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『ハズレ能力』全部持ちの俺が戦場に放り出された結果、いつの間にか最強の救世主扱いされてるんだが

作者: まとめなな

俺は、アレンという。両親から与えられた名前だが、同時に幼少の頃から周囲に後ろ指をさされる元となった“忌まわしき存在”の証でもある。なぜなら俺は、生まれつき「狂人化」「コピー」「不死身」「即死」「硬質化」「巨大化」「ランダムスキル」「読心術」という八つの能力を持っているからだ。

もっとも、これだけ聞くと「チートじゃん!」「羨ましい!」と思うかもしれない。でも、世間の評価はまるで逆だ。


まず「狂人化」。これは簡単に言えば、戦闘中に理性が吹き飛び、暴力衝動に支配される危険な力だ。下手をすれば味方を巻き込む最悪の暴走を起こすため、誰も扱いたがらない。


「コピー」は、相手の能力を複製できるという一見便利そうな力だが、前提として相手の攻撃なり技なりに“接触”しなければならない。おまけに自己オリジナルの火力がないと、コピーしても使いこなしきれない。「やっぱり本家の方が強い」などと言われがちだ。


「不死身」はあまりにも極端。普通の人なら致命傷になる攻撃でも生き延びられるため、逆に封印や永久拘束といった手段で隔離されることが多い。俺が幼い頃に好奇心でナイフを握ったら指を落としたが、すぐに再生してしまい、周囲がどれだけ怯えたか忘れられない。


「即死」はその名の通り一撃必殺級の能力だが、これを使えばほとんどの相手を一瞬で仕留められる。バランスブレイカーに等しい強さだが、通常は強力すぎるがゆえに重い制限がつきものだ。俺の場合は、精神的にギリギリ追い込まれた時にしか発動しない。制御不能のまま炸裂するので、結果的にハズレ認定されている。


「硬質化」は身体を固くして防御するスキル。言葉だけなら分かりやすいが、ただ固くなったところで炎やら衝撃波やら、凌ぎきれない攻撃は山ほどある。地味に使い勝手が悪いし派手さもない。


「巨大化」に至っては、建物を壊すリスクを抱えるし、身体がデカくなる分だけ相手の攻撃が当たりやすくなる。戦場によってはただの的でしかない。周囲の味方も大迷惑だ。


「ランダムスキル」は悪名高いギャンブル能力だ。戦闘中、何かしらの効果がランダムで発動する。大当たりなら便利だが、ハズレなら完全に空振り。それに確率のコントロールができないので、不安要素の方が大きい。


最後に「読心術」。相手の思考が少しわかるという能力。だけど分かったところで対策を立てるのに時間がかかるし、そもそも相手が高速で動く戦場では、その瞬時の判断が十分に活きるかわからない。「読んだところでどうにもならない」と言われてきた。


――そんな感じで、国中から「よりによって全部ハズレ能力を生まれつき持ってるなんて、何かの呪いか?」と噂されては忌避されてきたわけだ。兵士としても、魔法使いとしても、冒険者としても、俺を好んで迎え入れる集団なんて一つも見つからなかった。


だがそんな俺にも、ある日、どうしても戦わなければならない瞬間が訪れる。魔王軍――いわゆる魔物の大群が、突然この国を襲撃してきたのだ。最前線で防衛にあたっていたはずの歴戦の勇者たちが総崩れになり、王都は炎上。街は瓦礫の山と化し、人々は逃げ惑い、国の主力部隊も次々と押し返されていた。


「このままじゃ、国が終わる……」


それでも、俺は戦場に駆り出されるなんて思っていなかった。どのみち“ハズレ”扱いの俺にできることなどないだろう、と誰もが口をそろえて言っていたからだ。だが、国王の避難場所として使われていた離宮に魔物が迫ったとき、結局は兵士不足を補うために俺を含む数名までが召集された。そんな“当てにならない寄せ集め”だと言われて、まともに扱われていない部隊だ。


「……あの、ほんとに行くんですか?」

「命を投げ出せと言われたら、仕方ないだろ」


隣にいるのは同じ“寄せ集め”部隊に属する細身の青年だ。彼も使いどころに困るような能力者らしい。緊張と不安で顔が引きつっているが、俺も似たようなものだ。だからこそ、自嘲気味に笑いながら前線へと足を進める。


「ああ、行くしかない。でないと、王都が壊滅する」


――そう言った瞬間、城門付近から爆音が響き渡った。上空にはドラゴンの亜種か、巨大な翼竜が飛び回っているのが見える。炎のブレスが城壁を焦がし、その下を小型の魔物たちが埋め尽くしていた。兵士たちは必死に矢を放つが、ほとんど通用していない。


「うわ……こりゃ、ヤバイな」


俺自身も内心、震えそうになる。だが、ここで尻込みしても何も変わらない。とりあえず目の前の危機をどうにかするしかない。


「――はぁ、どうせ『ハズレ能力の見本市』だって笑われるなら、やれるだけやってやるか」


俺は鎧を着るでもなく、ただの軽装のまま城門の外へと突撃する。すると、すぐに魔物の一団がこちらに気づき、一直線に襲いかかってきた。緑色の皮膚をしたオーガや、凶暴な牙をむき出しにした大狼のような魔物が唸り声を上げる。


