祭りの後(3)
「アシュトン嬢は、レイラ姫に幸せになって欲しくないのか?」
これには「異議あり!」とソファから思わず立ち上がり、声を荒げることになってしまう。
「幸せになっていただきたいからこそ、アトラス王太子殿下には、私へのプロポーズを撤回いただきたいのです! 他に想い人がいるレイラ姫にとって、殿下との婚約は救済です。白い結婚を前提に結ばれた婚約。そんなことを許してくれる相手なんて、そうは見つからないでしょう。もし殿下と婚約解消したレイラ姫は――」
そこで私の言葉に被せるように、アトラス王太子が口を開いた。
「わたしと婚約を解消したら、レイラ姫は自身の想い人と結ばれるだろう」
「!? それはどういうことですか!?」
「そんなに慌てるなんて、君らしくない。まずは落ち着いて、ソファに座らないか」
確かに今は興奮しすぎたかもしれない。アトラス王太子に言われるまま、ストンとソファに腰を下ろす。
「レイラ姫との婚約は、同盟国として、セントリア王国との関係をより強固にするために結ばれた。それはそれでこの世界の常套手段であり、意味はある。だが既にカウイ島の王朝とセントリア王国との関係は良好だ。この婚約が必要かというと……なくても問題はない。ただレイラ姫とはお互いの利害が一致していた。想う相手がいて、結ばれることは叶わない。だが共に王族という立場で、結婚から逃れることはできないのだ。ならば白い結婚が許される相手との婚約なら……願ったり叶ったりだった」
これは前回も聞いた話。それにレイラ姫は、この婚約にメリットを感じているのだから、解消に同意するはずがない。
「実はわたしとの婚約の話が出る前に、レイラ姫には別の王族との婚約話も浮上していた」
「え、そうなのですか!?」
「カウイ島のコーヒー豆を狙っての政略結婚だった。そちらの国の第三王子と婚約されては、セントリア王国としては困るし、レイラ姫だって純潔を守れない」
「……殿下との婚約を解消したら、レイラ姫はまた困ることになるのでは!? その第三王子との婚約話が再び浮上しますよね!?」
するとアトラス王太子は首を振る。
ホワイトブロンドのサラサラの前髪が揺れ、実に美しい……ではなく!
「レイラ姫との縁談話が消えた第三王子は、つい最近、自国の公女と結婚した。驚きだったが、その公女と第三王子は幼なじみ。子供の頃から相思相愛だった。今回既成事実を作り、結婚に踏み切ったそうだ。第三王子だからこそ、許されたのだろう。これが王太子では無理だったかもしれないが」
「!」
「しかも既にカウイ島とセントリア王国の間では、コーヒー豆の輸出に関する独占契約が結ばれている。他国の介入は認められないものだ」
さすがに私もこれで理解した。
「ということはアトラス王太子との婚約を解消しても、第三王子との結婚をレイラ姫が求められることはない。かつレイラ姫はその想い人と結ばれることができるのですか……? お相手が平民だから結ばれない……などの事情があったわけではないのですか……?」
するとアトラス王太子は驚きの情報を口にする。
「カウイ島の王朝には一つの伝統がある。王女の結婚相手だが、それは島で一番強い相手と決められていた。もしコーヒー豆にまつわる婚約話が浮上しなければ、レイラ姫はカウイ島一の戦士と婚約していたんだ」
「それは……それはまさかクウとレイラ姫が、本来は婚約し、結婚する予定だったということですか!?」
アトラス王太子はブルートパーズのような瞳を私に向け、しっかりと頷く。
「レイラ姫とクウは幼なじみ。二人もまた、子供の頃からお互いのことが好きだった。将来は王朝の伝統に倣い、婚約するものと思っていたが……。政略結婚の話が浮上し、それが立ち消えとなった。だがわたしとの婚約を解消し、間髪をいれずクウと婚約、結婚してしまえば……」
これにはもう「そうだったのですね……!」と驚き、改めて噛み締める。レイラ姫は今、クウと結ばれる可能性が最大の状況にいた。
(アトラス王太子との婚約を早々に解消する。それこそが正解だったのだわ!)
「アトラス王太子殿下、ごめんなさい。私が間違っていました! レイラ姫とクウのために、婚約、すぐに解消してください!」
「ああ、そのつもりだ。既にそちらは非公式であるが、水面下で動いている。帰国したら正式に婚約解消が発表され、代わりにレイラ姫とクウの婚約が発表となるだろう」
これには私は「良かったです……! ありがとうございます、殿下!」と笑顔になるが、アトラス王太子が実に寂しそうな表情になる。これには「……?」と、彼の整った顔をガン見してしまう。
「まるで何か問題でもあるのでしょうか……という表情をしているが、気づかないのだろうか」
何だか恨み節のアトラス王太子に、私はたじろぐ。
「婚約解消をしたレイラ姫は、愛する人との新たな婚約を発表する。できればわたしもその流れに乗りたいのだが。わたしの想いは……実ることがない、のだろうか」
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