謁見(1)
翌日の昼食でセントリア王国の国王夫妻と会えることになった。帝国の公爵令嬢であり、第二皇子の婚約者だったものの。帝国とセントリア王国は敵対関係。ゆえに国王陛下も王妃殿下に会うのも……これが初めてだった。
「お嬢様、アトラス王太子殿下が、昼食で着るようにとドレスを届けてくれましたよ! ロイヤルブルーの素敵なローブモンタントです。一緒にパールの宝飾品もございます」
レニーに言われ、箱を開けて出てきたドレスにビックリ! さらに驚いたのは着るとサイズがピッタリなのだ!
「まあ、アトラス王太子殿下は一体どうやってお嬢様のドレスのサイズを把握されたのでしょう!? お嬢様の体に触れたわけではないでしょうに」
「体に触れた」の一言に、思い出してしまう。
(保安確認……! もしやあれでだいたいの体のサイズを把握したのかしら!? というか……)
あの時、アトラス王太子は淡々と私が武器を隠し持っていないか確認しただけで、その手つきにいやらしさはゼロ。そして結婚した男女が触れるような場所には一切触れていない。ただ、私はそもそも異性に体に触れられる経験がないので、敏感に反応してしまったわけなのだけど。
今更あの時のことを思い出すと、猛烈に恥ずかしい気持ちになる。さらにもしかして私が過剰反応していたこと、アトラス王太子にバレているのでは……と青ざめてしまう。
(声だって出ていたのだから、バレていたと思うわ!)
「まあ、お嬢様! ヴィレミナ絨毯に包まり、王宮へ潜り込み、王族と会うという大胆不敵な行動ができたのに! 国王陛下夫妻と会うことに、そこまで緊張されるなんて……! でもそうですよね。いくら第二皇子の婚約者であっても、日常的に皇帝陛下夫妻と会うわけではありません。やはり国のトップに立つ人と会うのは……緊張されますよね」
レニーが心配してくれるが緊張ではなく、保安確認を思い出し、顔色が変化していただけだ。そこは慌てて「大丈夫、なんだかんだで皇帝陛下夫妻に会っていたから、場慣れはしているわ!」と、とにかく準備を進めた。
こうして久々に昼の正装をすると、背筋が自然と伸びる。
「セントリア王国へ行くと決めてから、ずっとワンピースでしたよね。お嬢様のドレス姿は久々ですが……。やはりお嬢様、お美しいです」
姿見に映る私は自分で言うのもなんだが、素敵だった。
ロイヤルブルーのローブモンタントのドレスは、マリナのミルク色の肌に映える! 唇と頬の血色もよく、手足はほっそりでウエストはくびれていた。それでいて西洋人ならではの豊かなバスト。これはもう美少女設定の悪役令嬢万歳!だ。
(すごいわ、改めてスタイル抜群ね!)
さらにシルバーブロンドの髪は左側で束ねてゆるく編み込みにし、パールの髪飾り。耳には小粒のパールが葡萄のように房なりになっているイヤリングをつけた。ネックレスはローブモンタントの立襟を飾るようなこぶりのものだ。
「準備は完了です、お嬢様」
「ありがとう、レニー。きちんと正装し、マナーはさすがに覚えている。ちゃんと国王陛下夫妻と挨拶をするわ」
そこでノックの音がして、執事が登場。昼食が行われるダイニングルームへ案内してもらうことになった。
「あっ……」
ダイニングルームの入口の扉が見えて来た時、アトラス王太子の姿が見えた。
パールホワイトのフロックコートにロイヤルブルーのタイやベストを合わせており、その姿は眼福もの。その彼がエスコートしているのは……。
(あれが彼の婚約者だわ)
セントリア王国は、様々な国と交易をしているが、婚約者の令嬢はその交易国の一つ、カウイ島の姫君だった。カウイ島は南国の島国。コーヒー豆の産地として有名だ。その姫君であるレイラ姫は、健康的に日焼けした肌に、美しくウェーブしたチョコレート色の髪、そしてその身を包むのは、カウイ島の王族の伝統衣装だ。ハイビスカスを思わせる花が描かれている。
西洋とは違う文化圏の姫君。とても美しい。彼女を優しい表情でエスコートするアトラス王太子を見ると……。
(ズキンと感じるこの痛みは何かしら……?)
彼に婚約者がいることは知っていた。現在二十歳の王太子は、王族にしては婚約するのが遅かった。確か婚約したのは、半年ほど前のはず。
あれだけの聡明さと美貌を誇り、婚約者が長らくいなかったのだ。通常は男性が送る求婚状を、王太子は大量に受け取ることになっていたと思うのだけど……。その辺りの報道、敵国であることから帝国内ではされていなかった。
「! おはようございます、アシュトン嬢」
私に気づいたアトラス王太子が、今朝も相変わらず輝くような美しさのブルートパーズの瞳をこちらへ向け、微笑んだ。
(目の保養になるわ……ではなく!)
「おはようございます、アトラス王太子殿下」
そう言って目線をレイラ姫に向けると、彼はすぐに自身の婚約者を紹介してくれた。そしてレイラ姫が、可憐に挨拶をしてくれる。
「はじめまして、アシュトン嬢。あなたのこと、アトラス殿下からお聞きしています。……大変なことがありましたね。でも無事、帝国を出ることができて良かったです。セントリア王国はとても良い国ですよ。半年前にこの国へ初めて私は来たのですが……アトラス殿下も国王陛下夫妻も、皆様とてもお優しく……」
そこでレイラ姫が少し垂れ目の瞳をアトラス王太子に向け、二人の視線が一瞬交差し、すぐに笑顔が生まれる。
ズキッと感じた胸の痛みに、私は驚きの声を出しそうになり、慌てて呑み込む。そして今のことを誤魔化すように、私は必要以上な笑顔になりながらも、なんとか声を出す。
「ねぎらいの言葉、ありがとうございます。こうやって国王陛下夫妻やレイラ姫と会う機会を持てたこと。セントリア王国の寛容さに感激しているところです」
「皆様、間もなく国王陛下夫妻もいらっしゃいます。どうぞ、中へお入りください」
いいタイミングで宮廷執事が声を掛けてくれたので、中に入り、着席することになる。
「どうぞ、お入りください。我々は護衛ですので、廊下で待機となります」
レイラ姫の護衛をしているのは、彼女と同じカウイ島の出身者のようだ。
髪色や肌の色など、レイラ姫とそっくり。だが彼女が美しい乙女なのに対し、彼は精悍な顔立ちで、がっしりとした体躯の青年だった。
「お嬢様、私も別室で待機していますので」
レニーに見送られ、ダイニングルームへ入る。
着席してすぐ、王女も登場し、そして国王陛下夫妻が遂に姿を現わした。
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次話は20時頃公開予定です~





















