正直、最初はまともに戦える気がしなかった。だけど、俺が生まれ持った八つの力が今ここで“噛み合う”可能性があるなら――と少しだけ期待する。


「来い……!」


オーガのこん棒が振り下ろされ、俺は思わず身をかがめる。ドゴォンという衝撃音が背後で鳴り響き、地面が大きく陥没して土煙が舞う。そいつはかなりの怪力を持っているようだが、不死身の俺にとっては一撃を食らっても致命傷にはならない。


だからこそ、恐れる必要はない。俺は正面から突っ込むようにしてオーガの腕に触れる。その瞬間、俺のコピー能力が作動し、相手の筋力増強スキルを複製した。


「よし、もらった!」


とはいえ、まだ使い方がわからない。そこで焦らず、次に大狼が跳びかかってくるのをわざと左腕で受け止める。ガブリと食いつかれ、血が噴き出す。だが、不死身のおかげで死にはしない。相当痛いが、それを利用する。


「――硬質化!」


手当たり次第、すぐさま防御力を高める。左腕の肉が石のように固くなる感覚。大狼の牙は今度は通らず、逆に俺の腕を噛み砕こうとしていた牙が軋みをあげた。大狼は驚いたように吠え声を上げるが、その瞬間にオーガのこん棒が横薙ぎに襲いかかる。


俺をまとめて吹き飛ばすつもりだったのだろうが、不死身&硬質化の俺は吹き飛んでもまるでダメージがない。逆にそこから両者をまとめて道連れにする形で地面に倒れ込み――さらにもう一度、オーガの腕をがっちりつかんだ。


「……狂人化……行けるか……?」


俺は瞬間的に脳内が真っ白になるほどの高揚を感じる。仲間を巻き込む危険がある“狂人化”は、できれば使いたくないが、いま周りに味方はいないし、この状況なら問題ないかもしれない。ふつふつと込み上げる衝動にまかせて、オーガと大狼を連続で殴りつける。体内に渦巻く理解不能な暴力欲求が爆発し、意識が半ば飛びそうになるほど痛快な感覚が走る。


「うあああああっ!」


ゴキリ、バキリという骨の砕ける音。手応えがあるたびに押さえつけられた魔物たちはのたうち回る。普通の人間なら見ただけで吐き気を催すような光景だが、狂人化状態の俺にはそんな良心の呵責は感じない。ただ、この力はリスクが大きい。自分で止められなくなるかもしれないし、周囲に仲間がいたら巻き込む可能性だってある。


オーガと大狼をそれぞれ息絶え絶えの状態に追い込んだあと、俺は何とか狂人化を抑え込んだ。ギリギリで意識を繋ぎ止める感覚。呼吸が荒く、全身が血まみれだ。けれど不死身による再生で、致命傷にはならない。


「ハッ……ハッ……いや、我ながら恐ろしい力だな。こんなの、そりゃ周りは使いたくないだろうよ」


俺は思わず苦笑する。だが、こんなところで呆然としていられない。まだまだ周辺には無数の魔物が蠢いている。すでに先頭に立っていた兵士の何人かは倒れ、残る兵士も必死で踏ん張っているが、状況は圧倒的に不利だ。


「ランダムスキル……頼む、当たりが来てくれ!」


俺は祈るようにランダムスキルの発動を試みる。すると、まばゆい光が自分の手のひらあたりから放射され……が、それで終わった。特になにも起こらない。まさかの不発だ。


「ちっ……まあ、そんなもんだよな」


肩すかしを食らったものの、俺は即死スキルをここで無理に使う気にはなれない。あれは本当に追い詰められた精神状態――気が狂う寸前のような時でないと発動しないし、周囲の安全を考える余裕がない状況になれば味方を巻き込むかもしれない。


その時、上空から再び火の玉のようなブレスが降り注いだ。先ほど飛んでいたドラゴンの亜種だ。周囲が一気に灼熱地獄と化し、焼け焦げた地面から煙が上がる。俺は硬質化で何とか身を守るが、他の兵士が逃げ遅れて悲鳴を上げるのが聞こえた。


「やってられないな……!」


そう呟きながら、俺は巨大化を試みる。身体がぐんぐんと膨れ上がり、筋肉や骨格もそれに応じて肥大化する。鎧の類は着ていないので破けるものはないが、気を抜けば周囲の瓦礫や避難している人間を踏み潰しかねない。


ドンッ、と地面が揺れるほどの重量感を伴って、俺はドラゴンのブレスが届く上空を見上げる。

下から弓矢や魔法で対抗してもなかなか当てづらい相手だが、巨体となった俺の腕ならある程度は届くかもしれない。


「くそっ、こっちに気づいたか……!」


案の定、ドラゴンの亜種は俺の大きくなった姿を視認し、獲物を見つけたとばかりにブレスを吐きかけてきた。あたりに爆音が響き、空気が振動する。俺はすかさず両腕を硬質化させ、クロスさせて防御する。熱風が皮膚を焼くが、不死身の力がじわじわと再生を促す。


「熱い……けど、まだいける!」


思い切りそのまま手を伸ばすと、ドラゴンの亜種の足を掴むことに成功する。もちろん相手も暴れながら抵抗してくるが、先ほどコピーしたオーガの怪力スキルがここで役立った。両手の力が増しているので、空中でどうにかドラゴンの動きを封じる。


