作戦遂行(5)
尋問を始めると言われ、改めてアトラス王太子と私はカウチで横並びで座り、体をお互いの方へ向けることになる。
「ここへ来たと言うことは、家族を助けるためだと、そこは容易に想像がつく。だが君の父親であるアシュトン公爵は犯罪者とされている。罪を犯せば罰せられて当然。それは王侯貴族、平民に関係なく──それがセントリア王国だ。帝国は違うのか?」
帝国の法なんて間違いなく知っているだろうがあえて尋ねたということは。父親の罪について確認しておきたいと言うことだろう。
「私の父親は無罪です」
「身内に罪人を持つ者は、まずそう言うが」
「そうですね。無罪である理由をあげます」
そこで私はベネディクト第二皇子との関係性、そこに入り込んできたシェリー・マチルダン男爵令嬢のことをまず話す。
「……なるほど。ベネディクト第二皇子は皇族の一員でありながら、婚約者の純潔を婚姻前に散らそうとしていたのか。そしてそれを拒む君のことを疎ましく感じていた。そこにいろいろと奔放なマチルダン男爵令嬢が現れ、第二皇子は彼女と深い仲になったと」
整ったアトラス王太子の顔に、驚きと呆れの表情が浮かぶ。
「はい。そこで邪魔な私を排除しようと、アシュトン公爵家有責で婚約破棄が出来ないかを考えたようです。ですが私は……その自分で言うのはおこがましいのですが、品行方正にしていたので、有責にできる事由を二人は見つけられませんでした」
私の話を聞き、アトラス王太子は推理してくれる。
「娘に婚約破棄を突き付けられるような理由がなかったから、父親に濡れ衣を着せ、婚約破棄……解消に持ち込むことにした。しかしまだ子供のような第二皇子が、公爵を貶めるようなでっち上げを出来るのだろうか? ……もしやマチルダン男爵令嬢の父親が手を貸した……?」
この問いかけに、私はコクリと頷く。
「そうか。マチルダン男爵の名は、セントリア王国の政治の場に登場したことがある。我が国で銀行を開業したいと言い出して……。その時にひとしきり調査をしたが、彼の周囲には多数の死人がいる。どれも病死であり、他殺ではないが……。死者が一人出る度にマチルダン男爵が得をしている。何かきな臭いもの感じ、彼の申し出は却下されることになった」
帝国内で成功を収めていたが、まさかセントリア王国にも手を出そうとしていたなんて。やり手なのかもしれないが、自身が得をする度に死者が出ているなんて不吉過ぎる。さらに私の父親を容赦なく貶めたのだ。
セントリア王国がマチルダン男爵の提案を拒絶した理由には納得出来てしまう。
「利益追求に邁進するマチルダン男爵にとって、娘が皇族の婚約者となれば、この上ない商機に恵まれることになる。君と第二皇子の婚約が破棄されるように動くのは、当然に思えるが……アシュトン公爵は穏やかで平和的な性格と我が国では伝わっていた。和平協定の度に彼が動いていたとは聞いている」
アトラス王太子の言葉に父親の姿が浮かび、唇を噛み締めることなった。
父親は決して無能なわけではないし、商会経営も領地運営にも問題なんてない。ただ、マチルダン男爵のような野心家ではなかった。それに争うより協力し合うことを好んだ。そして今回まんまと貶められたのは──。
(お父様が悪いわけではないわ。ここが乙女ゲームの世界であり、シナリオの流れがヒロイン有利に動いたに過ぎないのだもの。もし私の前世記憶の覚醒がもう少し早ければ、結果は少し違っていたかもしれない。ううん、それはないわね。ヒロインが微笑むための世界なのだから!)
「しかしマチルダン男爵が暗躍しても、相手は公爵家。アシュトン公爵家といえば、皇家との繋がりも深いはず。なぜ、こんなことに……」
聡明なアトラス王太子ならすぐに答えへ行き着くだろう。でもここは私が事情を打ち明ける。
アシュトン公爵家の財力、人望は皇家を超えていたこと。皇家としてはそこに危機を感じていたことを。
「つまりは公爵家が力をつけすぎるのはよくないと、皇家はアシュトン公爵家を切り捨てたのか」
イエスを示すため、私は大きく頷く。
「マチルダン男爵は、多額の資金提供を皇家に約束していたようなんです」
「そう言うことか」と、アトラス王太子は顎に手を添えて唸る。
「……我が国はこれだけの国土もあり、働き手も多く、帝国との戦いに耐えられる体力が存分にある。たが帝国は違うだろう。繰り返す戦により、帝国の懐はかなり冷え込んでいるのかもしれないな。ゆえに有り余るお金を持つマチルダン男爵の提案に、皇帝も飛びついたか」
頭の回転が速く、全てを語らなくても理解が進むことには、とても助かっていた。今も「そうなります」と答えれば済んだ。たが次の一言にドキッとすることになる。
「しかし、君はここへ乗り込むだけの度胸もあり、ヴィレミナ絨毯に包まって献上品として乗り込むことを思いついた。それだけの才覚がありながら、公爵が貶められるまで、何も気づかなかったのか? 第二皇子の婚約者として、彼といる時に何か兆しを感じることもなかったと?」
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次話は12時半~14時までに公開予定です~





















































