表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

**第十章 熊本レイヤー―記録の囁き**

境界が揺らぐとき、記録が語り始める。

熊本レイヤーに踏み込んだ者は、自分の痕跡と向き合うことになる。

過去を記した層は、未来への鍵を握る。

ただし――それを読み解こうとする意志があれば、の話だ。

足元に広がる土は、かつての都市インフラの名残をわずかに留めていた。

だが、空気は鹿児島とは明らかに違う。

濃密な情報の粒子が、視覚に干渉するほど揺らめいている。


翔太は肩に乗せたセンサー端末を見ながら、ぽつりと呟いた。

……ここは、動いてるな。


熊本レイヤー――記録された記憶や感情が物質として蓄積されてゆく層。

情報と感情が融合し、時間と空間に干渉する都市。

二人が歩き出すと、周囲の建造物が微かに応じるように波打った。

ひとつの看板が、ノイズ混じりに浮かび上がる。


誠へ。もしこのメッセージが読まれているなら、私はもうここにはいない。


目を見開く誠。

この文体、この名前の呼び方……それは、彼のかつての仲間、加奈子の筆致だった。


加奈子は……ここに来たのか?

翔太は言葉を返せない。だが、視線の先には朽ちかけたターミナル群が広がっていた。

その中央に、一つだけ起動し続けている小型端末があった。


誠がそっと手をかざすと、端末が応答し、メッセージが再生された。


壁は動いている。

熊本は“選択”を記録する都市になった。

誰が、何を、どう決めたか――そのすべてが層に刻まれる。


記録される……この先の行動も含めて、か。

翔太が背後でつぶやいた。


彼らの選択が、都市を変える。

都市が、それを記録する。


誠は端末を握りしめた。

加奈子が何を選び、何を遺したのか――それを知ることが、自分の“次”を決める鍵になる。


先に進もう。熊本はただの通過点じゃない。ここに、何かある。


二人は再び歩き出す。

記録が囁き、層が呼吸する中で。

情報の層に刻まれた囁きは、記録か、それとも意志か。

加奈子の残した軌跡が、やがてらはえるうの足跡と交差してゆく。

熊本に記された“選択”は、すべてのレイヤーに波紋を起こすだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