「ここまで来れば……落ちろ、コラァァァッ!」


腹筋の力で上半身を跳ね上げ、ドラゴンを地面に叩きつけるように降ろす。巨大化と怪力の合わせ技だ。相手は驚愕の咆哮を上げながら石畳に激突し、衝撃で周囲の瓦礫が吹き飛ぶほどの大音響を立てる。


ドラゴンは大ダメージを受け、その首筋あたりを晒した。俺は一気にそこに腕を振り下ろし――しかし、硬く鱗が重なり合う部分はなかなか崩せない。


「なら、これでどうだ!」


再びランダムスキルを試みる。俺の中で何かがうずまき、ドクン、と心臓が高鳴る感覚。今度は何かしらの雷撃のような光が迸り、ドラゴンの身体に電撃が走った。一瞬の間に青白い稲妻が鱗を焦がし、内部へと侵入する。


「よし、当たり来た!」


ドラゴンの亜種はビクンと痙攣し、口から黒い煙を吐きながらうずくまる。その隙を逃さず、俺はまたコピー能力を使ってドラゴンの“火炎ブレス”を複製しようと試みた。直接触れるとかなり火傷を負うリスクがあるが、不死身ならば何とかなる。


「ぐっ……熱っ……!」


ドラゴンの喉元に手を押し当て、強引に能力をコピーする。指先が焼け焦げるような痛みが走るが、やがて温かな魔力の流れが俺の体内に取り込まれるのを感じた。


「よし……これでブレス技、使えるようになったはず」


ドラゴンはまだ息があり、ここでしとめておかないとまた暴れ始める可能性がある。俺は巨大化したまま距離をとり、試しに口を開いてみた。すると奥底から激しい熱気が湧き上がり、紅蓮の炎となってほとばしる。


――ゴォォォッッ!


俺の身長は巨大化で十数メートルほどにまで膨れ上がっているが、その口から吹き出す炎はさらに大きな範囲を焼くほどの力だった。ドラゴンの亜種は自分の得意技を喰らう形になり、そのまま地面に崩れ落ちて動かなくなる。


「やった……!」


思わず雄叫びを上げかけるが、それより早く周囲の魔物たちがこちらに殺到してくるのが視界の端に映る。俺がドラゴンを倒したせいで、相手側もまずは俺を叩き潰そうと躍起になっているらしい。


「これ以上、巨大化のままじゃ味方の邪魔になりそうだな。いったん元の大きさに戻るか」


俺は力を抜き、呼吸を整える。巨大化した筋肉や骨格がギシギシと音を立てながら縮んでいく。正直、身体にかなりの負荷がかかる。そこを乱入してきたゴブリンライダーが狙うように槍を突き立ててきた。


「――硬質化ッ!」


とっさに再度、身体を硬くして防御する。激しい衝撃を感じるが、致命傷にはならない。俺は槍を受け流すように腕を振り回し、ゴブリンライダーを地面に投げ飛ばす。そこに思いきり足を下ろして押し潰した。


「……ふぅ……」


一難去ってまた一難。まるで終わりが見えない。周囲の兵士たちも死力を尽くして戦っているが、やはり精鋭はほとんど倒されており、戦場は混沌の極みだ。砦や城壁も崩壊しかけ、城下町は炎と悲鳴に包まれている。


俺は読心術を試すことにした。混乱の中でも、相手がどういう攻撃を狙っているかを把握できれば、少しは被害を減らせるかもしれない。


「……くっ、雑念が多すぎる」


多数の意識や思考が飛び交い、脳がオーバーフローしそうになる。魔物たちにも知能が高いものと低いものが混ざっているが、その中でもリーダー格のオーガロードやデーモンといった存在はしっかりとした思考をもって部下に指示を飛ばしている。


(……あの角の生えた男が人間の前衛を突破しろ……ドラゴンが倒されたか?……ならば地上から攻め上がれ……)


「あいつら、城門を完全に落とすつもりだな……兵士たちを潰す気だ」


読心術を駆使して分かったのは、魔物の指揮官らしき存在がすでに次の策を練っているという事実。危険度の高い個体を俺が先に潰すのが得策だと判断した。


しかし、その瞬間、味方の兵士が倒れそうになっているのが目に入る。巨大な斧を振り上げたオーガロードが、今にも兵士の頭をかち割ろうとしているのだ。


「間に合え……!」


俺は気づいたと同時に駆けだした。硬質化を切り替えて耐久力を温存していたところだったが、間に合うかどうかギリギリだ。オーガロードの斧が兵士の頭上に振り下ろされる――その一瞬前に俺は割り込むように滑り込み、腕を盾代わりにする。


「ぐあっ……!」


激痛が走る。腕の骨が砕けそうになるほどの衝撃に、思わず膝をつきそうになった。だが、不死身の力は健在だ。血が吹き出てもまだ耐えられる。


「ここで“狂人化”は使えない……横に味方がいるから、巻き込みかねない」


俺は自分に言い聞かせるようにして冷静さを保とうとする。しかし、もう少しで狂人化しそうなほどに怒りが込み上げる。


「なら、コピーで対抗するか……」


オーガロードの斧を受け止めた状態で、意を決してやつの筋力強化や戦闘技術をコピーしようとする。だが、強者ゆえにオーガロードの攻撃は激しく、それをまともに食らい続けると限界が来るかもしれない。


