事の顛末
乙女ゲーム『恋が花咲く時』の世界に転生していると気付いたのは、悪役令嬢である私マリナ・サラ・アシュトンが婚約破棄され、断罪された後……なんかではなかった。
『恋が花咲く時』では策略を巡らし、好きな相手を手に入れるため、ライバルを罠に落とすことがまかり通る異色の乙女ゲームだった。ヒロインであるマチルダン男爵令嬢と、彼女が選んだ攻略対象で私の婚約者だったベネディクト第二皇子も、とんでもない謀略を遂行した。
女好きするベネディクトは、ここではない世界から転移してきたヒロイン、マチルダン男爵令嬢をすぐに気に入る。というのもこの世界、未婚の男女の不用意な接触は問題視される。婚約していてもキスは結婚式でという厳しい貞操観念の世界だった。対してマチルダン男爵令嬢は、元の世界の感覚なので、ベネディクトとも気軽にスキンシップを行う。
その結果、ベネディクトはマチルダン男爵令嬢にぞっこんとなり、婚約者である私を疎ましく思うようになる。つまりは公爵令嬢である私が有責となり、婚約破棄にできないかと考えた。だが残念ながら、私には叩いて出るような埃はない。そこでベネディクトとマチルダン男爵令嬢と、彼女の父親であるマチルダン男爵は、一計を案じることになる。
娘が皇家と婚姻関係で結ばれれば、自身の事業にもプラスになると考えたマチルダン男爵は、アシュトン公爵家もろとも潰す作戦を思いつく。折しも皇帝陛下は、帝国民から人気もあるアシュトン公爵を疎ましく思っていた。アシュトン公爵家が没落していくシナリオをマチルダン男爵から聞いた皇帝陛下は……この計画を支持したのだ。
こうして皇家を支え続けたアシュトン公爵家は手ひどい裏切りに遭い、父親は爵位剥奪の終身刑、母親は修道院送り、騎士団で副団長をしていた兄は罷免のうえ、鉱山での強制労働を命じられてしまう。そして私は変態侯爵リオンヌの所への嫁入りを命じられてしまうのだ。
ここでようやく私の前世記憶が覚醒。そして悪役令嬢ファミリーが悲惨な末路を迎えたことに衝撃を受ける。
(両親と兄を助ける。裏切った皇家とベネディクト、そしてマチルダン男爵親子には盛大なざまぁでリベンジしてやるわ……!)
そう誓った私は、デセダリア帝国を見捨て、帝国にとっては敵国であるセントリア王国を目指すことになったのだ。正規のルートで敵国の王族に会うことはできない。そこで私は――。
紆余曲折経て、私はセントリア王国の王太子であるアトラス・ロイ・セントリアと対面し、壮大なざまぁ作戦の協力を得ることに成功。最終的には皇帝陛下は退位し、帝国は長い歴史にピリオドを打つことになった。
まさか悪役令嬢が本気でざまぁをしたら、一国が滅びるなんて……。一つの国が地図上から消えたが、一部の兵士などを除き、犠牲になった平民は皆無だ。通常、国が滅亡すれば多くの犠牲者が出るのだから、今回の結果はまさにアトラス王太子や国王陛下の采配のおかげだと思う。しかもこれで両親も兄も自由の身になれた。父親は新たにセントリア王国の国王から公爵位を授けられ、母親も公爵夫人に返り咲きできたのだ。兄はセントリア王国の騎士団に迎えられ、上級指揮官からスタートしているが、半年も待たずに副団長に昇進だろうと言われている。
咎人となった元皇帝は、終身刑で鉄の監獄に収監された。流血を避けるため、死刑にはなっていない。しかし本人はありとあらゆる罪を暴露され、死刑の方がましと思う、まさに生き地獄状態だ。
(罪人は死が救いになることもある。死刑になれば本人は、あらゆる罪の償いをしないまま、被害者やその家族の心に傷痕だけ残し、消え去ることができるのだ。死刑だけが極刑とは限らない。皇帝本人が死にたいと思っているのに生かされることこそ、本当の地獄のはずよ。だから私はこの結果に異論などないわ)
元皇太子は皇家が主導した犯罪に直接的に関わったわけではないが、そのまま野に放つわけにもいかない。そこで修道院に入り、修道士として、余生を過ごすことになった。第二皇子であるベネディクトは、悪行を重ねているので、それこそ牢屋に入って欲しかったが……。両手を失い理性を保てなくなったため、監獄の隔離エリアに収監されている。拘束衣を着せられ、ほぼ一日をベッドで横になって過ごしているが……。女性のすすり泣きが幻聴で聞こえるらしい。
皇后、皇女二人、皇太子の婚約者は、全員別々の修道院に送られた。彼女たちは直接罪に手を染めたわけではないため、主の教えと共に、残りの人生は清貧に過ごす形で許されたのだ。そして国庫はすっからかんだったが、帝国の名産品ヴィレミナ絨毯、しかも“盲目の乙女”が織ったものが、宝物庫から大量に発見されている。他にも先祖代々の宝などはすべて売却され、デセダリア州の運営のために使われることになった。
マチルダン元男爵は当然だが爵位は剥奪され、全財産が没収。そのお金でデセダリア州のインフラ整備が進められることになる。そして妻と娘のマチルダン元男爵令嬢と共に、島流しとなった。断崖絶壁の島の周囲は、渦を巻く潮が流れている。船がその島に近づくことができるのは、年間を通じても、数度しかない。そもそも船が近づくことはなかった。それに海で泳ぐなんてまずできないため、逃亡は不可能だ。文明から離れた無人島で、家族三人自給自足で死ぬまでその島で生きて行く。
他にもいろいろ悪さをしていた貴族や政府高官も逮捕され、その多くが終身刑や労役を課されることになった。これからデセダリア州は、その全土でインフラを整備する必要がある。道路工事や橋の工事に罪人は駆り出されることになった。
奴隷は解放され、彼らのほとんどが、セントリア王国の元騎士や元兵士。解放後、全員無事、家族の元へ帰された。
侍女のレニーの家族は、私たちと一緒にセントリア王国へ向かった。アトラス王太子の厚意で首都に屋敷と仕事を用意してもらえたのだ。
こうしてブレイクデーから一か月もすると、デセダリア州内での人の移動も落ち着く。多くがそのままの場所に住み続け、一部が辺境伯の領地を目指し、さらにごく一部の人々は、セントリア王国の各都市を目指したのだ。
そして新生アシュトン公爵一家は、セントリア王国の首都ベラローザに屋敷を構え、そこで新生活をスタートさせた。
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