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第9話 くっころガチ勢、無限くっころ計画を始動させる

「もう……4年が経つのね……」


「時が経つのは早いものです。僕なんて未だに師匠が来たのが昨日のことに思えますよ」


師匠が来て4年が経ちついに別れのときを迎えようとしていた。

ドレイク家の家族は総出で見送りに家の外まで来ている。

そして馬車の前に立つ幼い頃から変わらない艶のある赤髪を揺らした少女が頭を下げた。


「本当に……長い間お世話になりました」


「いや、こちらこそジェラルトを鍛えてくれてありがとう。今やそのジェラルトも立派になった。最初の非礼を詫び感謝を伝えさせてくれ」


「とんでもないです。ジェラルトは才能があったので勝手にどんどん成長していってくれました。私の力では無いですよ」


「そんなことはないさ。君だからこそジェラルトがこうして成長してくれたと思っているよ」


父とマーガレットが別れの挨拶をする。

母は寂しいのか涙まで流していた。

お菓子作り友達ができて本当に嬉しそうだったもんな。

妹のアリスも今では大きくなって言葉も話せるようになりマーガレットのことをメグねえと呼んで慕っていた。


「メグねえ……ばいばいするの?」


「そうね。でも、また必ず会えると思うわ。私は将来あなたの家に仕えることになるのだもの」


派閥が崩れたりしない限りは間接的にそういうことになるだろうな。

会う機会も自ずとできるだろう。

俺以外の家族が別れを済ませ最後は俺の番だ。


「師匠。この4年間本当にありがとうございました」


「全く……まさか3年で全ての技を習得するなんてね。私は5年もかかったのに」


「師匠の教えの賜物ですよ」


「ふふ、アンタならきっと数年で私なんて超しちゃうわよ。まあ簡単に超えさせるつもりはないけどね」


そう言ってマーガレットは微笑む。

14歳になったマーガレットはまだ顔立ちは幼いものの絶世の美女に成長している。

スタイルだってまだ発展途上にも関わらず歳の割に素晴らしいものをお持ちだしな。

多分縁談の話が過去よりも爆増するはずだ。


「アンタがどんな剣士になるのか。楽しみにしているわ」


「はい。また必ず会いましょう」


「ええ、約束よ。それじゃあ元気でね。ジェラルト」


マーガレットはそう言って馬車に乗り込んだ。

少しずつ馬車が動き始め離れていく。

俺はひたすらマーガレットに向かって手を振った。


「師匠!お元気で!」


そんな俺に師匠は優しく手を振り返してくれるのだった──


◇◆◇


師匠と別れ更に4年が過ぎたある日、俺は自室で机に向かっていた。

というのも別に勉強をしてるわけじゃないけどな。

俺にとってはそれよりも大切なことだ。


「くくく……ついに無限くっころ計画の前段階に入るときが来たな……」


俺が見ている紙は今まで精査に精査を重ねてきた無限くっころ計画の計画書。

どんな状況でも対応できるように何パターンもの計画を用意していた。

そして14歳である俺が学園に入学する前にするべきことは一つなのである。

それは──


「悪役になる!」


前世のラノベで悪役転生ものはよくあったが別に悪役貴族に転生したわけでもないのに自ら悪役になりたいと望むのはかなりのレアケースなのではないだろうか。

まあ流石に罪なき民を皆殺し、とかそんな極悪なことをするつもりは毛頭無くガキ大将みたいな小悪党がちょうどいい。


「というわけで入学する前に俺がちょいワルの問題児だって噂を立ててほしいんだよな。そのためにはやっぱ……自分から問題に出会いに行くしかない!」


昔見た刑事ドラマでも言っていた。

自分の欲しいものは自分の足で掴みに行けと。

ならば俺は俺が悪役だと噂されるようなトラブルと出会いに俺は街を出歩くッ!

これが俺の立てた完璧な計画だ!