「耐えきれ……!」


強化された腕に再度硬質化を重ねる。二重の防御力が生み出されるが、オーガロードの圧力は凄まじい。それでもコピーの接触条件が満たされると同時に、オーガロードの戦闘技術が頭の中に流れ込んでくる。


「わかった……こうやって斧を――」


そのままオーガロードの腕の角度をずらすように肘を押し込むと、斧は地面にズシンと突き刺さる形で外れる。オーガロードはバランスを崩し、そこを見逃さずに俺は思い切り拳を打ち込んだ。筋力増強とオーガロードの格闘技術が合わさった一撃が、重い鈍音とともに相手の鳩尾を直撃する。


ドガァン! という衝撃音が響き、オーガロードが大きく吹っ飛ぶ。その巨体が石畳を何度も転がり、周囲の魔物や瓦礫をなぎ倒す。最強格と呼ばれた個体も、この衝撃にはさすがに耐えられなかったのか、ぐったりと倒れ込んだまま動かない。


「ふぅ……大丈夫か?」


俺は兵士に呼びかけるが、兵士はあんぐりと口を開けたまま、信じられないものを見たという顔をしていた。たぶん、俺が「ハズレ能力持ち」として蔑まれていた存在だとは知らないのだろう。


「す、すまない……助かった」

「礼ならあとだ。まだ戦いは終わってない」


俺は兵士を安全圏へと押しやり、再び周囲を見渡す。乱戦の気配は依然として激しい。空を見上げれば別の飛行魔物が接近し、地上では無数のゴブリンやオークが隊列を組んでこちらに押し寄せてきていた。


「まともな戦線なんて、もう存在しない。あとは各自が生き延びるしかない、か……」


それでも俺は、不死身の身体を盾に少しでも仲間を守りたいと思った。実際、王都の防衛線はもはや崩壊寸前だ。そうこうしているうちに、今度はもう一体のオーガロードらしき魔物が群れを率いて現れる。さらには背の低いデーモン系統の魔物が魔法の詠唱を開始し、ゴゴゴゴという地鳴りが響く。


「まずい。大規模な呪文でも放ってくる気か……!」


俺はすぐに読心術を発動し、相手の狙いを確かめる。頭の中にスパークするようなイメージが流れ込んできた。どうやらあのデーモンは『溶岩流』と呼ばれる大魔術をぶちまけるつもりらしい。そんなものを城内で放たれたら、建物はおろか避難民もひとたまりもない。


「止めるしかない……!」


だが、無茶をしたらこっちも生き延びる保証はない。どうするか――悩む間もなく、あのデーモンが呪文を完成させようとしている。


「仕方ない、ここで狂人化に任せて近づくか……」


しかし、近くに味方が何名か残っているので、狂人化で暴走した場合、彼らを傷つける危険がある。まさにジレンマ。焦りで頭がグラつき始め、血が逆流するような感覚を覚える。


「……あ、もう一つ手があったな」


そうだ。どうせ俺は不死身だ。大きなダメージを受けても死なないのなら、無理やり特攻すればいいだけだ。半ば投げやりに、でも確実な方法として、俺は肉を切らせて骨を断つ戦法を思いつく。


「いっそ“即死”を引き出すくらいにボロボロにされてやるか……」


即死は相手を一撃で仕留める反則技のような能力だが、俺の精神が追い詰められた時にしか発動しない。その条件を満たすには、わざわざ自分を極限まで追い込む必要があるのだ。仲間のいない場所にデーモンを誘導して、自分が甚大なダメージを受けてパニックに陥れば発動するはず……いや、理性が飛んだらどうなるか分からない。


「でも、やるしかない……!」


俺は全力で駆け出し、デーモンが呪文を詠唱するのを邪魔するように突き進む。相手もこちらに気づき、周囲の護衛魔物が立ちはだかる。斬撃や槍、魔法弾が一斉に襲いかかるが、不死身かつ硬質化を併用すれば即死ではない限り倒れない。もちろん痛みはあるし、身体に無数の傷が刻まれる。血で視界が滲み、立ち眩みがするが、それでも前へ前へと踏み込んでいく。


「そこ、退けっ……!」


俺はぶち当たるようにゴブリンやオークを吹き飛ばしながら、デーモンの目前まで辿り着く。だがその瞬間、デーモンは腕を振り上げ、何かしらの呪符を投げつけてきた。


「まずい――ッ」


呪符は闇のオーラをまとい、俺の身体にピタリと貼り付く。直後、凄まじい熱と痛みが奔り、体内を焼き尽くされるような感覚が押し寄せた。


「ぐあああああっ!!」


体の半分がえぐり取られるような衝撃があり、視界が一気に赤黒く染まる。肉体が崩れ落ち、骨の一部がむき出しになったような錯覚さえ覚える。だが、不死身のせいで即死はしない。むしろ地獄の苦しみをリアルタイムで味わい続けることになる。


「これで終わりよ」


デーモンが冷たい声で呟く。溶岩流の呪文を放つ準備はもう整ったのか、その足元からマグマのような赤い光が湧き出している。城下町を焦土に変えるには十分すぎる威力だろう。


「……そう、終わらせない……!」


俺は理性が吹き飛びかけるほどの激痛に耐えながら、何とか立ち上がろうとする。再生が追いつかないほどの大ダメージだが、それでも生きているのが俺の“呪い”だ。こんな状況なら即死も発動するかもしれない。


