【漫才】キョンシー女子大生の夏休みの遊び方
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にピョンピョンとね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「驚いたね、蒲生さん…夏休みに入って久々に会ったけど、少しばかり焼けたんじゃないの?」
ツッコミ「おっ、分かる?高校時代の友達と一緒に海水浴へ行って来たんだよね。みんな大人っぽくなっていて驚いたなぁ…」
ボケ「海水浴…私も台湾にいた頃にはよく行ったなぁ。台湾は温暖で海も綺麗だから泳ぐと気持ち良いんだよ。」
ツッコミ「日本の海も悪くないよ。よかったら、今度一緒に行かない?」
ボケ「そうは行っても、私はコレだよ。」
ツッコミ「そんな両手を突き出さなくても、貴女がキョンシーなのは知ってるから!やっぱり、アレなの?死体だから海に浸かると良くないとか?」
ボケ「そうなんだよ、蒲生さん。台湾で暮らしていた頃に海水浴場で泳いでいたら、『水死体が上がったぞ!』って騒ぎになっちゃって。お父さんやお母さんにも言われたよ、『美竜は海水浴を控えた方が良い』って。」
ツッコミ「えっ!そっちの理由?てっきり私は、海水に浸かると身体が崩壊するとか泳げなくて沈むとか、そう言う理由かと思っちゃったよ。」
ボケ「そんな軟弱な身体だったら、私はとっくに生きてはいないよ。」
ツッコミ「もう死んでるじゃん!」
ボケ「どうも死臭でバレちゃったみたいなんだよね。水着だとお香でカモフラージュする訳にもいかないし。」
ツッコミ「いつもアジアン風の香水を付けていると思っていたけど、あれってお香だったの?そんな行幸中に始皇帝が急死したのをごまかすみたいな真似をしなくても。」
ボケ「始皇帝が急死したのは、不老不死になろうとして水銀を飲んだのも一因なんだってね。私達キョンシーに頼んだら、不老不死になんて簡単になれるのに。」
ツッコミ「色々と収拾つかなくなっちゃうよ、始皇帝が両手を突き出してピョンピョン跳ねてたら…いずれにせよ、それじゃ海のレジャーは難しそうだね。だったら山のレジャーはどう、高原へハイキングとか?涼しくて良いと思うよ。」
ボケ「高原でハイキングも悪くないね。だけど熊とか出ないかな?」
ツッコミ「えっ、貴女ったら熊が怖いの?キョンシーなのに?」
ボケ「だってさ、熊には死んだふりが効かないんだよ。死体だって食べるって言うじゃない?」
ツッコミ「生きた死体の貴女が言うと意味合いが変わってくるなぁ…それなら鈴でも鳴らしたら良いでしょ?それで熊に自分の存在をアピールするんだよ。」
ボケ「成る程、鈴を鳴らしたら良いんだね。忘れないようメモしないと…」
ツッコミ「コラコラ!額の霊符をメモ帳代わりにしないの!」
ボケ「ここに書いておいたら失くさないんだよ!他に気を付ける事はない、蒲生さん?」
ツッコミ「後は大声を張り上げたら良いんじゃない。」
ボケ「成る程、大声…コホンッ!キョンシー様のお通りだ〜!邪魔する奴は、道連れだ〜!」
ツッコミ「こらこら!それは道士がキョンシーを引率する時の掛け声じゃない!」
ボケ「そっか!熊のキョンシーが聞き付けたら付いて来るかも知れないね。」
ツッコミ「いないよ、そんな熊のキョンシーなんて!」
ボケ「同じハイキングでも、天保山や蘇鉄山みたいな町中の山なら何も心配いらないんだけどね。」
ツッコミ「天保山や蘇鉄山へ行くのをハイキングって呼んで良いのかな…そもそも貴女達キョンシーは銃剣で刺されても大丈夫だから、熊の爪や牙なんて平気でしょ?」
ボケ「桃の木で作った義歯や鉤爪を熊が付けてたら、流石に物理ダメージが入っちゃうよ。そういう痛いのは嫌だからね。」
ツッコミ「いないよ、そんな熊なんて!」
ボケ「おっ、さっきの天丼かな?被せに来るなんて、蒲生さんも腕を上げたじゃない。」
ツッコミ「何処の世界に道士の知識を会得した熊がいるのよ?!世界中の熊牧場やサーカスを探してもいないって!」
ボケ「あっ、そんな事を断言して良いの、蒲生さん?カール・ヘンペルの『カラスのパラドックス』だって、アルビノのカラスで御破算になったんだから。」
ツッコミ「カラスが全て黒いと証明するために、黒くない物を集めてカラスを探そうって話ね。理屈の上じゃそうだけど…」
