37話
控室の扉が静かに開く。
中に入ってきたのは、対局を終えた結城牡丹だった。
「牡丹さん!!」
「お疲れ様!!」
小手指原高校将棋部の仲間たちが一斉に立ち上がり、歓声を上げる。
桜、百合、柚子、芽衣――皆が笑顔で出迎えた。
「すごかった! あの右四間飛車……完璧だった!」
柚子が飛びつかんばかりに手を振り、百合もニヤリと笑う。
「当然の結果ですわ」
牡丹は静かに微笑んだ。
心の底から湧き上がる達成感に、胸が熱くなる。
「これで、私たちが優勝ですね」
芽衣が、ほっとしたように言った。
「うん、私たちが県大会優勝よ!」
桜の声に、部屋中が拍手と歓声に包まれた。
その様子を見ながら、虎門先生がぽんと手を打った。
「よくやったな。お前たちがここまでやるとは……いや、想像以上だ」
福辺先生もにこやかに頷く。
「みんな、本当に頑張ったね」
そこに、控室のスピーカーからアナウンスが響いた。
『小手指原高校、浦和女学院高校は、表彰式のため大ホールに移動してください』
「さぁ、行こうか」
虎門先生の言葉に、皆も笑顔でうなずいた。
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大ホールに着くと、スタッフの案内で、小手指原高校のメンバーは最前列の席に誘導された。
舞台の大きなスポットライトが輝いている。
ふと後ろを振り返ると、芽衣の祖父と、その隣にまーさんが座っているのが見えた。
二人は嬉しそうにこちらを見守っていた。
やがて、表彰式が始まる。
まずは同率三位――新座台高校と鴻巣北高校の部長たちが呼ばれた。
彼らは舞台に上がり、甲斐田節人七段から賞状を受け取り、それぞれ短くスピーチをする。
「来年こそは、もっと上を目指します」
「この悔しさを胸に、精進します」
シンプルだが、力強い言葉が会場に響いた。
次に、準優勝・浦和女学院が呼ばれる。
ステージには、御影ひなたとその監督が並んで立った。
賞状を受け取った御影ひなたは、静かに口を開く。
「この場を借りて、OGの先輩方に連覇を止めてしまったことを、心よりお詫び申し上げます」
凛とした声。だが、その表情には悔しさが滲んでいた。
続いて、監督がマイクを握る。
わざとらしく目元をぬぐい、声を震わせながら言った。
「すべて、私の指導力不足です……生徒たちは精一杯頑張りました……」
その様子に、客席の一般生徒や将棋部の保護者たちは感動し、もらい泣きする者もいる。
しかし、浦和女学院の将棋部の生徒たちからは、どこか微妙な空気が漂っていた。
そして、ついに――
「優勝校、小手指原高校、ステージにどうぞ!」
アナウンスが響く。
部員たちと虎門先生は立ち上がった。
福辺先生は一歩引いて、桜に言う。
「私はここで応援してるから、みんなで……」
だが、その言葉が終わる前に、柚子がにっこり笑って福辺先生の腕を引っ張った。
「先生も一緒に来てくださいっ!」
「あ、えっ……!」
半ば強引に引っ張られ、福辺先生もステージへ向かうことになった。
壇上に並んだのは、桜、芽衣、牡丹、百合、柚子、虎門先生、福辺先生。
ステージの照明が、彼らを温かく照らす。
甲斐田七段が賞状を、土門六段が県大会の優勝盾を手渡した。
その瞬間、土門の目線が福辺先生に向かい――ぴたりと止まった。
わずかに驚いた顔。
福辺はそれに気づき、そっと目を伏せた。
甲斐田七段も、土門六段の様子を見て福辺にちらりと視線を送り、何かを察したようだった。
だが、表彰式は粛々と進められた。
桜が代表してスピーチをする。
「このような素晴らしい場で、優勝することができ、大変光栄に思います。8月に行われる全国大会に向けて、これからも精進してまいります!」
堂々とした声に、会場から拍手が起きた。
続いて、虎門先生が前に出る。
「小手指原高校では、生徒の自主性を重んじています。顧問はできるだけ口出しをせず、彼らの成長を見守るよう心掛けています。今日の優勝は、すべて彼女たちの努力の賜物です」
そのスピーチを聞きながら、桜が小さな声で仲間たちに呟いた。
「……物は言いよう、だね」
肩を揺らして笑う百合と牡丹。
芽衣も、ふふっと小さく笑った。
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表彰式が終わると、柚子が声を上げた。
「記念写真撮ろうよ!」
すぐにみんな賛成し、ステージ脇で集合する。
桜、芽衣、牡丹、百合、柚子、虎門先生、福辺先生、さらに芽衣の祖父、まーさん、土門六段、甲斐田七段――
全員が笑顔でカメラに収まった。
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撮影が終わった後。
土門六段が、福辺先生に歩み寄り、真剣な顔で問いかけた。
「……なぜ、あなたが教師をしているんですか?」
福辺は答えずに、小さく笑みを浮かべ、そのまま踵を返した。
出口へと歩き去っていく。
その後ろ姿を、将棋部の皆が遠巻きに見守った。
(どういうこと……?)
芽衣は、胸に小さな疑問を抱きながら、その姿をじっと見つめた。
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やがて、迎えのリムジンが到着する。
「さて、帰りましょうか」
牡丹の号令で、桜、芽衣、牡丹、百合、柚子、虎門先生、福辺先生はリムジンに乗り込んだ。
「今日は疲れたよね」
桜が後部座席で言う。
「祝勝会は後日にしようと思うんだけど、いいかな?」
「賛成!」
「それがいいですね」
皆が賛同し、リムジンはゆっくりと夜の街へ走り出した。
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暗い部屋で、パソコンの画面が光っている。
誰かが、埼玉県大会の結果を確認していた。
優勝校、小手指原高校。
集合写真には、笑顔の人たちが映っている。
「小手指原高校か……」
重苦しい空気の中で、それを見つめる者が、憎々しげに呟いた。
対局の描写がワンパターンになりがちになってしまったため、全国大会の時には色々と少し見直すかもしれません。
ご容赦ください。