しかし同時に、狂人化の衝動も高まる。思考が混濁し、目の前が真っ赤に染まっていく中で、俺はこの二つの力が綱引き状態にあることを感じた。


「ぐっ、ああああっ……!」


――そして、俺の中で何かが閾値を越えた。精神がギリギリのところで一線を踏み越えた瞬間、“即死”の衝動が発動するのをはっきりと自覚した。


デーモンの溶岩流は半ば完成しつつある。だが、この一瞬で俺が放った“即死”の力は、相手の生命を強制的に断ち切る。


ビシャッ、という音は、血飛沫か、それとも空気が弾ける音か。デーモンの身体が青黒い閃光に貫かれたかと思うと、ふっと瞳から光が消え、すぐさま地面に崩れ落ちた。溶岩流の発動は途中で止まり、赤い光がすっと消えていく。


「……やった、のか……?」


俺の意識はまだ朦朧としている。即死が発動するときは、ほとんど自分でも何が起こったのか分からない。まさに一瞬の出来事だ。


周囲にいた魔物たちはデーモンの死に動揺している。リーダーを失ったのか、あるいは恐怖を覚えたのか、一斉に後退し始める姿が見えた。


「……い、今のは何だ……」

「デーモンが倒れた……溶岩流が止まったぞ!」


兵士の歓声が遠巻きに聞こえるが、俺はまだ呼吸を整えるのがやっとで、立っているのも精一杯。肉体がゆっくりと再生を始めているのを感じるが、精神は消耗しきっている。


そこへさらに別の魔物の増援が来るのではないかと警戒したが、どうやら魔物全体が後退を始めたらしく、すさまじい数の戦死体と逃げ惑う足音を残して戦線がやや落ち着いた。


「…………」


俺は膝をつき、瓦礫に寄りかかる形で息を吐く。戦闘はまだ完全には終わっていないにしても、一時的に前線を押し返せたようだ。しかし、それだけで状況が好転するかといえば、まだ分からない。


――少なくとも、俺が“ありえない”とまで言われた八つのハズレ能力を駆使して、ここまで戦線を持たせていることは事実だ。実際には、さっきまで「お荷物」扱いされていた俺を見て、兵士たちは驚きと敬意を含んだ視線を投げかけてくる。


「お前……何者なんだ……? ドラゴンまで倒して、デーモンまで……」

「そ、そうだよ。今までそんな強い戦士がいたなんて、国でも聞いたことがない……」


今までは誰もまともに取り合ってくれなかった俺を、こうやって恐る恐るでも称賛してくれる。正直なところ悪い気はしない。だけど、俺は何も言えないままうなだれる。


「俺は……別に大したことはしてないよ……ただ、不死身だったからやれただけだ。気をつけないと、誰だって巻き込んでたかもしれない」


それでも、兵士たちが「ありがとう」「助かった」「すごいな」と口々に言ってくれるのを聞くと、少しだけ心が救われる気がした。


――だが、戦場はまだ続いている。城の奥へと侵攻している魔物もいるし、空には別の飛行系魔物が旋回している。主だった英雄たちはすでに倒れており、俺のような“寄せ集めの雑兵”が戦わなければ、この国は本当に滅んでしまうかもしれない。


「行くぞ、まだ終わりじゃない」


俺は全身の痛みに耐えながら立ち上がった。体表の傷が徐々に塞がり、腕も骨が元通りになる感触がする。不死身の再生力は俺自身が一番気味が悪いと思うが、こんな時だけは神に感謝したいほどだ。


兵士たちの生き残りも少なからずいる。俺が先頭に立ち、彼らに指示を出す形で街の各所を巡回する。読心術で魔物の配置を探りながら、硬質化とコピーで防御や撹乱をし、不死身で味方を守りつつ、ランダムスキルでときどき奇襲をかける。


ときには狂人化して突撃しそうになるが、なるべく仲間が離れたタイミングでしか使わないよう気をつける。極限状態で精神が暴走しそうになったときには、味方の声や必死に助けを求める人々の姿を思い出し、自分をギリギリ制御している。


街の奥に足を踏み入れると、そこにはまだ避難できずに取り残された一般市民がいた。魔物が群れで追い詰めようとしているのを見て、俺は迷わず巨大化を発動。瓦礫をなぎ倒しながら、魔物の前に割って入る。


「くそっ……狭い通りで大暴れするのはまずいんだが……!」


ビルのような高さに体が膨れ上がり、建物の上部を壊しかける。だが、一歩動けば周囲に衝撃が広がるため、慎重に足を運ぶ。しかし、狭い路地に隠れていた魔物たちは逆に逃げ場をなくし、俺が硬質化の拳を振り下ろすと、一瞬で地面に叩き潰される。


その隙に兵士や逃げ遅れた市民たちが安全な場所へ移動し始める。こうしたことを繰り返し、徐々に市街地の制圧を取り戻していく。もっとも、国中を護るにはまだまだ力不足だし、魔物の勢いは侮れない。


だが、それでも兵士たちは「このままなら、ひょっとして勝てるかもしれない」と希望を見出し始めていた。大英雄たちが倒れても、八つのハズレ能力を駆使する俺がいる――そんな噂が広まりつつあるのだ。


