表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/81

77話

8月14日――ついに全国大会の開会式当日を迎えた。

東京の空は、まだ台風の影響で荒れ模様だ。


だがそんな空模様とは裏腹に、全国各地から集まった女子高生たちの熱気が、会場の大ホールに満ちていた。


ホールには、各都道府県の団体戦代表の女子高生たち、個人戦の代表として選ばれた棋士たちがずらりと整列している。

会場に集まった関係者や保護者、報道陣のフラッシュが、ところどころで小さな光を放った。


壇上に立った司会者がマイクを握ると、場内のざわめきが一気に静まる。


「それでは、これより第25回全国高等学校女子将棋大会、開会式を行います!」


響き渡るマイクの声に合わせて、全員が一斉に背筋を伸ばした。壇上の中央に立つのは、日本将棋連盟の会長を務める大御所のプロ棋士だった。


「みなさん、よくここまで勝ち上がってきました。本当におめでとうございます」


柔らかくも凛とした声が、会場の隅々まで届く。


「どうか全力を尽くし、悔いのない対局をしてください」


大きな拍手がホールを包んだ。


続いて、前回大会で優勝した選手が、選手宣誓のために一歩前に出る。

スポットライトに照らされた少女の声が、緊張で少しかすれながらも力強く響いた。


「私たち選手一同は、最後まで正々堂々と戦い抜くことを誓います!」


宣言と同時に、ホールのあちこちから大きな拍手が湧き起こった。


開会式の締めくくりは、全校の注目が集まる一大イベント――トーナメントの抽選だ。


司会者が合図すると、舞台上のスクリーンにはコンピューターによって、完全ランダムの組み合わせ表が映し出される。

各校の名前が、まるであみだくじのように高速で入れ替わり、観客席から小さな歓声やため息が漏れた。


(どこと当たる……?)


桜も息を止め、スクリーンに釘付けになる。

そして、白い文字がはっきりと浮かび上がった。


――埼玉県代表 小手指原高校 VS 神奈川県代表 横浜海浜高校


「……なるほど」


桜の喉の奥から、小さな声が漏れた。


(円蔵の大将が言ってた学校……!)


少し前の合宿で練習試合をした円蔵高校。あのとき、大将が教えてくれた、円蔵を神奈川県の決勝で破った学校――横浜海浜高校のワンダーフォーゲル部だ。


(偶然にしては出来すぎじゃないかしら)


胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、桜は小さく頷いた。


(いいわ……円蔵の仇を取ってあげる)


抽選がすべて終わり、代表校ごとに散会の声がかかると、各校は順次ホールの外へ移動していった。


小手指原高校の一行も、桜を先頭に人の波の中を進んでいく。ホールの外に出ると、空調の効いた大ホール内とは違い、湿った空気が肌にまとわりついた。


「円蔵を倒した相手……わくわくしてきた!」


柚子が言うと、横を歩く百合が目を細める。


「油断は禁物だよ。円蔵が負けたくらいだし」


「確かトリッキーなんでしょ?でも何とかなるって!」


柚子が無邪気に笑うと、牡丹が苦笑した。


「頼もしいですわね」


会場の廊下を進んでいると、向こう側から小柄な少女がこちらに向かってくるのが見えた。


「あれ……あの人は……」


百合が小声でつぶやく。


近づいてくるのは、浦和女学院の埼玉県個人戦代表――御影ひなただった。


「こんにちは、小手指原の皆さん」


御影は立ち止まり、にこりと微笑んだ。


「団体戦は今日が一回戦よね。頑張って」


「ありがとう、ひなた。」


桜が軽く頭を下げる。

牡丹も百合も柚子も、揃って小さく会釈をした。


ひなたは「じゃあ」と手を振ると、そのまま廊下を進んでいった。


――


控室に入ると、中央のテーブルの上にはトーナメント表が置かれていた。

メンバーは椅子を引いて腰を下ろすと、自然と相談が始まる。


「どういう順番にするの?」


百合の問いに、桜は腕を組んで少し考え込む。


「一戦目は……柚子で行こう」


柚子が目を丸くしてから、すぐに大きく頷く。


「うん!最初に勝って勢いをつけてくる!」


「二戦目は百合、三戦目は私が締める。それでいこう。」


「異論はないですわ」


牡丹が静かに頷くと、百合も短く「分かった」とだけ言った。


虎門と福辺は何も言わずに、その光景を見守っていた。


そして――


一戦目の開始時刻の5分前になった。


「じゃ、行ってくる!」


柚子が椅子から立ち上がり、勢いよく控室のドアを開けた。


背後で桜の声が優しく届く。


「頼んだわよ、柚子!」


振り返った柚子がにっと笑い、元気に手を振った。


勢いよく控室のドアが閉まると、残されたメンバーの間にも、静かに緊張感が漂い始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