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第8話 くっころガチ勢、留学を終える

ウォルターから帰ってきて2日、長いような短いようなゴーラブル留学の終わりのときが近づいていた。

既に荷物はまとめて馬車に積み込んであり、あとはもう帰るだけだ。


(また来ることはあるのやら……せめて軍を率いる責任者としてここに来ることはないように願おう……)


フローラとの距離が近くて男子から嫉妬を買っていたとはいえ、流石に殺されるほどではない。

顔見知りも増えたし、それは俺だけじゃなくみんな同じだろう。

敵としてここに来るのは流石に後味が悪すぎる。


「さて、帰るとするか」


「はい。ヴィクター王子」


くっころ云々を抜きにして実りのある留学だったと言えるだろう。

違う文化に触れ、人に触れ、剣に触れた。

フローラという心強いくっころ(人材)も手に入れた。

暗殺を回避するためとはいえ、こんないい機会を作ってもらった父に感謝だな。


「みな、帰るぞ。アルバー王国に帰還する」


「「「はっ」」」


俺達は振り分けられた馬車に乗り込む。

そしてアルバー王国へ帰還するためにゆっくりと進みだした──


◇◆◇


「中々面白いところであったな、ゴーラブル王国は」


「お気に召したのでしたら何よりで。陛下もきっとお喜びになりますよ」


「そなたもそなたで楽しんでいたようだが?」


俺の言葉にヴィクター王子はニヤリと笑う。

今、この馬車に乗っているメンバーは俺、ヴィクター王子、ローレンス、トムの四人。

前はシンシア王女、アリス、マーガレットのところに乗っていたのだが今回はフローラが加わったため俺と交代し代わりに前回この馬車に乗っていたカレンが御者席に回った。

正直申し訳ないと謝ったのだが『貴族でも学生でもない自分が馬車に乗るのは肩身が狭かったので逆にありがたいです』と言われた。


「ははは、まあボチボチですよ」


「何を言うんだジェラルト。君はめちゃくちゃ美人な婚約者が出来たじゃないか」


「国と国、家と家の利害を考えた行動だ。私情は入っていない」


本当は私情がほとんどなんだけどそんなことはわざわざ言う必要が無いので黙っておく。

まあフローラ自身のスペックがめちゃくちゃ高いからな。

そう言われてもしょうがない部分はあるのかもしれないが。


「君ってやつはどこまでも淡白だなぁ……」


「そういうお前こそ婚約者を探さなくていいのか?行きおくれとは言わんがこの年ならいてもおかしくないだろう?」


「僕かい?」


「ああ」


俺の言葉にローレンスは苦笑する。

だけどこいつは超優良物件だからいてもいいと思うんだよ。

本人のスペックも高いし見た目もいい上に伯爵という上位貴族の家柄だ。

はっきり言って文句の付け所がない。


「僕はジェラルトほど甲斐性が無いからね。今は勉強と鍛錬に集中しようと思ってるんだ。僕が1人前に君を支えられるようになってから婚約者のことは考えるよ」


本当に真面目だな、こいつは。

だからこそ信頼できるってものだけどもう少し肩の力は抜いていいと思うけどな。

まあ本人のやる気があるところにわざわざ水を差すつもりもないけど。


「別に俺もそこまで甲斐性があるわけじゃないぞ?婚約してから数カ月間プレゼントを送ってなくて師匠に怒られたしな」


「はぁ……君らしいといえば君らしいけど……」


「シンシアもシンシアで大概だがお前も相当なアホだな。形だけでいいから送っておけばよいものを……」


返す言葉もございません。

というかヴィクター王子もあまりプレゼントとか送るタイプじゃないだろ。

くそ……自分は婚約者がいないからって好き放題言いやがって……


「なに、軽い冗談だ。お前がシンシアを蔑ろにしていないのはわかっている。最近あいつは機嫌も良いしな」


ヴィクター王子はニヤリと笑って親指で自分の胸の上らへんをトントンとする。

気づいてたのか。

フローラとの婚約が決まった後に送ったネックレスをシンシア王女はいつも肌身離さず着けていた。

綺麗で保存状態も良く、しっかりと手入れされているのがよくわかった。

プレゼントを送った側として大切にしてくれるのはとても嬉しいがくっころを目指す身としてはシンシア王女が俺からのプレゼントで喜んでいるというのは素直に喜んでいいものなのだろうか。