「よし、最後に残った魔物の将を倒せば、侵攻の流れが止まるはずだ」


そう兵士たちが話しているのを耳にした俺は、読心術で情報を探りつつ、どうやら廃墟と化した王立神殿の奥に魔王軍の幹部が潜んでいるらしいと突き止める。オーガロードやデーモンよりも格上であり、封印系の大呪術を使うという最悪の相手。おまけに魔物を呼び出す儀式を進めているという噂もある。


「あんたが行くのか? 危険すぎるぞ」

「危険かもしれないが……他にやれる奴はいないだろ。もう英雄たちはほとんど倒れてるし……」


俺は兵士たちを残し、たった一人で王立神殿へと向かう。もちろん危険だ。だが不死身の俺にしか突破できない場面が多いのも事実。


途中、廃墟となった参道を進むと、無数の屍が転がっているのが目に入る。兵士も魔物も区別がつかないほど血と肉の塊になっていた。これだけの犠牲を出してでも守りきれなかったのか――その光景に胸が痛む。


「――来たか、愚かな人間」


神殿の内部に足を踏み入れると、不気味な闇の気配をまとった人物――いや、魔族らしい男がこちらを睨んでいた。髑髏の仮面をかぶり、手には禍々しい杖を握っている。周囲には結界が張り巡らされ、空中に浮かぶ魔法陣が怪しく輝いている。


「お前がこの惨劇を指揮しているのか……」

「そうだ。今まさに、封印されし邪神を呼び覚まそうとしていたところだ。まあ、お前ごときが来ても無駄だろうがな」


仮面の男は嘲笑を浮かべると、杖を振って魔力を放出する。結界の内側に入り込んだだけでも重圧を感じるほどだが、俺は不死身と硬質化でどうにか踏みとどまる。


「ごっ……!!」


しかし、その正体不明の闇の力をまとった攻撃が体を切り裂き、鋭い痛みが走る。狂人化の衝動がまた湧きそうになるが、ここは不用意に暴走すると結界の破壊もできずじまいで終わってしまうかもしれない。


「コピー、行けるか……」


相手の攻撃を受けることで、その闇属性の魔術をコピーできるかもしれない。俺はわざと一撃を食らい、血を吐きながら相手の魔力の感触を掴む。仮面の男は余裕の表情を浮かべ、もう一度杖を振って漆黒の閃光を放った。


「ちっ……何度か受ければコピーできるはずだが……!」


その黒い閃光にまともに貫かれ、内臓が焼け焦げるような感覚が襲う。不死身の再生が追いつかないほどの苦痛に思わず膝が震える。だが、俺は歯を食いしばり、視界がぐらつく中でも相手を見つめる。


「フン、命知らずめ。だがそのしぶとさ、お前もしかして“不死身”か?」

「……かもな。でも、そこに油断してると痛い目みるぞ」


何とか笑みを作ってみせる。仮面の男は鼻で笑いながら、さらに暗黒の力を高めている。封印解放の儀式を同時に進めているのか、神殿の至る所から黒い霧が湧き出してきた。


(まずい、時間をかければかけるほど奴の儀式が進む……早く倒さなきゃ)


コピーの条件が整いつつあるのはわかるが、ここまでダメージを負っていると、もう少しで“即死”が暴発しそうな危険がある。相手を一撃で仕留められるならそれでもいいが、結界の内側で即死が働くかどうかも未知数だ。


「……なら、やるしかねえ!」


俺は狂人化の衝動を一気に解放し、自分自身を追い込んでいく。痛みと怒り、絶望と焦り――すべてが混ざり合い、頭がガンガンと割れるような錯覚がする。血走った視界の中、仮面の男が一瞬たじろいだように見えた。


「お前、何を――」


「死ねええええぇぇっ!」


自分でも何をやっているのか分からないほどの勢いで駆け寄り、槍か爪のように手を突き出す。その瞬間、先ほどまでコピーしようとしていた闇の魔力が自分の腕にまとわりつき、黒い稲妻のような形で男に襲いかかった。


ドシュゥウウッ! という耳障りな音とともに、仮面の男の胸元から黒い霧が吹き出す。実際には俺がコピーした“闇属性の魔術”が変則的に狂人化状態で放出されたのだろう。そして、そのまま息継ぎもせずに今度は“巨大化”を部分的に使う。右腕だけを肥大化させ、男の身体をねじ伏せるように押しつぶす。


「ぬ、ぬあああっ……!」


相手も抵抗し、黒い衝撃波を放ってくるが、不死身でねじ込んでいく俺には止められない。腕が砕けようが、内臓が破裂しようが、今は狂人化で痛みの感覚すら曖昧だ。


「終わりだあああぁぁッッ!」


そのまま男の身体を地面に叩きつけ、結界の中心にある魔法陣を破壊しながら押し潰していく。神殿の床がひしゃげ、魔法陣から火花が散る。結界が不安定になったせいで黒い霧が吹き荒れ、周囲の祭壇が崩壊するように瓦礫をまき散らす。


「ぐぉっ……貴様っ……!」


仮面の男は必死に抵抗を続けるが、俺はもう意識がどこかぶっ飛んでいる状態で、ただ破壊衝動のまま相手を押さえ込んでいる。そこに、不意にどこかから光が差し込んだ。結界が破れ、神殿の天井の一部が砕け散ったらしい。


