冒険(1)
乗馬と剣術の訓練は四歳から始まり、六歳からは王太子教育がスタートした。
その王太子教育、それは専属の教師がつき、朝から晩までみっちり授業が行われる。それまで乗馬と剣術の訓練が大変だと歯を食いしばっていた。だが王太子教育が始まると、乗馬と剣術の訓練が息抜きになっている。
やがて八歳になると、槍の訓練も始まった。そして王太子教育の難易度はどんどん上がっている。しかし槍に力を込めて投擲し、的に命中すると、実にカタルシスがあった。王太子教育で苦戦しても、槍や剣術の訓練でスッキリできる。結果的に、王太子教育を頑張るには、武術の訓練や乗馬が息抜きとして必要不可欠だった。
こうしてわたしはいつしか「文武両道の王太子殿下」と言われるようになっていた。
それは十歳になった夏の時のこと。
「ローグ卿。父上から十歳になった祝いとして、バカンスシーズンの三週間は自由に過ごしていいと言われた。王太子教育も休みになる。わたしは首都ベラローザ以外の地に行ったことがない。だがセントリア王国の国土はとても広いんだ。もっといろいろな場所を見てみたい」
当時のローグ卿はわたしを護衛する騎士の一人であり、剣術や槍の指導者でもあった。そして彼はわたしの良き理解者でもあり、首都以外を見たいというわたしの願いを叶え、旅へと連れ出してくれた。
父上は「十歳の王太子が旅に出るなんて」と思ったものの。自由に過ごす許可を与えている。男に二言はないと示すためにも、わたしが旅に出ることを許したのだ。
とはいえ、王太子が旅していると分かれば、他国の間者などに狙われる危険もある。よって旅の芸人のふりをして、あちこちを回っていたが……。
「殿下。今日はここまでです。この先を行くと、デセダリア帝国との国境になります。旅が許されているのは国内のみ。宿へ戻りましょう」
王太子教育で、大陸の地図は頭に入っていた。デセダリア帝国と国境が接している場所は二か所あり、その多くが帝国の南の辺境伯トレビスが治める地、もう一つが東の辺境伯ミトラスが治める地だった。
(地理的にここは南ではなく東寄りの地。つまりこの道の先には、帝国の東の辺境伯ミトラスの領地が広がっているのか)
帝国とセントリア王国の小競り合いは、その当時から突発的に起きていた。
セントリア王国から見た帝国は、歴史が長く、由緒はある。しかし奴隷制も残る前世代的な国で、あまり相手にしていない。しかし帝国の方はセントリア王国を必要以上に意識している。発展を遂げる新興国への妬み……そんな感情が帝国からは……帝国を統べる皇家から感じられていた。
そんな帝国から学ぶことは少ないということで、王太子教育で習った情報も少ないものだった。皇家の歴史とその当時の主要な政治家や力のある貴族の情報、帝国の名産品のヴィレミナ絨毯だけは素晴らしいといったことなどだ。
無論、小競り合いの戦に参加したり、指揮を執ることになれば、いやでも帝国について知ることになる。だが王太子教育では、この広い大陸にある多くの国について学ぶ。ゆえに取るに足りないと判断された帝国のことは、一旦サラッと学んで終わっていた。
(この先にわたしには未知であるデセダリア帝国が広がっている。少しだけでいいから、この目で帝国を見てみたいな……)
好奇心が旺盛だったわたしは「すぐに戻る」と置手紙を残し、翌朝、まだ夜が明けたばかりで宿を飛び出し、国境へと向かった。
小競り合いの戦が起きることもあるが、普段の国境では人の往来が普通にある。帝国からセントリア王国にもたらされる物はあまりない。ヴィレミナ絨毯ぐらいだ。だがセントリア王国から帝国へ運ばれていく物は多い。食料品から家具まで、それはもう様々。
というのもセントリア王国は肥沃な土地が広がり、そこは穀倉地帯になっている。さらに広大な森では木材が切り出され、植林も行われていた。セントリア王国で生産された様々な物資が、実は帝国の暮らしには欠かせないものになっていたのだ。
しかも夏のこの時期、帝国では帝国祭があるため、国境での往来はいつもより活発になる。荷馬車の荷台に子供のわたしなら紛れ込むことが簡単にできた。
ということで様子を窺い、荷馬車に忍び込もうとしたら、首根っこを掴まえられる。
「……ローグ卿……!」
「殿下。勝手は困ります。もし殿下の身に何かあったら、自分の首が飛ぶ。殿下はこのローグがいなくなることをお望みですか?」
「!? そんなわけがない。ローグ卿はわたしの大切な剣術と槍の師匠なんだ。ただ……目と鼻の先に帝国がある。見てみたかったんだ」
ローグ卿はため息をつきつつも、わたしの気持ちを汲み「国王陛下には国外に出たことは内緒ですよ」と言い、国境を越えさせてくれたのだ。
こうしてわたしは初めて国外に出て、帝国の東の辺境伯ミトラスの領地に足を踏み入れた。
王太子教育でもその詳細を習っていない帝国に、わたしは期待を募らせる。
だが帝国の地は――。
「馬車道が整備されていないし、ほとんどの道が舗装もされていない。案内標識も少なく、川には橋も架かっていない。街灯もないではないか。どうなっているんだ、ローグ卿!?」
「殿下、これが国力の差です。殿下が将来治めるセントリア王国がどれだけ発展しているか、お分かりになったのでは? 間もなく帝都で行われる帝国祭のため、多くの者が帝都に向かっているせいもありますが……。ここに人は少ない。国境に近い街とは思えない程、寂れています」
まさにローグ卿が言う通りで、帝国の宿場町は、セントリア王国の地方都市の村より寂しい場所だった。しかしそこでわたしは思いがけない出来事に遭遇する。
お読みいただきありがとうございます!
なんとアトラス王太子の子ども時代!
間違いなく美少年!イラスト求む!!!!!
落ち着け、作者。
ということで美少年アトラス王太子が遭遇した出来事、気になりますよね~
ということでスペシャル増量更新!
今夜22時頃にもう1話、更新いたします!
体調や明日の予定に合わせて
どうぞ無理なさらずにお楽しみくださいね。
また明日のお昼にお会いしましょう☆彡





















































