壊滅! 盗賊団!
「……そろそろね。皆様、準備はよろしくて?」
「俺たちはここで待機しろって話だけど本当にいいのか? 一人で突っ込むなんて無茶だぞ」
夜明け直前、ライラは冒険者たちに向かって声をかけた。彼女らの目の前に広がるのは、賞金首として名を馳せる盗賊団のアジト。崖沿いに建てられたその砦は、難攻不落と言われていた。
「無茶ではありません。むしろ、あなた方がここで囲い込み逃げ道を断つことが重要なのです」
「……分かった。気をつけろよ」
ライラの自信に満ちた返答に冒険者は激励の言葉をかけた。
「ええ、皆様こそご武運を。それでは、ありったけの強化魔法をお願いしますわ」
「≪筋力強化≫」
「≪耐久強化≫」
「≪矢除けの加護≫」
「《火炎付与》!」
冒険者たちが次々と強化魔法をかけると、ライラの身体が脈動していた。
「それでは参りますわよ!」
次の瞬間、ライラは長斧を構え、盗賊団のアジトへ一直線に跳んだ。そしてその直後、明け方の静けさを切り裂く轟音とともに、城門が爆風に包まれた。
「て、敵襲~⁉」
「いったい何があああ~っ‼」
突然の城門の破壊に物見やぐらから警戒していた盗賊は慌てて敵襲の鐘を鳴らした。しかし、その最中やぐらが崩れ落ちた。
「……こんな時間に襲撃かよ」
「まだ頭がぐらぐらする」
「おいおい、いったい何が来やがったんだ」
城門の破壊音と鐘の音によってアジトの建物の中にいた盗賊たちがぞろぞろと出てきた。しかし、明け方の襲撃が幸いしまだ寝ぼけているものも少なくないようだった。そして煙が晴れ、長斧を構えたライラが姿を現した。
「私、一人ですわ!」
「な、なんだあいつは……!」
「ひ、一人だあ?」
現れた筋肉隆々の長斧を構えるライラに盗賊たちが怖気づいた。そしてその隙をライラが見逃す外すわけもなく外に出てきた盗賊たちは次々と制圧されていった。
「ひぃ、助けてくれ~!」
「こんなところで死にたくねえ~」
次々と倒されていく仲間たちを前に盗賊たちはアジトの建物と城門の先に分かれて逃げ出した。城門の先へ逃げ出した盗賊たちは外に待機していた冒険者たちに捕まっていった。
「それでは皆様、ここは任せますわね」
一通りの盗賊たちを倒したライラは他の冒険者たちに場を任せると建物内部へと進んでいった。
「ここなら暴れられないはずだ……!」
天然の崖を利用した砦の内部は狭く入り組んでおり、迎撃態勢を整えた盗賊たちが待ち構えていた。
「来た……なんだと⁉」
内部では長斧を満足には振るえないはず。そう高を括っていた盗賊たちの前に現れたのは崖や周囲の障害物を蹴散らしながら突き進んでくるライラだった。
「この程度の壁、造作もありませんわ!」
その圧倒的な暴力の前に盗賊たちは恐れをなして、砦の奥へと逃げていった。そして辿り着いた砦の最奥には逃げた盗賊たちと共に親玉らしき男が一人の女性を人質に取って待ち構えていた。
「た、助けてください」
「……人質ですか」
「ああ、武器を下ろして両手を挙げてもらおうか」
「……分かりましたわ」
ライラは言われた通りに長斧を手放した。しかしその直後、地面に落ちた長斧の重量で床が揺れた。
「うおっ⁉」
「揺れすぎ!」
盗賊たちが隙を見せたところにライラは一瞬で踏み込み、女性を人質にしていた盗賊の顔面に一撃を入れた。そしてそのまま残った他の盗賊たちも一掃した。
「……ありがとうございます」
解放された女性はライラへと頭を下げた。
「いえ、当然のことをしたまでですわ。あなた以外にも捕まっている方はいらっしゃるのでしょうか?」
「……それはどうでしょうか? 私は知りませんが捕まっている方もいらっしゃるかもしれません」
ライラの質問に人質の女性は分からないと答えた。
「そうですか。……ひとまず外に出ましょうか」
そういってライラは出口の方へと振り返った。その直後、女性は隠し持っていたナイフをライラに向かって振りかざした。
「……っ‼」
しかし、その奇襲はライラの腕輪に弾かれ、返す拳が女性の腹部へと炸裂した。
「殺気を隠すならもう少しうまく隠しなさいな」
「……ちぃ!」
息も絶え絶えな女性、改め盗賊団の真の親玉である女性は毒ガスの瓶を取り出し、その場に放った。蓋を開けた。すると一瞬でその中に詰まっていた気体が辺りに充満した。
「どうせ私らは死刑だ。道ずれにして死んでやる……」
毒が室内に充満する中、。ライラは眉一つ動かさず女性や盗賊たちを砦の外へと運び出した。
「……おい、どうして私たちは生きてるんだ?」
解毒魔法を受け、目を覚ました盗賊団の親玉はライラに問いかけた。
「幼い頃から毒殺に備えて少量の毒で耐性をつけていましたの」
「化け物め……ってそれもだったけど、どうして私たちを助けたんだ」
親玉はライラの常人離れした一端に渋い顔をしながらも本命の質問を続けた。
「救える命を見捨てるなど、貴族のたしなみに反しますわ」
親玉は唖然とした表情を浮かべるが、やがて静かに呟く。
「あんた…いつか足元を掬われるよ」
「その時はその時ですわ」
ライラの毅然とした態度に、親玉はもう何も言えなかった。
「……ふぅ、こんな時のために秘密の抜け道を作っておいてよかったぜ」
「でもよう。俺ら以外は捕まったか死んだと思うし俺らの生存がバレるのは時間の問題だぜ」
盗賊団のアジトから少し離れた山奥の小屋。そこには自分たちだけの秘密の抜け道から逃げ出した五人の盗賊団の残党たちがいた。
「そうだな。どっか潜伏先を探さないとな」
「ここじゃすぐに見つかりそうだからなあ」
残党たちは今後の行動について悩んでいた。そしてそんな時、小屋の扉が叩かれた。その瞬間、残党たちは各々戦闘態勢を取った。
「もう追手が来たのか」
「でも追手がノックなんてするか?」
「……おい、お前何者だ」
残党たちは警戒状態を維持したまま扉の向こうの相手に声をかけた。
「助っ人っスよ。悪いようにはしないっスから扉を開けてほしいっス」
扉の向こうの相手は飄々とした口調でそう答えた。