59話
夏休みの真っ青な空の下、駅前の大型ショッピングモールには、親子連れや学生たちの姿があふれていた。
そんな中、私服姿の伊波芽衣と七瀬柚子が、照りつける日差しを避けるようにして施設の自動ドアをくぐった。
「さてさて、まずは水着売り場だね!」
柚子がウキウキした足取りで、フロアマップを片手に芽衣の手を引く。
「う、うん……」
芽衣は軽くうなずきつつ、ほんのりと頬を染めていた。
来週から始まる将棋部の合宿。宿泊先の別荘にはプールがあり、自由時間にはみんなで水遊びをする予定だ。
ふたりがたどり着いた水着ショップは、夏休み直前ということもあり、にぎやかな音楽とカラフルなディスプレイであふれていた。
「よーし、まずは自分の分を選んでっと……」
柚子はあっという間に、スポーティなセパレートタイプの水着を手に取り、さっさと試着室へ。
数分後、試着を終えた柚子が「これでいっか」と満足げに笑顔を見せたかと思えば、すぐに芽衣の方へ向き直った。
「じゃあ、次は芽衣の番!」
「えっ、あ、うん……」
どれがいいか分からず、芽衣は棚の前で目移りしていたが、その様子を見た柚子はすぐに動き出す。
「私が選んであげる! これと、これと、これ! こっちはちょっと攻めすぎかもだけど……」
どんどん水着を芽衣の腕に抱えさせていく。
「ちょ、ちょっと多すぎ……!」
「着てみなきゃ分かんないって! さあさあ、試着室へゴー!」
観念した芽衣は試着室に入り、最終的にオーソドックスな紺色のワンピースタイプを選んだ。
「おお、それにしたんだ。芽衣っぽいっちゃぽいけど……ちょっと地味じゃない?」
「い、いいでしょ別に……」
恥ずかしそうにレジへ向かう芽衣を、柚子はにやにやしながら見守っていた。
続いて、合宿用の着替えを買うために、ふたりはショッピングモール内の別の店舗へ。
柚子は動きやすさ重視で、カジュアルな服を中心にどんどん選んでいく。
「これ、ショートパンツに合わせたら絶対かわいくない?」
「……あんまり短いと、対局してるとき寒くない?」
「そしたらブランケットでもかければいいし! なんとかなるって!」
一方の芽衣は、清楚なワンピースや、カーディガン付きの涼しげなセットアップ、ハーフパンツなど、シチュエーションを思い浮かべながら慎重に選んでいた。
「意外といっぱい買ったね、芽衣ちゃん。ふふ、荷物持ってあげようか?」
「大丈夫、自分で持つよ。でも、ありがとう」
買い物袋を手に、ふたりはエスカレーターでフードコートへと向かう。
広いフードコートの中は、夏休み前のにぎわいで活気に満ちていた。
「わたし、ラーメンにする!」
「じゃあ……私は冷たいうどんかな」
それぞれ食券を買い、トレイを手に席へ向かう。
「んー、やっぱラーメン最高~! 夏でも余裕!」
「冷たいうどんも、さっぱりしてておいしいよ」
食事の合間、芽衣がふと話題を切り出した。
「そういえば、この間……新座台高校の乃間さんと再戦したの」
「えっ、ほんとに!? あの県大会のときの?」
芽衣はうなずき、対局の内容やリベンジに成功したことを語った。
「うわぁ、すごい! 芽衣、かっこいいじゃん!」
柚子は思わず手を叩いて喜ぶ。
「でも、実はね。私も再戦してたんだ」
「えっ、柚子も?」
「うん。福辺先生が連絡してくれてさ。県大会で私が負けた相手とね。リベンジ、ばっちり成功!」
どちらからともなく顔を見合わせ、思わず笑い合う。
「なんだか、ちょっとだけ自分が強くなれた気がする」
「うん、私もそう思う」
食後、時計を見ると、そろそろ映画の上映時間が近づいていた。
「そろそろ行こっか!」
事前にWEB予約しておいたスマホのQRコードを手に、ふたりはモール内のシネコンへ。
ポップコーンとコーラを買い、劇場の中に入ると、ひんやりとした冷気に包まれる。
今日観るのは、夏らしいホラー映画だった。
「芽衣ってホラー好きだよね? 私も嫌いじゃないけど、びっくり系はちょっと苦手かも……」
「怖かったら、手、握ってもいいよ?」
「なにその余裕~!」
笑い合いながら、スクリーンが暗くなる。
緊張感のある演出、突如鳴り響く効果音、登場人物が全滅するという衝撃のラスト――。
観終わる頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。
「いや~、心臓バクバクだったけど、面白かった!」
「うん、予想よりよかったね」
駅へと歩きながら、ふたりは合宿の話をした。
「いよいよ来週だね。忘れ物しないようにしなきゃ」
「うん。化粧水とか、ちゃんと詰めておかないと」
「水着もね! せっかくだから、いっぱい楽しんで、いっぱい強くなろう!」
「うん、そうだね…!」
夕暮れの風が、ほんの少しだけ涼しくなっていた。
ふたりは駅の前で手を振り合い、それぞれの帰路へとついた。