「まあ仲は悪くなさそうで何よりだ。それよりも……」


ヴィクター王子は目を細める。

さっきまでの親しみやすい雰囲気がガラッと変わり心なしか随分と威圧感を放っている。


「随分と派手にやったようだな?」


「はて?なんのことでしょうかね?」


俺は笑ってとぼける。

ヴィクター王子の表情に怒りなどの感情はなかったが真剣そのものだった。


「とぼけるな。イロリ家とニコラス王子のことだ」


昨晩、イロリ家の当主、ヘンター=イロリとゴーラブル王国第2王子ニコラス=ゴーラブルの自室に《《何者か》》が侵入したという噂が駆け巡った。

部屋は散々に荒らされていたものの本人に怪我は無し。

机の上には『我々は常にお前を見ている。次は容赦なく消す』という置き手紙があったとか。

いやー誰なんだろうなーわからないなー


「我らがやったという証拠でもあるので?」


「……無いな。だがヘンターの部屋はまだしも王子の部屋に誰にも気づかれずにあれだけの行動を起こせるとなると尋常ならざる腕利きだ」


「それで我らを疑うと?言いがかりですよ」


「かもな。だが余は仮にそなたがやっていたとしても別に責めたいわけではない」


「では何が言いたいのですか?」


俺達がやったという証拠はどこにもない。

だができるのは俺達しかいない。

俺達が罪に問われることはないが明らかに向こうはこちらを意識するだろう。


「国家間の関係を良くしたかったのではないのか?これでは逆効果では無いのではないか?と思ってな」


「向こうにそれをやる度胸があるとは思えませんね。戦おうとすれば《《誰かさん》》に狙われますから」


俺達はその気になればいつでも消せるということを証明した。

果たして自分が暗殺される恐怖に打ち勝ち俺達に戦いを挑むほどの胆力があの王にあるかな?

もし本当にこちらに喧嘩を売ってくるようならば末端の王族から消していこうか。

そうしたらあの王は恐怖に耐えることなど絶対にできまい。


「随分と過激だな」


「いえいえ。私達はドレイク家。アルバー王国を守る盾ですが、こちらから攻撃しないとは限りませんよ」


あの二人はアリスに、シンシア王女に、マーガレットに、カレンに多大な迷惑をかけた。

いくら表向きは許したといえど釘は刺さなくてはならない。

もう一生ドレイク家に刃向かえないように、な。


「我らは家族に仇なす者は絶対に許さない。そのことをお忘れなきよう」


俺たちがやったという言質は取らせない。

いくら身内であろうと他家の者には絶対に弱みは握らせない。

俺はただドレイク家の信念を口にしただけでやったとは言ってない。


「ふっ、そうか。肝に銘じておくとしよう」


「ええ。そうしておいたほうが賢明かと」


カレンやヴィクター王子は両国間の関係悪化やドレイク家への悪感情を持たれることを危惧したんだろうがドレイク家にそんな心配は必要無い。


ドレイク家は誰にも媚びない。

誰にも脅かされない。

誰にも搾取されない。

誰にも倒せない。


本当に弱みを見せ、助け合うのは家族のみ。

俺達は家族のひとときを誰よりも大切にする。

だからこそ政務に追われる王位を望んでクーデターを起こす気などサラサラ無いし、他国に侵略し領土を切り取るつもりもない。


それが俺達だ。

俺達の大切な人に手を出そうものならば……誰であろうと叩き潰すだけだ──

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