謁見(2)
ダイニングルームに登場した国王陛下は、アトラス王太子と同じホワイトブロンドに碧眼。しかしその髪は王太子より長く、瞳は青みが濃く、サファイアのようだった。瞳と同じ青色のマントを羽織り、姿勢もよく、年齢より若々しく見えた。そして王者の風格を感じる。
その国王陛下にエスコートされている王妃殿下はブロンドにアトラス王太子とそっくりの碧眼で、国王陛下の瞳を思わせるサファイア色のローブモンタントのドレスもとてもよく似合っている。国王陛下同様で、二児の母親とは思えない若々しさがあった。
(やはり国王陛下も王妃殿下も、帝国の新聞の報道とはまったく違うわね)
そう実感しながら、まずは軽く挨拶をして、全員着席。すぐに昼食がスタートした。しばらくは場を温めるための雑談があり、魚料理の登場と共に、話は本題へ移る。
「アシュトン嬢。帝国では随分と辛酸を舐めさせられたようだが……。セントリア王国はそなたを保護する。帝国は手出しできぬゆえ、安心するとよい。とはいえ。そなたがここにいると知れば、帝国に残る家族がどんな目に遭うか分からぬ。そなたがいることは公にするつもりはない。その時がくるまでは、な。そして今日は、そなたの考える帝国へ引導を渡す方法を教えてくれぬか?」
国王陛下に問われた私は考えていた策を包み隠すことなく、全て伝えた。そこには帝国にとっての機密事項が含まれるが、もはや私には関係ない。帝国に対し、壮大なリベンジをすると決めたのだ。もはや躊躇している場合ではない。
「……なるほど。その方法であれば、無駄な戦と帝国民の犠牲はないに等しい。そしてこれは……アシュトン嬢。そなたがいなければ実現できぬこと。まさにそなたは我々にとっての切り札だな」
(良かった……! 国王陛下からも私が必要な存在であると認めてもらえたわ!)
「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」
そこで国王陛下は笑顔から一転、真面目な表情で尋ねる。
「アトラスからその決意のほどは聞いている。だがわしとしては、直接、そなたに確認しておきたい」
私は背筋を伸ばし、「何なりとお聞きください、国王陛下」と応じた。
「帝国は……焼け野原となって滅びるわけではない。だが一つの国としてその存在が地図上から消えることになる。無論、その後は帝国の領土はセントリア王国の一部となり、帝国民たちも王国の民として迎え入れよう。だが帝国の名はこの世界から消える。そなたは祖国を失うことになるのだ。その覚悟はできているのだな?」
この点をちゃんと国王陛下自ら確認してくれることには感謝の気持ちしかない。私を切り札として、ただの道具のように扱うこともできるのに。アトラス王太子と同じで、私のことを一人の人間として見てくれている。
たとえ血を流すことなく、帝国がその歴史に幕を下ろすことになっても。一国が滅べば、帝国出身である私は……悪役令嬢な上に、悪女と噂される可能性もあった。それも含め、覚悟ができているのかと聞いてくれたのだ。
その答えは……。
「はい。既に帝国を後にした時から、その覚悟はできています。帝国民からは『国を売った女』というそしりを受けるかもしれません。でもそれを含め、決意した覚悟です」
そこで大きく息を吐き、さらに言葉を続ける。
「私が動かなければ、父親は鉄の監獄と言われるザ・アイアンで絶望の中で人生を終え、母親は修道院で贖罪の日々を過ごし悲しみのうちで亡くなるでしょう。兄に至ってはその過酷な労働でいつ命を落としてもおかしくない状態です。家族を救うには帝国を滅ぼすしかない。そして家族をこんな目に遭わせた帝国に一矢報いるには、セントリア王国の協力は欠かせません」
国王陛下は途中で言葉を挟むことなく、真摯な表情で私の話を聞いてくれる。
「帝国は、表面は美しい赤い色をしていても、その中は腐りきっている。つまりは腐ったリンゴです。私利私欲を優先する男爵が台頭し、それを皇家が良しとすれば……。早晩、リンゴは腐敗し、その姿を維持できなくなります。そんな形で崩壊して一番悲惨な目に遭うのは帝国民です。そうなる前に帝国は……滅びた方がいい……そうも考えた結果です」
私を見て、国王陛下は頷く。
「そうか。ならばその覚悟は」
「はい。強い決意の上の覚悟です。覆ることはありません」
国王陛下は「うむ。そなたの覚悟、しかと受け止めた」と応じてくれる。
「では今日から少なくとも一か月以内に、全てのことを成そうではないか。だがその前に、我が国の動きを帝国に気取られてはならない。帝国の諜報部員のコードネームや暗号を知っているのだな?」
私は力強く頷く。
「すべてお話します」
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になると思いますので
もう一話、今夜22時頃に更新いたします!
体調や明日の予定に合わせて
どうぞ無理なさらずにお楽しみくださいね。
また明日のお昼にお会いしましょう☆彡





















































