第16話 正義の姫騎士、銀の女騎士と対峙する(シンシア視点)
「そん、な……」
目の前で起こった出来事はあまりにも衝撃的すぎて口を開くことができない。
今、私の前で一つの試合が決着した。
その対戦カードはローレンス=イーデンvsフローラ=ウォルシュ。
お互いに実力者であり勝敗の行方はそう簡単に決まらない、そう思っていた。
「そこまで!勝者、フローラ=ウォルシュ!」
彼女の剣は凄まじかった。
現実というものは残酷で戦いにおいてやはり肉体的性差が努力で埋まるケースはあまりない。
同じ剣の実力を持っていたとしたら男と女だったら経験などの要素を度外視すれば普通は男が勝つ。
しかし彼女の剣は女であることをハンデとしなかった。
まるで先日のアリスちゃんのような並外れた才能を持っている。
彼女がこのゾーラ高等学校の首席たる所以をこれでもかと見せつけられた。
むしろローレンスさんが卓越した実力を持っていたからこそ、ここまで良い試合になったんだと思う。
恐らく私でも勝てない、勝てるとすればそれは多分ジェラルトさんだけ。
「まさかここまでだったなんて……」
「やっぱりフローラ様はすごいです……」
隣で私と一緒に試合を観ていたエセルさんも感嘆の言葉を漏らす。
私もそれくらいしか口に出すことができなかった。
「次は私達ですね。そろそろ移動しますか」
「ええ、そうですね」
選手の登場口は2つあるので途中でエセルさんと別れ私は自分の出口の方へと歩いてくる。
するとローレンスさんが前から歩いてくるのが見えた。
「あ、シンシア王女……」
「見事な戦いでした。あれは相手が一枚上だったと言わざるを得ません」
「ええ、全く持ってその通りです」
ローレンスさんは苦笑しながら頷く。
こういうときは下手に慰められる方が心に来る。
見たままの現実をそのまま話したほうが良いこともあるのだ。
「私も恐らくフローラさんには勝てません。ですが……」
私はそこで一度言葉を切る。
そして真っ直ぐにローレンスさんの瞳を見つめた。
「このまま終わる気もありません。10年後、15年後、いつになるかはわからずとも必ず勝ってみせます」
「……!ええ……仰るとおりです。次は必ず勝ちます」
「お疲れでしょう、ゆっくり休んでいてください」
「はは……お言葉に甘えさせてもらいますよ」
「ええ、そうしてください」
私は決して振り返らず歩き出す。
しかし私はローレンスさんの目に薄っすらと浮かぶ光を見逃してはいなかった。
相手はフローラさんじゃないし今の私の実力ではどちらにせよ敵を取ることはできない、でも想いは受け取った。
これが試合で良かったと、だけど次は必ず負けないという闘志の炎を受け継いだのだった──
◇◆◇
観衆が多く集まるゾーラコロシアムの中心、そこに私とエセルさんは向かい合って立つ。
いよいよ私達の試合が始まろうとしていた。
「これより、シンシア=アルバーとエセルの試合を開始する!」
そんな審判の言葉と共に観衆が湧く。
こんな大勢の前で戦ったことは無いけども不思議と緊張はなかった。
私の姿を見てほしいのは常に一人だけ。
そして今はもう一人、想いを受け取った人に見せたいだけだからだ。
(ジェラルトさんとローレンスさんに必ず届ける……!今の私の全力を……!)
私とエセルさんは同時に剣を構える。
エセルさんの構え方は見たことのないものだったけれど隙という隙は見当たらなかった。
「それでは……始め!」
合図と共にエセルさんは躊躇なく踏み込んできて攻撃してくる。
私は知らない剣が相手故に最初は様子を見ようとした私とは対象的な攻撃的な姿勢だった。
(速い……!でも捌ける……!)