俺は早速ルンルン気分で街へと繰り出した。


(さ〜て、何かトラブルの種は無いかな〜と)


ドレイク領主館もあるここはドレイク領で一番栄えている街、ベトラウだ。

面積も広く人口も多いこの街ならばトラブルの種もわんさか落ちていることだろう。


「お!ジェラルト様じゃねえか!いいトマトが取れたんです!見てってくだせぇ!」


「ジョン。どれどれ、見せてもらおうか。おお!いい色に熟れてるな!」


「よかったらこれ持ってってくだせぇ!いつもジェラルト様にはお世話になってますから!」


「いいのか?じゃあありがたくいただくとするよ」


「ジェラルト様!これもどうぞ!」


「こちらも!」


一人からトマトを受け取ると次々に領民が物を渡してきた。

どうやら普段のお礼ということらしい。

たまにランニングついでに街に降りて街のおっちゃんと話をしたり問題を聞いたら父に報告して政策を調整してもらったりしてたもんなぁ……

っていうかこれじゃあまるっきり善人じゃねえか!

俺は悪人にならなくちゃならんのだ!


「色々とありがとう。俺はこれから用があるので失礼するよ」


俺は野菜や果物など頂いたものを一旦信用できるジョンに預けて立ち去る。

そして再び街を歩き始めた。

様々な人に声をかけられるのは嬉しいが悪役になるためには都合が悪いというなんとも微妙な気分になった。

そんなときだった。


「じ、ジェラルト様!どうかお助けください!」


(人助け……か。だが人が困ってるのに俺の都合を優先させる必要はないな)


「どうした?俺にできることならすぐに手伝おう」


「は、話すより見てもらったほうが早いんです!来ていただけるでしょうか……?」


「もちろんだ。案内してくれ」


男に案内されてやってくるとそこには大きな人だかりができていた。

俺はドレイク侯爵の息子として顔が通っているので顔パスで道を開けてもらって前に進むとようやく状況が見えてきた。


男性が血を流して倒れていて女性が必死に呼びかけている。

それを一人の高そうな服を着た男が大笑いしながら見ており横には護衛らしき屈強な男が2人立っていた。

俺はそのまま倒れている男性のもとに歩み寄った。


「少しどいていてくれ。怪我の様子を見よう」


「彼は……彼は助かるんでしょうか……」


どうやら女性はこの男性の恋人らしい。

俺は男性の怪我の様子を確認するとどうやらナイフのような刀身の短いナイフで切りつけられたようだった。

幸いにも傷は深くない。


「大丈夫だ。命に別状はない」


「よかった……。あ、あなた様は……!?とんだご無礼を……!」


「気にしなくていい。大切な人が怪我をしたんだ。少しくらい取り乱してもおかしなことではない」


俺は女性の肩に手を置いて落ち着かせると立ち上がって大笑いしていた男と向き合う。

どうやら同年代のようだ。


「私の名はジェラルト=ドレイク。失礼ですがあなたの名は?」


「ふん!我が名はデヴィット=モーン伯爵令息だ。わかったら頭を垂れろ」


なんだこいつ?

自分より身分が上の者に身分で勝負してどうすんだ?

まあ典型的なバカ貴族って感じだな。

ていうかモーン伯爵って同じ軍部に所属してる貴族だけど父と敵対派閥だし。


「俺は侯爵令息だ。そっちこそ態度を改めるんだな。それで?何があったんだ?」


俺はこいつに聞いても話にならないと思い女性に話を聞く。

するとどうやら街を歩いていたところ急に側室に迎えると腕を引っ張られたため男性が抵抗すると切りつけられたらしい。

うん、どんだけ我儘なんだよ。


「よくもまぁベトラウの街で大切な領民を傷つけてくれたものだ。どう責任を取るつもりだ?」


「責任?愚民に対して我がどうしようと勝手ではないか。そなたも貴族ならばわかるだろう?」


「わからん。お前と一緒にするな」


俺は無理やりなんて好まない。

いくらくっころが見たいと言っても寝取りみたいに誰かの幸せを引き裂くのは俺の流儀に反する。

それに素晴らしいくっころを堪能させてもらったアフターケアもしっかりして前以上に幸せな人生を送ってもらうために俺の権限でなんとかする予定だしな。


「ぐぐ……とにかくそこの女を寄越せ!」


「断る。どこに領民を差し出す貴族がいるというのだ」


「ぐ……ならば決闘だ!」


デヴィットと名乗る貴族の男の言葉はその場を騒然とさせた。

ただ、唯一俺だけが笑いを見せたのであった──

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