「よし、結界に穴が開いた……!」


――その一瞬で、周囲から光の弓矢がいくつも飛び込んできた。王城を守る最後の魔法騎士たちか、それとも神殿に残っていた僧兵たちか、とにかく味方側の増援が、破れた結界を通じて攻撃を仕掛けてくれているのだ。


仮面の男は多方向からの光矢を受け、戦意を喪失し始めた。俺はさらに狂人化のまま男を締め上げ、黒い血の泡を吐かせる。最後の最後、男が杖を振り上げようとしたところで俺の“即死”がまたもや発動した――限界ギリギリの狂乱状態で引き金を引く形だ。


「……これで終わりだ……!」


仮面の男はガクンと項垂れ、全身から力が抜け落ちた。黒い霧が一瞬にして晴れ上がり、邪神召喚の儀式は崩壊。神殿の結界も完全に消失する。


勝った。

本当に勝ったのだろうか。


俺はふらふらと立ち上がる。狂人化の影響で意識が朦朧としており、まともに思考ができない。だが、視界の端で味方の兵士や僧兵が駆け寄ってくるのを感じる。ああ、彼らがやっと間に合ったのか。


「お、おい、しっかりしろ! 大丈夫か!?」

「あんたが魔王軍の幹部を倒したのか……? すごい……」


彼らは俺が“ハズレ能力”を全部持っているなどとは夢にも思っていないだろう。いまの俺の姿は血と泥まみれで、ただの化け物にしか見えないかもしれない。


「これで……魔王軍の指揮系統は、完全に崩れたんじゃないか……?」

「外も、魔物たちが一斉に退却を始めています!」


そんな声が聞こえてくる。

俺は全身から力が抜け、身体が小刻みに震えるのを感じた。戻ってきた理性が、自分がどれだけのことをしでかしたのかを思い知らされている。失敗すれば周囲を巻き込んだかもしれない。だが、結果として魔王軍の大侵攻はここでストップし、国は存亡の危機を脱することができたようだ。


「もしかして……俺、勝てた、のか……?」


思わず呟いたその言葉に、周囲の兵士や僧兵が「お前こそ何者だ……」と驚嘆する。だが俺は大した答えを持ち合わせていない。


「俺は……ただの“寄せ集めの欠陥品”ですよ。たまたま運が良かっただけだ」


本音だ。実際、少しでも歯車が噛み合わなければ、暴走して味方を殺していたかもしれないし、魔物の餌食になっていただろう。自分の能力を完全にコントロールできたわけじゃない。行き当たりばったりで無茶をし続けた結果の勝利だ。


――それでも、長かった夜は終わった。魔王軍は幹部を失って撤退し、王都に通じる街道や門から姿を消した。多数の犠牲を出したものの、国はどうにか生き延びた。


◇◇◇


数日が経ち、火の手が治まった王都では復興作業が始まっていた。倒壊した建物の瓦礫を撤去し、負傷者を治療し、家族を失った人々を慰める――やるべきことは山積みだ。


そんな中、俺はひっそりと片隅で傷の回復を待ちながら手伝いに回っていた。つい先日までは誰もが俺を“役立たず”かつ“危険人物”とみなし、まともに仕事を与えてくれなかった。だが、今は国の者たちが不思議そうに、あるいは畏敬の念を込めて俺を見ている。


兵士たちの間で噂が広がっているらしい。“謎の力を振るい、不死身の如き耐久力でドラゴンや魔族の幹部を倒した英雄がいる”と。俺だとわかると、感謝の言葉をかける者も増えた。


「なあ、お前があの時、オーガロードを仕留めてくれたおかげで助かったんだよ。ありがとうな!」

「俺も、ドラゴンが落ちてきた時、一緒に死ぬかと思ったけど……あんたが抑えてくれたんだろ?」


面と向かって「ありがとう」と言われるのは照れくさい。俺は決まって「別に大したことしてない」と返すが、それでも彼らは「いや、あんたはすごいよ」と言う。


「こんな災厄を防げたのは、もしかしたらあんたが全部の“ハズレ能力”を持っていたからなのかもしれないな」

「は、ハズレ能力?」

「あ、いや……こっちの話だ」


兵士は気まずそうに目をそらす。どうやら、俺が“狂人化”や“巨大化”などを全部併せ持つ“ハズレの寄せ集め”だとは知らないらしい。が、どこからかそういった噂も伝わりつつあるようだ。


「……別にいいんだよ。俺がどんな力を持ってるか、全部ハズレだって馬鹿にされてきたのは確かだからな」

「すまない……そうだったのか。だけど、あれだけの乱戦で戦い抜いたのは事実だ。あんたは俺たちの命の恩人だよ」


そう言って兵士は深々と頭を下げる。本来なら考えられなかったことだ。俺の力を見て悲鳴を上げたり逃げたりした人もいたのに、いまは感謝される側になっている。


復興の総指揮をとっている老将軍も、わざわざ俺の元へ足を運んでこう告げた。

「よくぞ国を救ってくれた。わしは最初、あんたの名前すら知らなかったが……この国にとって、あんたは英雄だ。何か望みはないか?」


望みと言われても、俺はただ“普通に暮らしたい”だけだ。危険な力を抱えている以上、それが叶うかどうかは別として……本音を言えば、誰かに評価されるために戦ったわけじゃない。でも、見捨てられた場所から這い上がり、誰かの役に立てたことを嬉しく思う気持ちはある。


