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57話

「よーし、これで一学期も終わりだーっ!」


終業式が終わり、下校を告げるチャイムが鳴ると、七瀬柚子がランドセルでも背負っていそうな勢いで叫んだ。

彼女の声が、校舎の廊下に明るく響き渡る。


――夏休み。


その響きに浮かれる生徒たちの波をすり抜けて、芽衣と柚子は将棋部の部室へと向かった。


二人が部室に入ると、他の部員はすでに揃っていた。


「やっと終わったわね、一学期」


ソファに腰かけ、紅茶を口に運びながら十六夜桜がつぶやく。


「成績、どうでした?」


芽衣が尋ねると、桜はちょっと照れくさそうに笑った。


「内申点、思ったより上がってたわ。副教科も4以上だったし、予定通り指定校推薦で進学できそうよ」


「さすが部長ですわ」


そう頷いたのは、結城牡丹。


「牡丹先輩は、どうでした?」


「わたくしはオール5ですわね」


「出たよ……完璧超人」


桜が少し呆れたように笑いながら、牡丹の成績表を覗き込む。


「ほんとに全部5……。なんでこの学校にいるのか分からないわよ。牡丹なら、もっといい学校に行けたでしょうに」


「部長には何度も申し上げていますが、それは父の母校だからですわ」


そんなやりとりを横目に、西条百合が自分の成績表を机の上にポンと置いた。


「ボクはまあ、普通かな……」


ちらりと視線を送ると、確かに座学系は3〜4が中心。

でも、その中で体育と美術が5を取っているのが光っていた。


「やっぱ百合先輩、絵うまいもんね!」


柚子がニコニコと覗き込む。


「うーん、あんまりうまいってわけじゃないけど……課題は真面目に出してたからかな……?」


「それ、大事!」


そして、その柚子自身の成績表は――なんと全科目で4以上。


「えっ、すごい。理科とか数学、苦手って言ってなかった?」


芽衣が驚いて声をかけると、柚子はちょっと得意げに胸を張った。


「えへへ〜、実はさ、試験前に福辺先生に毎日教えてもらってたんだ!」


「さすが、住み込みの内弟子だね……」


百合がぽつりと呟いたそのとき、部室の隅から声が飛んできた。


「ふふふ。教えた甲斐があったよ〜」


そこには、今日もゆるっとした笑みを浮かべた福辺舞先生の姿があった。


「でもほんとに、みんな成績よくてよかった。誰かが補講に引っかかったら、大会にも支障出ちゃうからね〜」


「補講って、夏休みにやるんですか?」


「うん、そうなの。朝から夕方まで缶詰コースよ」


「うわぁ……絶対やだ」


柚子が思わず顔をしかめる。


その横で、芽衣は自分の成績表を見つめていた。

教科によってばらつきがあり、3から5までまちまち。体育と美術がどちらも3だったのが、少しだけ心に引っかかる。


(……来学期は、もうちょっと頑張らないと)


とはいえ、補講の対象にならずに済んだだけでもよかったと、胸をなで下ろす。


「さて、それじゃあ成績談義はこのへんにして、合宿の確認に入りますわよ」


声を張ったのは牡丹だった。

用意していたらしいタブレットを開き、画面をホワイトボードに投影する。


「この前決まった通り、7月28日から8月1日までの4泊5日で合宿を行いますわ」


「いよいよね」


「楽しみだね」


桜と百合の呟きが重なる中、牡丹は手元の資料を指さして続ける。


「交通手段は、大会のときと同様に各自の自宅までリムジンでお迎えに上がりますわ」


「持ち物は?」


「消耗品はすべて別荘に用意してありますわ。皆さんは着替え、洗面具、筆記用具。それから、夜は冷えるので羽織れる上着も忘れずに」


「はーい、質問です!」


「何かしら柚子?」


「おやつはいくらまで良いですか!?」


「合宿なので、制限はありませんわ」


「イエッサー!」


ひととおりの説明が終わると、部室の空気がどこか浮き立っていく。


夏休みの始まり。合宿への期待。

そして、迫ってくる全国大会への緊張感。


「じゃあ、明日からしばらく部活はお休み。ゆっくり休んで、合宿で会いましょう。夏休みの宿題が出ている人は、なるべく早めに終わらせておくようにね!」


桜がそう締めくくると、本日の部活動は解散となった。


近づいてきた合宿と、全国大会。

芽衣は緊張しつつも、胸の奥にワクワクを感じていた。

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