ボケ「だからさ、探せば一頭位は桃の木を持った熊はいるんじゃないかな。この仮説に、私は命を賭けても良いね!」
ツッコミ「キョンシーの貴女には賭ける命がないじゃないの!」
ボケ「あっ、そうだった…」
ツッコミ「海にも山にも難色を示しちゃって…それじゃ貴女は夏休みにどう遊んでるの?」
ボケ「そこはやっぱり夏祭りだね。この時期は各地で夏祭りをしているから、島之内の姐さんと一緒に出掛ける事もあるんだよ。」
ツッコミ「おっ、それはとっても夏らしい遊び方だね!やっぱり夜店の屋台を冷やかしたりするの?」
ボケ「夜店の屋台は大好きだよ!あの雰囲気は夜市を思い出すからね。」
ツッコミ「成る程…確かに夜市は台湾の名物だからね。」
ボケ「だけど金魚すくいでは赤っ恥をかいちゃったね。『何処で調理してくれるんですか?』って聞いたらギョッとされちゃったよ。」
ツッコミ「そりゃギョッとするよ!すくった金魚を食べるだなんて。」
ボケ「金魚だけにギョッとするって?蒲生さんも上手い事言うね。」
ツッコミ「ダジャレじゃないって!」
ボケ「でも台湾の夜市の海老釣りだと、釣った海老はその場で焼いてくれるんだよ。」
ツッコミ「えっ、そうなの?だけど金魚すくいは、そういうシステムじゃないからね。」
ボケ「島之内の姐さんにも言われたよ。『美竜ちゃん、金魚は食べ応えがないから損や。同じ淡水魚でも、食べるんなら鮒からやで。』ってね。」
ツッコミ「う〜ん、損得の問題なのかなぁ…」
ボケ「他にも盆踊りを踊ったり花火を見たり、それはもう楽しいんだよ。」
ツッコミ「良いじゃない、いかにも日本の夏じゃない!やっぱり浴衣を着ていくの?」
ボケ「嫌だなぁ、蒲生さん。これが私達の正装だよ。」
ツッコミ「えっ!夏でも清代の官服を着ているの?それって暑くない?」
ボケ「これは夏用で通気性が良くなっているんだ。サラリーマンのスーツだってそうでしょ?」
ツッコミ「キョンシーのクールビズとは驚いたなぁ…だけどキョンシースタイルで盆踊りの中に入っても浮いたりしないの?」
ボケ「あのね、蒲生さん。お盆ってね、死んだ人達が帰ってくる日なんだよ。」
ツッコミ「それは知ってるよ。」
ボケ「じゃあ、私達キョンシーがどういう存在かも知ってるよね?」
ツッコミ「生き返った死体…あっ!」
ボケ「そう!謂わば私達キョンシーは盆踊りのVIP。そんな私達が浮くなんて事はないんだよ。それに清代の官服も日本の浴衣も、国は違えども民族衣装に変わりはないでしょ?」
ツッコミ「そう言われたら返す言葉もないなぁ…」
ボケ「それでも浮けというなら、それはそれで手があるんだよ。私も姐さんも飛殭じゃないけど、ちゃんと飛行する手段は持ち合わせているの。この唐傘を回せば…」
ツッコミ「ストップ、ストップ!何もここで回さなくて良いから!」
ボケ「流石に私も姐さんも盆踊り会場で飛んだりはしなかったよ。何しろ会場ではドローンの使用が禁じられていたからね。」
ツッコミ「あの傘を回して空を飛ぶのって、ドローンと同じ扱いなんだ。」
ボケ「打ち上げ花火の撮影の為にドローンを飛ばした人がいて、大問題になったからね。確かに夏の花火は綺麗だから、その気持ちは分かるけど。」
ツッコミ「そう言えば、台湾を始めとする中華圏の人達って花火や爆竹が大好きだもんね。春節の時期になると爆竹をバンバン鳴らしているもん。」
ボケ「そりゃそうだよ、蒲生さん。花火や爆竹の派手な音と光には、悪霊や災いを追い払うだけではなくて神仏や御先祖様を喜ばせる意味合いもあるんだから。」
ツッコミ「お盆の時期に花火大会がよく開催されるのと同じ理由だね。死者の霊を弔う送り火の意味合いももあるんだとか。」
ボケ「だから打ち上げ花火で夏祭りが締め括られたら、私も島之内の姐さんと一緒に帰路へつくんだ。」
ツッコミ「夏の夜の終わりって感じがして、なかなか叙情的じゃない。」
ボケ「もっとも、行き先は極楽じゃなくて下宿のマンションだけどね。」
ツッコミ「せっかくの余韻がぶち壊しじゃない!何処の世界に、送り火代わりの花火で下宿のマンションに帰っていく死者がいるのよ?」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」