帝国へ(2)
夕食を終え、滞在している客間に戻った私はレニーに声を掛ける。
「アトラス王太子殿下に同行し、帝都へ向かうこと、国王陛下が認めてくださったわ!」
私はそう言いながら、ソファへぽすっと腰を下ろす。
「! そうなのですね。あの、私は同行しなくても本当にいいのですか!?」
レニーは入浴の準備の途中だったようで、手に大判の白いバスタオルを持っている。
「ええ。あなたはここに残り、私が戻るのを待って欲しいの。ちゃんとご両親や兄弟の様子、確認するようにするわ。希望したら、あなたの家族は帝都から一緒に連れ帰る」
「お嬢様……」とレニーは瞳をうるうるさせた。
「それに今回、念のためで男装することになっているから、着替えは自分で出来るわ」
そう、そうなのだ。今回、帝都に戻るにあたり、私の男装は必須だった。なぜそうなったのかというと……。
まず、帝都までアトラス王太子に同行したいと告げると、その場にいるほぼ全員から止められた。
「必要な情報はすべて教えてもらっている。先に帝都入りしているスパイや騎士が動き、下調べも行った。アシュトン嬢がいないと、どうにもならない……というわけではない。それに無血を目指すが、流血がゼロになるか分からないんだ。我が国にとって大切な客人である君に何かあったら困る!」
国王陛下より先に私に王都へ留まるように言ったのは、アトラス王太子だった。
「せっかくセントリア王国へ来たのじゃ。腐った帝国に、再び足を運ぶ価値などあるまい。そなたの両親と兄君は、我が名において、この王都へ必ずや連れ帰らせる。傷一つつけさせぬ。よってそなたはこの王都で寛いで待てばよい」
アトラス王太子の言葉が終わると、すぐに国王陛下もそう言ってくれる。
「戦争……というわけではないでしょうが、帝都は戦地にも等しい場所です。そんなところへレディを行かせるわけにはいかないわ。それに必死の思いで、ここまで来たのでしょう? 帝都へ戻る必要なんてないと思うの。王都でアトラスからの朗報を待ちましょう」
「私と年齢が一緒なのに、アシュトン嬢は勇気がありますわ! でもやはりここはお兄様に任せた方がいいかと。剣を使えるわけでもない。そうなると足手まといになってしまう可能性もあるわ」
王妃殿下と王女殿下はこう言って、私に思いとどまるようにと告げる。
その一方でレイラ姫は――。
「アシュトン嬢は剣こそ扱えるわけではないですが、乗馬はできるんですよね? 乗馬ができるだけでも、足手まといにはならない気がします。それにクウがいるなら、サポートできると思いますわ。ただ……たとえワンピースでも、着用していれば目立つと思います。つまりレディであると分かれば、狙われやすくなると思うの」
ここで私は「ならば男装すればいいですね!」と思いつくが、アトラス王太子は違う。
「セントリア王国の人間と動くレディなんて、目立ち過ぎる。帝国民も、なぜ男ばかりの中にレディがいるのかと思うだろう。もしアシュトン嬢であると、その正体が分かったら? 襲撃され死亡と思われた元公爵令嬢が生きていることに、衝撃が走る。何か作為を感じる者も出てくるかもしれない。さらにセントリア王国の人間といることで、すぐに“裏切り者”とされ、まさにターゲットにされてしまう。歩くだけで石を投げつけられるような事態になりかねない」
アトラス王太子の指摘はまさにその通り。アシュトン元公爵令嬢であると、ブレイクデーで知られるのは確かに危険だった。
「皆様、ご心配いただき、ありがとうございます。今回、私がリークした情報で、帝国は終焉の時を迎えるのです。私は帝国の崩壊を作った人間として、その最期を見届けるべきだと思います。何より、兄は最北の地にいるので、そこまで行くのは……無理でしょう。そこは兄がこちらへ来るのを待ちます。ですが両親は帝都にいるのです。顔を……見たく……」
そこで私は涙が出そうになり、それを堪える。
「今、私は皆様のご厚意により、美味しい食事をいただき、入浴もできて、ふかふかのベッドで休むことが出来ています。でも両親や兄は……。兄は怪我人ですが、北の辺境伯により、ちゃんと面倒を見ていただいていると思います」
そこで言葉を一度切り、深呼吸を何度かして、話を続ける。
「父親は石造りの牢屋の中で、食事もろくに与えられず、横になるのもままならない状態の可能性があるんです。貴族ならそれなりの待遇があるかもしれません。ですが爵位剥奪された父親は平民扱い。過酷な日々を間違いなく送っていると思います。何より、死刑にしろ!という機運が高まっていては……気持ちが安らぐ瞬間なんてないでしょう。母親は清貧な日々でしょうが、きっと固いパンと白湯のようなスープしかなく、これまでと一変した日々にショックを受けているはず」
そこからは瞳に涙が浮かんでいる状態で、話すことになった。
「一日も早く両親と会いたいんです。両親も生き別れた私と再会できたら、元気も出るのではないでしょうか。今回の同行で、私は男装をします。男装していれば、元公爵令嬢として狙われることはほぼないでしょう。どうか同行させてください!」
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