み切り番外編もご用意しています!
夜に公開できるよう準備します。そちらもお楽しみに!
しかも番外編であの作品の発売日を告知します~
それでは、午後の仕事も頑張って
夜にまたお会いしましょう!





















































