表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/80

59話

夏休みの真っ青な空の下、駅前の大型ショッピングモールには、親子連れや学生たちの姿があふれていた。


そんな中、私服姿の伊波芽衣と七瀬柚子が、照りつける日差しを避けるようにして施設の自動ドアをくぐった。


「さてさて、まずは水着売り場だね!」


柚子がウキウキした足取りで、フロアマップを片手に芽衣の手を引く。


「う、うん……」


芽衣は軽くうなずきつつ、ほんのりと頬を染めていた。

来週から始まる将棋部の合宿。宿泊先の別荘にはプールがあり、自由時間にはみんなで水遊びをする予定だ。


ふたりがたどり着いた水着ショップは、夏休み直前ということもあり、にぎやかな音楽とカラフルなディスプレイであふれていた。


「よーし、まずは自分の分を選んでっと……」


柚子はあっという間に、スポーティなセパレートタイプの水着を手に取り、さっさと試着室へ。


数分後、試着を終えた柚子が「これでいっか」と満足げに笑顔を見せたかと思えば、すぐに芽衣の方へ向き直った。


「じゃあ、次は芽衣の番!」


「えっ、あ、うん……」


どれがいいか分からず、芽衣は棚の前で目移りしていたが、その様子を見た柚子はすぐに動き出す。


「私が選んであげる! これと、これと、これ! こっちはちょっと攻めすぎかもだけど……」


どんどん水着を芽衣の腕に抱えさせていく。


「ちょ、ちょっと多すぎ……!」


「着てみなきゃ分かんないって! さあさあ、試着室へゴー!」


観念した芽衣は試着室に入り、最終的にオーソドックスな紺色のワンピースタイプを選んだ。


「おお、それにしたんだ。芽衣っぽいっちゃぽいけど……ちょっと地味じゃない?」


「い、いいでしょ別に……」


恥ずかしそうにレジへ向かう芽衣を、柚子はにやにやしながら見守っていた。


続いて、合宿用の着替えを買うために、ふたりはショッピングモール内の別の店舗へ。


柚子は動きやすさ重視で、カジュアルな服を中心にどんどん選んでいく。


「これ、ショートパンツに合わせたら絶対かわいくない?」


「……あんまり短いと、対局してるとき寒くない?」


「そしたらブランケットでもかければいいし! なんとかなるって!」


一方の芽衣は、清楚なワンピースや、カーディガン付きの涼しげなセットアップ、ハーフパンツなど、シチュエーションを思い浮かべながら慎重に選んでいた。


「意外といっぱい買ったね、芽衣ちゃん。ふふ、荷物持ってあげようか?」


「大丈夫、自分で持つよ。でも、ありがとう」


買い物袋を手に、ふたりはエスカレーターでフードコートへと向かう。


広いフードコートの中は、夏休み前のにぎわいで活気に満ちていた。


「わたし、ラーメンにする!」


「じゃあ……私は冷たいうどんかな」


それぞれ食券を買い、トレイを手に席へ向かう。


「んー、やっぱラーメン最高~! 夏でも余裕!」


「冷たいうどんも、さっぱりしてておいしいよ」


食事の合間、芽衣がふと話題を切り出した。


「そういえば、この間……新座台高校の乃間さんと再戦したの」


「えっ、ほんとに!? あの県大会のときの?」


芽衣はうなずき、対局の内容やリベンジに成功したことを語った。


「うわぁ、すごい! 芽衣、かっこいいじゃん!」


柚子は思わず手を叩いて喜ぶ。


「でも、実はね。私も再戦してたんだ」


「えっ、柚子も?」


「うん。福辺先生が連絡してくれてさ。県大会で私が負けた相手とね。リベンジ、ばっちり成功!」


どちらからともなく顔を見合わせ、思わず笑い合う。


「なんだか、ちょっとだけ自分が強くなれた気がする」


「うん、私もそう思う」


食後、時計を見ると、そろそろ映画の上映時間が近づいていた。


「そろそろ行こっか!」


事前にWEB予約しておいたスマホのQRコードを手に、ふたりはモール内のシネコンへ。

ポップコーンとコーラを買い、劇場の中に入ると、ひんやりとした冷気に包まれる。


今日観るのは、夏らしいホラー映画だった。


「芽衣ってホラー好きだよね? 私も嫌いじゃないけど、びっくり系はちょっと苦手かも……」


「怖かったら、手、握ってもいいよ?」


「なにその余裕~!」


笑い合いながら、スクリーンが暗くなる。

緊張感のある演出、突如鳴り響く効果音、登場人物が全滅するという衝撃のラスト――。


観終わる頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。


「いや~、心臓バクバクだったけど、面白かった!」


「うん、予想よりよかったね」


駅へと歩きながら、ふたりは合宿の話をした。


「いよいよ来週だね。忘れ物しないようにしなきゃ」


「うん。化粧水とか、ちゃんと詰めておかないと」


「水着もね! せっかくだから、いっぱい楽しんで、いっぱい強くなろう!」


「うん、そうだね…!」


夕暮れの風が、ほんの少しだけ涼しくなっていた。

ふたりは駅の前で手を振り合い、それぞれの帰路へとついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