第二章:「音が導く迷い—閉塞する都市を歩く」**
「静かに迫る閉塞」**
壁が現れてから、街は少しずつ沈んでいった。
最初はまだ希望があった。誰もが「すぐに何とかなる」と思っていた。
だが、一週間、二週間、三週間――変化は何もない。
物流は止まり、食料は尽き、人々は不安と苛立ちを募らせる。
喧騒ではない、静かな混乱だった。
そして、その沈黙の中で、田中誠は何かを見失いかけていた。
この都市で生きる意味。
この世界で動く理由。
それはただの生存ではない。
何かを取り戻すことが必要だった。
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鹿児島は、もはや都市としての機能を失いかけていた。
誠は仕事の帰り道、通勤ルートを歩きながら、街が死んでいく感覚を覚える。
行き交う人々の表情に希望はない。
コンビニの棚は空っぽ。
スーパーでは無言の争奪戦が続く。
この街には音がない。
誠は壁の方へ向かった。
何度も手をかざしたその場所――今日も変わらない、はずだった。
しかし、その日は違った。
風が吹いた。
そして、壁の向こうから微かに響く音があった。
それは人の声ではない。何かが揺れている――。
誠は壁に耳を押し当てる。
その音は、壁の向こうではなく、壁そのものから発されていた。
「……この音、何かを伝えようとしている?」
しかし、意味はわからない。
壁は依然として沈黙を続けるだけだった。
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仲間を集めようと試みる。
だが、過去の知人たちは誰も乗ってこない。
「今そんなことしてどうするんだ?」
「踊る?何の意味があるんだよ。」
そう言われるたびに、誠は迷う。
この状況下で、本当に必要なことなのか?
いや、そんなことはない。
音楽やダンスはただの趣味じゃない。
それは、仲間と繋がる方法だったはずだ――。
誠は試す。
街の片隅で音楽を流し、一人で踊り始める。
しかし、誰も立ち止まらない。
誰も興味を示さない。
街は沈黙を続けるだけだった。
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「お前、壁の北側を見たことあるか?」
肩を落とした誠に、ふいに声がかかった。
黒いコートをまとった男、翔太。
彼は壁に異変を感じ、「音がこの境界に作用する可能性がある」と語る。
ただの障壁ではない、何かを拒絶する法則が働いている。
誠はその言葉に引っかかるものを感じた。
もしかすると、音はただの波ではない。
それが何かを動かす力になるかもしれない。
翔太と共に北へ向かうことを決める。
壁の謎を探るために。
そして、福岡を目指す旅へと踏み出した。
「閉塞の中で響く可能性」**
都市は静かに死にかけている。
しかし、音はまだ消えたわけではない。
誠は新たな仲間を得て、壁を探るために歩き出す。
ただ生きるのではなく、何かを響かせるために。