紅月流は魔装という技術が本当に強力でそれらを十全に使いこなすジェラルトさんやマーガレットさんが私の周りにいる。
直接相対すことはなくとも二人が戦う姿を何度も見たことがあるからこそ速さへの対応はいくらかの自信があった。
これくらいなら捌ける。
私は落ち着いてエセルさんの初撃を横薙にはたき落とし後ろへ大きくステップして距離を取る。
エセルさんは再び踏み込んで追撃する構えを見せていたけど私の体勢は既に整っておりすぐに諦めた。
(判断が早い。誘いにも簡単には乗らない落ち着きもある。流石は現役の騎士と言わざるを得ませんね……)
剣の実力は負けていないはず。
それにジェラルトさんの力になりたくて素振りのような基礎訓練やマーガレットさんやローレンスさんに手伝ってもらって模擬戦もたくさんした。
対人戦の経験だって大きく引き離されていることはないはず。
「シンシア王女殿下、お強いですね……正直予想以上でした」
「エセルさんの剣も素晴らしいです。ですが……この勝負は必ず勝ちます!」
今度は私から仕掛けにいく。
この勝負はいかに相手に《《動かさせないか》》にかかっている。
それはひとえにゴーラブルとアルバーの剣術に大きな違いがあるからである。
(さっきのローレンスさんとフローラさんの試合もそうだったけどアルバーはゴーラブルの剣を知らなさすぎる……。この太刀筋を見れただけでも留学の甲斐がありましたね……)
基礎的な部分はゾーラで授業を受けたからわかるがアルバー王国とそう大きな違いはない。
だが流派は全くの別物であり見たことがないどころか聞いたことすらないものが多い。
世間一般では騎士の国として歴史あるアルバー王国のほうが騎士教育の水準は高いと言われているが新興であるゴーラブル王国の剣も中々に冴えている。
それが故に相手の動き方を予想するにも限度がありどうしても防御がワンテンポ遅れてしまうのだ。
「はぁっ!」
「くっ!」
相手のテンポには絶対にさせない。
このまま押し切って勝つ!
防御しながら少しずつ後退していくエセルさんを立て直しをさせないようにピタリと張り付いて攻撃を続けていく。
「これで────っ!?」
最後の一撃を叩きこもうと見つけた隙を突くべく強く足を踏み込むとなんだか嫌な予感がする。
今はその直感を信じ攻撃モーションに入っていた体を無理やりひねると元々自分がいた場所にエセルさんの剣が鋭く通る。
もしあのままだったら私の攻撃が届く前に直撃していた……
(誘われていたのは私でしたか……危なかった……)
「まさか今のを躱されるとは……!本当に驚きました」
そのタイミングで観衆がどっと沸く。
まさに一瞬の油断や隙が命取りになる攻防で私が今まで出会った中で一番実力が拮抗していると言ってもいいだろう。
楽しい。
そんな気持ちが私の心を取り巻いていた。
好敵手の存在がここまで心を昂らせてくれるなんて……
「次で決めましょう」
「ええ、異存ありません」
エセルさんと私は再び剣を構え直す。
もう余力は考えずお互い全力でぶつかり合うだけだ。
「ゴーラブル剣術、一の型……」
魔力を纏った剣……
属性は……!?
「風の刃!」
その瞬間、エセルさんの剣から無数の風の刃が飛び出す。
いくら訓練用の木剣といえどこんなものを喰らえばひとたまりもない。
どうしようか考える私の脳裏に浮かんだのはある一つの美しい技だった。
まるで月の光が差すかのように真っ直ぐで輝くような太刀筋をするその技は無知で愚かだった私を正してくれた大切な人の剣だ。
何度も何度も頭の中で頭から鮮明に残り続けたその記憶がなぜ今になって浮かんで来るのかはわからない。
だけど根拠のない自信が湧いてきた。
(見様見真似でも私ならできる……!ジェラルトさんの剣を直接受けたんですから……!)
「月光……」
体がふわりと宙に浮く。
もちろん魔法なんかで人が飛べるわけ無いのでジャンプしたのだが体が無性に軽かった。
(見える……!私を導く勝ち筋が……!)
「撃下!」
「うっ!」
私の剣は真っ直ぐに風の刃を纏う剣身ではなく柄を強く撃ち弾き飛ばす。
そして地面に着地した私はゆっくりとエセルさんの首元に剣を突きつけた。
「そこまで!勝者シンシア=アルバー!」
かっ……た………
じんわりと嬉しさが心の中に広がっていく。
(ジェラルトさん!私できましたよ!)
私は背中を押してくれた気がする大切な人へ満面の笑顔で勝利の報告をするのだった──