だから俺は将軍に対し、深々と頭を下げる。

「俺は……特に褒美を求めようとは思いません。ただ……もしできるなら、しばらくこの国の復興を手伝わせて欲しいんです。そうすることで、俺が持っている“力”をうまく制御できるようになりたい」


狂人化は危険だし、即死もいつ暴走するかわからない。巨大化は味方や建物を壊す可能性もあるし、ランダムスキルに至っては当たり外れが激しすぎる。読心術も、あまり多用すれば頭が壊れそうになる。全部が扱いづらい力でしかない。


けれど、この乱戦を生き延びる中で、それらを組み合わせれば“絶対に不可能”と思われた戦況をひっくり返すこともできると知った。周囲からはハズレ能力とバカにされても、俺自身が諦めなければ光明が見えるかもしれない。


「……そうか。いいだろう。あんたの力が国のためになるなら、ぜひ頼みたい」


将軍は快諾し、多くの兵士や魔法使い、学者が俺の力を研究・検証しつつ、街の復旧を進めることになった。俺をハズレ認定した人々も、結果として俺が命を救った形になっている以上、表立って文句を言う者はほとんどいない。何より、敵対したところで俺は不死身だし、逆らっても得にならないとわかったのだろう。


そして俺は、兵士や市民から、いつしか「八ツやつとがの英雄」と呼ばれるようになったらしい。意味はよくわからないが、八つの“咎”のような能力を持っているけれど、それを使って国を救ったという揶揄なのだと聞いた。


ただ、本人としては全然英雄気分なんかじゃない。使いこなし切れずに危うい場面もたくさんあったし、いまもこれからも不安だらけだ。


「……でもまあ、ちゃんと評価してもらえるってのは悪い気はしないな」


焼け焦げた城壁を見上げながら、俺は一人呟く。街には今日も瓦礫や残骸の掃除に汗を流す人々がいる。数日前まで絶望に沈んでいた国に、少しずつ笑顔が戻り始めている。その一端を担うことができたなら、俺の能力も無駄じゃなかったのかもしれない。


狂人化で戦いの常識を破り、コピーで敵の能力を奪い、不死身で決死の突撃をし、即死で幹部を仕留め、硬質化と巨大化で仲間を守り、ランダムスキルの当たりを引いて状況を覆し、読心術で作戦を立てる。

どれか一つだけなら間違いなく扱いづらい力だが、全部重ね合わせれば――こうして大勢を救うことができる。


俺はしばし遠くを見つめたあと、自分の両手を見下ろす。ボロボロながらも再生し、今では普通に動かせるようになった指先からは、血の気が引いた肌が見えるだけだ。あの乱戦で俺が流した血や魔物の返り血は、とうに洗い流してしまった。


(この力は、やっぱり呪いじゃなく、使い方次第で……)


そんなことを考えながら、俺はふと笑みを零す。たとえハズレ扱いの能力だとしても、“負け方”を食らっても尚、こうして勝ち続けることだってできる――不死身の命がある限り、何度倒れても立ち上がればいい。ランダムスキルの運ゲーに縋ることもあるだろうし、狂人化で限界を突破することもあるかもしれない。でも、結果として命が繋がるなら、俺がやるべきことはまだまだある。


――そして、いつの日か、この国が本当の平和を取り戻したとき。俺は堂々と胸を張って言えるだろう。たとえ全部がハズレでも、寄せ集めでも、諦めずに戦った結果、ここにいるんだと。


誰もがその事実を認めざるを得ないほどの勝利を収めた“八ツ咎の英雄”として。


――――――――――――――――――――――――――――――――


こうして、ハズレ能力ばかりを集めて生まれてしまった俺は、最初こそ周囲から蔑まれ、恐れられていた。だが、不死身と狂人化を筆頭に、コピー、即死、硬質化、巨大化、ランダムスキル、読心術――それらを活用し、何度も乱戦の危機をくぐり抜けた末に、国を救う立役者となることができた。

人々の評価は様々だ。「あれだけの力を使いこなせるなんて、ただ者じゃない」と称える声もあれば、「あんな得体の知れない奴が味方で本当にいいのか?」と不安がる意見もある。それでも、俺が戦場で果たした役割を否定することはできない。

何度“お約束の負けパターン”を踏みかけたか分からないが、それでも全ての能力を絡み合わせればこそ、破滅寸前の国を救うための活路を見出せた――これこそが、ハズレ能力をすべて持った意味だったのかもしれない。


「……ま、これからもこの国のために頑張るとするか」


これから先、さらに強大な敵が現れるかもしれない。俺の力がまた裏目に出て、悲劇を生むかもしれない。それでも俺はこの国に生きる一人として、そして不死身で倒れない身体を持つ者として、戦い続けることを選ぶ。

誰もが笑って暮らせる日常を守るために。ハズレ能力なんて呼ばれても、勝つために、そして大切なものを失わないために――何度でも、俺は立ち向かう。

以下がこの小説の参考にした内容になります。

「【有益】どんな作品でもハズレ扱いされてる能力挙げてけw #2ch #有益 #アニメ」

https://www.youtube.com/shorts/zje7NS4CllM

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